SSブログ

傑作集 日本ハードボイルド全集7 [読書・ミステリ]


傑作集: 日本ハードボイルド全集7 (創元推理文庫)

傑作集: 日本ハードボイルド全集7 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/09/19
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 日本ハードボイルド黎明期の作品集、最終巻は一作家一作で16作を収録。
 タイトル・作者名の後の数字は初出年。


* * * * * * * * * *

「私刑(リンチ)」(大坪砂男)1949
 梅若というやくざを殺して刑務所に入った清吉。刑期が終わって出所するところを望遠鏡で見ている "わたし"。さらにお粂(くめ)という娘が加わって、3人の間の因縁話が展開する。


「おれだけのサヨナラ」(山下諭一)1963
 「どっかの国」が日本で商談を進めている。パシフィック商事はカヨコという女に「どっかの国」のお偉方を "接待" させて交渉を有利に進めようとしていた。それを阻止したいライバル会社の命で、"おれ" はカヨコを拉致したが・・・


「あたりや」(多岐川恭)1965
 主人公は無免許の医師・ドクさん。飲み屋を出たドクさんは、三人組の "あたりや" を見つける。そのひとり「健ちゃん」が一台の車に接近していったところ、車は突然速度を上げ、「健ちゃん」をはねて逃げてしまう・・・


「待伏せ」(石原慎太郎)1967
 舞台はおそらくベトナム戦争。二十日前に味方の小隊が全滅した。"俺" が所属する分隊はその敵を待ち伏せして討つ作戦を遂行する。
 同行したカメラマンと共に、ヘリコプターで降下した "俺" たちは、暗闇の中、ひたすら敵を待ち続けるが・・・


「凍土のなかから」(稲見一良)1968
 あるきっかけから5年前に世を捨て、傷ついた老犬とともに山奥へ籠もって狩猟生活をしている "俺"。
 しかしそこに刑務所を脱走した二人の凶悪犯が現れる。追っ手を避け、山を越えて逃げるために、"俺" は道案内を強要されるのだが・・・


「天使の罠」(三好徹)1969
 新聞記者の "わたし" は、横浜のスナック経営者・藤尾から気になる話を聞く。一ヶ月前にやってきた大学生は、藤尾に「このへんでピストルは手に入らないか?」と聞いたという。
 折しも、一週間前に海岸公園では射殺事件が起こっていた・・・


「新宿その血の渇き」(藤原審爾)1969
 低賃金で働かされている若者である "彼"。上司とケンカし、むしゃくしゃしてナイフを持ったまま新宿へやってきた。
 反戦活動をする学生たちでごった返す中、ちょっとだけ話した女学生の言葉にかっとなって、思わず刺してしまうが・・・


「アイシス賛歌」(三浦浩)1970
 ロンドンのパディントン駅からオックスフォードに向かおうとしていた伊沢は、一人の青年から包みを託される。しかしオックスフォードについても誰も受け取りに来ない。
 伊沢は友人の深沢の部屋を訪ねたが、そこには見知らぬ男の死体が・・・


「骨の聖母」(高城高)1972
 北海道大学講師の島本も参加した戦後初の樺太視察団は、途中で邦人のものと思われる遺骨を発見、持ち帰ってきた。
 遺骨は刀祢政志という人物のものと思われたが、その娘・八重子は納得できない様子だ・・・


「無縁仏に明日をみた」(笹沢左保)1972
 『木枯らし紋次郎』シリーズの一編。
 峠越えの道をいく紋次郎は、三人連れの親子に出会う。夫婦ともに体調を崩しているという。子どもの願いを聞き入れた紋次郎は彼らを助けて峠を越える。
 しかし三人と別れたのも束の間、五人の渡世人が現れて夫を殺してしまう。紋次郎と勘違いしたらしいが・・・


「暗いクラブで逢おう」(小泉喜美子)1974
 元詩人で、元作家で、元編集者だったジョーンジィは今、深夜クラブを経営している。そこへやってきた彼の友人は、売れないミステリ作家だった。さらに、高名な評論家もやってきて・・・


「東一局五十二本場」(阿佐田哲也)1976
 タイトル通り、麻雀の一局めが延々と続く話。麻雀は大学の頃ちょっとやったけど、点数の計算方法も覚えないうちに卒業してしまった。職に就いてからは一度だけ、上司と付き合いでやったきり。もう35年くらい牌に触ってない。ルールもほとんど覚えてないよ・・・


「裏口の客」(半村良)1977
 私立探偵・下町(したまち)の依頼人・野口昌代は、東日本医大の入試にからむ不正を調べてくれと云う。部下に昌代の身元調査をさせたところ、彼女の息子が大学受験に2度失敗し、三浪めを迎えていることを知る。さらに彼女の亡夫は大病院の医師だった・・・


「時には星の下で眠る」(片岡義男)1978
 アーロンが入った店の中で銃撃が起こり、電話中だった女性が流れ弾で死んでしまう。つながったままだった電話を取ったアーロンが通話相手に女性の死を告げると、相手は彼女の車をカリフォルニアまで持ってきてくれと云い出す・・・


「彼岸花狩り」(谷恒生)1979
 積荷鑑定人の日高は、入港してきたギリシア船籍の貨物船ブルーコンドルに不審な匂いを嗅ぎつける。そしてその翌日から、港近くの店の娼婦が集団で姿を消しはじめる。その数およそ20人・・・


「春は殺人者」(小鷹信光)1980
 作者は松田優作主演のTVドラマ『探偵物語』に原案を提供し、それを小説化している。そのうちの一編。
 工藤俊作がバーで知りあった女・井上夕子が殺された。彼女のマンションに忍び込んだ工藤は、電話機の短縮番号に9人の人物が登録されていることを知る。犯人はこの中にいると睨んだ工藤だったが・・・


 私の好みでベスト3を挙げると、まず「凍土のなかから」。冒険小説要素が強く、圧倒的に不利な状況からの主人公の反撃が鮮やか。
 『紋次郎』シリーズの安定した面白さで「無縁仏に明日をみた」。
 そしてミステリ要素が多い「春は殺人者」かな。

 巻末には60ページものスペースを割いて「日本ハードボイルド史」なるものがまとめられている。ただ、けっこうな厚みがあるこの全集を7冊も読んできたけど、やっぱり私には今ひとつハードボイルドというものが合わないみたい。

 とは云っても、現代ではハードボイルド風味を効かせたミステリはけっこう書かれていると思う。そういう意味では、ハードボイルドは日本にミステリに充分 "浸透" していると言えるのではないかな。



nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ: