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怪盗ニック全仕事4 [読書・ミステリ]


怪盗ニック全仕事4 (創元推理文庫)

怪盗ニック全仕事4 (創元推理文庫)

  • 作者: エドワード・D・ホック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/04/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

短編ミステリの名手である作者が残した
「怪盗ニック」シリーズは全87編。

そのうちの何割かは邦訳され、日本独自編集の短編集も出ていたが
この「全仕事」は、87編すべてを発表順に全6巻にまとめるもの。
本書はその第4弾で、1983~89年にかけて発表された15編を収録。
話数で言うと第45話~第59話である。

ニック・ヴェルヴェットは一風変わった泥棒。
彼が盗むのは、貴金属や宝石の類いではない。
"価値がないもの" や "誰も盗もうと思わないもの" に限るのだ。
本書でも、およそ価値がありそうもないものの依頼が続く。

「白の女王のメニューを盗め」
「売れない原稿を盗め」
「ハロウィーンのかぼちゃを盗め」
「図書館の本を盗め」
「枯れた鉢植えを盗め」
「使い古された撚り糸玉を盗め」
「紙細工の城を盗め」
「人気作家の消しゴムを盗め」
「臭腺をもつスカンクを盗め」
「消えた女のハイヒールを盗め」
「闘牛士のケープを盗め」
「社長のバースデー・ケーキを盗め」
「色褪せた国旗を盗め」
「医師の中華鍋を盗め」
「空っぽの鳥籠を盗め」


「白の女王-」で登場し、以後セミレギュラーとなるのが
女怪盗サンドラ・パリス。ニックネームはそのものズバリ、”白の女王”。

これはルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」に登場する
”白の女王” から来ていて、キャッチフレーズは「不可能を朝食前に」。
その通りに早朝までに盗みを完了して、現場には
自身の名刺を残していくという、
アルセーヌ・ルパンか怪人二十面相かというくらい
自己演出が大好きな様子。ちなみに、
ニックと異なり、依頼があれば価値のあるなしに関係なく何でも盗む。

ニックとは最初のうちはライバル同士で、ニックが狙っていた獲物を
先にサンドラにさらわれてしまったりする。
もちろん彼女も、ニックの逆襲のおかげ警察に捕まったりするわけで。

しかしそのうちに奇妙な ”同業者意識”(?)が芽生えてきたみたいで、
抜きつ抜かれつな関係から、時には助け合う関係に。

しかし、そんなサンドラとの関係を、
ニックのパートナーであるグロリアが喜ぶはずはない。
でもサンドラの ”実力” は認めているみたいで
警察に拘束されたニックの救出をサンドラに依頼したりと
この二人の女性の関係もまた変化していく。

新レギュラーの登場は、シリーズのマンネリ化を
防ぐためのだったのだろうね。
ニックが価値のないものを盗んでいくだけのパターンだけだと
単調になりがちだし。

 日本での短編集1~3では、1冊あたりにこのパターンの短編が
 14~15編が収録されてるわけで、
 こればかり続けて読むのはいささか辛いかな。

 実際、「怪盗ニック全仕事2」に記事で、私はこんなことを書いてる。
 「面白いんだけど、この手のものばかりだとやっぱり飽きるかなあ。
  まあ、年に1冊というペースは正解だと思う」

作者もたぶんそのあたりは分かってて、
サンドラ初登場の「白の女王ー」が発表された1983年は、
シリーズ開始の1966年から数えると17年めで、話数でいうと45話め。
ここで新しいバリエーションを取り入れてきたということなんだろう。

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GEEKSTER 秋葉原署捜査一係 九重祐子 [読書・冒険/サスペンス]


GEEKSTER 秋葉原署捜査一係 九重祐子 (角川文庫)

GEEKSTER 秋葉原署捜査一係 九重祐子 (角川文庫)

  • 作者: 大倉崇裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

タイトルを見て、思わず「コメットさん」って単語を
連想してしまった私は、やっぱり古~い人間なんだろなぁ。

 ちなみに、私にとって「コメットさん」は九重祐三子です。
 断じて大場久美子ではありません(きっぱり)。

閑話休題。


主人公の九重祐子は、警視庁秋葉原署交通課での勤務が認められ、
巡査部長に昇進して念願の同署刑事課へと異動してきた。

しかし上司の三ヶ日警部補は女性の刑事を嫌い、
彼女には閑職をあてがう。すなわち、市民からの苦情の受付係だ。
かくして祐子は、秋葉原のオタクたちの相手をする羽目になった。

秋葉原を徘徊する男たちの独特な ”生態”(笑)、
彼らの使う独特の ”用語”、そして独特の ”困りごと” に
翻弄される祐子だが、逆に、彼女のファンもまた現れる(笑)。

そんな中、祐子の元に相談に訪れていた食玩マニアの男が殺される。
捜査に関われない祐子は、自力で事件を探り始める。
食玩のマニアが集まる交換イベントに潜入した彼女は
オタクたちのパワーに圧倒されるが(笑)、
そこで稲陰文鋭という男と知り合う。

