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キャロリング [読書・その他]


キャロリング (幻冬舎文庫)

キャロリング (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

タイトルの「キャロリング」とは、
クリスマス・イブにキリストの生誕を賛美歌を歌って
告げ知らせることだという。

主人公・大和俊介(やまと・しゅんすけ)が勤める
『エンジェル・メーカー』は東京・月島の集合ビルに事務所を構える、
従業員わずか5名という子供服専門の零細企業だが、
取引先である量販店が閉店になったあおりを受けて倒産することに。
廃業日は12月25日。"クリスマス倒産" に向けて
社員たちは残務整理と自らの再就職先探しに奔走することになる。

俊介は以前、同僚の子供服デザイナー・折原柊子とつきあっていた。
しかし不幸な家庭環境で育った俊介は "親" というものに
不信感を抱いており、子供を持つことに自信が持てない。
柊子との結婚にも踏み切れずに、
結果として別れることになったという苦い過去があった。

倒産したら社員も皆ばらばらになり、もう柊子と逢うこともなくなる。
俊介の中にはまだ未練があったが、言い出せるはずもない。

『エンジェル・メーカー』は副業として
小学生を預かる学童保育も行っていたが、こちらも廃業が決まり、
子供らも倒産までに他の保育所に移っていくことになった。

その中の一人、田所航平は小学6年生。
キャリアウーマンの母・圭子と別居している父・祐二との間に
離婚話が持ち上がっており、心を痛める航平は
なんとか両親を仲直りさせたいと願い、俊介と柊子に相談する。

二人は航平の願いを叶えるべく、父親の暮らす横浜へ向かうが・・・


有川浩の作品は、登場人物のキャラ立ちがはっきりしていて
とてもわかりやすく、かつ親しみやすいのが特徴かと思う。

『エンジェル・メーカー』社長の西山英代は、
夫の急逝後に会社を引き継いだ。子供のいなかった英代は
幼い頃から知る俊介を自分の子のように思っている。

柊子と共にデザイナーを務める佐々木勉は39歳。
タヌキのような体型だが明るく陽気で楽天的な人柄。
営業担当の朝倉恵那に毎度ちょっかいを出してはその逆鱗に触れている。

その朝倉は東大卒で美人で巨乳というなんだかスゴい33歳(笑)。
卒業後に入った会社のセクハラに耐えかねて退職、
『エンジェル・メーカー』に入ったという経歴。
とにかく何かあるとすぐに僻む性格。

 シリアスなシーンが続いた後に、この二人の
 漫才みたいな掛け合いが入ると心が和む。

航平の父・祐二は絵に描いたようなダメ親父。
部下と浮気して会社を辞め、相手と別れたはいいが
働き出した横浜の整骨院では、院長の冬美を相手に鼻の下を伸ばしている。

その冬美は、祖父が借金をした「赤木ファイナンス」から
悪質な取り立てを受けている。
連日のように糸山・石田というチンピラ二人が店に現れては
嫌がらせをするのだ。

しかし、ファイナンスの経営者・赤木、チンピラ二人も
ステレオタイプのヤクザもどきではなく
意外な一面を持っていることが早々に明かされる。


誰にとっても、流れる時間は同じ。
本書は、様々な人々が様々な思いで辿るクリスマスまでの日々を描く。

『エンジェル・メーカー』の社員たち、航平の両親、
整骨院の院長・冬美と常連客たち、
そして切羽詰まった赤木たちが引き起こす "大事件"。
それに巻き込まれていく俊介と柊子の運命は・・・


基本的にはコメディなのだが、その底流には
苦いものもいっぱい描かれている。

こんな両親のもとで育ったら、そりゃ人間が歪むよなあ・・・
って思わせる俊介の家庭環境。
しかしこんな家庭は現代日本では決して珍しくはないだろう。

価値観の違いを埋められず別れを選択せざるを得なかった俊介と柊子。

"使えない夫" と "できる妻" の格差とすれ違い。
そんな二人の諍いに巻き込まれる航平。

頼りない部下と愛する女を守るために、
あえて凶悪犯罪に手を染めようとする赤木。

そして、航平とその父を巡る事件に巻き込まれた俊介と柊子は、
いま一度、"夫婦とは"、"親子とは" を自らに問うことになる。
本書は二人の成長の物語でもある。

ラストシーンはクリスマス。
物語に登場した人はみな、それぞれの幸福を求めて生きている。
しかしすべてがハッピーに丸く納まるわけではない。
苦い結末を迎える者もいるが、それはその人たちにとって必要な
"次の人生へのステップ" なのだろう。

俊介と柊子が出した結論がどんなものかは、読んでいただくほかないが
文庫で460ページもの大部をものともせず、
最後までつき合ってきた人が裏切られることはないと思う。
私はここで涙腺が崩壊してしまったことを告白しておこう。

楽しく笑わせ、しんみり泣かせる。有川浩はホントに達者だ。


wikiによると、本書のストーリーは
もともと劇団『キャラメルボックス』の上演用に書かれたものらしい。
実際に舞台化され、その後2014年には8話連続のTVドラマにもなった。
ちなみに俊介は三浦貴大(百恵と友和の息子だ!)、柊子は優香。
航平は鈴木福くん。英代は中田喜子。
なんとミッキー・カーチスまで出てる(笑)。
ちょっと観て見たい気もしてきたなあ・・・

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