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秀吉を討て [読書・歴史/時代小説]

秀吉を討て (角川文庫)

秀吉を討て (角川文庫)

  • 作者: 武内 涼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時代は天正12年。
本能寺の変で織田信長が討たれて2年、
秀吉は天下取りに邁進していた。

未だ日本各地で戦いが続いている中、紀州は特異な状況にあった。
一国を統べるような戦国大名は存在せず、複数の寺社勢力や土豪たちの
いわば ”連合国家” ともいうべき状態で、彼らの集団指導体制は
戦国時代の中にあっては民主的で、一種の ”理想郷” でもあった。
しかしその紀州にも、遠からず秀吉は侵略の手を伸ばしてくるだろう。

主人公・林空(りんくう)は紀州根来寺に使える下級武士だが、
実は根来忍者の総帥・隠形鬼(おんぎょうき)のもとで
厳しい忍術の修行を積み、さらには鉄砲術まで身につけていた。
その林空に隠形鬼から密命が下る。「秀吉を暗殺せよ」と。

林空はベテラン忍者の叡海(えいかい)、親友・俊念(しゅんねん)とともに
小牧・長久手の戦いへ向かう秀吉を鉄砲で狙撃することになる。

隠形鬼の ”秀吉暗殺チーム” は林空たちだけでなく、
“二の矢”、”三の矢”・・・と ”別働隊” が用意されており、
いよいよとなったら隠形鬼自ら暗殺に加わる手はずだったのだが・・・

もちろん、秀吉も暗殺対策は万全だ。
山中長俊率いる甲賀忍者が周囲を固めている。

林空たち根来忍者と甲賀忍者の戦いが前半の読みどころ。
体術の限りを尽くした忍者同士の攻防は、
白土三平の『カムイ外伝』さながらの白熱ぶり。
隠形鬼の放つ秘技は、もう忍術の域を超えて
山田風太郎の『忍法帖』の世界だ。

後半に入ると、いよいよ秀吉の紀州侵攻が始まる。
各地の寺社や城は次々と落ち、最後に残った抵抗勢力は
和歌山の太田城に立て籠もることになる。
林空もまたその中にあって、壮絶な戦いに身を投じていく・・・

 この太田城を巡る攻防は、「備中高松城の水攻め」、
 「武蔵忍城の水攻め」(『のぼうの城』で描かれた)とならんで
 「日本三大水攻め」として有名なのだそうだ。

林空はもちろんだが、脇を固めるキャラも魅力的。
幼馴染みでかけがえのない相棒・俊念、頼りになる先輩・叡海、
当初は林空のライバルであったが、
戦いを通じて固い友情で結ばれることになる蟠竜(ばんりゅう)、
林空を ”男” にしてくれた遊女・かごめ、
太田城で共に戦うことになる可憐な少女・若菜など、
さながら綺羅星のごとく、ここには書ききれないくらいだ。

秀吉の天下統一は史実なので、林空たちの戦いも
最終的には敗北に終わることはわかっているのだが、
自らの ”理想の国” を守ろうと戦い続ける彼ら彼女らを
最後まで応援せずにはいられない。


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