推理大戦 [読書・ミステリ]
評価:★★★★
日本の大富豪が発見したキリスト教の「聖遺物」。その獲得を目指し、世界各地から名探偵がやってくる。
舞台は北海道。実施されるのは "競技としての推理"。
しかし開幕早々、本物の死体が現れる。これもゲームの一環なのか、それとも想定外の "事件" なのか・・・
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大富豪・救仁郷進(くにさと・すすむ)が見つけたのはキリスト教の「聖遺物」。天正少年使節団(1582年にヨーロッパへ向けて送り出された)が持ち帰り、のちに海路で函館へ渡ったものだという。
ところが、かつて江戸川乱歩とも面識があり、ミステリマニアでもあった彼はその所有権を賭けて「推理ゲーム」を行うことを決める。
それを知った各国のカトリック・正教会組織から選りすぐりの「名探偵たち」がやってくることに。
本書の前半には4つの短編が置かれ、名探偵たちが紹介される。それぞれが難事件を解決し、それによって "代表" に選ばれていく。
この4編もそれぞれ凝ったミステリで、それぞれの名探偵のキャラというか特徴を充分に活かした作品になっている。
アメリカからは、「AI探偵」ユダとその助手(開発者でもある)・シャーロット。キャッチフレーズは "無限の情報量と超高速の演算能力"。
ウクライナからは、「クロックアップ探偵」ボグダン。
クロックアップとは、自分の思考能力を加速させる能力のこと。この能力を発動すると、相対的に周囲の時間の流れがスローモーションのように見える。サイボーグ009みたいだね。キャッチフレーズは "無限の思考時間と無制限の現場検証能力"。
日本からは「五感探偵」高崎満里愛(たかさき・まりあ)。
嗅覚をはじめ常人離れした五感を備え、現場に立つと犯人の残したあらゆる情報を感知できる。キャッチフレーズは "完全無欠の情報収集能力と犯行状況の再現能力"。
ブラジルからは「霊視探偵」マチウス。嘘を100%見抜く「魔眼」をもつ。
もちろんオカルトではなく、彼の持つ卓越した観察眼と推理能力がそれをもたらしている。
この4人(4組)、能力もずば抜けているが、シリーズものの主役が務まるくらいそれぞれのキャラも十分すぎるくらい立っている。
そして後半では舞台を北海道に移し、聖遺物争奪の推理ゲームが始まる。
本編の語り手は、救仁郷進の孫の弘瀬廻(ひろせ・めぐる)。推理ゲームのために各国からやってくる探偵たちの世話役を、従兄弟の弘瀬大和(やまと)とともに務めることになっている。
この大和くん、廻の目から見ても充分に名探偵の素質を持っているのだが、主催者側の人間ゆえにホスト役に徹している。ただまあ多くの読者が予想するだろうけど、終盤に至ると彼も推理合戦に加わってくる。
会場は北海道上川郡筆尻村の山奥にある「レラカムイ筆尻」。コテージが数軒と本館からなるリゾートで、オーナーはもちろん救仁郷だ。
折しも季節は冬。辺り一面は銀世界だ。
本書の前半で紹介された名探偵たち4組、さらにシスター・リンという修道女を加えた5組がこのゲームの参加者となる。
シスター・リンについては前半での紹介がなかったのだが、その理由も後半の中で明かされる。
ゲーム参加者が揃ったのも束の間、早々と事件が起こる。
ホスト役の一人で弁護士の山川が、コテージの一つで死体で発見される。人里離れた場所ゆえ、犯人は一行の中にいるはずだ。
かくして名探偵たちの推理合戦が始まる。
推理の結果、犯人に辿り着いた者から告発が始まるのだが、犯人と名指しされた側も名探偵。周囲にいるのも名探偵。
それゆえに、出てくる推理は反論反証の集中砲火を浴び、次々に消えていく。はたして真犯人は・・・
作者の持ち味のユーモアも大盛りだ。やたらおしゃべりで下世話なジョークを連発するAI探偵とか、北海道出身なのになぜかコテコテの関西弁でマシンガントークをかます満里愛さんとか、もう面白すぎである。ぜひ、独立した作品で主役を務めてほしいものだ。
多重推理・多重解決ものは多いけど、登場人物のほとんどが名探偵というのは類例が少ないだろう。犯人指摘の論理もなかなか高レベルで、どれが真相でもそれなりに説得力がある。読んでるほうは感心してればいいが、書く方はたいへんだったろうなぁと思う。
最終的に提示される真相は好みが分かれるかな。私はあまり好きになれないけど、そこに至るまでの積み重ね(前半の4短編、後半の多重解決)のレベルがものすごく高いので、許せる気分になってしまう(笑)。