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他に好きな人がいるから [読書・ミステリ]

他に好きな人がいるから (祥伝社文庫)

他に好きな人がいるから (祥伝社文庫)

  • 作者: 白河三兎
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

プロローグで登場するのは、27歳の会社員・坂井。
職場の飲み会に参加していたが途中で抜け出し、ビルの屋上へと上る。
そこから、坂井の9年前の回想へと進んでいく。
彼の心をよぎるのは ”兎人間” のこと。それは彼の初恋だった・・・

高校3年生だった坂井は、老朽化した14階建てマンションの屋上で
毎朝、日の出を眺めることを3か月も続けていた。

ある朝、そこで出会ったのは巨大な兎の頭部のかぶり物をした女の子。
着ていた制服から、同じ高校の生徒と分かったが
喋る声も意識的に変えているため、彼女の正体は不明。

その ”兎人間” は、危険な高所での自撮り写真を投稿し、
4桁のフォロワーを持つインスタグラマーだった。
しかも撮影場所は坂井の住んでいる街の近辺ばかり。
彼の高校の生徒たちは、彼女の正体探しに熱狂していた。

”兎人間” に誘われるまま、彼女のカメラマンを引き受けた坂井。
二人は、以前にも増して危険な撮影を行っていくのだが・・・

舞台は、かつて造船所の企業城下町だった街。
その造船所が撤退し、緩やかに衰退し始めている。
そんな閉塞感が作品の底を伏流水のように流れている。

ストーリーは、”兎人間” と一緒に危険な撮影をくり返す坂井、
そして彼の高校のクラス内での出来事の2つのラインで進む。

読者は、坂井のクラスの女子の中に ”兎人間” がいるのではないか、
という前提で読み始めるだろう。私もそうだった。

実際、彼のクラスの女子は多士済々だ。
クラスカーストのトップ女子・北別府、
ナンバー2の優等生美少女・鈴木、
役者に向いていそうなのに照明係をしている演劇部員・山口などなど。

その中で最高にキャラが立ってるのは、
クラスカーストで最下位にいるオタク女子・峰だ。
しかし演劇祭参加にあたって、なんと彼女が脚本を書くと
宣言してからは、ほとんど彼女が主役みたいになっていく。
頭の回転も速く(実際、成績もいい)、教師も叶わないくらい口も達者。
演劇の内容についても主導権を握り、意表を突く配役まで決めていく。
普段はボサボサの長髪のメガネ女子なんだが、
実は美少女だったりとか、もう無敵だ(笑)。

そしてまた、作者がこういうキャラ同士の会話劇が抜群に上手い。
高校生という、面倒くさい時期の彼ら彼女らの描き方が
「こんなの、確かにいそうだな」って思わせる。

私は青春ものというのが苦手だ、というのは
このブログのあちこちで書いてる。
彼ら彼女らのこじれ具合がしつこいと、読んでいて辟易してしまうんだが
本書はギリギリ我慢できるところで留まってるかな(笑)。

本書をミステリとしてみるなら、”兎人間” の正体、
そしてなぜ彼女が危険な自撮りをくり返すのか、が謎となる。

終盤ではもちろん真相は明かされるのだが・・・
この幕引きにはかなりびっくり。そしてちょっぴり哀しい。

そしてエピローグではふたたび9年後に戻る。
ここで描かれるエピソードもまた切ない。

物語としては抜群に面白いのだけど・・・
まあ、これが青春というものなのでしょう(おいおい)。


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