さらに、祐子はイベントから帰る途中で暴漢に襲われるが
そこに現れた、フードをかぶった謎の男が
圧倒的なスピードとテクニックで暴漢を一蹴してしまう。

その男こそ<ギークスター>。
秋葉原の街で無法を働く輩に鉄槌を下す存在として
密かに知られる存在だった。

<ギークスター>とは何者か。
なぜ悪人たちを私的に粛正しているのか。

<ギークスター>の正体を追う祐子は、
秋葉原全体を狙う、ある陰謀にぶち当たる・・・


巻末の解説によると、タイトルのGEEKSTERとは
GEEKとHIPSTERの合成語だそうで
「眼鏡、髪型、服装などにより、わざとオタクっぽく装ったイケメン」
という意味だそうな。

しかし本書に登場する<ギークスター>は、
いわば ”秋葉原限定の必殺仕事人” みたいなダークヒーローだ。

ミステリの新人賞でデビューし、ユーモアミステリでも
人気シリーズを複数抱えている作者だけど、
山岳ものを中心にアクション作品も多数書いてる。
本書でも<ギークスター>の戦うシーンは迫力十分だ。

一方で、「怪獣」を筆頭にオタク領域にも造詣が深い(笑)作者らしく、
本書に登場するオタク/マニアたちの、生き生きした活動ぶりには
自然と頬が緩んでしまう。

ラストにおける物語の着地点は好みが分かれるかも知れないが、
払った代金分は十分に楽しめる作品だと思う。

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化学探偵Mr.キュリー6 [読書・ミステリ]


化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

人呼んで ”Mr.キュリー” こと
四宮大学理学部化学科准教授・沖野春彦と、
大学総務部で働く採用2年目の職員・七瀬舞衣。
このコンビが大学の内外で起こる事件を解決していくシリーズ第6弾。
今回は初の長編である。

毎度のことだが、大学が舞台で探偵役が研究者だけども、
化学の専門的な知識がなくても十分楽しめる。


伯父と二人暮らしをしていた13歳のエリーは、
学会のためにアメリカに訪れていた
四宮大学の学生・二見雄介と知り合う。

伯父との生活に、精神的に疲弊していた彼女だったが、
雄介の語る有機化学という学問に興味を覚えるようになる。

そして3年。エリーは16歳で大学入学を果たす化学の天才へと成長した。
そして、四宮大学へと留学生としてやってきた彼女は、
沖野のもとで研究を始めることになる。

研究テーマは、彼女自身の希望により、天然素材トーリタキセルAを
人工的に作り出す方法を発見すること、と決まる。

トーリタキセルAについて調べた沖野は、昨年まで
二見雄介という大学院生がそれについて研究していたことを知る。
しかし彼は、なぜか大学院を中退し、消息不明になっていた。


まあだいたい予想がつくだろうが
エリーが日本にやってきた目的は、研究もあるけれど
それ以上に、雄介に再会することだった。

舞衣はエリーのために雄介を探し始めるが
それは同時に彼が大学を去った事情を調べることでもあった。

一方、「トーリタキセルAの全合成」は困難を極め、
沖野とエリーという ”最強コンビ” にも関わらず、
最終段階での合成失敗が続く。
しかしそれには、ある ”理由” があった・・・


3年前から、ひたすら雄介に再会することを夢見て生きてきたエリー。
いやあ健気でいいお嬢さんだねぇ。

化学という学問と、トーリタキセルAという化合物が
雄介とエリーをつなぐ ”縁” となったが
その ”縁” は、彼女が日本に来たときには
すでに切れてしまっていたかにみえた。
その ”縁” を沖野と舞衣がふたたびつなぎ合わせようとする。

化学をメインに据えたミステリとしても面白いけど
ラブ・ストーリーとしても感動的。

あとは舞衣さんと沖野先生の仲だけ(笑)なんだけど、
こっちはまだ当分進展しないのですかね・・・・?

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幻夢の聖域 [読書・ファンタジー]


幻夢の聖域 (創元推理文庫)

幻夢の聖域 (創元推理文庫)

  • 作者: 羽角 曜
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

峠の宿で働く若者ハープラギスの前に現れたのは
桃紅色の鳥とともに旅をする薬師見習いの少女、ミリナ。

ミリナの一族は代々、悪夢を見たことをきっかけに
衰弱死や狂死を遂げており、
彼女の父はミリナが4歳の時に死んでいた。

「自分の一族は死神に狙われている」と考えた彼女は、
死に神を追い払える強力な幻魔法師を探していた。

孤児だったハープラギスは、小さな村の施設で
ネラという女性に面倒を見てもらいながら育った。
しかし彼女は、ある晩に村人たちに連れ去られ、
それ以来行方知れずになってしまっていた。

ミリナが持っていた、父の形見の金貨。
それをみたハープラギスは驚く。そこに刻まれた紋章は、
ネラが持っていた本に載っていたものと同じだったのだ。

その金貨は、遠い昔に消えた王国エディムーンのものだという。
ハープラギスはミリナの旅に同行することを決めた。

ミリナは死神を払う幻魔法師を、
ハープラギスはネラの消息を求めて・・・


二人の旅と並行して、エディムーンの滅びの物語も語られていく。
二つの物語はやがて一つになり、ネラの行方と正体、そして
死神の正体もまた明らかになっていく。


第1回創元ファンタジイ新人賞で、特別賞をもらった作者の第2作。
受賞した「影王の都」とは、”ゆる~いつながり” をもっていて、
終盤になると「影王-」に登場してた人物が二人出てくる。

ストーリー的には独立しているので、前作を未読でも問題ないが
「影王-」を読んでおいた方が、終盤の展開がよりわかりやすくなるかな。
このあたりは「影王-」の ”あの二人” の後日談的な意味もあるので、
できれば前作を読んでから本作にかかることをオススメする。

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世界推理短編傑作集 全5巻 [読書・ミステリ]


評価:★★★

推理小説が誕生した19世紀半ばから、最初の100年間に
発表された短編ミステリの中から、江戸川乱歩が選んだ作品を
年代順に文庫全5巻に収めてある。

ちなみに、第1巻の奥付をみると、初版が1960年。
このときには「世界短編傑作集」ってタイトルだった。
そして2015年には80版(!)。
かなりのロングセラーだったんだね。

そして今回、大幅なリニューアルを施して
タイトルも「世界推理短編傑作集」と改めて出版となった。
リニューアルの中身は訳文の見直し、収録作の一部入れ替えなど。
全部で47編を納めている。ちなみに、1作者につき1作品のみ。


世界推理短編傑作集1【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集1【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 文庫
第1巻
1844「盗まれた手紙」エドガー・アラン・ポオ
1858「人を呪わば」ウィルキー・コリンズ
1884「安全マッチ」アントン・チェーホフ
1891「赤毛組合」アーサー・コナン・ドイル
1894「レントン館盗難事件」アーサー・モリスン
1895「医師とその妻と時計」アンナ・キャサリン・グリーン
1902「ダブリン事件」バロネス・オルツィ
1905「十三号独房の問題」ジャック・フットレル


世界推理短編傑作集2【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集2【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫
第2巻
1905「野心家組合」ロバート・バー
1909「奇妙な跡」バルドゥイン・グロラー
1910「奇妙な足音」G・K・チェスタトン
1911「赤い絹の肩掛け」モーリス・ルブラン
1911「オスカー・ブロズキー事件」オースチン・フリーマン
1912「ギルバート・マレル卿の絵」V・L・ホワイトチャーチ
1913「ブルックベンド荘の悲劇」アーネスト・ブラマ
1914「ズームドルフ事件」M・D・ポースト
1921「急行列車内の謎」F・W・クロフツ


世界推理短編傑作集3【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集3【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/12/20
  • メディア: 文庫
第3巻
1921「三死人」イーデン・フィルポッツ
1924「堕天使の冒険」パーシヴァル・ワイルド
1924「夜鶯荘」アガサ・クリスティ
1925「茶の葉」E・ジェブスン&R・ユーステス
1926「キプロスの蜂」アントニー・ウィン
1926「イギリス製濾過器」C・E・ベックホファー・ロバーツ
1927「殺人者」アーネスト・ヘミングウェイ
1928「窓のふくろう」G・D・H&M・I・コール
1928「完全犯罪」ベン・レイ・レドマン
1929「偶然の審判」アントニー・バークリー


世界推理短編傑作集4【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集4【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/02/12
  • メディア: 文庫
第4巻
1929「オッターモール氏の手」トマス・バーク
1930「信・望・愛」アーヴィン・S・コッブ
1931「密室の行者」ロナルド・A・ノックス
1932「スペードという男」ダシール・ハメット
1932「二壜のソース」ロード・ダンセイニ
1932「銀の仮面」ヒュー・ウォルボール
1933「疑惑」ドロシー・L・セイヤーズ
1934「いかれたお茶会の冒険」エラリー・クイーン
1935「黄色いなめくじ」H・C・ベイリー


世界推理短編傑作集5【新版】 (創元推理文庫)

世界推理短編傑作集5【新版】 (創元推理文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 文庫
第5巻
1936「ボーダーライン事件」マージェリー・アリンガム
1937「好打」E・C・ベントリー
1939「いかさま賭博」レスリー・チャーテリス
1939「クリスマスに帰る」ジョン・コリアー
1941「爪」ウィリアム・アイリッシュ
1942「ある殺人者の肖像」Q・パトリック
1943「十五人の殺人者たち」ベン・ヘクト
1945「危険な連中」フレドリック・ブラウン
1946「証拠のかわりに」レックス・スタウト
1947「妖魔の森の家」カーター・ディクスン
1951「悪夢」デイヴィッド・C・クック

「黄金の二十」エラリー・クイーン

最後の「黄金ー」はミステリではなく、クイーンが
”最も重要なミステリ” として、10冊の短編集と
10作の長編を挙げて紹介しているもの。

全5巻の収録作を眺めてみると、
誰もが知る有名作家さんや有名な古典的名作もあれば
初めて見る作家さんもいる。
意外な人がミステリを書いてたり、
名前は知ってるけど読んだことない作家さんも。
作品名は知ってるけど未読だったりといろいろ。
でも、作者も作品も本書で初見だった、
ってのが一番多かったかな。


実は、たぶん大学の頃、旧版の「世界短編傑作集」を
読み始めたことがあったのだけど、途中で挫折したことがある。
今から思えば、なんとなく理由が分かる。

歴史的に重要な作品、エポックメイキングな作品であっても
それがイコール ”(私にとって)面白い作品” だとは限らない、
ってことだ(当たり前のことなんだけど)。
もちろん発表された当時は話題になって、評価も高かったのだろうけど。

発表時にはセンセーショナルなネタ/オチであっても、
20世紀後半~現代までの間には、フィクションを超えた
突拍子もない事件も多数発生していて、
今になって読んでみたら、さほどインパクトを感じない、
って作品が本シリーズの中には散見する。

あと、作品よりもトリックのほうが有名、なんてことがある。
ミステリを何十年も読んでいれば作品自体は未読でも、
いや作品名さえ知らなくても、
古典作品には ”あんなトリック” や ”こんなトリック” が
あるという ”知識” だけ入ってくることがある。

実際、このアンソロジー・シリーズを読んでいて
「あのトリックはこの作品のネタだったのか!」
という体験も少なからず味わった。

もちろん、後発作品が古典と同じトリック/ネタを使っていて、
後発作品の方を先に読んでいたために、同じオチの古典を読んでも
さほど驚かなかった、てこともあるだろう。

 それでも、「このネタはこんな昔に生まれたんだ」
 って知ることは出来るけどね

まあ、このあたりは作品のせいではないよね。
時代を超えて評価の揺るがない作品もあれば
時代によって評価の変わる作品もある。
そういうことなんだろう。

すべてのミステリを時代順に読むことは出来ないんだから、
ある程度は仕方がないのかも知れない。

これから本格的にミステリを読み始めよう、って人にはオススメかな。
手頃な海外ミステリの入門書になるだろうと思う。
この中で気に入った作者から読んでいけばいいんじゃないかな。

40年前の私はくじけたけど(笑)、がんばってください(おいおい)。


もっとも、日本であまり紹介されてないマイナーな作家さんの場合、
本書収録作以外の作品が見つからなかったりして(笑)。

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股旅探偵 上州呪い村 [読書・ミステリ]


ああ、これでやっと2月分の読書録が終了。
うーん、まだ先は長いなぁ。
7月分なんて、考えただけで気が遠くなりそうだ・・・


股旅探偵 上州呪い村 (講談社文庫)

股旅探偵 上州呪い村 (講談社文庫)

  • 作者: 幡 大介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/14
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

「猫間地獄のわらべ歌」に続く時代ミステリの第2弾だけど
内容的に関連はない。共通する登場人物もいないので
「猫間-」を読んでいなくても全く問題ない。


主人公兼探偵役は、渡世人の三次郎。
中山道倉賀野宿へやってきたところ、殺人事件に出くわす。
掘割を他殺死体が流れてきたのだ。しかも、川上も川下も
衆人環視の元にある密室状態だった。

折しも、下手人として長吉という若者が捕まったばかり。
そこへ割って入った三次郎は、密室トリック、犯人、
そして意外な動機まで一気に解明してみせる。

 ちなみに、三次郎のモデルは「木枯し紋次郎」だと思われるのだけど
 「紋次郎」って聞いて分かる人って、もうかなりのトシのはず(笑)。
 若い人からしたら「誰?」だろうなあ・・・

救われた長吉は、三次郎を善七郎という男に引き合わせる。
善七郎は上州火嘗村の名主屋敷の跡取りだったが、
重い病に冒され、既に死期が迫っていた。
「自分が村に帰らねば、大変なことが起こる・・・」
「大勢の人が死ぬ。自分の三人の妹たちも殺される・・・」

 横溝正史ファンなら、ここで涙を流して喜んでしまうよねぇ(笑)。

善七郎を看取った三次郎は、彼の死を知らせるために
火嘗村へやってくるだが、彼を待っていたのは
猟奇的な連続殺人事件だった・・・


前作でもところどころ挿入されていた
登場人物によるメタな台詞は今回も健在。
いや、もっとエスカレートしてるかな。

冒頭の三次郎が謎解きをするシーンでも、野次馬たちが
「探偵だよね」「きっと探偵だよ」
「もしかしたら名探偵ってやつかも知れないぞ」
三次郎が密室講義(!)を始めると
「フェル博士かよ」
「どうして探偵って奴は、密室となるとやたらと分類したがるのかね」
こんなツッコミ台詞が随所にちりばめられていて、
読者の微笑(苦笑?)を誘う。

村を取り巻く雰囲気からしてもう横溝ワールド全開といった感じで、
その中で起こる事件も、棺の中から死体が消えたり
滝壺の上から女の死体が吊り下げられていたり・・・
その手の話が好きな人にはたまらない展開だろう。

三次郎は、村で起こる怪異、殺人事件の真相のみならず、
村そのものに隠されていた大きな秘密まで解き明かしていく。

そして最終章では、時間も場所も大きく変わって、
事件の後日談が語られるのだが・・・
これはほんとに意表を突いた展開だ。
作者は最初からこれを狙ってたんだろうなぁ・・・


現在のところ、作者の時代ミステリは前作「猫間ー」と本書の
2作だけみたいだけど、もっと読みたい気にさせる。
いつになるか分からないけど、第3作を待ちたいと思います。

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きみのために青く光る [読書・ミステリ]


きみのために青く光る (角川文庫)

きみのために青く光る (角川文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

心に不安をもつ人間が ”超能力” を発動するという現象が起こる。
その ”超能力” の種類はさまざまだが、共通するのは
発動時に体が青く発光するということ。

この現象は「青藍(せいらん)病」と呼ばれるようになるが、
原因、治療法ともに解明されていない。この ”病” によって、
望まぬ ”超能力” を手に入れてしまった者たちの物語が綴られる。


「犬が光る」
田辺拓実(たくみ)は、幼い頃に犬に噛まれた経験から
動物に対して恐怖感を抱くようになり、青藍病を発症した。
彼の ”超能力” は、「動物から攻撃される能力」。
拓実の体が青く発光した瞬間、周囲にいる動物たちは
彼に対して敵対的な行動を始めるのだ。
高校3年生になった拓実は、クラスメイトの澤野真由に恋をするが、
彼女はなんと動物病院の娘だった。
散歩の途中で彼女に出会っても、いつも彼女の隣には
飼い犬のブルーノ(ジャーマンシェパード)が控えていて、
拓実が近づくことを阻んでいた(笑)。
夏休みを控えたある日、雷雨に遭遇したブルーノは
パニックに陥り、真由のもとから走り去ってしまう。
彼女のために、恐怖心を抑えてブルーノを探しに出た拓実は、そこで
男が幼い女の子を誘拐しようとしている場面に遭遇する・・・

「この世界に二人だけ」
中学2年生の吉岡空途(ひろと)が青藍病で手に入れた ”能力” は
「見つめた生き物の命を絶つこと」。しかし、最近になって
無意識のうちに ”力” を発動してしまうようになり
暴走しつつある自分の ”能力” に恐怖感を持ち始めていた。
そんなある日、町中で出会った少女・アヤメは
空途の目の前で人を殺してみせる。
彼女は空途と全く同じ ”力” を持っていたのだ。
「人を殺して、何が悪いの?」と言い放つ彼女だったが・・・
「なぜ人を殺してはいけないのか?」なんて
わかりきったことのように思うが、いざこれを
論理的に説明しようとするとかなり難儀な気がする。
これについて作中である人物が自説を語るのだけど
万人が納得するものではないかも知れない。
でも「こういう説明もあるんだなぁ」と、私は腑に落ちたよ。

「年収の魔法使い」
OLの小林千尋が青藍病で手に入れた ”能力” は
「目の前の相手の頭の上に、昨年の年収(手取り)が数字で見える」(笑)
というなんとも人を食った能力。
だからといって、彼女にとって一文の得にもならないんだが。
そんな彼女がある日、鏡を見たところ、自分の頭の上に浮かんだ数字は
「10,563,350」という桁違いの年収の数字だった。
慌てて銀行預金を調べたところ、彼女の口座には
800万円もの謎の金額の振り込みがあった・・・
深刻なエピソードばかりの本書の中で
いちばんコミカルでいちばんミステリっぽい。

「嘘をつく。そして決して離さない」
高校2年生の高橋修哉(しゅうや)と、彼の家の向かいに住む
雨沢鈴乃(すずの)は幼なじみだった。
生まれつき体が弱く、病気がちな鈴乃だったが
いまは修哉と同じ高校に通っている。
ある日、修哉は叔父・洋介の胸に青い光が灯っていることに気づく。
そしてその2週間後、洋介は事故死してしまう。
修哉が青藍病で手に入れた ”能力” は
「人の死期を悟る力」だったのだ。それを知った修哉は、
あるとき町中で ”青い光を灯した男性” を見つける。
彼の命を救おうと、鈴乃とともに追いかける修哉だが
奮闘むなしく男性は命を落とし、”運命は変えられない” ということを
思い知らされるのだった。そして修哉は、
今度は鈴乃の胸に、”青い光” を見つけてしまう・・・
絶望的な状態からの逆転が、本書がミステリであったことを思い出させる。
文庫で120ページと最長で、
本書の掉尾を飾る感動のラブ・ストーリーだ。


