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ネメシスIV [読書・ミステリ]

ネメシス4 (講談社タイガ)

ネメシス4 (講談社タイガ)

  • 作者: 降田 天
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/05/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★

TVドラマ「ネメシス」をベースにした小説シリーズ、第4巻。

横浜にある探偵事務所ネメシスを舞台に
社長の栗田一秋、新人探偵の風間尚希、
そして助手の美神アンナの3人が事件に立ち向かう。

探偵役を務めるのは、天才的なひらめきをもつアンナ。
ポンコツな風間を陰からフォローして事件解決へ導く役回り。

「第一話 父が愛した怪物」
”天狗サーモン” というブランドで鮭を養殖している会社の
社長・天久潮(あまひさ・うしお)が急死した。
海に転落しての溺死で、事故と事件の両面で捜査が進んでいるという。
鮭の養殖場は天狗伝説の残る半島にあり、
オーベルジュ(宿泊施設をもつレストラン)が併設されている。
風間はグルメ雑誌の記者を装ってオーベルジュの客となった。
潮の残された3人の息子の中に犯人がいると睨むが、
到着した夜になんと天狗が出現する・・・

アンナの活躍によって事件は解決するのだけど、
ついでに風間の意外な過去も明らかになる。
そしてこの事件の犯人と行方不明のアンナの父親と間の関わりも。
全6巻のこのシリーズも後半に入り、
いよいよ完結に向けて動き出した、というところか。

「第二話 探偵Kを追え!」
ネメシスの社長・栗田が外出した。風間とアンナにはには何も告げずに。
残されたメモには、3軒のレストランと3人の人名が。
どうやらこの3人に会いにいったらしい。
ひょっとしたら、新入社員の面接かも知れない。
しかし事務所にはこれ以上人を増やす余裕はない。
ならば、リストラされてしまうのでは・・・と不安になった風間は
アンナを伴って3軒のレストランに向かうが、
栗田の会った相手を見ても、彼の目的がさっぱりつかめない・・・
”何が起こっているのか” がメインの謎なのだけど
それが明らかになった後でもうひとひねり。

降田天(ふるた・てん)という作家さんの本を読むのは初めて。
女性二人の合作なのだそうだ。

世界では合作というのはよくあることらしいけど
日本では私の知る限り岡嶋二人だけかなあ(解散しちゃったけど)。


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ヨハネスブルグの天使たち [読書・SF]

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/08/21
  • メディア: 文庫


評価:★★☆

”未来” という言葉に、無条件で明るいイメージを抱けたのは
もうかなり昔のことのような気がする。
今から思えば、せいぜい小学生の頃くらいか。

”未来” になれば目の前の諸々の問題は全て解決する、とまでは
思わなくても、少なくとも解決の糸口くらいは見えるのではないか。
そんな期待があったのだが・・・

中学生の頃には公害問題、高校から大学にかけては石油ショック、
職に就いて何年かしたら日航機が墜落し、そしてバブル。
ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終わり、
世界が平和になるかと思いきや、逆に混乱は増すばかり。
それは今に至るも引きずっていて、世界はテロと内戦が溢れている。
終わるどころか焦臭さを増しているようで、”未来” という言葉に
安心感はほとんど感じられない時代になってしまった。

閑話休題。

本書は、近未来を舞台に世界各所の風景を切り取った物語。

「ヨハネスブルクの天使たち」では南アフリカの最大都市、
「ロワーサイドの幽霊たち」では、9.11で崩壊した
ニューヨークの世界貿易センター、
「ジャララバードの兵士たち」はアフガニスタン東部の都市、
「ハドラマウトの道化たち」は世界遺産にもなっているイエメンの都市、
「北東京の子供たち」は巻末の解説によると高島平団地がモデルらしい。

最終話以外は物語の背景に内戦/テロがある。
戦災で孤児となった子供たち、テロで大事な人を喪った者たち、
兵士として戦闘に参加している者たちなどにスポットが当たる。
東京は戦争こそ出てこないが、少子化によって活力を失い
閉塞感に満ちた子供たちの日常生活が描かれる。

そして全作に共通しているのがDX9というロボットが登場すること。
DX9はホビーロボットという位置づけで、大きさは子供くらい。
AIも高度なものを搭載しているわけではなく
一番大きな機能は ”歌を歌うこと”。
ボーカロイドに機械の体を与えたようなものだ。

しかし各短篇でのDX9の行動は様々だ。
ひたすら与えられた命令をくり返し実行し続けるものがいる一方、
AIをプログラムし直せば、様々な用途に使えるので
安価な兵士として戦闘に加わったり、テロの道具になるものもいる。
中には、本来の機能のままにひたすら街角で歌い続けるものもいるが。

DX9というSFガジェットを用いて近未来の風景を描きつつ
争いから逃れられない人間の愚かさを語る。
こう書いてくると、”明るい希望に満ちた未来” なんてものは
欠片も無さそう。まあ、作者もそれでは救われないと感じたのか、
希望の萌芽らしきものもちょっぴりあるんだが・・・

本書は第34回日本SF大賞特別賞をもらったとのことなのだが
読んでいて、楽しい気持ちになれる本ではないなあ。
私はやっぱり、もう少し気楽に楽しめる本がいい。


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「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章ーTAKE OFFー」を観てきました [アニメーション]


※本編のネタバレはありません。

昨日(10/9)、表題にあるとおり「ヤマト2205」を
かみさんと二人で観て参りました。

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まず、結論を書いておきます。

私はとても楽しませてもらいました。
来年2月公開の「後章」が楽しみです。

場所は新宿ピカデリー。舞台挨拶が行われた回です。

そもそも、私は舞台挨拶を観ようとは思っていませんでした。
普通の上映回でいいと思ってたんですけど、私が公式サイトを見ながら
「舞台挨拶もあるみたいだよ」って口を滑らせたら、
かみさんが「それ見たい!」って食いついてきたもので・・・

