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それまでの明日 [読書・冒険/サスペンス]

それまでの明日 (ハヤカワ文庫JA)

それまでの明日 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 原りょう
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/09/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★

新宿で探偵事務所を構える沢崎を主役とした
ハードボイルドシリーズの長編5作目、
2018年に発表された14年ぶりの新作の文庫化だ。

沢崎のもとを訪れた男は望月皓一(こういち)と名乗る。
有名な金融会社ミレニアム・ファイナンスの新宿支店長だという。

依頼内容は赤坂の老舗料亭〈業平〉(なりひら)の
女将・平岡静子の身辺調査だった。

しかし調査開始早々、平岡静子は数ヶ月前に癌で死亡、
〈業平〉の女将は、静子の妹の嘉納淑子(かのう・よしこ)へと
代替わりしていたことが判明する。

沢崎は報告のために望月のマンションへ電話をかけるが
本人は不在で、電話に出たのは別の男の声だった。

望月本人に直に会うべく、沢崎はミレニアム・ファイナンス新宿支店を
訪れるが、そこで二人組の強盗事件に遭遇してしまう。

店内の客を人質に取った強盗犯は、金庫を開けるよう要求するが
それを開けることができる支店長の望月は
事件発生前に外出したまま、所在が不明だった。

立て籠もりの時間が長引く中、犯人の一人は逃走、もう一人は投降する。
到着した警察によって店内の捜査が行われるが、支店の金庫の中から
本来は存在しないはずの、億単位の現金が発見される。

沢崎は行方不明となった望月、そして平岡静子の過去を追い始めるが
時を同じくして、金庫内の現金が原因かと思われる
暴力団同士の抗争が始まっていた・・・

序盤での強盗事件こそ驚くが、それ以後はむしろ坦々と物語は進行する。
沢崎自身も沈着冷静を絵に書いたような男で、
およそ動転したり我を忘れたりというような場面は皆無といっていい。
予想外の出来事に遭遇しても、
眉毛を少し動かす位の反応しかしてないんじゃないかなぁ。

それが「かっこいい」と思う人もいるだろうし、
それこそが沢崎の魅力だといういう人もいるのだろう。

私の沢崎に対する印象は、50歳そこそこの人間にしては
ちょっと落ち着き過ぎではないのかなぁ・・・というもの。

 10代や20代の若い頃は、50歳の人なんて、”老成” してるもんだと
 思っていたが、いざ自分が50代になり、60代になっても
 全くといっていいくらい悟りは開けてないしねぇ・・・

 家人にも「こんなに落ち着きのない還暦も珍しい」って
 言われてるんだが、そんなのは私だけ・・・?

まあハードボイルドの主役というのはそういうものなのかも知れないし
そもそも本書を読む人には、慌てふためくような沢崎を期待している人は
いないんだろうなぁ・・・とも思ったり。

 「私立探偵・沢崎の日常」ってサブタイトルがついても
 あまり違和感がないんじゃなかろうかって、ふと思った。

終盤になると、当然ながら事件の裏事情があらかた見えてくるが
今までの作品群よりもミステリ要素としての
”謎解き” 要素は少なくなっているように思う。

物語を構成していた、いくつかのストーリーラインは
それなりに面白いのだけど、結局のところ
冒頭での望月から沢崎への依頼内容が
○○○○と○○○だったのはちょっと拍子抜けな感が否めない。

とはいっても、文庫で500ページを超える大部を
退屈することなく読ませるのは流石とは思う。
それには、登場人物たちのキャラが立っていることが大きいだろう。

序盤の強盗犯コンビを手始めに、錦織・田島の刑事コンビから
端役に至るまで、みな ”それらしい” 人物造形がしっかりできてる。

なかでも、沢崎とは旧知の暴力団員・相良の
意外な(失礼!)親孝行ピソードにはじんわりさせられる。

そして、強盗事件をきっかけに沢崎と知り合う
若手起業家の梅津一樹(うめず・かずき)は本書のメインキャラの一人。
沢崎に向かって ”爆弾発言” をしたりとなかなか印象的な青年だ。



さて、巻末での「著者あとがき」でも明かされているが
本書の事件は東日本大震災以前に起こったもの。

作者は震災後の世界を舞台にした次回作に既に着手しているとのこと。
”続編” という言葉が用いられているので、
内容は本書と何らかの形でリンクしているのだろう。


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