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プリンセス刑事 [読書・ミステリ]


プリンセス刑事 (文春文庫)

プリンセス刑事 (文春文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★

ちなみにタイトルは「ぷりんせす でか」と読みます(笑)。

舞台はパラレルワールドの日本。

そこは2000年以上もの間、”女王” によって統治されてきた国。
こちら側の世界において、”皇族” というものが
我々の日常から隔絶された人々であるように
”女王国” においても、”王族” とされる人々は
”非日常” の存在だったはず、だったのだが・・・

三鷹市立大学の構内およびその周辺で、
2か月の間に3人が殺されるという無差別連続殺人事件が起こる。
ネット世界では、犯人は「ヴァンパイア」と呼ばれていた。

捜査に進展が見られない中、三鷹署の捜査本部に
人員が1名追加されることになった。
その人こそ、白桜院日奈子(はくおういん・ひなこ)殿下。
現女王の妹宮の娘(つまり姪)にして、王位継承権第5位。
まさにやんごとなきプリンセス。

とは言っても、警察大学校での3か月の研修を終えたばかりで、
身分はあくまで一介の平刑事。

そして彼女と捜査上のパートナーを組むように命じられたのが
本書の主人公、若手刑事の芦原直斗(なおと)。

実は直斗は、ある ”弱点” を抱えていて、そのために
捜査班の中ではいちばん戦力として当てにされていない。
要するに、彼女をなるべく危険な現場から遠ざけ、
捜査に支障を来さないようさせる ”お守り役” を割り振られたのだ。

しかしそれでは殿下の気持ちが収まらない。
純粋に「国民を守りたい」という動機から刑事になった彼女は
意外な行動力を発揮して、直斗を振り回しながら(笑)
「ヴァンパイア」の正体へと迫っていく・・・


一般人代表みたいな直斗と、王族の日奈子との、
価値観の違いがいろんな場面でコミカルに描かれていく。

身分の高いキャラは往々にして我が儘や高飛車に描かれたりするのだが
日奈子殿下にはそんなところは全くない。
上にも書いたが純粋でまっすぐで素直な性格で
そしてその志がまた高貴とくる。まさに敬愛に値するお姫様。

直斗の方も、彼女に対して(畏れ多いことだけど)
憧憬の情を抱くようになるのだが、いかんせん姫のお側には、
シュワちゃん演じるところのターミネーターみたいにガタイのいい、
護衛役・竹野がつきっきりで目を光らせているので
不埒な振る舞いなどもってのほかである(笑)。
この3人組の掛け合いもまた楽しくて、読みどころのひとつでもある。

ミステリ要素は薄いけれども、各キャラの言動と
”姫君と刑事” という特異なシチュエーションを楽しむのが正解だろう。

実は本書の続編は既に刊行されていて、タイトルも
「プリンセス刑事 生前退位と姫の恋」
これも手元にあるので、近々読む予定。

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鍵のかかった部屋 -5つの密室- [読書・ミステリ]


鍵のかかった部屋 5つの密室 (新潮文庫nex)

鍵のかかった部屋 5つの密室 (新潮文庫nex)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/08/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

ミステリの王道パターンに「密室」がある。
”内側から鍵がかかっていた” など、人の出入りができない状況下で
事件が起こる、っていうものだ。

古今東西、多くの作品が書かれたし多くのトリックも考案されてきた。
そして、たいていどの作品でも、密室に出くわした登場人物たちは
まず「糸(または紐)を使って外から施錠したのではないか?」って疑う。
もちろん、そんな陳腐なトリックは使われていない、と
最初に否定されてしまうのがお約束なのだが・・・

その「糸と鍵のトリック」を組み込む、という ”縛り” で
書かれた作品を集めたのがこのアンソロジー。

まさに「その発想はなかった」(笑)という作品集だ。


「このトリックの問題点」似鳥鶏
大学のミステリ研会長の滝は、
ミステリの新人賞への応募原稿を書き上げた。
しかしその原稿がワープロのデータ共々盗まれてしまう。
さらに現場となった滝のアパートは密室状態だった。
集まったミステリ研のメンバーたちによる推理が始まったが・・・
密室をつくり原稿を盗んだ犯人である ”俺” による倒叙形式で、
なんとかメンバーたちの推理を自分の都合のいいように
誘導しようとする過程も面白い。

「大叔母のこと」友井羊
大叔母・富士子が亡くなり、遺品の整理に訪れた美奈。
しかし大叔母の家には鍵のかかった部屋があり、
”閉ざされた扉を開けられた方には、素晴らしいものを差し上げます”
という謎の置き手紙が。
美奈は恋人の奏太とともに富士子の過去を調べ始めるが・・・
50年前からの因縁が意外な形で現在につながり、
ラストはほのぼのとハートウォーミング。

「神秘の彼女」彩瀬まる
大学の男子学生寮で暮らす玄馬隆一郎(げんま・りゅういちろう)は
”春” と名乗る女の子とSNSでメッセージ交換を始める。
しかし、ある日突然 ”春” は「ありがとうございました」という
メッセージを残して連絡を絶ってしまう。
そんなとき、学生寮の玄馬の部屋に ”黄金の盧舎那仏” が現れる(笑)。
部屋は内側から鍵がかかっていた密室だったが
玄馬は盧舎那仏の出現を見て ”春” を探し出す決心をする・・・
ミステリ的な興味もあるけれど、
大学生の男子寮内のカオスぶりの方が読んでて楽しいかな(笑)。
 ”春” ちゃんの正体もかなり意外。なかなか健気な子でしたね。

「薄着の女」芦沢央
女優の朝比奈ユリは元・愛人の高嶋大和をロケ先のホテルで殺害する。
現場に密室工作を施すが、十時(ととき)柿三郎と奥平琴子の刑事コンビが
さながら「刑事コロンボ」みたいにユリを追い詰めていく・・・
二人の刑事のキャラが立っていて、会話が楽しい。
ミステリ的にも面白いけど、
最後のページの最後の2行は反則でしょう・・・

「世界にただひとりのサンタクロース」島田荘司
京都大学で研究していた御手洗潔は、
榊楓(さかき・かえで)という受験生に出会う。
11年前、楓が8歳のクリスマスの日、
彼女の母親は自宅寝室で絞殺され、父親は電車へ飛び込み自殺を遂げた。
しかし彼女の自宅は当日密室状態にあり、
そしてなぜか、楓の部屋の前の廊下には
彼女が欲しがっていたおもちゃのプレゼントが。
その日、サンタクロースがやってきたのだと楓は信じていたのだが・・・
比較的若手の作家さんのアンソロジーなんだけど
トリにはミステリ界の重鎮というか御大の登場。
もちろん密室だけでなく、当日の夜に目撃された
異様な光景の謎も含めて、御手洗の頭脳が解決する。


ミステリなのだから、密室トリックも大事なんだけど
それに加えて物語性も豊かでないと面白い作品にはならないんだね。
本書に収録の5作はみなそれをクリアしてる佳作揃いだと思う。

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総閲覧数170万に到達 & 近況 [このブログについて]


本日、このブログの総閲覧数が170万を超えました。

20191118.png

毎回書いておりますが、お約束(笑)なので、また書かせて頂きます。

(どれくらいいるのか分かりませんが)
ご常連の方、毎度のご訪問ありがとうございます m(_ _)m ぺこり。

そして、(もしいるなら)たまたま今日が初めてのご訪問の方へ。
まもなく1900件になろうとする駄文の山でございますが
よろしかったら、これからどうぞご贔屓に(笑)。

どちら様も、よろしくお願いします m(_ _)m ぺこり。


さて、恒例の近況報告ですが・・・

私はあまりTVは見ないのですが、ニュース番組は見ます。
そのとき、ニュースの内容についてぶつぶつ文句を言ってるらしい。

そしてつい先日、家人から
「最近、文句の内容がだんだん過激になってきた」
と言われました。
人間、年をとると抑えが効かなくなるというのは本当のようですな。

私は公私ともに、いたって穏やかな人間なのですが
その裏で、心の内にフラストレーションが溜まってるのかも知れません。

それでふっと思ったのですね。
このブログは趣味がメインなのですが、
これとは別にもう一つブログを立ち上げて、そっちの方では
私の ”心の叫び” を思う存分ぶちまけてみたら楽しいかなぁ・・・と。

まあ、思っただけで実行してませんが。
この後にも書きますが、いまのところこのブログの運営で手一杯で
とてもそんな余裕はありませんので。

でも近い将来、ネット世界の片隅で、偏屈な爺さんが
ぶつぶつと文句を書き連ねているブログを見つけたら、
それは私かも知れません・・・(笑)。

というのは半分冗談で(てことは半分は本気なのか)、
ここからは真面目に近況を二つほど。


まずは10月から消費税が上がったことについて。

「○○ペイ」と称するキャッシュレス決済が盛大に宣伝をしてますが、
いまのところ私のスマホに入ってるのは
mobile nanaco と mobile SUICA の2つだけ。

私はアタマが硬く古い人間なので、ことお金に関することでは
よく分からないものには手を出さないことが正解と思ってます。

コンビニはほとんどセブンイレブンしか行きませんし、
その他の店でも交通系ICカードならたいてい使えるので。

まあそのうち、乱立している ”何とかペイ” が
統一されるようになったら考えようと思ってます。


二つ目は、以前も書きましたが、
私は3月末に定年退職して4月から再雇用で新しい職場に移り、
暇な時間が増えた代わりに収入が減りました(笑)。

でも、本を読む時間がとれるようになったので、
読書のペースは格段に上がりました。
たぶん今年はここ20年では最高の冊数が読めそうです。
180冊の大台超えも夢ではないでしょう。
なんと2日に1冊という驚異のハイペース。

その割に ”積ん読本” があまり減ってないのはなぜだ・・・

読めた本が増えた分だけ読書記録を書くのが追いつかず、
いまブログに挙げてるのは
8月に読んでた本の分です(いやはやなんとも・・・)。

「暇な時間があるなら記事を書けよ」って言われるかも知れませんが
時間があるとかえってダラダラしてしまったりするわけで・・・
私の本性は怠け者なのだなあと今更ながら実感しております(おいおい)。
もう、今年読んだ本の分を年内に書き終えるのは無理ですな。

ここのところ、気分が乗ってきたので頑張って書いてますけど、
それでも1月末か2月初頭くらいまで持ち越しそうです。

まあ、焦らず慌てず諦めず、平常運転を心がけましょう。


これからも MIDNIGHT DRINKER を
よろしくお願いいたします。m(_ _)m ぺこり。

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今昔百鬼拾遺 天狗 [読書・ミステリ]


今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫)

今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

百鬼夜行シリーズの最新作3作を3ヶ月連続刊行、
しかもすべて初文庫化という、なんとも景気のいいイベントの第3弾。

今回の3冊で探偵役を務めるのは中禅寺秋彦の妹にして
中堅出版社である奇譚社の記者・敦子。
その相棒は長編「絡新婦の理」の登場人物で
社長令嬢にして都内の女学園高等部1年の呉美由紀(くれ・みゆき)。


美由紀は「絡新婦-」事件で知り合った榎木津礼二郎の探偵事務所で
依頼に来た代議士令嬢・篠村美弥子と知り合う。

美弥子の友人・是枝美智栄が東京・八王子の高尾山中で消息を絶った。
登山中の目撃者は多くいたものの、下山姿を見た者はいない。

そしてその2ヶ月後、群馬県沼田の迦葉山(かしょうざん)の山中で
女性の遺体が発見された。その遺体がまとっていた衣服が
美智栄のものだったのだという。

美由紀から相談を受けた敦子は独自に情報を集めるが、
意外なことが判明する。

美智栄とほぼ時を同じくして天津敏子という女性が失踪、
やがて高尾山中で自殺死体となって発見されていたこと、
そして迦葉山の遺体は敏子の友人・葛城コウだったこと・・・


