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監獄舎の殺人 ミステリーズ!新人賞受賞作品集 [読書・ミステリ]


監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)

監獄舎の殺人 (ミステリーズ! 新人賞受賞作品集) (創元推理文庫)

  • 作者: 美輪 和音
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

東京創元社発行のミステリー雑誌「ミステリーズ!」主催の
短編ミステリー大賞の新人賞を受賞した作品を集めた
アンソロジー、その第2弾。

「強欲な羊」美和和音(第7回受賞作)
資産家の真行寺家に生まれた姉妹。
姉の麻耶子は傲慢で強欲。妹の沙耶子は穏やかで慈悲深い性格。
そんな妹に麻耶子は異常なまでの対抗心を燃やし、
沙耶子が手に入れたものはどんな手を使っても
奪い取らなければ気が済まない。
そんな関係は二人が成人しても続き、ついに破局が訪れる。
純真そうに見える妹のほうが実は・・・なんて展開なら
誰でも思いつくだろうが、本作はそのさらに上を行く。
真行寺家の女中を語り手にしたストーリーは終盤において二転三転、
最後はぞっとするようなホラーなエンディングを迎える。
いわゆる、最近流行りの「イヤミス」というものですかね。
うーん、よくできてると思うけど、この手のものは正直言って苦手。

「かんがえるひとになりかけ」近田鳶迩(第9回受賞作)
主人公・ムサシは、ある日突然、妊娠中の女性の胎児として目覚める。
どうやら自分は何者かに殺されてしまったらしい。
胎内で、自分の半生を振り返り、さらに外部の会話を聞きながら
ムサシは自分を殺した犯人が誰なのかを考え始める。
たぶん胎児が探偵というのはミステリ史上初ではないかな。
犯人の意外性ももちろんだけど、
ラストではさらに驚きの真実が明かされる。
振り返ってみれば伏線の張り方も巧みだ。
ユニークな作品なのは間違いないけど、この受賞作の着想が突飛すぎて、
あとが続くのかなあって余計な心配をしてしまう。

「サーチライトと誘蛾灯」櫻田智也(第10回受賞作)
定年を迎えた吉森は、ボランティアで公園の夜間見回りをしている。
今日も無断で公園に入り込んだ昆虫マニア・魞沢(えりさわ)や
挙動不審な探偵・泊(とまり)と押し問答を繰り広げる。
しかし翌朝、その泊の死体が発見される。
ミステリ的な仕掛けには乏しいかと思うが、
ユーモアあふれる語り口で、キャラ同士の交わす軽妙な会話が楽しい。

「消えた脳病変」浅ノ宮遼(第11回受賞作)
脳外科の臨床講義を担当した医師・榊は、
開講早々、学生たちに一つの謎を投げかける。
海馬硬化症という病気で榊のもとへ通院していた女性が、
ある日待合室で意識を失った。
彼女の検査をした結果、脳内の病変部位が消失していたことがわかる。
自然治癒することはない病気であるにもかかわらず。
さて、この現象をどう説明する?
物語は榊と学生たちのディスカッション形式で進んでいく。
さまざまな仮説が学生から提示されるが
ことごとく榊によってひっくり返されてしまう・・・
謎の設定がいささか特殊すぎて、
かえって合理的な解が限られてしまうんじゃないかなぁ・・・
って思ってたんだが、作者もそのあたりはわかっているようで、
メインの謎解き以外に、ラストにもう一つ仕掛けを用意している。
さりげなく「医師とはどうあるべきか」なんて話も盛り込んでいて、
いかにも(いい意味で)医学が専門の人が書いたなあと思わせる作品。
ちなみに、本作でただ一人正解にたどり着く学生・西丸豊くんは
後に医師となり、かつシリーズ探偵となって
他の作品にも出ているとのことだ。

「監獄舎の殺人」伊吹亜門(第12回受賞作)
明治6年、京都の府立監獄舎。
収監されていた平針六五は、政府転覆を目論んだ死罪と決まり、
執行の日を迎えた。しかしその平針が毒殺される。
朝食として与えられた粥に砒素が混入されていたのだ。
捜査に当たるのは鹿野師光。東京の司法省から派遣された裁判官だ。
そして、なぜか司法卿である江藤新平その人までもが
直々に捜査に乗り出しくるという異様な展開。
夕刻に死刑執行される男を、なぜその日の朝に殺したのか。
ラストで意外な動機が明らかになるが、それだけに留まらず
この時代だからこそ成立する、ある "思惑" が語られる。
ひねりが効いていて見事な着地だ。


本書を読んでいて思ったのは
「ひねりのきいたオチ」っていうのはもう当たり前で
新人賞に入るには、プラスアルファが必要なんだなあと言うこと。

たとえば「オチ」が決まったかと思った次の瞬間にさらにもうひねり。
「二段オチ」あるいは「三段オチ」くらいのインパクトがないと
審査員の先生方のお眼鏡には適わないのかもなぁ・・・って思った。

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