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言霊たちの反乱 [読書・SF]

言霊たちの反乱 (講談社文庫)

言霊たちの反乱 (講談社文庫)

  • 作者: 深水黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/11

評価:★★★

作者は本格ミステリ大賞にノミネートされたり、
日本推理作家協会賞の短篇部門を受賞したりと、
ミステリの第一線で活躍している人なんだが
本作はいささか毛色が異なる。

タイトルにもあるように、「言霊」、つまり「言葉」がテーマの
スラップスティックなドタバタ小説を収録しているのだ。

「漢(おとこ)は黙って勘違い」
日本語は同音異義語が多く、それによる聞き間違いも
起こりやすいわけだが、その極限を描いた作品。
我々は聞いた言葉を、前後の文脈の中で最適な言葉に変換してるんだが
それが機能しない主人公がでてくる。
彼は聞いた言葉を、次々に ”誤変換” していく。
「汚職事件」が「お食事券」、「公職選挙法」が「好色選挙法」などなど。
途中からは、主人公の恋人も出てくるんだが、彼女もまた
主人公の言葉を誤変換してしまい、混乱に輪をかけていく・・・

「ビバ日本語!」
主人公は、外国人相手に日本語を教える教師。
3人のフランス人女性を生徒に教えてるのだが
日本語の特殊性について出てくる質問について
四苦八苦するところが笑えるのだが、
私の日本語は完璧なのかと自問してみると、いささか自信がない(笑)。
ちなみに「生」という漢字には158通りの読み方があるそうな。

「鬼八先生のワープロ」
文芸評論家の小田嶋二郎は、いまだにワープロ専用機を愛用している。
その理由は、「山田シフト」なる特殊配列のキーボードに慣れきっていて
PCのJIS配列キーボードに乗り換えることができないためだ。
しかし長年使っていたワープロ専用機が壊れてしまう。
困った小田嶋は、八方手を尽くして同機種のものを借りることに。
しかしそれは、昨年没した官能小説の大家・伴鬼八が
生前愛用していたものだった。
キーボードを打ってみた小田嶋は驚く。鬼八先生のワープロ辞書は、
なんともエロい変換専用に、徹底的に ”鍛えられていた” のだ。
「ここ数年」と入力しようとすると「ここ吸うねん」、
「恐るべき」が「お剃るべき」に・・・(笑)
明らかに「山田シフト」は「親指シフト」がモデルだろう。
未だに熱烈なファンがいるというからねぇ。
「伴鬼八」は「団鬼六」だろうなぁ。
読んだことないけど(ホントです)。

「情緒過多涙腺刺激性言語免役不全症候群」
主人公は、ありきたりのパターン化された言い回しを聞くと
全身に蕁麻疹が出る特殊体質の持ち主。
ある日、テレビ・ショッピングの台本を担当している友人・浅井と
飲みに出かけ、彼の話を聞いているうちに症状が出始める。
通販番組なんて「パターン化された言い回し」の塊だからねぇ。
その帰りに火事騒ぎに巻き込まれたことをきっかけに
主人公はとんでもないトラブルに巻き込まれていくのだが・・・

作者はフランス留学の経験があるようで、そんなところから
日本語の特殊性を肌身で感じたのかも知れない。
どれをとっても、ニヤニヤと口元が緩んでしまうギャグ満載の小説だ。

読んでいて頭に浮かんだのは、初期の筒井康隆が書いてた不条理小説。

 巻末の解説でも筒井康隆に触れてるので、
 そう感じるのは私だけではないのだろう。

特に「漢はー」と「情緒過多ー」に強くそれを感じる。
この2作は「筒井康隆の未発表小説だよ」って言われて
読まされたら、信じてしまいそう。
特に後者は、後半になって主人公がどんどん深みにはまっていくあたり、
ブラック・ユーモアとしてもよくできてる。。

みんな21世紀に書かれた話なのに、
なんとなく懐かしい気分を覚えた、不思議な短篇集でした。


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