「でも、抽選だからねぇ・・・」
私はファンクラブに入っていないので、先行販売が終わった後の
一般販売の抽選に申し込みました。
外れても仕方なかろう・・・って思ってたんですが、まさかの当選。

「当たっちゃったよ」って言ったら
「まあ、こんなもんよ」

確かにあなたは幸運の女神様です・・・
ということにしておきましょう(笑)。

というわけで当日。新宿ピカデリーに行ってきました。

 思い起こせば9年半前の2012年4月。
 「2199」第一章の公開は、全国でわずか10館でしたよねぇ・・・
 MOVIX柏の葉の前で開場を待っていたのが
 昨日のことのように思い出されます。
 ああ、何もかもみな懐かしい・・・

今回は全国で36館。よくぞここまで増えたものです。

舞台挨拶の様子は、ネットにも載ってますので割愛。

さて、本編の感想をネタバレしない範囲で書いてみると・・・

意外と旧作の「新たなる旅立ち」をなぞってるなぁ、と思いました。
もちろん枝葉の部分は大幅に変わってるけど
ガミラスがああなって、イスカンダルがこうなって・・・という
ストーリーの根幹は、かなりオリジナル準拠。
(まあ、「後章」はどうなるかわかりませんが)

登場人物の総数はけっこう多いし、
語られるエピソードも決して少なくないのに、
どのキャラにもそれなりに出番と役割がしっかり振ってあって
ダイジェスト感や詰め込み感がないのは、流石ですね。
脚本と監督の交通整理が上手くいってるのでしょう。

特に新人クルーの描き方がよかったかな。
旧作シリーズでは、物語の中でも据わりが悪くて
結局、徳川太助以外は画面から消えてしまった方々。
今回のリメイク版では、みなけっこう生き生きと活躍していて、
いい感じじゃないかと思います。
問題は、何人生き残るかですかね(えーっ)

そしてラストシーン。
「えーっ、ここで終わるんかい!」って(心の中で)叫びながらも、
「やっぱり、切るならここだよねぇ~」とも思った。
「後章」への ”引き” はバッチリですね。

さて、「リメイク・ヤマト」シリーズで、
かみさんの一番のお気に入りはデスラー総統。
舞台挨拶を見たがったのも、山寺宏一さんをナマで見たかったから。

そして、二番目のお気に入りは(たぶん)藪くん。
(明言したわけじゃないんだが、画面に出てくるたびに喜んでるので)
「ネットの情報だと、今回は藪くんの出番が多そうだよ」
「当然よねぇ。あれで終わる人だとは思ってなかったから」

なんともスゴい肩入れの様子だったんだが、
実際、今回の藪くんはよかった。
だから、帰り道でかみさんに聞いてみた。
「藪くん、よかったよねぇ。彼の言葉に感動するとは思わなかったよ」
「え? そんなシーンあった?」
「そんなぁ・・・一人で○○○○へ○○○○○して、
 それを○○に○○○れて、そこで自らの思いの丈を吐露するシーンが」
「そうだったっけ?」
「いやあ、あの台詞は胸に響いた・・・よね?」

どうも、(前々から薄々感じていたはのですが)
私とかみさんでは感動のポイントがかなり異なるようです。

私たち、本当は何もわかり合えていなかったのかも知れませんね・・・
(おいおい)。

さて、これから何回か映画館へ足を運ぶことになりそう。
(かみさんはスケジュール帳とにらめっこしてる)
円盤も来週末には届くので、「感想もどき」を書くのはその後かな。

「後章」の公開日も2022年2月4日と発表されました。
ビジュアルも公開されて。
ゴルバがなんとも、おどろおどろしくていいですね(笑)。

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コロナ禍もあって、製作は遅れることはあっても早まることはなかろう、
だったら公開は4~5月頃じゃないかなぁ・・・と思ってましたので、
意外と早かったですね。
まずそれまでは、健康で生き延びなければ(笑)。


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昭和少女探偵團 [読書・ミステリ]

昭和少女探偵團(新潮文庫nex)

昭和少女探偵團(新潮文庫nex)

  • 作者: 彩藤アザミ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/12/07

評価:★★★

時代は昭和6年。
父親は放蕩者だが、母親は売れっ子の流行作家という一家に生まれ、
自由な校風が自慢の私立聖桐(せいとう)高等女学校に通う
14歳の花村茜が主人公兼語り手を務める。

「第一話 少女探偵ごきげんよう」
ある日、音楽の授業から教室に帰ってきたとき、
茜は机の中に差出人不明の手紙を発見するが
怪文書を受け取ったのは茜だけではなかった。
窓際の席に座っていた生徒みんなの机に入っていたのだ。
ただ一人、茜の友人・寒河江加寿子を除いて・・・
謎を解いたのは、夏我目潮(なつがめ・うしお)という女生徒。
明かされた真相は、この時代の女学校ならではのものだった。

潮の推理力に惚れ込んだ茜は、友人の丸川環とともに
”少女探偵團” を結成する。

「第二話 ドッペルゲンゲルスタイルブック~~鈴原ミュゲのお洒落手帖」
茜の父が、近くの商店街で茜の ”ドッペルゲンゲル” を見たという。
笑い飛ばした茜だったが、商店街へ買い物へ出ると
まさに自分に瓜二つの少女を目撃してしまう。
同じ髪型、同じ買い物籠、同じ花柄のワンピース。
驚き怯える茜だったが、そこへやってきた潮と環と共に、
”影” の正体を探りだすことに・・・
シリーズのサブレギュラーとなる鬼頭刑事が初登場する。

