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迷える空港 あぽやん3 [読書・その他]

迷える空港 あぽやん3 (文春文庫)

迷える空港 あぽやん3 (文春文庫)

  • 作者: 剛志, 新野
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公・遠藤慶太は、大航ツーリスト本社から成田空港所に異動し、
旅客の搭乗手続き全般、それに伴うトラブルの解決のために働いている
”熱血あぽやん” だ。

しかし親会社である航空会社・大航が業績不振で
ついに会社更生法の適用を受けることになり、
それに伴う大規模リストラが敢行される。
そのあおりで成田空港所も廃止、業務は系列会社の
大航エアポートサービスへ委託されることが決まる。

遠藤と森尾晴子は前巻の終盤でお互いの気持ちを確認したのだが
業務の引き継ぎに追われ、4か月経った今も
二人の仲はあまり進展していない・・・というところから本書は始まる。

「空港こわい」
業務委託先となる大航エアポートサービスから
3人の女性職員がやってくる。みなかつては空港所カウンターで
働いていたが、10年以上も接客業務から離れていたので、
そのための業務訓練を受けることになったのだ。
しかし、彼女らを受け入れてから同じようなトラブルが続けて起こり、
遠藤はそこに大航エアポートサービス側の意図を感じる。
委託先の責任者は、大航本社から出向しているエリート社員・星名。
彼と業務方針の違いで衝突した遠藤は、
心労のあまり ”心の病” に陥ってしまうという意外な展開に。
昔なら ”心身症”、今なら軽度の鬱とか呼ばれるような状態かな。
職場に出勤することができない状況になってしまったのだ・・・

もっとも第1巻当初のような、空港での仕事を ”腰掛け” 程度にしか
考えない頃の遠藤だったら、こうはならなかっただろうから
これは彼の成長を示すことでもあるのだが。

続く4話は、遠藤が不在の空港で起こる ”事件” を
遠藤以外のキャラの目から描いたものだ。
番外編ぽいが、みな遠藤の不在を心配している。
登場人物のうちの何人かは、”事件” 後に遠藤へ向けて手紙を書き、
これが彼の復帰の後押しにもなっていく。

「妹ざかり」
業務委託後は大航エアポートサービスに移ることになった篠田。
森尾からは、新しい職場で率先してリーダーとなることを期待されるが
生来、人の後についていくことで生きてきた彼女には荷が重い・・・

「天然営業」
遠藤と同期入社の大航ツーリストの営業・須永は。
リストラで辞めた前任者・関口から業務を引き継ぐが、
その中のツアーのひとつに手違いが見つかる・・・

「かりそめハードボイルド」
休職扱いになった遠藤の穴を埋めるため、旧職員の今泉が
成田に戻ってくる。そこで再会したのは
大航エアポートサービスから来ている職員の一人・飛田(ひだ)。
今泉と彼女は、かつて恋愛関係にあったのだが・・・

「あぽがらみ」
長野陶子(とうこ)は40歳。かつては成田空港所で働いていたが
いまは空港内のマッサージ店で受付をしている。
その日、店を訪れた客・北川は背中の痛みを訴え、とうてい
旅行に出られる状態ではないが、彼は頑なに出発しようとする・・・

そして最終話となる。

「あぽわずらい」
遠藤の ”心の病” は長引き、空港所閉鎖と業務委託が行われる
4月まで、あとひと月あまりと迫っていた。
2月中に職場復帰しなければ本社の総務付きとなり、
閉鎖前に空港へ帰ってくることはできなくなる。
未だに病を引きずったまま、2月の最終日を迎えるが・・・

結局のところ、ぎりぎりで遠藤は職場復帰を果たす。
そのきっかけとなるエピソードは、ちょっと安易というか
それくらいで心の病が克服できるのか疑問も感じないわけではないが
エンタメとしてはこの流れが正解だろう。

懸案だった星名との再対決も描かれる。

「サービス第一、目の前のお客様に対して最善を尽くす」遠藤、
「会社存続が最優先、そのためにはサービス削減も必要」という星名。

星名の理屈にも一理あることは否定できない。
「お客様第一主義」を ”錦の御旗” に掲げて
「あれもこれも」と業務を増やしていくと
その職場はどんどんブラック化していってしまうからねぇ。
何事も加減が大事、ということなのだろう。

この2人の対決の結果は、読んでのお楽しみだ。

ラストは、遠藤が森尾と共に新天地へ旅立つところでエンドマーク。

短篇でも良いから、彼らの後日談が読みたいなぁ。
そう思わせるのは、やっぱり二人のキャラが良いからだろう。


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