SSブログ

プールの底に眠る [読書・ミステリ]

プールの底に眠る (講談社文庫)

プールの底に眠る (講談社文庫)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

物語は、”僕” の一人語りで綴られる。

【序章】での ”僕” は、三十路の男性である。
「鉄格子の中」にいて「看守が見廻りをしている」とあるので
どこかに収監されているようだ。そこにいる「現在」の ”僕” は、
13年前の夏の終わりの出来事を回想していく。

続く【一章】から【七章】は、13年前である1995年の
8月31日から始まる1週間の物語だ。
横浜の郊外の丘陵地帯に住む ”僕” は、
高校3年生の夏休みの最終日に ”裏山” に登り、
そこでロープを首に巻いた美少女に出合う。

彼女から「あなたに命を預ける」と言われた ”僕” は、
問われるままに、子供の頃から考えていたイルカの話を物語る。

”僕” は、自殺を思いとどまることにした彼女のことを ”セミ” と呼び、
彼女は ”僕” のことを ”イルカ” と呼ぶようになった。

イルカとセミ、イルカと高校の同級生たち、
この2つのラインでストーリーは進行していく。

やがてイルカはセミのことを知っていく。
その街で一番の資産家の孫娘であること、中学1年生であること、
そしてどうやら不登校になっていること・・・

一方、イルカとその同級生・由利とは、
幼馴染みで友人以上に仲も良いのだが
なぜか恋人同士には進展しないでここまで来た。
しかし由利とつき合っている野球部の武田は
イルカが彼女の恋人だと勘違してしまい、ひと騒動持ち上がる・・・

青春小説の衣をまとっているけれど、
ミステリ的な伏線はあちこちに仕込んであって
何気ない描写があとあと深い意味を持ってくる。
このあたりはなかなか達者だと思う。

物語が進行するにつれて、イルカを悩ませるトラウマの正体、
イルカと由利がお互いに対して抱く屈折した感情、
由利の失踪した父親の行方、さらにはセミの抱える心の闇などが
次第に明らかになっていくが、このあたりの描写は
読んでいてヒリヒリするような感覚を覚える。

 どんな悩みでも、歳を重ねていけば耐えられる、
 あるいはやり過ごす術を覚えていくのだろうけど、
 中高生の頃は必死になってあがくしかないのだろうな、とも思う。

1995年という時代設定も効果的なのだろう。
この頃は携帯電話が普及し始めたとはいえ
まだまだ中高生が簡単に手にできる時代ではなかった。
(私が初めて携帯電話を使い始めたのが1994年だった。)

だから本書の登場人物たちも、互いに連絡するには固定電話や公衆電話、
さらには手紙、そして駅の伝言板(!)と、アナログな手段しかない。
でもそんな意思伝達の困難さが物語を盛り上げる要素にもなっている。

 今のご時世からすれば信じられないかも知れないが
 こういう時代の雰囲気も嫌いじゃない。古い人間だからかな。

【七章】のラストに至り、ある ”事件” が起こる。
ストーリーとしてはここでいったん区切りがつくのだけど、
【終章】では13年後の「現在」へ戻り、
ここで物語は真のクライマックスを迎える。

青春小説であり、人の心のありように迫るサスペンスであり、
精緻なつくりのミステリでもあり、素晴らしいラブストーリーでもある。

本書は白河三兎(しらかわ・みと)という作家さんのデビュー作。
この作家さん、しばらく追いかけてみようと思う。


nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ: