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宇宙戦艦ヤマト 黎明編 アクエリアス・アルゴリズム [アニメーション]

宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム (単行本)

宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム (単行本)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/09/27

1974年に始まったTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」は
その後シリーズ化され、1983年の「完結編」で幕を閉じるが
2009年に「復活編」として蘇ることになった。

 「宇宙戦艦ヤマト」という作品への思いや
 その続編群への評価などについては
 このブログ内のあちこちに書いてると思うので
 ここで改めてくり返さない。

「復活編」は「三部作の第一部」という位置づけで
ストーリー的にもキャラクター的にも完結していない作品だった。
しかも興行的には惨敗に終わってしまったためか
第二部以降は未だ制作されていない。

私は「復活編」という作品を、全くといっていいくらい
評価していないのだが、それは別として、「復活編」について
こんなこともブログのコメント欄に書いた記憶がある。

「いったん語り出してしまった以上は、続編は作るべき。
 映画がダメならOVAでもいいし、それがダメなら
 マンガでも小説でもいいから、最後まで語り終えるべきだ」

私のように途中から離れてしまったひねくれ者(笑)は別として、
「完結編」以後も「ヤマトシリーズ」の熱心なファンであり続け、
「復活編」を心待ちにしていた人たちは少なくなかっただろう。
そういう人たちに対して、ヤマトの辿る旅路を
結末まできちんと見せる、という責任が制作陣にはあるはずだから。

さて、「黎明編」と名づけられたこの小説が扱う時代は
「完結編」から12年後、「復活編」の5年前の2215年。

主人公・古代進とその妻・雪は33歳となっていて
2人の間に生まれた一人娘の美雪は11歳。

未読の方のために内容紹介は最小限に留めよう。

「完結編」において、ヤマトの自沈によって断ち切られた
アクエリアスの水柱は、直径1000kmの氷球となって
地球を周回している。その氷球の中に、
波動エネルギーの輻射が観測されたのだという。
真田から連絡を受けた古代と雪は、アクエリアス氷球の調査へ向かう。
そして同じ頃、”ある勢力”によって、地球人類に対する
巨大な陰謀が進行していた・・・

登場するのは、古代・雪をはじめとする
”かつてヤマトに乗っていた者たち”、そして
”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” だ。

物語が進行する中で、”かつてヤマトに乗っていた者たち” が
「完結編」の後にどんな人生を歩んでいたのかが語られる。
その中では、古代が軍を去り、宇宙へ飛びだしていった経緯や、
「復活編」で雪が艦長をしていた背景も描かれる。

また、”これからヤマトに乗り組むことになる者たち” が
この頃にどんな生活をしていたかも触れられるし、
本作の中で大活躍をするメンバーも複数いる。

物語の後半では、これらの人々が地球に迫る脅威を
回避しようと奮闘する姿が描かれるのだが、ヤマトは既にない。
彼らはどうやってこの危機を乗り越えるのか、が読みどころだろう。

著者の高島雄哉氏は1977年生まれとあるから40代前半だろう。
東京創元社主催のSF新人賞でデビューした、
新進気鋭のハードSF作家さんだ。

 受賞作「ランドスケープと夏の定理」を収録した同題の短篇集は
 既に文庫になっていて私も持ってるんだが、
 積ん読状態でまだ目を通してない(おいおい)。

巻末の「解説にかえて」によると、高橋氏だけで書き上げたのではなく
”アステロイド6” なるブレイン集団が執筆をサポートしたという。

巻末にそのメンバー一覧が載っているのだけど、
脚本家の岡秀樹氏が呼びかけて結成されたようで、
(上記の「解説にかえて」も岡氏が書いてる)
業界でプロとして働く人もいれば、著名なブロガーの方もいて
みな ”古参のヤマトファン” ばかりのようだ。

結成の目的は、高島氏の書いた初期稿をブラッシュアップするため、
とあるのだが、ファンが書いた二次創作を個人的に公表するのとは違い、
公式サイトの公認のもと、大手出版社から出すのだから
ほぼ「正史」と位置づけられる扱いをされるだろう。

考えてみたら、そんな作品を作るのは至難の業だし、
送り出すにはかなり勇気(蛮勇?)が必要だろう。
それが「ヤマト」という作品の ”宿命” になってしまっている。

何せ50年近い歴史を持つ作品だから、さまざまなファンがいる。
「100人のヤマトファンがいれば100通りの『ヤマト』がある」わけで
ストーリーはもちろん、サブキャラの扱いひとつとっても
かなり気を使わないといけないんじゃないかあなぁ。

リメイクシリーズである「2199」や「2202」に浴びせられた
罵詈雑言の数々を思えば、小説でもアニメでもマンガでも
「ヤマト」の ”新作” に手を出そうと考える人はそうそういないと思う。
下手なことを書けば集中砲火を浴びることは目に見えてるし・・・

