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八万遠 [読書・ファンタジー]


八万遠 (新潮文庫nex)

八万遠 (新潮文庫nex)

  • 作者: 田牧 大和
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/12/23
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 創世神『天神』(てんしん)の子孫、上王(しょうおう)が統べる地、八万遠(やまと)。そこには自治を許された『直轄七州』があった。
 そのひとつ、雪州(せっしゅう)の嫡男・源一郎(げんいちろう)と墨州(ぼくしゅう)の長男・甲之介(こうのすけ)が出会ったときから、八万遠の地に戦乱が巻き起こる・・・
 異世界・八万遠を舞台に展開するファンタジー。

* * * * * * * * * *

 八万遠は、日本列島に似ていなくもない島国だ(かなりデフォルメされているが、モデルが日本というのはわかる)。

 太古の昔、創世神『天神』(てんしん)を信仰する一族が全土を統一、"上王" を名乗った。
 さらに北から順に氷州・墨州・雪州・陽州・炎州・藍州・碧州の七州を置き、ここの領主には自治を許した。『直轄七州』である。
 炎州の南には国内最大の湖・神湖があり、その南に上王の治める天領がある。

 ちなみに日本地図に無理矢理当てはめると、天領はおおむね紀伊半島全域、墨州は新潟あたり、雪州は関東あたりという位置関係になる。

 物語は、雪州の嫡男・源一郎の前に墨州の長男・甲之介
が現れたことから始まる。

 場所は炎州。源一郎は、故郷を離れて炎州に預けられていた。これには理由があった。
 八万遠は全土が天神信仰で統一されているはずなのだが、雪州だけはいささか事情が異なる。
 もちろん対外的には天神信仰を表明しているが、そこに暮らす者たちは、領内にそびえる美しき山・朔山(さくざん:モデルは富士山と思われる)に深い畏敬の念を示す「朔山信仰」が深く根付いていたのだ。このため、上王に対しての密かな叛意を疑う者は多かった。
 それがために雪州の世継ぎである源一郎は、他意なきことを示すため、天領近くの炎州に、いわば人質として預けられていたのだ。

 源一郎を訪ねてきた甲之介は墨州領主の長男だ。豪放磊落な言動を示し「俺が墨州を継いだら、戦を仕掛けて炎州を獲る」と豪語する。「だから俺の味方になれ」
 源一郎は好感を抱いたものの、同時に危うさをも感じるのだった。
 ときに源一郎・16歳、甲之介・18歳。

 やがて二人は対照的な道を辿っていく。

 甲之介の父は、次男・良之丞(りょうのじょう)を溺愛し、家督を継がせる構えを見せていた。甲之介は先手を打って弟を殺害し、父を幽閉して墨州の掌握に成功する。

 一方、父の病死によって帰国を許され、家督を継いだ源一郎は、幼馴染みで一歳年上の珠(たま)を正室に迎え、嫡子・徳之進(とくのしん)を儲ける。領民に対しても善政を敷き、雪州は平穏な時を過ごしていた。

 そして再び源一郎の前に現れた甲之介は、いよいよ領外進出を宣言、炎州攻略戦を開始する・・・


 物語は墨州vs炎州の戦いをメインに、雪州の模様が織り込まれていく。

 二人のメインキャラ以外のサブキャラがユニーク、かつ重要な役回りを担っている。

 まず東海林市松(しょうじ・いちまつ)。甲之介の懐刀で、彼の意を具現化していくためなら何でもやる。炎州攻略戦においても、実質的な前線指揮官を務める。

 源一郎の正室・珠。さして美人でもなく、小柄で華奢、受け答えも物静か。しかし源一郎はそんな彼女をことのほか大事にしている。夫婦仲も睦まじい。
 実は彼女は、朔山の "神" とは特別なつながりを持つ、いわゆる巫女のような存在で、"神意" を感じ取ることのできる唯一無二の存在なのだ。
 しかし、彼女の存在そのものが上王への忠誠を疑わせる要因となっていく。

 墨州と炎州の戦いをよそに中立を保とうとする雪州だが、世の情勢はそれを許さない。源一郎も巨大な戦乱の渦に飲み込まれていく・・・というところで幕。


 星の数が今ひとつ少ないのは、物語が完結していないから。これはどう考えても続巻があるはずだ。なにより、源一郎がほとんど動いてないんだから。
 この先、おそらく源一郎率いる雪州が立ち上がり、八万遠を二分する戦いに割って入っていくのだろう。ただ、そのとき雪州がどちらを敵に設定して闘うのかはまだ分からない(ひょっとして三つ巴の戦いになる可能性もある)。
 どう転ぶにしろ、遅かれ早かれ、いつかは甲之介と源一郎は雌雄を決するべく激突することになるだろう。本書の惹句にも「王は、二人いらない」とあるのだから。

 とはいっても、本書の初刊は2015年頃なので、もう10年近い昔。いままで続巻が出てないってことは、作者には書く気がないのか、それとも本書が全く売れなかったのか(笑)。
 だけど私は、とっても続きが読みたいぞ。何とかしてくれ(おいおい)。



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