連続刊行した3作のトリをつとめるだけあって
いちばんミステリ度が高い。
人間消失の謎からはじまり、3人の女性の失踪と生死が連続して
物語が進んでいっても、事態はどんどん混迷の度を深めていく。

もちろんラストでは、敦子の推理が事件の背後にあった
古からの因習というか、旧弊な価値観に苦しめられている女性たちの
哀しみ苦しみを明らかにしていく。

前2作では美由紀と敦子の二人組が活躍したのだが
本作の前半は美由紀と美弥子のプチ冒険行が描かれる。
なにしろ冒頭は二人が高尾山中で遭難しているシーンから始まるのだ。

知らない人もいるかとも思うが高尾山は標高が600mに満たず、
wikiによると年間登山客は260万人を超えるという大人気スポット。
昭和29年当時はもうちょっと少なかったかも知れないが
それでも1日に数千人は訪れていたんじゃないかな。
こういう場所で遭難するのも珍しいだろう。

お転婆なお嬢様二人のちょっとお間抜けなエピソードなんだが
これも後々になってしっかり伏線に入ってくるなど
やはり構成の上手さはさすがだ。


百鬼夜行シリーズでは、個々の情報だけでは意味が分からず、
人知を超えた状況にも思えたりする断片を
組み合わせていくと、最後にしっかり全体が浮かび上がるという
さながらジグソーパズルみたいな流れがあるのだけど
この3冊も、短いながらもしっかりそれを受け継いでいるのはすごい。

さて、京極堂こと中禅寺秋彦が活躍する ”本伝” は
ここ何年か出てないみたいで、それも待ち遠しいんだけど
こっちのシリーズも楽しいなあ。
なんと言っても主役が若い女性なのがいい(笑)。
こっちの新刊も読ませてほしいなぁ。


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今昔百鬼拾遺 河童 [読書・ミステリ]


今昔百鬼拾遺 河童 (角川文庫)

今昔百鬼拾遺 河童 (角川文庫)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

百鬼夜行シリーズの最新作3作を3ヶ月連続刊行、
しかもすべて初文庫化という、なんとも景気のいいイベントの第2弾。

今回の3冊で探偵役を務めるのは中禅寺秋彦の妹にして
中堅出版社である奇譚社の記者・敦子。
その相棒は長編「絡新婦の理」の登場人物で
社長令嬢にして都内の女学園高等部1年の呉美由紀(くれ・みゆき)。


敦子のもとに持ち込まれたのは宝石窃盗グループがらみの話。
それに関わって殺人事件まで起こっているという。

一方、郷里の千葉へ旅行に行った美由紀は
妖怪研究家・多々良勝五郎と知り合う。
二人は房総半島中部を流れる夷隅川で水死体を発見するが
実はその周辺で起こった水死事件はそれで3件目。
さらに、なぜか遺体の下半身はみな裸だった・・・


冒頭の美由紀とその学友たちの「河童」を巡る他愛ない話から始まり、
男の裸ばかり狙う謎の覗き魔とか、宝石泥棒の仲間割れとか
一見バラバラにみえるいくつもの要素が
終盤になってきれいに組み上がり、
ひとつながりのストーリーになるところは毎回ながらよくできてる。

河童だけに、「尻」がキーワード。
何せ河童は人の肛門から手を突っ込んで
”尻子玉” を抜いてしまう、っていいますから。
なので、妙齢の女性である美由紀さん敦子さんの周囲でも
やたらと ”尻” という単語が飛び交う。
彼女たちの反応もまた楽しいのだが、それは正しい読み方ではないよね。

