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機巧のイヴ 帝都浪漫篇 [読書・SF]


機巧のイヴ 帝都浪漫篇 (新潮文庫 い 130-3)

機巧のイヴ 帝都浪漫篇 (新潮文庫 い 130-3)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 人間そっくりの機巧人形(オートマタ:アンドロイド)・伊武(イヴ)を主役とした和製スチームパンクSFシリーズ、第3巻。
 前作『新世界覚醒編』から25年後の日下国(日本国)、女学校の生徒となった伊武と親友・ナオミの前にひとりの男が現れ、波乱の物語の幕が開く。

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 前作から25年後の通天12年(1918年)、伊武は帝都で女学校の生徒となっていた。"通天" というのは作中に登場する架空の年号で、"こちらの世界" の「大正」に相当する。だから伊武の世界でも浪漫とモダニズムの時代だ。

 伊武と並んで本作のダブル主役を務めるのはナオミ・フェル。世界的な企業であるフェル電器産業の社主マルグリッド・フェルの一人娘にして、女学校における伊武の親友だ。

 マルグリッドは前作の後、機巧人形の研究のために伊武を連れて日本へ移住、一時は結婚して娘を儲けたもののその後離婚、シングルマザーとしてナオミを育ててきた。
 ナオミの父親については、本作の中盤以降で物語に登場してくる。

 前作では少年だった轟八十吉(とどろき・やそきち)も既に四十代。帰国後に始めた工務店を大企業へと育て上げ、実業家として成功を収めている。
 一方で伝統的な武術・馬離衝(バリツ)の師範でもあり、教え子が多く警察官となっているので、警察組織へも一定の影響力を持っている。
 表向き、伊武は彼の "養女" となっているので、彼女の "戸籍名" は「轟伊武」である。


 物語の序盤は、まさにマンガ『はいからさんが通る』(大和和紀)の世界だ。
 女学校への通学に、人力車(専用車夫付き)の送迎を受けるナオミ、颯爽と自転車を駆る伊武。二人の学生生活が描かれていく。

 ある日、少女雑誌の表紙絵などを描いている姫野青児(ひめの・せいじ)画伯が女学校近くにある猫地蔵坂ホテルを定宿にしているという話を伊武から聞き込んだナオミは、彼に会おうとホテルに押しかける。

 ナオミはそこで林田馨(はやしだ・かおる)という男に出会う。彼は無政府主義者の活動家で、常に特高(特別高等警察:思想犯を追う)の監視/尾行を受ける身だった。
 林田の醸し出す "危険な雰囲気" に惹かれたのか、ナオミは彼のもとへしばしば顔を見せるようになる。ナオミの "初恋" が進行していくのと並行し、物語には次第に戦争が陰を落とし始める。

 そして帝都を大震災が襲い、それをきっかけに悲劇が起こる・・・というところで前編が終了。
 後編は10年後の1928年へ飛び、舞台は大陸、如州(にょしゅう)へ移る。

 如州は "こちらの世界" でいうところの満州国に相当する。そして後編のキーパーソンとして活躍するのは遊佐泰三(ゆさ・たいぞう)。
 彼は前編では憲兵隊大尉として登場し、後編では大陸の映画会社・如州電影協会理事長として再登場する。この経歴から分かるように、彼は "こちらの世界" での「甘粕正彦」がモデルだろう。

 後編では伊武も意外な役どころで登場し(なにせ彼女は歳をとらないから)、終盤では驀進する大陸横断鉄道(シベリア鉄道)に複葉飛行機が舞い、一大冒険活劇が展開する。


 物語は本巻で一区切りとなるが、謎のいくつか(それもけっこう大きなもの)は残されたまま。
 ラストシーン近く、機巧人形の起動/停止(覚醒/休眠)について、マルグリッドは "ある仮説" に到達するのだが、これが正しいなら、いつか再び伊武の物語は書かれるだろう。

 彼女自身は少女のまま、周囲の人々の世代だけが入れ替わっていく。このシリーズは伊武の物語であるのと同時に、彼女と関わりを持った人たちの物語でもある。次の時代に彼女を取り巻くのはどんな人たちなのか。

 私もぜひ伊武さんの "その後" が知りたい。そしてそのときは、"宿題" もしっかり解決してもらいたいものだ。



タグ:SF
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