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QED ~ortus~ 白山の頻闇 [読書・ミステリ]

QED ~ortus~白山の頻闇 (講談社文庫)

QED ~ortus~白山の頻闇 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

博覧強記の薬剤師・桑原崇が探偵役となる伝奇ミステリ・シリーズ。
中編2作を収録している。

「白山の頻闇(しきやみ)」
表題作。ちなみに ”頻闇” とは ”真っ暗闇” のこと。

金沢に嫁いだ妹・沙織から招きを受けた棚旗奈々は、
桑原崇と共に小松空港に降り立つ。

崇の目的は、白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)を参拝すること。

 ここに祀られている白山比咩神(しらやまひめのかみ)とは、
 別名を菊理媛神(くくりひめのかみ)ともいう。

 菊理媛神のことを説明すると長くなるのだが、『日本書紀』において、
 神産みで亡くなってしまった伊弉冉尊(いざなみのみこと)に会うため、
 伊奘諾尊(いざなぎのみこと)は黄泉の国を訪れるのだが、
 伊弉冉尊の変わり果てた姿を見て驚き、逃げ出してしまう。
 恥ずかしいところを見られた伊弉冉尊は彼を追いかけ、
 黄泉比良坂(よもつひらさか)で伊奘諾尊に追いつく。
 そこで口論になった2人(2神?)のところに現れて、それを収めるという、
 日本神話の中でも、この1シーンにだけ現れる神様だ。

 詳しく知りたい人はググってください(笑)。

例によって崇による「菊理媛云々」「白山神社云々」・・・と
蘊蓄が延々と続くのだが、その裏で事件は進行していた。

手取川(白山に源流を発して日本海に注ぐ)で首無し死体が見つかる。
さらに遺体発見現場の上流の河原では、意識不明の男が保護される。
男の名は白岡喬雄(たかお)。沙織の夫・隆宏の兄だった。

かくして、喬と奈々は殺人事件に巻き込まれていく・・・

警察の捜査によって事件前後の事実関係が明らかになるのだが
犯人の動機や行動には不可解さが残る。
それを「白山信仰」の観点から崇が説き明かすのだが・・・

今の時代にそんなことを本気で考える人間がいるのかなぁ、
というのが正直な感想。まあ、人を殺すような人間は
正常な精神状態ではなくなっているのだろうから、
そんなことも思いつくのかなぁ。

 読みながら、マンガ『宗像教授伝奇考』(星野之宣)の中の一編
 「file.27:菊理媛は何を告げたか」を思い出していた。
 菊理媛の解釈や語った(とされる)内容は全く異なるけど、
 伝奇ものというのは解釈の妙なのだなあ、とも思った。

「江戸の弥生闇」
こちらは過去編。大学1年生の奈々が友人の中島晴美に誘われて
オカルト研究会に入会するシーンから始まる。

近ごろ、荒川区の浄閑(じょうかん)寺に幽霊が出るという。

浄閑寺は、かつて吉原と呼ばれた遊郭で働いていた遊女たちが
多く葬られていて、”投込寺”(なげこみでら)とも呼ばれていた。

1年前に浄閑寺の近くのマンションで、一人暮らしの
若い女性が自殺しており、浄閑寺に現れる幽霊は
彼女の怨霊ではないかという噂もあるという。

2年生の小澤宏樹と桑原崇、1年生の奈々と晴美の4人で
浄閑寺に行くことになり、その道々、崇の蘊蓄が始まる・・・

最近になって時代小説もちょっと読むようになったが、
私の吉原に関する知識は、昔観た時代劇程度のものしかない。
崇の開陳する知識も、知ってることもあったが
もちろん知らないことの方が多く、興味深く読ませてもらった。

崇の蘊蓄と、マンションの自殺事件がラストで意外な形でつながる。

ラストの数行の描写は、過去編ならではの趣向か。
こういうのも嫌いじゃない。

最後に、タイトルにある ”ortus” とは何だろうと思って
ネットで検索したのだけれど、どうやら
ラテン語で「上昇」「存在」とかの意味らしい。

でも、本編を読み終わった後でも、なぜ ”ortus” なのかは
よく分からなかったよ・・・(笑)。


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