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インド倶楽部の謎 [読書・ミステリ]

インド倶楽部の謎 国名シリーズ (講談社文庫)

インド倶楽部の謎 国名シリーズ (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

臨床犯罪学者・火村英生(ひむら・ひでお)と
ミステリ作家・有栖川有栖(ありすがわ・ありす)が
活躍するシリーズの一編で、その中でも
タイトルに国名を冠した〈国名シリーズ〉では9作めになる。

間原郷太(まはら・ごうた)は、神戸の異人館街に
”インド亭” と呼ばれる屋敷を構える実業家。
神戸でインド風のナイトクラブ〈ニルヴァーナ〉を経営しており
その羽振りの良さから ”マハラジャ” と呼ばれていた。

間原は月に一度、気心の知れた仲間を自宅に招く ”例会” を開いていた。
そのメンバーは間原と、その妻の洋子、
イベント・プロモーターの加々山(かがやま)郁雄、
ヨガ・インストラクターの井深(いぶか)リン、
私立探偵の坊津理帆子(ぼうつ・りほこ)、
臨床心理士の佐分利英吾(さぶり・えいご)、
インド音楽を得意とする演奏家の弦田真象(つるた・しんぞう)。

 この7人が集う例会には特に名前がなかったのだが
 事件に関わることになった有栖が便宜的に〈インド倶楽部〉と名づけ、
 それがそのままタイトルになっている。

その日〈インド倶楽部〉では、特別なイベントが行われた。
占い師兼便利屋の出戸守(でと・まもる)の仲介で
例会に招かれたのは、インド人のラジーブ。

5000年前、インドの聖者アガスティアは、
椰子の葉にすべての人間の運命を書き記したのだという。

ラジーブは、その ”アガスティアの葉” の中から
該当する個人のものを探しだし、古代タミル語で書かれている内容を
現代語に翻訳できる ”ナーディ・リーダー” なのだという。

今回の趣向は、例会のメンバーのうち3人が
”自分の運命” をアガスティアの葉から読み取ってもらう
リーディング・セッションを開く、というもの。

初対面のメンバーたちの秘密を次々に言い当てるラジーブに驚く面々。

しかしそのイベントの数日後、出戸が殺されて
スーツケースに詰められた状態で発見される。
さらに、例会のメンバーの一人も殺されてしまう。
しかもそれは、ラジーブによって
「あなたはこの日に死ぬ」と予言された日だったのだ・・・

本書の特色は、物語の中心となる例会のメンバーが
みな、〈輪廻転生〉を信じていること。
そして、メンバー7人は全員、”前世” でも
深い結びつきのあった人間たちであった(と信じている)こと。

捜査が進んでも、メンバー間に殺人に至るような動機が見つからない。

オカルトか超自然現象かと思える状況ではあるが
前世を信じている容疑者たちを前にして、火村はあくまでリアリスト。
転生云々は横に置いて、あくまでも理詰めで犯人に迫っていく。

人を殺す動機なんて、本人にしか分からないことも多いだろう。
部外者から見れば「そんなことで」というものもあるだろう。

火村自身、「人を殺したいと思ったことがある」と
過去に発言しているが、その理由は未だ明らかにされていない。
そんな火村が、動機不明な事件に向き合うのも本書の特色か。

終盤で披露される、犯人絞り込みの推理はやっぱり流石。
伏線をきっちり拾って、鮮やかに一人の人物を浮上させていく。

犯人の動機に、納得できるかできないかは判断が分かれるだろう。
しかし本書は、それが通用する ”特殊状況下” のミステリでもあると
考えれば、理解はできるかな。


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