「第三話 満月を打ち落とした男・前」
「第四話 満月を打ち落とした男・後」
”ドッペルゲンゲル事件” を解決した少女探偵團だったが、
それが新聞に載ってしまい、世間からの注目を集めてしまう。
そんな矢先、灰田と名乗る男が茜に接近してきた。
潮は一目で灰田の怪しさを見抜き、遁走した灰田を追うが
彼が逃げ込んだのは見留(みとめ)院子爵の屋敷だった。
子爵家令嬢・紫(ゆかり)は、安元脳病院の院長の次男・庸二との
縁談が進んでいたが、突然白紙撤回となり、それ以後、
庸二との連絡もつかなくなってしまったという。
少女探偵團は、紫の依頼を受けて安元脳病院へ潜入することに・・・

昭和6年といえば満州事変が起こった年。
本作の背景にも戦争の色が垣間見える。
特に「第三話」「第四話」では、事件と軍の関わりが明らかになって
彼女たちの将来も心配になってくる。

両親の影響で、比較的自由で進歩的な価値観に育っている茜さん。
実は、実在する某有名人と血縁関係にある潮さん。
科学的素養と手先の器用さに恵まれた、元祖リケジョの環さん。
皆さんキャラが立っていて、読んでいて楽しいのだけど、
どうしても数年後の彼女らのことを考えてしまう。

昭和6年で14歳ということは、真珠湾攻撃の起こった16年には24歳。
この時代なら既に結婚しているだろうし、夫はおそらく出征するだろう。
終戦の年には28歳となっているわけで・・・

本書の中では、来るべき未来など知るよしもなく
元気にはしゃぎ回ってるお転婆娘さんたちなんだが、
オジさんは心配になってしまったよ。


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007 / NO TIME TO DIE [映画]

ダニエル・クレイグ版007シリーズ、5作目にして最終作。

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wikiからあらすじを引用しつつ、思うところを書いてみよう。

スペクターとの戦いのその後。
現役を退いたボンドと恋人マドレーヌ・スワンは
イタリア・マテーラにて幸せに静かな生活を送っていた。

ボンドは、かつて愛したヴェスパー・リンドへの思いを断ち切るために
彼女の墓を訪れるが、そこでスペクターの紋章が描かれた紙を発見、
直後に墓が爆発する。さらにスペクターの傭兵たちが現れる。
襲撃からは辛くも逃れることができたが、
ボンドはスワンが裏切ったと思い、彼女と訣別してしまう。

5年後。ボンドはジャマイカで穏やかな日々を過ごしていた。
そんなある日、彼のもとに旧友でもあるCIAエージェントの
フィリックス・ライターがやって来て、
誘拐されたロシアの細菌学者ヴァルド・オブルチェフを
救い出してほしいと依頼する。

オブルチェフはMI6の秘密研究所で細菌兵器を開発していた。
そこが何者かの急襲を受け、細菌兵器のサンプルとともに
彼も拉致されてしまっていたのだ。

CIAの求めに応じて現役復帰したボンドは、
危険な生物兵器を操る正体不明の敵との
想像を超える過酷な闘いに身を投じていく。

事件の背後にいたのはリューツィファー・サフィン。
かつてスペクターに両親を殺されたことから
組織への復讐をもくろみ、さらには入手した細菌兵器を用いて
世界を混乱に陥れようと画策している。

物語が進むにつれて、スワンとサフィンの間に
意外なつながりがあることが明らかになっていくのだが・・・

最初、上映時間が163分(2時間43分)もあると聞いて
ギョッとしたのだが、観てみるとさほど冗長さは感じなかった。

 最近、長い映画を観るときに心配になるのが
 年齢が上がってきたせいかトイレが近くなったこと。
 2時間以内の映画ならほとんど心配ないのだけど、今回は2時間43分。
 今までの人生でも何回もないくらいの長丁場なので、
 見に行く日は朝から水分を控えて臨んだよ。
 秋でよかった。
 夏だったら脱水症になってたかも(おいおい)。

映画の話に戻ると、もちろんアクションシーンは
ふんだんに盛り込まれていて
観客を飽きさせないサービスはもちろんなのだが
なによりダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドがカッコいい。
彼の活躍を眺めているだけで、自然と時間が過ぎていくようだ。

私より少し上の年代の方々(いわゆる団塊の世代)に言わせると
「007はなんといってもショーン・コネリー」なのだろうが
私はそれより少し遅れてシリーズに入ってきたので
もっぱらロジャー・ムーアのイメージが強い。

イケメンでおしゃれでセクシーで、激しいアクションの中にも
ユーモアがあり、最後はラブシーンで終わる。
私にとって「007」とはそんな作品群だった。

だからティモシー・ダルトンはイメージが違っていて好きになれなかった。
ピアーズ・ブロスナンになってちょっと持ち直したけど。

だからダニエル・クレイグも最初は戸惑ったよ。
なんだか地味だなあって。

だけど、作品を重ねるごとにだんだん好きになってきて、
そうなると不思議なもので、カッコよく見えてくる。
私もトシを重ねて、”見る目” ができてきたのだろう、
って自分で自分を褒めてる(笑)。

ダニエル・クレイグ版007の特徴に、ストーリーの連続性がある。
もちろん、前作を観ていないと楽しめないほど
深いつながりがあるわけではないが、観ておけばより楽しめる。
そういう意味では、この5作はひとつながりの大きな物語とも言える。
(初めから意図していたのか、結果的にこうなったのかは不明だが)
そして、本作はこの ”5部作” の締めくくりになっているのだろう。