だからこそ、その ”防波堤” としての ”アステロイド6” なのだろう。

まあ、ここに書いたことは私の個人的な邪推かも知れないが。

読んでみての感想なんだが、
序盤あたりは ”安全運転” というか、小説というよりは
映画をそのままノベライズしたものを読んでるような感覚。
(ヤマトファンとしては若い世代に属するであろう)40代の人が
書いた作品にしてはちょっと大人しめかなぁ、とも思った。

個人的にはもっと ”とんがった作品” でもいいんじゃないかな、
とも思ったんだけど、考えたらこの小説を読む一番の読者は
「完結編」から「復活編」に至るオリジナルシリーズの熱心なファン。
だから、まず彼ら彼女らに受け入れられなければならないわけで、
そう考えればこの雰囲気は正解なのだろう。

しかし、中盤過ぎからは徐々にヒートアップしていき、
新旧ヤマトのクルーが一丸となって地球の危機に起ち上がるという
ファンが待ち望んでいた(であろう)物語になっていく。

よく考えると「いくらなんでもそれはないだろう」的な展開も
多々あるが、それをノリと勢いで押し切ってしまうのが
良くも悪くも「ヤマト」という作品。
そういう意味では、本書の後半は「ヤマトらしさ」を
存分に発揮しているともいえる。

真田さんの「こんなこともあろうかと」も発動し(笑)、まるで
未来を見通したかのような用意周到 ”すぎる” 準備の数々によって
着々とクライマックスへ向けて盛り上がっていく。

往年のヤマトファンにとっては、
楽しい読書の時間を与えてくれる作品になっているだろう。

個人的に感銘を受けたのは、「完結編」における
”沖田の生存” について補完されたこと。

佐渡先生の「誤診」という噴飯ものの台詞に怒り狂った人も多かろう。
しかし本書の中で、彼の言葉の背後にあったものが明かされる。

このアイデア自体は、1982年に出版された岬兄吾氏による
「完結編」の小説版でも使われていたもの。
たぶん岬氏はSF作家として、どうしても
この描写を入れたかったのだろうと推測する。
私も当時、この小説版を読んで
「そうだよ、そうでなくちゃいけないよ」って思った記憶がある。

 「完結編」のノベライズは、当時いくつもの種類が
 出回っていたように記憶している(wikiによると4種類もあった)。
 さすがに全部を読もうとは思わなかったが、岬兄吾版は読んだよ。
 当時、岬氏も新進気鋭のSF作家さんだったからね。
 ちなみに岬兄吾版「完結編」ノベライズの発行元はアニメージュ文庫。
 てっきりつぶれたものと思ってたら、今でも何とか続いてるとか。
 ああ、何もかもみな懐かしい・・・

高島氏は、本書においてもこのアイデアを物語の中に投入している。
「あとがき」によると、この設定を使用するにあたって
岬氏に了解を取ったそうで、なんとも律儀な人だ。
その甲斐あってか、この部分は本書の中でも
いちばんの感動ポイントとなっていると思う。

エピローグに至ると、本編では拾えなかったキャラたちも顔をそろえ、
さながらカーテンコール状態。
中には、意外な人生を送っていることが判明した者もいて
違う意味で「2205」を観るのが楽しみになったよ(笑)。

さて、読み終わってみて考えたことは、
「西崎義展氏が存命だったらこの小説は生まれていたかなぁ?」
ってことだった。

ヤマトという作品を産み出した功績は揺るがないものの、
彼の強烈すぎる個性が、続編群においてヤマトシリーズの評価を
下げていったことは否めないと思う。

「復活編」の惨敗も、彼のアナクロな感覚が
もはや時代と合っていないということを証明したと思うし。

西崎氏没後に製作されたリメイクシリーズが
(評価はいろいろあるだろうが)とりあえず存続していることをみれば
彼がいなくなったことが結果的にヤマトの復活につながった、
とも言えるわけで、何とも皮肉な結果になったものだ。

さて、オリジナルシリーズはこれからどうなるのだろう。
制作陣は、今でも「第二部」以降をつくることを目指しているようだが
(この小説「黎明編」もその動きの一環らしい)
映画としての「復活編・第一部」は厳然として存在しているわけで
それを無視した続編の製作はできないだろう。
ここでも、西崎氏の残したものが「復活編の ”復活”」にとって
一番大きな障害になってしまうんじゃないかなぁ。

 理想をいえば、「第一部」から作り直してしまえばいいとも
 思うのだけどね。
 すみません、気楽な外野の無責任な発言です。

この「黎明編」小説執筆チームが、「第一部」を含めて
「復活編」を小説の形で語り直していく、というのなら
つき合ってみてもいいかな。
そう思わせるくらい、本作はよくできている。

こんなに長く書くつもりはなかったんだけど、
思いのほかいろんなことを書き連ねてしまった。

ではこのへんで。


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