作者はミステリが主戦場なのだろうが、
SF的な舞台設定でも素晴らしい物語を紡いでみせる。
4作品のうち「年収-」を除いた3作は、
かなり深刻な設定で始まるのだけど
「年収ー」を含めてどの作品も読後感は爽やかで心地よい。


「嘘をつくー」のラスト近く、「犬が光る」で主役を務めた拓実君が
ちょっとだけ顔を見せてくれる。
事件後の彼の動向が気になる人にとっては嬉しいサービスだろう。

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風ヶ丘五十円玉祭りの謎 [読書・ミステリ]


風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

風ヶ丘高校の2年生・裏染天馬(うらぞめ・てんま)は
学校に住み着いている変人だが、素晴らしい推理力を持っている。
後輩の1年生・袴田柚乃(はかまだ・ゆの)を相棒に、
学校の内外で起こる事件に関わっていく。

「体育館の殺人」「水族館の殺人」と
長編が2冊続いた後の、初の短編集だ。

「もう一色選べる丼」
風ヶ丘高校の食堂では、最近食器の返却率が悪いことから、
食堂利用のルールが厳しくなっていた。
そんなとき、柚乃は返却されないまま
屋外に放置された食器を発見してしまう・・・
発見場所、トレーの様子、食べ残しの状態。
たったそれだけの情報から昼休みという短時間で
天馬は犯人を絞り込んでいくのだが、
いやはや、こんなものまでミステリネタにしてしまうんだ・・・

「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
風ヶ丘の神社の夏祭りに出かけた柚乃だが、
なぜか買い物をすると渡されるおつりにやたらと50円玉が多い。
そこへ現れた伝馬とともに、その理由に迫っていくのだが・・・
真相は面白いし、なるほどとも思うが、
実際にこんなこと実行する奴はいないだろうなあ・・・とも思ったが
案外これを読んでやってみようと思う輩が出たりして。

「釘宮理恵子のサードインパクト」
アニメ好きならいろいろ思うところがある(笑)タイトルかも知れないが
中身はいたって普通(?)の学園ミステリ。
周囲から問題児と目されている高校2年生・釘宮理恵子は、
なぜか後輩の早乙女泰人(やすひと)と恋仲になってしまった。
その泰人が、所属する吹奏楽部の中でいじめに遭っているらしい。
理恵子は泰人たちの練習場所に乗り込んでいくのだが・・・
事態を解決に導く天馬が、ついでに二人に粋な計らいをする。
変人だが、いい奴なんだということがわかる一編(笑)。

「天使たちの残暑見舞い」
風ヶ丘高校を5年前に卒業した演劇部の先輩が残したノート。
それに書かれていたのは奇妙な人間消失。
その謎を解明しようとする現部長の梶原と天馬に頼まれて、
放課後の教室で、柚乃は同級生の早苗と
女性同士で抱き合うことを強要される。もちろん服は着たままで(笑)。
明かされる真相は、まあ理屈としては成立するかも知れないが
実際は「いくらなんでもそれはないだろう」と思うなあ・・・

「その花瓶にご注意を」
天馬の妹・鏡華(きょうか)は、花私立緋天学園中等部の3年生。
放課後、空き教室で友人と二人で過ごしていた鏡華だが、
そのすぐそばの廊下においてあった花瓶が
いつの間にか粉々に砕けてしまっていた。
割れた音も聞こえなかったことから、
鏡華は花瓶の壊れた謎の解明に取り組むことに・・・
兄貴ほどの切れ味はないけれど、鏡華嬢も堂に入った探偵ぶり。

「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」
タイトル通り、仲の悪い二人の男がたまたまサウナで出くわしてしまい、
その気まずいやりとりが綴られる。
ある意味シリーズ設定の根底に関わるエピソード。


前2作を読んでも思ったことだけど、
推理によって意表を突く真相を引き出してみせる
”論理のアクロバット” の見事さ。作者が
「平成のクイーン」って呼ばれるだけのことはある。
でも、彼の魅力はそれだけではない。

登場するキャラクターたち、特に中学・高校生たちの描写がいい。
ガチガチの本格ミステリを、実に楽しく読ませる。
まだ30歳前という若さがなせる技なのかも知れないが
若ければ誰でも出来るということでもないだろう。

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ルパンの娘 [読書・ミステリ]


ルパンの娘 (講談社文庫)

ルパンの娘 (講談社文庫)

  • 作者: 横関 大
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

本書の文庫版が発売されたのは2017年8月、
購入したものの、ずっと積ん読状態になってて
やっと読了したのは今年5月末。
本来なら、この本の読書録を書くのはもっと後になるはずだった。
だって2月に読んだ分さえ、まだ書き終わってないんだもの(^_^;)。

じゃあなんて前倒ししたかというと、
現在、同名のTVドラマが放映されているから。
これを書いてる時点で第1話が放送済み。

放送前に、深田恭子(主役の三雲華を演じる)の出てる
ドラマのCMを見てたかみさんが
「これ、どんな話なの?」って聞いてきたので
「原作なら家にあるよ」って渡したら読み始めて
「すごく面白い!」って感想が返ってきた。
とはいっても、現時点でまだ1/3位しか読んでないんだが(笑)。


図書館司書として働くヒロイン・三雲華(はな)は
”公務員” である桜庭和馬(かずま)と交際中。

華との結婚を考えている和馬は、彼女を家族に引き合わせるが、
桜庭家の職業を知った華は仰天する。

和馬は警視庁捜査一課の刑事、父・典和(のりかず)も警察官、
母・美佐子は鑑識課勤務、妹の香(かおり)は交通課の婦警、
祖父・和一は、かつて捜査一課長まで務めた元鬼刑事、
祖母の伸江は警察犬訓練士、おまけに飼っている犬まで元警察犬という
三代続く警察官一家だったのだ。

そして、華の一家もまた ”特殊” な職業だった。すなわち泥棒である。
父の尊(たける)は美術品専門、母・悦子は装飾品を専門に狙い、
祖母・マツは鍵師、祖父・巌(いわお)は伝説のスリ師として知られ、
兄の渉(わたる)は凄腕ハッカーとしてネットから情報を盗んでくる。

華もまた幼少時から巌に徹底的な ”英才教育” を受け、
10歳を迎えた頃には祖父をも超える ”才能” を示すようになった。

しかし華本人は ”家業” である泥棒を嫌い、
真っ当に生きて堅気な人生を送ることを願っていた。
司書として働いているのもそのためだったし、
”公務員” である和馬との結婚を望んだのもそのためだった。

桜庭家の職業に愕然とする華に、さらに悲報がもたらされる。
荒川の河川敷で、祖父の巌が他殺体で発見されたのだ。

そして和馬は、殺人事件の捜査の中で
華が伝説のスリ師の孫娘であることを知ってしまう・・・


現代版「ロミオとジュリエット」だけれど、
全編を通じてコミカルなラブコメ調で綴られていく。

考え事をしていると、無意識のうちに人の財布をスってしまう(!)という
華さんの設定をはじめ、登場人物みんながぶっとんだキャラ立ち。
警官のプライドと泥棒のプライドがぶつかりあい、
ページをめくるのが楽しくて止まらなくなる。

物語が進むにつれて、和一と巌が顔見知りであったことや、
二人の大学時代にまで遡る、桜庭家と三雲家の間の ”秘密” が
明かされてゆき、ひいてはそれが今回の事件の背景になっていて、
意外な犯人につながることなど、ミステリとしての要素もきっちり。

クライマックスは、豪華ホテルの結婚式場が舞台となる。
(誰と誰の結婚式かは読んでのお楽しみ)
禁断の恋の行方も、殺人事件の真相も、
全部まとめて披露宴の中で解決(!)というとんでもない展開を迎える。

いやあ、読んでるときも思ったけど、
これは連ドラよりは映画向けの素材だよなあ。
文庫で470ページとちょい長めなので、細部を刈り込んで
2時間くらいの映画にしたら面白いと思うんだけど・・・

あと、主役は若い二人なんだが、年長組も見逃せない。
特に祖父母世代の活躍は特筆もの。これを読んだ人はみんな、
こんな老人になりたいと思うんじゃないかな。
高齢者が読むと元気がもらえる(笑)作品だね。


最後にTVドラマ版について。

放映前のCMと第1話の前半しか見なかったので(おいおい)
大きなことはいえないのだけど、かなり原作から改編されてるみたい。

だいたい、華さんはあんなぴっちりスーツを着て
「悔い改めな!」なんて叫びません。もっと控えめな女性です。

 ああいう演出は「キャッツ・アイ」の下手なパロディみたいで
 やらなかった方がいいと思うんだけどなぁ・・・
 でも、派手な演出にしないと観てもらえないのかなあ・・・
 なんて考えてしまった(笑)。

なんで深キョンが主役なのかも考えてみた。
だって原作の華さんは25歳くらいのはずなんだけど
深キョンはそれより10歳くらい上でしょ?

思うに、このドラマ版のヒロインを演じるには次の条件が必要。
(1)連ドラの主役を張れるくらいネームバリューがある。
(2)ぴっちりスーツを着ることを嫌がらない。
(3)体のラインが出ても問題ない、つまりナイスバディ(笑)である。

これらを満たす20代半ばの女優さんがいなかったってことなんだろう。
特に(2)と(3)の条件が難しいかな(笑)。


小説のほうは、続編である「ルパンの帰還」が昨日(12日)刊行された。
なんと文庫書き下ろしである。今日、手に入れてきたんだけど
新キャラとして、今度は探偵一家に育った女性刑事が登場するらしい。
和馬とともに、華さんが巻き込まれた事件の解決に奔走するみたい。

 驚いたことに9月にはシリーズ第3弾が刊行予定とのこと。
 タイトルは「ホームズの娘」。
 新キャラの女性刑事さんが主役になるのかな?

それにしても、「ルパンの娘」のほうはTVドラマ化のおかげで
大々的に宣伝されて書店では大量に平積みになってるのに
続編のほうが見つからない。
本屋を2軒回ってみて、やっと1冊見つけたよ。
(その1冊も私が買っちゃんたんだが)
売れてしまって残ってなかったのか?
それとも、もともと仕入れ数が少なかったのか?

※追記
今日(14日)、某ショッピングモールに買い物に行ったついでに
そこにある書店をのぞいてみたら、
「ルパンの帰還」が6冊ほど平積みになってましたよ。
それなりに売れてるようで、めでたいことです。


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舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 [読書・ミステリ]


舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (光文社文庫)

舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (光文社文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

前作「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」に続く第2弾。
とはいうものの、前作を読んだのはたぶん8年くらい前。
内容はさっぱり覚えていかった。(^_^;)

本作を読んでるうちに前作の記憶が呼び覚まされるかと思ったが
こちらもさっぱりだったね(笑)。

語り手は中学生・高梨愛美璃(えみり)。
同級生の織本凪沙(なぎさ)、萩原夏鈴(かりん)ともに
私大の付属校である女子中学校に通っている。
この3人に、愛美璃の小学校時代の同級生で
公立中に通う舞田ひとみが加わった4人が遭遇する事件を描いた
6編が収録されている。


「白+赤=シロ」
愛美璃たち3人は、繁華街で災害義援金を装った
募金詐欺らしき女を見つける。
たまたま出会ったひとみとともに、女の家を突き止めた4人だが、
そこで殺人事件に遭遇する。
文庫で60ページほどだが、登場人物紹介が大半。
なので、事件発生から解決までは10ページちょっととかなり忙しい。
でも、ひとみさんの名探偵ぶりがしっかりアピールされてる。

「警備員は見た!」
愛美璃たちの通う中学校の水泳部の部室で
水着や下着が盗まれる事件が発生する。
犯行時に学校は授業中で、2カ所ある校門にはそれぞれ警備員がいた。
犯人は捕まらないまま夏休みを迎えるが、
今度は職員室に泥棒が入ってしまう・・・

「幽霊は先生」
愛美璃たちの通う中学校の英語講師、オーストラリア人のトム先生は
週に1時間、愛美璃のクラスの授業を担当している。
しかし、その日授業に現れたトム先生は、わずか1週間のうちに
体重が激減してすっかりやつれてしまっていた。
本人は「とても怖い目に遭った」という。
理由を知りたいとせまる愛美璃たちにトム先生は語る。
「幽霊を見た」と。
動機は分かるが、ミステリの落ちとしては正直なところ微妙なネタ。

「電卓男」
愛美璃は母親から、小学5年生の弟・修斗(しゅうと)の
携帯メールについて相談される。
意味不明のひらがなの羅列でしかない暗号のような文面のメールを
やりとりしているらしい。
ひとみは謎のメールを解き明かし、
ついでに修斗が抱えていた秘密にもたどりついてしまう。
しかし、愛美璃の家庭では
「親は子どもの携帯の中身を自由にチェックできる」んだそうだ。
実際、そんなことしたら今時のお子さんは激怒するんじゃないかな。
ちなみにこのタイトルを最初に見たとき
てっきり「電 ”車” 男」だと勘違いしたのはナイショだ。

「誘拐ポリリズム」
家にいた愛美璃のもとへ弟・修斗から電話がかかってくる。
謎の男に誘拐された、身代金を持ってきてほしい、と。
修斗との会話から、誘拐犯と監禁場所の見当をつけたひとみだが・・・
”誘拐もの” は数あれど、まだこんなアイデアがあったんだね。

「母」
ひとみが交通事故に遭い、骨折して入院してしまう。
そして同じ病院の入院患者・兼森初恵が失踪し、
20キロ離れた山林の中で遺体となって発見される。
ベッドから動けないひとみの安楽椅子探偵ぶりが発揮される一編。


中学生が殺人事件などの情報を手に入れるのはかなり無理があるが
ひとみの叔父が地元警察の刑事をしているので
いわゆる ”身内が警察関係者” というパターンでもある。

ある短編の後日談が次の短編の冒頭で語られたり、
前の短編の展開がそのまま次の短編に受け継がれたりと
全体がゆる~くつながった連作短編集になっている
冒頭の「白+赤=シロ」が1学期の話で
最後の「母」が年度末の春休みの話と、
主人公4人組が1年間の間に遭遇した事件の話になってる。

11歳→14歳ときたから、順調にいけば(笑)
次は17歳のひとみさんの話が読めるはずだが・・・
愛美璃たち3人はエスカレーター式に付属中→付属高とすすめそうだが
ひとみ嬢のほうは無事に高校生になれるかな。
勉強も嫌いでダンスばっかりしてるし、父親との折り合いも悪いし。
現在まで続編は発表されてないみたいだけど、さて?

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