SSブログ

アルスラーン戦記 13~16(完結) [読書・ファンタジー]


蛇王再臨 アルスラーン戦記13 (カッパ・ノベルス)

蛇王再臨 アルスラーン戦記13 (カッパ・ノベルス)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/10/07
  • メディア: 新書
天鳴地動(てんめいちどう) アルスラーン戦記14 (カッパノベルス)

天鳴地動 アルスラーン戦記14 (カッパノベルス)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/05/16
  • メディア: 新書
戦旗不倒  アルスラーン戦記15 (カッパノベルス)

戦旗不倒 アルスラーン戦記15 (カッパノベルス)

  • 作者: 田中 芳樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/05/18
  • メディア: 新書
天涯無限 アルスラーン戦記 16 (カッパ・ノベルス)

天涯無限 アルスラーン戦記 16 (カッパ・ノベルス)

  • 作者: 田中芳樹
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/12/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
大河ファンタジー・シリーズ、「アルスラーン戦記」の記事その4。
今回は第13巻から最終巻となる第16巻までを採り上げる。

前の記事に倣って初刊の発行年を掲げてみると

13巻「蛇王再臨」(2008年)、14巻「天鳴地動」(2014年)
15巻「戦旗不倒」(2016年)、16巻「天涯無限」(2017年)

13巻と14巻の間こそ6年空いてるが
ラストの3巻分は比較的短期間に刊行された。


以下に、最終巻までの内容紹介および感想もどきを書く。
致命的なネタバレはないようにしてるつもりだが
ラストの内容に一部触れているので、
これから本編を読もうと思ってる方は、
読了後に目を通されることを推奨する。


まずは完結させてもらったことについては「お疲れ様」と言っておこう。
しかし、内容の評価についてはかなり辛口にならざるを得ない。
私のように、残りの人生が逆算できる年齢になって
こういう話を読むのは正直辛いものがある。


「解放王アルスラーンの十六翼将」と言われ続けてきたが
ずっと15人のままで16人目がいなかった。
たぶん読者は○○だ、いや✕✕だろう、意外なところで△△じゃないか
なぁんて20年くらいの間、予想しまくってた(笑)と思うのだが、
13巻にしてやっと最後の一人が揃うことになる。
そして、予想が当たった人はほとんどいないんじゃないかと思う。
私自身、意外すぎてびっくりだったよ。
逆に「この人でいいの?」とも思う。
他の15人とバランスが取れているとは思えない "人選" ではないか?

そして、月というものは満月になった瞬間から欠け始めるもの。
十六翼将もまたその例に漏れず、全員揃ったのも束の間、
櫛の歯が欠けるようにぽろぽろとその数を減じていく。
およそ人間相手ならば後れをとるような者たちではないが
何せ相手は人外の魔物。
ある者は妖魔の奸計に嵌まり、またある者は天変地異に巻き込まれ、
そしてまたある者は圧倒的な妖魔の猛攻の前に
善戦虚しく刀折れ矢尽きて、その命を散らしていく。

そしてそれは十六翼将以外のキャラについても同様で
14巻以降になると、もうホントに情け容赦もなく・・・
さすが "皆殺しの田中" の二つ名は伊達ではない(おいおい)
かなりの "鬱展開" と言っていいだろう。

 最終16巻の冒頭に「主要登場人物一覧」があって
 ここには(15巻までにお亡くなりになった人も含めて)
 28人の(ザッハークも "一人" と数えてwww)名前が載っているのだが
 読了後、この中で生き残った人数を数えてみた。
 そのあまりの少なさに愕然としてしまったよ。

全16巻、31年を費やしてこの物語は完結を迎えるのだが
物語の終わり方としてこの結末はどうだろう。
おそらく大方の読者が望む方向でのエンディングには
なっていないのではないかと思う。

同じ作者の『銀河英雄伝説』を読んでいれば
作者の "皆殺し" ぶりに対して
ちょっとは "免疫" がついてるかも知れないが(笑)、
最近放送されたTVアニメや荒川弘のマンガ版からこの物語に
入ってきた読者は、いささかショックを受けるのではないかと思う。

作者はなぜこのような結末を選択したか。
その根幹には、田中芳樹という作家の "価値観" があるように思う。

この人は "君主制" というものをとことん肯定できないのだろう。
たとえフィクションの世界であっても。

『銀河-』の中でも再三、キャラの口を借りて述べてる。
「最悪の民主政治でも、最良の専制政治に勝る」と。
その "信条" は30年経ってもいささかも変わってはいないみたいだ。

ならば、
「名君であるアルスラーン王が悪の帝王を倒し、
 そのおかげでみんなは末代まで幸せに暮らしました」
なぁんてベタなエンディングを描くはずがない。

しかし、大多数の読者は作者の "理想の政治体制" を読みたいのではなく
上記のようなベタな結末を望んでるんじゃないかって思うんだが、
この作者にはそれができないのだろう。"信条" として。

 そんな結末を描こうものなら、日本中に王政賛美者が大増殖してしまう、
 なんて強迫観念でも持ってるんじゃないかって思ってしまう。

作品は第一義的には「作者のもの」であるのは間違いないが
完結まで30年も辛抱強く待っていてくれたファンのことを考えれば
半ば以上、「ファンのもの」でもあると言えるのではないか。

作者が作品にどのようなメッセージを込めようが自由だが
30年にわたってつき合って読者からすれば、
アルスラーンを始め、メインキャラたちには
凡百の作品にはない愛着を覚えていたと思う。

そういう思い入れたっぷりのキャラたちが
(読者から見れば)いささか呆気ない形でどんどん退場していく。
熱心なファンであればあるほど、この展開は受け容れがたいだろう。

 逆に言えば、続刊が出るまで時間がかかりすぎたが故に
 ファンの脳内での第二部への期待(妄想?)が過剰に大きくなり、
 作者の構想との乖離が予想以上に広がってしまった、
 と言う面はあるだろうが。


年齢から来たであろう筆力の衰えもあるだろう。
それが原因か分からないが、構成が粗いところも見受けられる。
あるいは健康面に問題があって、完結を急いだのかも知れない。
30年前、作家として絶好調の時期にこの展開を描いていたら
ストーリーは同じでも、また違った評価もあったかも知れない。

第一部が傑作であったがゆえに、第二部の展開が残念でならない。
作者は当初の予定通りの物語を描ききったのかも知れないが
その展開、そして結末を読者に納得させるだけの
ストーリーテリングの力はもはや失われていた、ということなのだろう。

nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ: