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NOVA 2019年 秋号 [読書・SF]

NOVA 2019年秋号 (河出文庫)

NOVA 2019年秋号 (河出文庫)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/08/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

書き下ろし短篇によるSFアンソロジー。責任編集は大森望。
いままで大森氏の編集によるアンソロジーを何冊か読んできたけど
どうも彼と私では好みのSFがかなり異なるようだ。
(もちろん一致する場合もあるのだけど、それはかなり少ない)

だから、彼の編集するアンソロジーはここのところ
買わないことが多くなってきたのだけど、このシリーズに関しては、
けっこう ”当たり” の作品に出合うことが多いので
なかなかやめられないんだよねぇ。

■理解できて、面白かったもの

「あざらしが丘」高山羽根子
日本初の捕鯨(!)アイドルユニット、〈あざらしが丘〉。
湾岸にステージを設置、そこで彼女らが実際に捕鯨する様子を
”ライブ配信” するという、捕鯨のイメージアップアイドルだ。
しかしある日、彼女らの ”ライブ会場” に
通常の数倍もの巨大な鯨が現れて大暴れ。
その鯨は〈モビィ〉と呼ばれることになったが・・・
こういうぶっ飛んだ話を書く人が芥川賞を取るようになった。
いい時代になったものです(笑)。

「宇宙サメ戦争」田中啓文
人類とサメ類が宇宙の覇権をかけて争う話。
舞台は太古の時代から未来まで、
あるいはお互いが栄えているパラレルワールド間を行き来しながら。
さまざまなSF映画やSFドラマのパロディと
作者お得意のダジャレまみれのカオスな話。

「赤羽二十四時」アマサワトキオ
この世界には、”野生のコンビニ” なる生物が生息していて、
そいつらを捕獲し、生体改造を施したものが
街中のコンビニエンス・ストアになっている、
という衝撃的な(笑)発想にまず驚かされる。
主人公のスリムは日系アメリカ人。日本にやってきて
赤羽にある24時間営業のコンビニで雇われ店長をしている。
ある夜、2人組の強盗が侵入してきて乱暴狼藉、
その ”ストレス” のためにコンビニの ”生体脳” が制御を離れて
暴走を始める・・・というトンデモない話が綴られていく。
周囲へ触手を伸ばして ”立ち上がった” コンビニ赤羽店の姿は、
作中の描写によるとどうやら ”ビオランテ” に似ているらしい。
 ちなみに ”ビオランテ” というのは、
 1989年の東宝映画『ゴジラvsビオランテ』に登場する。
 バラの遺伝子にゴジラの遺伝子を組み込んだという
 バイオテクノロジーから生まれた植物怪獣だ。
 ネットでググれば画像があると思うので、その頭頂部に
 コンビニエンス・ストアの店舗が載っている(!)と思えば・・・
なんともシュールな光景だが、こんな与太話が語れるのもSFの良さ。
「SFは絵だねえ」という野田昌宏氏の名言を思い出す。
作者は長年、コンビニでバイトしていたと解説にあるけど
作中のコンビニ店員の仕事ぶりが異様にリアルなのも笑いを誘う。
このアンソロジーでいちばん楽しんだ作品だ。

■理解はできて、まあまあ面白かったもの

「夢見」谷山浩子
主人公の女の子・小川夢見が見た夢を、
二人の友人に話すところから始まる。
SFというよりは ”記憶” をテーマにした、
ちょっぴりホラーでちょっぴりミステリっぽい話、かな。
シンガーソングライターの谷山浩子さんが文筆家でもあるというのは
どこかで聞いていたような気もするのだが、小説も書いていたとは。

「浜辺の歌」高野史緒
そう遠くないと思われる近未来。高齢者はAIによって介護されている。
その施設では、”飼われている” 猫までがAIだ。
その猫の一体から見た、ある老人の姿が描かれる。
珍しい二人称小説。

■理解できないが、なんとなく面白かったもの(笑)

「敗れたリンカーンの肖像」藤井太洋
合衆国秘密捜査部の捜査員フォーク・ドミトリは
シワの入り方から通し番号まで全く同一の外見を持つ
2枚の5ドル札を発見した。偽札と疑ったフォークは
出処と思われる科学者ジョージ・ハインツ博士を詰問するが
「この札は未来の世界からタイムトラベルしてきた」と言い張る。
博士は自分が作成したタイムマシンをフォークに見せるのだが・・・
後半は、序盤からは想像もつかない壮大な時空を舞台にした物語になる。
いささか風呂敷を広げすぎて、私にはいまひとつ理解できないのが残念。

「いつでも、どこでも、永遠に」草野原々
女子校に通う1年生・羽沢八千夜(はねざわ・やちよ)は
同級生の天道万里乃(てんどう・まりの)を愛していた。
しかしある日、万里乃が上級生・川原灘(かわはら・なだ)と
つき合っていることを知ってしまう。
傷心の八千夜は、自身のバディAI(生徒全員に与えられている)に
万里乃の会話データをインプット、学習させたバディAIを
”仮想マリノ” として学校生活を過ごしていく。
彼女の通う学園は、新たな取り組みとして生徒AI化計画を始める。
学生の人格を模倣するAIをロボットに入れ、
学校生活を送らせようというものだ。
プロジェクトの対象に選ばれた八千夜は、
”仮想マリノ” をインストールしたロボットが与えられたのだが・・・
女子高生同士の ”百合” な話から始まって
後半になると序盤からは想像もできない展開を迎える。
うーん、なんというかな。読んでいて頭に浮かんだ文言は
「言葉の意味はよく分からんが、とにかくすごい自信だ!」
某有名漫画家が描くところの、某有名マンガの台詞(笑)。
宇宙的スケールで展開する壮大なホラ話が語れるのも、SFならでは。
 上の台詞で作品名が分からない人でも、これなら分かるでしょう。
 「屁のつっぱりは、いらんですよ!」

■理解できません。ごめんなさい(;。;)。

「無積の船」麦原遼
大学時代に共に数学を専攻し、今は就職した ”私” とあさひ。
2人が午後のカフェでお茶しながら、”私” の見た夢の内容について
あさひがいろいろ解釈を試みる・・・という話。
数学が実に奥深い学問だというのはよく分かるのだが
如何せん内容がさっぱりアタマに入ってこない。
私(ブログ主)はこれでも、高校時代までは
数学が得意(と思い込んでいて)で、大学では数学を勉強しようかなぁ、
なぁんてトンチキなことを一時は考えていたのだが、
そっち方面に行かなくてホントに良かった、と思った。
(そもそもアタマが悪くて入れなかったかも知れんが)

「戯曲 中空のぶどう」津原泰水
近未来の地方都市郊外。そこに建つマンションの屋上庭園が舞台。
かつて同じ学校に通っていたという同級生3人がここで出会い、
会話するのだが、年齢も異なれば記憶の内容も違う・・・
うーん、残念ながら私の理解の外ですねぇ。


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