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黒猫と歩む白日のラビリンス [読書・ミステリ]

黒猫と歩む白日のラビリンス (ハヤカワ文庫JA)

黒猫と歩む白日のラビリンス (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/09/17
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

若き大学教授「黒猫」と、その「付き人」を務める ”私” を
主人公とした連作ミステリシリーズ、本書で7巻目になる。

類い希な才能で若くして教授になり、
フランスの大学へと招聘された黒猫。
日本に残った ”私” は、大学院を経て研究者への道を歩みだした。

大学の同級生から始まった二人の関係は、
前作『黒猫の回帰あるいは千夜航路』にて、新たなステージへ進む。
簡単に言えば恋人同士になったということだが、
ここまで来るのにずいぶん引っ張ったものだ。
まあ、だいたいにおいて黒猫のほうが悪いんだが(笑)。

「本が降る」
かつて黒猫と ”私” の、大学の同級生だった有村乱暮(らんぼ)は
天才詩人として一世を風靡したが薬物所持で逮捕、収監されていた。
ある日 ”私” は、学部4年生の久本可乃子から相談を受ける。
彼女は最近、”本が降ってくる” 夢を見るのだという。
その夢のシチュエーションは、有村乱暮の書いた
『書物の雨』という詩と全く同じだった。
そしてその翌週、可乃子は大学の図書館棟の側で発見される。
昏倒した彼女の周囲には、乱暮の詩集が散乱していた・・・

「鋏と皮膚」
黒猫の姉・冷花(れいか)は服飾デザイナーをしている。
ある日彼女のもとに1通の手紙が舞い込む。
差出人はテキスタイルデザイナー・霧崎シゲヤの息子、ジュンだった。
霧崎の一家は、かつて冷花たちの隣家に住んでいた。
手紙の内容と冷花の回想が交互に語られていき、
やがてシゲヤの妻・節子が亡くなった日に至るのだが・・・
手紙に描かれた、シゲヤと節子の描写は連城三紀彦を彷彿させる。

「群衆と猥褻」
黒猫が芸術監督として参加している〈芸術の不発展〉では、
ある展示作品に非難が集まり、中止を求める声が上がっていた。
そんなとき、”私” は黒猫からの要請で、学部生の水森香奈枝を
家で匿うことになった。彼女は、非難された作品に関わっていた。
しかもどうやら、彼女は何者かにつきまとわれているらしい・・・

「シュラカを探せ」
東京都S区のスラム街にある橋のプレートに描かれた一枚の絵。それは
世界的な覆面アーティスト・シュラカが描いたものによく似ていた。
(モデルは明らかにバンクシー)
”私” は、ゴシック芸術専攻の教授・灰島に誘われ、
S区区長・宇島裕理(ゆうり)に会う。彼女は、
シュラカが描いたものかどうかでプレートの扱いを決めるという。
”私” は、宇崎に対してシュラカを探し出すと約束してしまうが・・・

「贋と偽」
神津和歌(こうづ・わか)は大学の研究員、
その妹の優花(ゆか)はアイドル〈ゆかゆか〉として活動していた。
和歌は画家で大学教授でもある元木と結婚し、優花は元木の知人で
実業家の山下蟻宇(ぎう)と結婚、アイドルを引退した。
しかし和歌が交通事故で急逝、元木は心労で大学を欠勤し続けていた。
一方、山下は趣味で集めた ”贋作” を披露する「展覧会」 を開く。
黒猫と ”私” はその会に参加するが、元木もまた姿を見せていた・・・

ミステリとしては「本が降る」と「鋏と皮膚」がいい。
不可思議な状況としては「本が-」だけど
「鋏-」の雰囲気の方が私は好みだな。
作者はこういう話も書けるんだね。

「群衆と猥褻」の芸術か猥褻か、あるいは芸術か不敬か、
そのボーダーラインはどこにあるのか。
「シュラカを探せ」の、芸術なのか落書きなのか、
そのボーダーラインはどこにあるのか。
「贋と偽」の、本物と偽物の違いは何なのか。
何を以て本物とするのか。

ミステリの衣をまとっているけれど、
個人の認識や価値観をもう一度考えさせられる、
そんな問いかけが含まれているのもこのシリーズの特徴だろう。

シリーズ初期の作品は難解なところもあったのだけど
本書はかなり分かりやすくなったように思う。

作者の描き方が変化したのか、それとも
私みたいにニブい読者のことを考えてくれるようになったのか。
さて、どっちだろう(笑)。


nice!(3)  コメント(3) 
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mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-06 00:27) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-06 00:27) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2021-01-06 00:27) 

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