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狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役 [読書・ミステリ]


狂い咲く薔薇を君に―牧場智久の雑役 (光文社文庫)

狂い咲く薔薇を君に―牧場智久の雑役 (光文社文庫)

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/08/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

竹本健治を読んだのは何年ぶりかなあ。
20年近く前に「緑衣の牙」を読んだのが最後かな。
てことは牧場智久くんと武藤類子さんに会うのもそれ以来か。
去年、シリーズ最新作の「涙香迷宮」が話題になったせいか
本書も再版になって、書店に並んでた。

さて、ちょっと前まで天才少年・藤井聡太四段で世の中は大騒ぎしていたが
ミステリの世界にも天才棋士はいる。こちらは囲碁だが。

牧場智久くんは端正な容姿とIQ208という頭脳を併せ持ち、
史上最年少で本因坊になったという輝かしい実績、
そして名探偵としても数々の事件を解決してきた、まさに天才少年。
現在17歳で高校には進学せず、囲碁に専念している。

本書は、智久くんのガールフレンドである武藤類子が通う
明峰寺学園高校で起こった3つの事件を描いている。
語り手は1年生の化学部員・津島海人(うみひと)くん。
彼は一学年上の上級生にして剣道部のスター選手、
そして美人の類子さんに夢中。続発する怪事件を見事に解決し、
類子さんにカッコいいところを見せたいのだけれど、
相手が牧場智久くんではいささか分が悪いのは否めない(笑)。

「騒がしい密室」
化学部の先輩・如月を通じて類子と顔見知りになった海人くん。
類子が化学部の部室を訪れた時、部屋にあったビデオに校内放送が流れた。
校舎内にあるスタジオからの中継らしい。
その映像の中から語りかけてきたのは
海人くんのクラスメイトである春山成美。
「t・u」のイニシャルがある傘を手に持ち
「海人くん、思い当たることがあるでしょう?」と訴えかける。
驚いた海人たちが放送スタジオに駆けつけるが、扉には鍵がかかっていた。
教頭先生が持ってきた合鍵で開けたところ、
中からは突然「ギイィィィーン」というの大音響が。
そしてスタジオ内で彼らが見たのは春山成美の刺殺体、
そして死体の傍らにはスタジオの鍵が。
まったく思い当たる節もないのに容疑をかけられてしまった海人くんは、
疑いを晴らすべく必死の推理を始める。
これ、けっこういい線まで行くのだけど
最後の詰めはやっぱり智久くん。まあお約束ではあるが。
密室トリックはよくできてると思うけど
イニシャルの解釈はちょっと無理があるかなあ。
名探偵といえばエキセントリックな奇人変人が多いのだけど、
智久くんはいたって好青年として描かれてる。類子さんともお似合いだ。

「狂い咲く薔薇を君に」
明峰寺学園高校演劇部による「愛と哀しみの薔薇戦争」が上演される。
助っ人として駆り出された海人くんだが、
振られた役が王女の暗殺者という大役で緊張しきり。
第二幕の冒頭、王女をクロスボウで暗殺するシーンはバッチリこなせたが
(使ったのは舞台用の小道具で、もちろん殺傷能力はゼロ)
倒れた王女役・美樹本亜由の胸には本物の矢が刺さり、
彼女は死亡していた。
ただちに劇は中断され、殺人事件として警察の捜査が始まるが・・・
矢はどこかから飛んできたのか? それとも舞台上で突き刺したのか?
そしてもしそうなら、衆人環視の舞台上で
犯人はどうやって殺人を犯したのか。
類子と一緒に劇を鑑賞に来ていた智久くんの推理が冴える。
ラストに明かされるこの不可能犯罪のトリックはどうだろう。
堂々としすぎていて案外気づかれないかもって思ったが
警察が見逃すとも思えないなあ。

「遅れてきた死体」
その日登校した海人くんが見たのは、校庭に描かれた謎の円形文様。
そしてその "ミステリーサークル" の中心には
三年生の堀越美香の死体が。
しかも遺体の腹部は切り裂かれ、内臓がすべて取り去られていた。
オカルト好きな生徒たちは宇宙人による
キャトル・ミューティレーションだと騒ぎ出す。
海人たちの疑いは、怪しげな行動を繰り返す
医学部出身の生物教師・岸谷に向けられるが
やがて第二の殺人が起こる。
内臓を持ち去る理由について、作中でいろいろな仮説が飛び交うが
真相で示されるものはある意味とてもユニークで、これも時代かなあ。
昭和の頃だったら存在しなかった理由かもしれない。


しかし明峰寺学園高校って、立て続けに殺人事件が三件も起こるのに
生徒も教師もあまりショックを受けてるようには思えず、
毎回毎回、相変わらずの平常な学園生活が展開している。
このあたりは解説でも触れられてるけど、
考えてみれば確かに異常な状況ではある。

作者のあとがきによると、本作はもともと少年マンガの原作として
構想されたものを、牧場智久シリーズに書き直したものだという。

もっとも、シリーズ探偵ものなら毎回舞台がリセットされるのは
当たり前のことだよね。
江戸川コナンくんなんて、彼の行くところ
ことごとく殺人事件が発生してるけど
それを理由に彼を忌み嫌う人はいないし(笑)。

殺害の状況や、犯人が心に秘めていた動機は
いずれもかなり陰惨なものなのだが
語り手の海人くんの類子さんへの思いの一途さ、
そしてコメディタッチの語り口、
さらに主役カップルの爽やかさがそれを救っているように思う。

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コメント 5

mojo

はじドラさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-11-25 00:18) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-11-25 00:18) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-11-25 00:19) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-11-25 00:19) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2017-11-27 22:14) 

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