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ダークゾーン・上下 [読書・ファンタジー]


ダークゾーン 上 (角川文庫)

ダークゾーン 上 (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/12/21
  • メディア: 文庫
ダークゾーン 下 (角川文庫)

ダークゾーン 下 (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/12/21
  • メディア: 文庫
評価:★★

将棋のプロ棋士を目指す大学生・塚田裕史(ひろし)が
暗闇の中で目覚めたとき、彼は異形の怪物17体を従える
"赤の王将"(キング)と呼ばれる存在になっていた。

怪物たちも、それぞれ塚田の友人知人が転生したものであり、
その中には塚田の恋人・井口理紗の姿もあった。

不死身の "鬼土偶"(ゴーレム)、火炎を噴く "火蜥蜴"(サラマンドラ)、
空を舞う "皮翼猿"(レムール)、触れる者すべてに死をもたらす
"死の手"(リーサル・タッチ)、そして "歩兵"(ポーン)・・・
それぞれ異なる特性を持つ "軍勢" を従えた "赤の王将" の使命は、
同じく18体からなる "青の王将" の軍勢に勝利すること。

そして敵となる "青の王将" は、現実世界でも塚田と同じく
プロ棋士を目指してしのぎを削るライバル・奥本博樹だった。

戦いのフィールドとなるのは、薄明の異空間の中に浮かぶ謎の島。
なぜか長崎の「軍艦島」にそっくりの姿をしている。

戦いは駒単位で戦い、相手の駒を "殺す" と、
殺された駒はその場から消滅し、その駒は自分の "持ち駒" となる。
最終的に "王将" を殺された方が負けとなる。
勝敗がついた時点で双方の "駒数" はリセットされ、
ふたたび初期状態に戻って勝負が始まる。
戦いは七番勝負。先に四勝した方が勝利者となり、
敗北した方はこの世界から永久に消滅する。

戦いの理由も分からぬままに塚田たちは自らの生存をかけて戦いに臨む。
将棋ともチェスとも似ているようで異なり、さらには
独自のルールまで持つこのゲームで、
特殊能力を持つ "異形の怪物" を駒として操り、
ありったけの知力と駆け引きで塚田たちは勝利を目指していく・・・

章のタイトルも「第○局」となっていて、対戦の結果が綴られていく。
そして章と章の間には「断章」として、
現実世界での塚田の生活が断片的に描かれていく。

このゲーム世界と現実世界の関係は?
なぜ戦いの舞台が "軍艦島" なのか?
そして、戦わなくてはならない理由は何なのか?


この手の "ゲーム世界を舞台にした小説" は、
現代、特にライトノベルの世界ではさほど珍しくないのかも知れない。
しかし私と同年代の人なら、発端の部分の紹介を読んで
永井豪の傑作マンガ「真夜中の戦士」を連想した人も多いだろう。
実際、作中人物の台詞を借りてこの「真夜中-」への言及があるので
作者の中にも意識としてこの作品はあるのだろう。

私が本書につけた評価は★2つと低めなのだが、
その理由の大部分は主人公の造形にあるように思う。

本作は、まずはゲーム小説として楽しむのが本来なのだろうが
私はどうにも上手く乗れなかった。
まず主人公の塚田くんがあんまり強そうに見えないんだ。

彼は "ゲーム" のルールに精通しておらず(というか最初は全く知らない)、
試行錯誤を繰り返しながらルールを身につけていくのだが
「実はこんな規則があった」ってことを後から知って、
それが原因で窮地に陥ったり負けたりすることが頻発する。
いい加減「最初からちゃんと教えておけよ」って思う。

もっとも、現実世界の塚田くんもプロ棋士を目指しているものの
なかなかリーグ戦を勝ち上がれず四苦八苦。
しかも昇格の年齢制限が迫ってきているという瀬戸際にいるので
それを反映させているとも言えるが。

"断章" 部分で語られるその現実世界の塚田くんがまた
感情移入しにくい性格なんだよなあ。
まあ、このあたりの彼は二十代はじめで、自分の将来に
不安を抱えてることもあるのだろうけど、やたら自己中心的だったり、
実力が伴わないのに変なプライドだけはあったりとか
私が苦手な青春小説の主人公パターンそのままの姿なのだ。

そんな塚田くんも後半に入るとだんだん "ゲーム慣れ" してきて
奥本相手に互角の戦いを展開するようになるんだが・・・

このブログでも以前書いたことがあるが、本格ミステリならともかく
冒険小説やファンタジー系の物語では、キャラに入れ込んで読むのが
私の読み方なので、(私からみて)主役キャラに感情移入しにくい
本作のような小説は必然的に評価が辛めになってしまう。

まあ、この主人公に馴染みにくいって感じるのはあくまで私の主観。
他の人からすれば魅力的に見えるのかも知れない。

もちろん評価するべき点もある。
目次を見ると「第一局」から「第八局」まで8回の勝負が描かれている。
(七番勝負なのになぜ第八局?って疑問は、読んだら解決します)

つまり作者は、同じ出発点から8通りの展開と勝敗を描いているわけで
しかも内容はもちろんそれぞれ異なる。将棋とチェスがベースとはいえ
自ら考案したゲームのルールを駆使して多彩な展開を描いてみせる。
このあたりはホントによく考えたなあって思う。


"断章" 部分で描かれる現実世界の塚田くんの行動は、
終盤に近づくにつれてどんどん不穏な雰囲気を漂ってくる。

そして現実世界の物語はある破局に至り、
さらに「終章」では、このゲーム世界にまつわる謎に
一つの "解答" が与えられるんだが、
これがまた切ないというか救いがないというか・・・
いや、塚田くんにとってはこれがある意味での救いなのかも知れない。

全編にわたってダークな雰囲気のホラー・ファンタジーになっている。
波長が合う人にとってはたまらなく魅力的な世界なのかも知れないが、
前年ながらわたしとはちょいと合わないみたいです・・・

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