本作のラストはいろいろ物議を醸すかも知れない。
ひとによってはがっかりしたり、怒り出す人もいるかな。
でも、上に書いたようにクレイグ版ボンドの完結編、って考えれば
それなりの納得のいく結末じゃないかと思う。

ジェームズ・ボンドはいままでいろんな俳優が演じてきたが
みな、パラレルワールドなのだろうと思ってる。

ショーン・コネリーの007が活躍する世界があって
ロジャー・ムーアのボンドが生きている世界があって。
主役俳優が交代すると、ボンドに関する設定がリセットされるのも
パラレルワールドだからこそ、なのだろう。

ダニエル・クレイグのボンドはこれで終結する。
ラストにおいて、ボンドにはいろんなことが降りかかるけれども
次作で主演俳優が交代すれば、またすべてリセットされて
新しいボンドの物語が始まるのだろう。

ちなみに、観たのは日本語吹き替え版。
ホントに皆さん達者で、観ていて安心感がある。

ダニエル・クレイグは藤真秀さん。
この人のボンドは当たり役になったね。ホントぴったりだ。

マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)は園崎未恵さん。
この人は「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」で知ったのだけど、
本作でもすばらしく魅力的な女性を演じてる。
ついでにいうと、レア・セドゥという女優さんの顔は私の好みだ(笑)。

サフィン(ラミ・マレック)を演じたのは中井和哉さん。
この人もベテランだ。クールな中に凄みを秘めた悪役を好演してる。

ボンドの引退後、MI6で新たに「007」を割り当てられた
女スパイ・ノーミ(ラシャーナ・リンチ)。
声の担当は斎賀みつきさん。凜々しい女性を演じさせたら絶品だね。

巨大組織「スペクター」首領で、現在は刑務所に収監中の
ブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)の声を演じるのは山路和弘さん。
この人は実写の吹き替えもアニメのCVもこなすし、
顔出しで大河ドラマにまで出るし、ホント大活躍の人。

CIAエージェントの吹き替えには浪川大輔さんと水樹奈々さんとか
ここでは全部は挙げられないけど、みな達者な人ばかり。
名前は思い浮かばなくても、声に聞き覚えがある人ばかりで
さすがは007、サブキャラにも豪華な布陣だ。

監督さんは日系の人みたいで、作中にも
能面とか日本庭園とかが登場してるし、
最終決戦の舞台となる地も日本(と言いたいが、ちょい微妙な場所)だし。

ネットの噂では、次のボンド役は2022年頃から探し始めるとのこと。
ならば作品として登場するのは早くても2024~25年頃かな。
まだまだ、007の新作が楽しめるというのは嬉しいことだ。

私が生きているうちに、あと何本のボンド映画に出会えるかなぁ。
そんなことを考えたりするトシになっちまったよ(おいおい)。


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言霊たちの反乱 [読書・SF]

言霊たちの反乱 (講談社文庫)

言霊たちの反乱 (講談社文庫)

  • 作者: 深水黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/11

評価:★★★

作者は本格ミステリ大賞にノミネートされたり、
日本推理作家協会賞の短篇部門を受賞したりと、
ミステリの第一線で活躍している人なんだが
本作はいささか毛色が異なる。

タイトルにもあるように、「言霊」、つまり「言葉」がテーマの
スラップスティックなドタバタ小説を収録しているのだ。

「漢(おとこ)は黙って勘違い」
日本語は同音異義語が多く、それによる聞き間違いも
起こりやすいわけだが、その極限を描いた作品。
我々は聞いた言葉を、前後の文脈の中で最適な言葉に変換してるんだが
それが機能しない主人公がでてくる。
彼は聞いた言葉を、次々に ”誤変換” していく。
「汚職事件」が「お食事券」、「公職選挙法」が「好色選挙法」などなど。
途中からは、主人公の恋人も出てくるんだが、彼女もまた
主人公の言葉を誤変換してしまい、混乱に輪をかけていく・・・

「ビバ日本語!」
主人公は、外国人相手に日本語を教える教師。
3人のフランス人女性を生徒に教えてるのだが
日本語の特殊性について出てくる質問について
四苦八苦するところが笑えるのだが、
私の日本語は完璧なのかと自問してみると、いささか自信がない(笑)。
ちなみに「生」という漢字には158通りの読み方があるそうな。

「鬼八先生のワープロ」
文芸評論家の小田嶋二郎は、いまだにワープロ専用機を愛用している。
その理由は、「山田シフト」なる特殊配列のキーボードに慣れきっていて
PCのJIS配列キーボードに乗り換えることができないためだ。
しかし長年使っていたワープロ専用機が壊れてしまう。
困った小田嶋は、八方手を尽くして同機種のものを借りることに。
しかしそれは、昨年没した官能小説の大家・伴鬼八が
生前愛用していたものだった。
キーボードを打ってみた小田嶋は驚く。鬼八先生のワープロ辞書は、
なんともエロい変換専用に、徹底的に ”鍛えられていた” のだ。
「ここ数年」と入力しようとすると「ここ吸うねん」、
「恐るべき」が「お剃るべき」に・・・(笑)
明らかに「山田シフト」は「親指シフト」がモデルだろう。
未だに熱烈なファンがいるというからねぇ。
「伴鬼八」は「団鬼六」だろうなぁ。
読んだことないけど(ホントです)。

「情緒過多涙腺刺激性言語免役不全症候群」
主人公は、ありきたりのパターン化された言い回しを聞くと
全身に蕁麻疹が出る特殊体質の持ち主。
ある日、テレビ・ショッピングの台本を担当している友人・浅井と
飲みに出かけ、彼の話を聞いているうちに症状が出始める。
通販番組なんて「パターン化された言い回し」の塊だからねぇ。
その帰りに火事騒ぎに巻き込まれたことをきっかけに
主人公はとんでもないトラブルに巻き込まれていくのだが・・・

作者はフランス留学の経験があるようで、そんなところから
日本語の特殊性を肌身で感じたのかも知れない。
どれをとっても、ニヤニヤと口元が緩んでしまうギャグ満載の小説だ。

読んでいて頭に浮かんだのは、初期の筒井康隆が書いてた不条理小説。

 巻末の解説でも筒井康隆に触れてるので、
 そう感じるのは私だけではないのだろう。

特に「漢はー」と「情緒過多ー」に強くそれを感じる。
この2作は「筒井康隆の未発表小説だよ」って言われて
読まされたら、信じてしまいそう。
特に後者は、後半になって主人公がどんどん深みにはまっていくあたり、
ブラック・ユーモアとしてもよくできてる。。

みんな21世紀に書かれた話なのに、
なんとなく懐かしい気分を覚えた、不思議な短篇集でした。


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宇宙戦艦ヤマト 黎明編 アクエリアス・アルゴリズム [アニメーション]

宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム (単行本)

宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム (単行本)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/09/27

1974年に始まったTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」は
その後シリーズ化され、1983年の「完結編」で幕を閉じるが
2009年に「復活編」として蘇ることになった。

 「宇宙戦艦ヤマト」という作品への思いや
 その続編群への評価などについては
 このブログ内のあちこちに書いてると思うので
 ここで改めてくり返さない。

「復活編」は「三部作の第一部」という位置づけで
ストーリー的にもキャラクター的にも完結していない作品だった。
しかも興行的には惨敗に終わってしまったためか
第二部以降は未だ制作されていない。

私は「復活編」という作品を、全くといっていいくらい
評価していないのだが、それは別として、「復活編」について
こんなこともブログのコメント欄に書いた記憶がある。

「いったん語り出してしまった以上は、続編は作るべき。
 映画がダメならOVAでもいいし、それがダメなら
 マンガでも小説でもいいから、最後まで語り終えるべきだ」

私のように途中から離れてしまったひねくれ者(笑)は別として、
「完結編」以後も「ヤマトシリーズ」の熱心なファンであり続け、
「復活編」を心待ちにしていた人たちは少なくなかっただろう。
そういう人たちに対して、ヤマトの辿る旅路を
結末まできちんと見せる、という責任が制作陣にはあるはずだから。

さて、「黎明編」と名づけられたこの小説が扱う時代は
「完結編」から12年後、「復活編」の5年前の2215年。

主人公・古代進とその妻・雪は33歳となっていて
2人の間に生まれた一人娘の美雪は11歳。

未読の方のために内容紹介は最小限に留めよう。

「完結編」において、ヤマトの自沈によって断ち切られた
アクエリアスの水柱は、直径1000kmの氷球となって
地球を周回している。その氷球の中に、
波動エネルギーの輻射が観測されたのだという。
真田から連絡を受けた古代と雪は、アクエリアス氷球の調査へ向かう。
そして同じ頃、”ある勢力”によって、地球人類に対する
巨大な陰謀が進行していた・・・

登場するのは、古代・雪をはじめとする
”かつてヤマトに乗っていた者たち”、そして
”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” だ。

物語が進行する中で、”かつてヤマトに乗っていた者たち” が
「完結編」の後にどんな人生を歩んでいたのかが語られる。
その中では、古代が軍を去り、宇宙へ飛びだしていった経緯や、
「復活編」で雪が艦長をしていた背景も描かれる。

また、”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” が
この頃にどんな生活をしていたかも触れられるし、
本作の中で大活躍をするメンバーも複数いる。

物語の後半では、これらの人々が地球に迫る脅威を
回避しようと奮闘する姿が描かれるのだが、ヤマトは既にない。
彼らはどうやってこの危機を乗り越えるのか、が読みどころだろう。

著者の高島雄哉氏は1977年生まれとあるから40代前半だろう。
東京創元社主催のSF新人賞でデビューした、
新進気鋭のハードSF作家さんだ。

 受賞作「ランドスケープと夏の定理」を収録した同題の短篇集は
 既に文庫になっていて私も持ってるんだが、
 積ん読状態でまだ目を通してない(おいおい)。

巻末の「解説にかえて」によると、高橋氏だけで書き上げたのではなく
”アステロイド6” なるブレイン集団が執筆をサポートしたという。

巻末にそのメンバー一覧が載っているのだけど、
脚本家の岡秀樹氏が呼びかけて結成されたようで、
(上記の「解説にかえて」も岡氏が書いてる)
業界でプロとして働く人もいれば、著名なブロガーの方もいて
みな ”古参のヤマトファン” ばかりのようだ。

結成の目的は、高島氏の書いた初期稿をブラッシュアップするため、
とあるのだが、ファンが書いた二次創作を個人的に公表するのとは違い、
公式サイトの公認のもと、大手出版社から出すのだから
ほぼ「正史」と位置づけられる扱いをされるだろう。

考えてみたら、そんな作品を作るのは至難の業だし、
送り出すにはかなり勇気(蛮勇?)が必要だろう。
それが「ヤマト」という作品の ”宿命” になってしまっている。

何せ50年近い歴史を持つ作品だから、さまざまなファンがいる。
「100人のヤマトファンがいれば100通りの『ヤマト』がある」わけで
ストーリーはもちろん、サブキャラの扱いひとつとっても
かなり気を使わないといけないんじゃないかあなぁ。

リメイクシリーズである「2199」や「2202」に浴びせられた
罵詈雑言の数々を思えば、小説でもアニメでもマンガでも
「ヤマト」の ”新作” に手を出そうと考える人はそうそういないと思う。
下手なことを書けば集中砲火を浴びることは目に見えてるし・・・

だからこそ、その ”防波堤” としての ”アステロイド6” なのだろう。

まあ、ここに書いたことは私の個人的な邪推かも知れないが。

読んでみての感想なんだが、
序盤あたりは ”安全運転” というか、小説というよりは
映画をそのままノベライズしたものを読んでるような感覚。
(ヤマトファンとしては若い世代に属するであろう)40代の人が
書いた作品にしてはちょっと大人しめかなぁ、とも思った。

個人的にはもっと ”とんがった作品” でもいいんじゃないかな、
とも思ったんだけど、考えたらこの小説を読む一番の読者は
「完結編」から「復活編」に至るオリジナルシリーズの熱心なファン。
だから、まず彼ら彼女らに受け入れられなければならないわけで、
そう考えればこの雰囲気は正解なのだろう。

しかし、中盤過ぎからは徐々にヒートアップしていき、
新旧ヤマトのクルーが一丸となって地球の危機に起ち上がるという
ファンが待ち望んでいた(であろう)物語になっていく。

よく考えると「いくらなんでもそれはないだろう」的な展開も
多々あるが、それをノリと勢いで押し切ってしまうのが
良くも悪くも「ヤマト」という作品。
そういう意味では、本書の後半は「ヤマトらしさ」を
存分に発揮しているともいえる。

真田さんの「こんなこともあろうかと」も発動し(笑)、まるで
未来を見通したかのような用意周到 ”すぎる” 準備の数々によって
着々とクライマックスへ向けて盛り上がっていく。

往年のヤマトファンにとっては、
楽しい読書の時間を与えてくれる作品になっているだろう。

個人的に感銘を受けたのは、「完結編」における
”沖田の生存” について補完されたこと。

佐渡先生の「誤診」という噴飯ものの台詞に怒り狂った人も多かろう。
しかし本書の中で、彼の言葉の背後にあったものが明かされる。

このアイデア自体は、1982年に出版された岬兄吾氏による
「完結編」の小説版でも使われていたもの。
たぶん岬氏はSF作家として、どうしても
この描写を入れたかったのだろうと推測する。
私も当時、この小説版を読んで
「そうだよ、そうでなくちゃいけないよ」って思った記憶がある。

 「完結編」のノベライズは、当時いくつもの種類が
 出回っていたように記憶している(wikiによると4種類もあった)。
 さすがに全部を読もうとは思わなかったが、岬兄吾版は読んだよ。
 当時、岬氏も新進気鋭のSF作家さんだったからね。
 ちなみに岬兄吾版「完結編」ノベライズの発行元はアニメージュ文庫。
 てっきりつぶれたものと思ってたら、今でも何とか続いてるとか。
 ああ、何もかもみな懐かしい・・・

高島氏は、本書においてもこのアイデアを物語の中に投入している。
「あとがき」によると、この設定を使用するにあたって
岬氏に了解を取ったそうで、なんとも律儀な人だ。
その甲斐あってか、この部分は本書の中でも
いちばんの感動ポイントとなっていると思う。

エピローグに至ると、本編では拾えなかったキャラたちも顔をそろえ、
さながらカーテンコール状態。
中には、意外な人生を送っていることが判明した者もいて
違う意味で「2205」を観るのが楽しみになったよ(笑)。

さて、読み終わってみて考えたことは、
「西崎義展氏が存命だったらこの小説は生まれていたかなぁ?」
ってことだった。

ヤマトという作品を産み出した功績は揺るがないものの、
彼の強烈すぎる個性が、続編群においてヤマトシリーズの評価を
下げていったことは否めないと思う。

「復活編」の惨敗も、彼のアナクロな感覚が
もはや時代と合っていないということを証明したと思うし。

西崎氏没後に製作されたリメイクシリーズが
(評価はいろいろあるだろうが)とりあえず存続していることをみれば
彼がいなくなったことが結果的にヤマトの復活につながった、
とも言えるわけで、何とも皮肉な結果になったものだ。

さて、オリジナルシリーズはこれからどうなるのだろう。
制作陣は、今でも「第二部」以降をつくることを目指しているようだが
(この小説「黎明編」もその動きの一環らしい)
映画としての「復活編・第一部」は厳然として存在しているわけで
それを無視した続編の製作はできないだろう。
ここでも、西崎氏の残したものが「復活編の ”復活”」にとって
一番大きな障害になってしまうんじゃないかなぁ。

 理想をいえば、「第一部」から作り直してしまえばいいとも
 思うのだけどね。
 すみません、気楽な外野の無責任な発言です。

この「黎明編」小説執筆チームが、「第一部」を含めて
「復活編」を小説の形で語り直していく、というのなら
つき合ってみてもいいかな。
そう思わせるくらい、本作はよくできている。

こんなに長く書くつもりはなかったんだけど、
思いのほかいろんなことを書き連ねてしまった。

ではこのへんで。


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半席 [読書・ミステリ]

半席 (新潮文庫)

半席 (新潮文庫)

  • 作者: 文平, 青山
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆

江戸に幕府が開かれて200年。戦国の世は遥か昔となり、
武士も文官として生きることが求められる時代。

将軍家直参の家来には上位の「旗本」と下位の「御家人」という
身分差があり、御家人は代替わりがあると身分はリセットされて
新当主は無役から始めなければならないが
いったん旗本になってしまえば、その身分は世襲が許される。

しかし御家人から旗本へ昇格するには、高いハードルがあった。
それは二つ以上の役職を拝命すること。
タイトルの「半席」とは、まだ一つしか役職を経験していない者を
指す言葉で、主人公・片岡直人の現在の身分がそれだ。

直人は御家人で、辛く苦しい下積みを経て無役の小普請世話役から
徒目付(武家の調査・監察を司る)へと取り立てられたが、
旗本になるためにはさらにもう一つ上の役職に就かなければならない。

”片岡家の将来” のために仕事に励む直人だが、そんな彼のもとへ
上司である組頭・内藤雅之がしばしば ”御用” を振ってくる。
それは、武家の間で起こった奇妙な事件の調査だった。

「半席」
筏の上で釣りをしていた老侍・矢野作左衛門が、
なぜか突然走り出して川へ飛び込み、水死してしまう。
直人は作左衛門の嫡子・信二郎に会いに行くが・・・

「真桑瓜」
87歳の旗本・山脇藤九郎が参加した酒宴。
和気あいあいと進行していたが、最後に供された真桑瓜を見た藤九郎は
いきなり脇差しを抜いて、宴の主催者・岩屋庄右衛門に斬りつける。
二人は長年にわたる親友同士であったのだが・・・

「六代目中村庄蔵」
”一季奉公” とは、人件費節減のために一年契約で雇われる家来のこと。
旗本・高山元信に仕えていた茂平もまた一季奉公だったが、
働きぶりを評価され、20年以上も契約を更新されて仕えてきた。
しかしその茂平が、主を殺害するという事件を起こしてしまう。
二人は長年にわたる信頼関係で結ばれていたはずなのだが・・・

「蓼を食う」
古坂信右衛門が刃傷沙汰を起こした。相手は池沢征次郞。
お互い近所に居を構える旗本同士だ。
征次郞が下水に巣を作った亀を眺めているところに
突如、信右衛門が斬りかかったのだという・・・

「見抜く者」
直人の上司・芳賀源一郎は剣術の達人としても高名だった。
その源一郎が襲われるという事件が起きた。
相手は村田作之助、手練れとして知られていたが74歳という高齢。
しかも襲撃のさなかに心臓発作で倒れてしまう・・・

事件を引き起こした ”張本人” はみな、その理由を黙して語らない。
だから本作はミステリとしてみると ”ホワイダニット” ものになる。

事件の裏に潜むものは人間の、というよりは
武士というものの ”業” だろう。
それを直人は解き明かしていく。

どんなに剣の腕を磨いても、人生の中で
それが必要とされる場面はついに訪れることはなく、
出世のためには身を粉にして励まねばならず、
励んだからといって報われるとは限らない(これは現代も同じか)。
武士ゆえに格式にも縛られ、体面を保つためにも金がかかる。
しかしこの時代のほとんどの武士は薄給にあえいでいる。
”武士” として生きていくことは、かくも辛く苦しいものなのか。
そんな者たちの思いが時として吹き出し、”事件” を引き起こす。

探偵役となる直人は、内藤から事件の概略を聞いて仮説を立てていく。
サブレギュラーとなる胡散臭い浪人・沢田源内(たぶん仮名)との
会話からは、重要なヒントをつかむこともある。
当事者に当たる前に入手した情報から真相に迫っていくあたりは
安楽椅子探偵に近いものもある。
そうして組み上げた仮説を ”張本人” にぶつけ、
秘められていた真実を引き出していく。

内藤が持ち込んでくる案件は、直人にとって本来の仕事ではない。
出世のためにお勤めに励みたい身からすれば迷惑千万なのだが
事件の関係者と関わっていくうちに、心境が変化していく。
なにより、事件の解明をすること自体に ”やりがい” を感じ始めていく。
しかしそちらの道に深入りすることは、出世から遠ざかること。

「やりがい」をとるか「出世」をとるか。
「やりたいこと」をとるか「やらねばならないこと」をとるか。

最終話「役替え」で、直人はある決断を下すことになるのだが
そこまでつき合ってきた読者から見れば、納得の結末だろう。

あと、本書の特徴としては、”事件” を引き起こすのが
みな老人だということがある。

作中、内藤がこんなことを語る。
「歳を取ったら人は丸くなる、なんてことはない」
「結果がどうなるか見えるようになるから、堪忍することをしなくなる」
「歳を食うほどに、堪忍の歯止めが消えていく」
「若い頃には堪忍できたことでも、簡単に弾けるようになってしまう」

・・・うーん、私も「歳を食った人」だからねぇ。
”簡単に弾ける” ような性格には(まだ)なってないとは思っているが
内藤のいうことも分かるような気がする。

せいぜい、自戒して生きていきましょう(笑)。


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ご近所美術館 [読書・ミステリ]

ご近所美術館 (創元推理文庫)

ご近所美術館 (創元推理文庫)

  • 作者: 森福 都
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/05/29
  • メディア: 文庫

評価:★★★

主人公はサラリーマンの海老野くん。
ある日、職場近くの五階建て雑居ビルに
小さな美術館が入居していることに気づいた。

正式名称は「西園寺英子記念四コマまんが美術館」。
西園寺英子は長谷川町子と同世代だが、遥かにマイナーな漫画家。
英子の息子さんが建て、館長も務めている。

それ以来、海老野くんは昼休みをそこで過ごす常連さんになっていた。
しかし館長が持病の悪化により辞任、新館長になったのは
館長の遠縁に当たる川原あかねという22歳の女性。
実はコミケで活躍する同人漫画家だった。

さらに半年後、館長が再び交代した。
今度の館長は川原董子(とうこ)。あかねの姉だった。
失恋の痛手から引きこもり状態になってしまっていた彼女に、
リハビリを兼ねてあかねが館長職を押しつけたのだという。

董子に会った海老野くんは彼女に一目惚れ。しかしその矢先、
金持ちで渋くてダンディーなライバルが出現する。

ラブコメみたいな導入部で
いったいどこがミステリなのかと思われるかも知れないが、
実はこの美術館、訪れる人が様々な謎を持ち込んでくるのだ。

強敵出現を前にして、何とか董子の気を引きたい海老野くんは
謎解きに挑戦していく、という連作ミステリになっているわけだ。

主役兼探偵役兼語り手の海老野くんなんだが、
名探偵にありがちなエキセントリックさとは無縁で
推理能力以外は至って平凡で人畜無害な人(笑)。

眉目秀麗な董子さんとぽっちゃり体型のあかねは対照的な姉妹だ。
あかねさんの容貌の描写を読んでいて頭に浮かんだのは
安藤なつさん。メイプル超合金のカズレーザーの相方だ。
まあ、あちらよりは体重は少なそうだが(笑)。

収録されているのは全7編。
「ペンシル」「ホワイトボード」「ペイパー」「マーカー」
「ブックエンド」「パレット」「スケール」と、
みな文房具のタイトルが並んでいるが、内容はバラエティに富んでる。

日常の謎系から盗難、殺人事件まで、
そして安楽椅子探偵ものや暗号の登場するものもあり、
意外な物理トリックが使われていたりとなかなか楽しませてくれる。

とはいっても、最終的な興味はやっぱり海老野くんの恋の行方だが
なんとなく「このへんが落とし所かなぁ」って感じてたところに収まる。
これはこれでいいんじゃないかと思う。


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レミニセンス [映画]

原題は「Reminiscence」。回想、追憶、思い出、とかを意味する。
内容としては、タイトル通り ”記憶” がテーマ。
Reminiscence.jpg
以下、「映画.com」の記事から引用したあらすじを適当に編集しながら
内容紹介、そして感想もどきを書いていってみよう。

時代は近未来。そこでは多くの都市が水没している。

 温暖化による海面上昇と思われるが
 これによって、水浸しの下町に住む貧しい人々と
 堤防で囲まれた高地に住む一握りの富裕大地主という
 階層の分断が起こっていて、これが本作のバックボーンになっている。

主人公ニック(ヒュー・ジャックマン)と
その相棒ワッツ(タンディ・ニュートン)は、元軍人という過去を持つ。
現在は人の記憶に潜入し、それを時空間映像として再現する
「記憶潜入(レミニセンス)エージェント」を生業としている。

二人のもとへ、メイ(レベッカ・ファーガソン)という女性がやってくる。
「忘れ物を見つけてほしい」
ニックは彼女の記憶に潜入していく。

彼女はナイトクラブの歌手のようだ。
ピンスポットが落ちるステージに立ち、ささやくように歌い始めた。
ニックは驚く。それは彼の祖父がよく歌っていた曲だったからだ。

この件をきっかけにニックとメイは恋人となるが
ある日突然、メイは姿を消してしまう。

傷心のニックに、検察からある仕事が舞い込む。
瀕死の状態で発見された新興勢力のギャング組織の男の記憶に潜入し、
組織の正体と目的をつかむというものだった。

男から引き出した記憶の中にメイの姿を発見するニック。
彼女は5年前、ギャング組織のボスであるセント・ジョーのもとへ
身を寄せていた。それがどういう経緯でニックのもとへやってきて、
そしてなぜ去っていったか。

彼女の手がかりを求めて奔走するニックは、
やがて、想像だにしない “大きな陰謀” に巻き込まれていく・・・

本作のメインアイデアである ”記憶潜入(レミニセンス)” とは、
カプセル状の水槽に人体を浮かべ、その人から引き出した記憶を
円形のステージ上に ”3D映像” として再現する技術を指す。

その映像が、周囲の人間からはあたかも目の前で現在進行中の
”現実” のように見える。

この技術は犯罪捜査でも活用され、
証言ではなく記憶から事件解決に至るケースも多い。
だからニックたちのもとへ検察から依頼が来るわけだ。

ただし、当然ながら制限もある。
(1)潜入(再現)できる記憶は、対象者が五感で体感した世界すべて。
 当たり前だが、本人が見ても聞いてもいないことは再現できない。
(2)同じ記憶に何度も入ると、対象者は記憶に呑み込まれ、
 現実に戻れなくなる。
(3)記憶に “事実と異なるもの” を植え付けると、
 対象者は脳に異常をきたす。

この映画には様々な要素が入っている。

ニックが消えてしまったメイを捜して奔走するハードボイルドであり、
彼女の背後に潜む陰謀に巻き込まれていくサスペンスでもある。
ニックと相棒ワッツは退役軍人であり、しかもワッツは銃撃の達人。
二人がギャングたちと激しく戦うアクション&銃撃シーンもあり、
終盤になると、あちこちに張られていた伏線が一気に回収されて
メイにまつわる謎が解かれていくミステリとなる。

その中で、終盤近くにとても感動的なシーンが訪れる。
物語的にはここがクライマックスになると思うのだけど
この場面は ”記憶潜入” というアイデアゆえに成立する。

 制作陣がいちばん描きたかったのがこのシーンなのだろう、
 って勝手に思ってる。

本作は紛れもなくSFだ。
SFでなければ描けないシーンを描いているのだから。
それに加えて、上にも書いたようにミステリやサスペンスなど
様々な要素を含む物語でもある。

そうなのだけど、この物語の中心にあるのは
「”運命の女性” と巡り会ってしまった男」を描くラブ・ストーリーだ。

だけど、二人の愛の行く末を描くラストは哀しいなあ。
小説だったら、けっこう沁みると思うんだけど
映像で描かれてしまうと、ちょっと胸が痛む。

最後に余計なことを書く。

映画を見終わったとき、なんとなく梶尾真治の短篇SF
「美亜へ贈る真珠」を思いだしてしまった。
アイデアもストーリーも全く異なるのだけど、
どちらも ”運命の女性” を描いているせいかもしれない。


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