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麒麟児 [読書・歴史/時代小説]


麒麟児 (角川文庫)

麒麟児 (角川文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/11/20
評価:★★★

 幕末の動乱のさなか、江戸の街を巡る攻防を勝海舟の視点で描いた物語。

 慶応4年(1868年)、西郷隆盛率いる5万の官軍は江戸の街に迫っていた。崩壊寸前の幕府にとどめを刺すためだ。
 対する幕府は勝海舟を担ぎ出し、官軍との和平交渉を任せることに。勝は戦乱回避を最優先に、西郷との対面に臨むのだが・・・


 歴史に疎い私でも知ってるくらい、江戸城を巡る勝と西郷の物語は、激動の連続である幕末の中でも有名なエピソード。

  逆に言うと、起こったイベントが多すぎて、その背景も時系列もよく分からない、ってのが幕末という時代だと私は認識している。
 幕末を扱った大河ドラマも観たことがあるけど、どうにも興味が続かなくて最後まで観たことがない(笑)。

 私以外にもそういう人は多いのかもしれない。だって、本書の序盤には、勝が維新の流れというか背景を説明するシーンがあるんだもの。

 15代将軍・徳川慶喜の命を受け、官軍との交渉に向かうという幕臣・山岡鉄太郎に「そもそも、なぜ倒幕派は幕府を倒そうとするのか」と訊かれて、その理由を滔々と語ってみせるのだ。
 さすがはストーリーテラーの冲方丁だけあって、この下りはするすると頭に入ってきて、非常に良く理解できた。そうか、明治維新ってこういうふうに進んできたのか・・・。
 ただ、本書を読み終わって数時間後には、綺麗に頭の中から抜けていたのには困ったが(おいおい)。


 和平交渉が決裂したときは、即座に江戸の街に火を放つ ”焦土戦術” をちらつかせる勝。
 戦乱を避けたいのは同じだが、幕府の要求を聞き入れ過ぎると将兵たちの不満が高まり、制御不能になる危険性もあるので安易に妥協できない西郷。

 二人に共通するのは、相手だけではなく自分の身内すら ”敵” であるということ。

 旧態依然とした体質で既得権益にしがみつきたい幕臣たちは、これまで勝が成し遂げてきたことを否定したり潰したり。果ては将軍慶喜自らが、勝の功績を引っくり返したり。
 そのたびに「やってられるか」と辞表を叩きつけるのだが、幕府のほうは窮地に追い込まれるたびに勝を引っ張り出しにくる。
 かといって全権を与えるのかというとそんなことはなく、”手足を縛られた状態で跳ぶ” ことを強要するような無理難題が命じられる。

 常人だったらとっくの昔に愛想を尽かすような相手に、文句を言いつつも最後までつきあい、幕府を ”看取る”。
 まあ、そんな人物だから偉人として名が残るのだろうけど。

 戦っているときに背中から弾が飛んでくるのは西郷の方も大差なく、結局、交渉で対峙している勝と西郷の二人こそが、お互いの ”最大の理解者” であり、心情的には ”最大の味方” である、というなんとも皮肉な状況が描かれていく。


 史実として、江戸の街は戦禍を免れ、江戸城も無事に開城されるのだが、物語はその後の西郷と勝の物語も綴っていく。
 幕末の動乱を通じて、西郷のことを ”かけがえのない友” とまで感じるようになっていた勝にとって、西南戦争は痛恨の出来事だったろう。
 西郷に対する勝の心情を描いたエピローグが感動的だ。



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