前作「鬼」よりはミステリっぽさは上だけど、
犯人当てとか真相を推理で見破る等の要素は薄いので、
河童絡みの伝奇ストーリーを楽しむのが正解かと思う。

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今昔百鬼拾遺 鬼 [読書・ミステリ]


今昔百鬼拾遺 鬼 (講談社タイガ)

今昔百鬼拾遺 鬼 (講談社タイガ)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/04/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

百鬼夜行シリーズの最新作3作を3ヶ月連続刊行、
それもすべて初文庫化という、なんとも景気のいいイベントの第1弾。
しかも出版社が3冊とも異なるという。
出版不況の中、仲がいいんだか
背に腹は代えられない呉越同舟なのか。

今回の3冊で探偵役を務めるのは中禅寺秋彦の妹にして
中堅出版社である奇譚社の記者・敦子。
その相棒は長編「絡新婦の理」の登場人物で
水産会社社長令嬢で千葉県の聖ベルナール女学院の生徒だった
呉美由紀(くれ・みゆき)。


「絡新婦-」事件のあおりで学園が閉鎖になったため
美由紀は都内の女子校に転入して、現在中等部3年生。
そこで彼女は高等部1年の片倉ハル子と親しくなったが
そのハル子が ”辻斬り” に殺されてしまう。

昭和28年9月から始まった ”連続辻斬り事件” は
いずれも駒澤野球場の近くで起こっていて
29年2月下旬に殺されたハル子で7人目になった。

ハル子の事件の直後、犯人として捕まったのは
彼女の交際相手で19歳の旋盤工・宇野憲一。

ハル子は事件前、自らの運命を予見するようなことを語っていた。
「片倉家の女は代々、斬り殺される定めにある」のだという。

美由紀から相談を受けた敦子は
片倉家代々の陰惨な歴史を知ることになるが・・・


ミステリを読み慣れた人なら、犯人を予想することは容易だろう。
でも、本書の読みどころはそこではなく、
敦子と美由紀の、元気な女性二人組の大活躍だろう。
二人の会話も楽しいし、男性に対しても物怖じせずに突撃する。
兄の秋彦とは異なる雰囲気での敦子の謎解きシーンもいい。

そして何より、明治や大正の時代の名残を留める
大戦直後の時代という舞台がまたいい。
そしてそこで語られる、因習と業に満ちた人々の物語。

秋彦の活躍する百鬼夜行シリーズの ”本伝” は
枕に使えそうなほど厚くて、凶器に使えそうなほど重いのだけど
本書は文庫で250ページほどとコンパクト。
早く読み終えられるし、何より手で持ってて疲れないのがいい(笑)。

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バチカン奇跡調査官 アダムの誘惑 [読書・ミステリ]


バチカン奇跡調査官 アダムの誘惑 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官 アダムの誘惑 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/07/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" 発見の報に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する天才科学者の平賀と、
その相棒で古文書の解析と暗号解読の達人・ロベルト。
「奇跡調査官」である神父二人の活躍を描く第19弾。
長編としては15作目になる。


シリーズの準レギュラーであるFBI捜査官ビル・サスキンス。
そして諜報工作員のエリサベート・モーリエ。
ある ”組織” を探るという共通の目的のもとに、
二人は偽装婚約している。

しかしいつまでも ”婚約中” では不自然だし、
何よりビルの両親もまた ”組織” に関係しているとわかり、
”敵” の懐に飛び込むためにも、ビルの「妻」になったほうが都合がいい。

というわけで、エリザベートはビルに結婚(もちろん偽装だが)を迫る。
真面目なビルは、そんな不実なことはできない言うが
彼女に押し切られてしまう。

フロリダを訪れた二人は、ビルのかつての同僚ジョージの計らいで
世界的な大スターのゾーイ・ズーのコンサートに招待される。

ゾーイは4年前、人気絶頂のときになぜか突然活動を休止してしまい、
そして今年になって復帰したという曰くのあるミュージシャン。

ビルとエリザベートが招待されたコンサートは、厳戒態勢。
ゾーイのwebページに殺害予告が送られてきたのだ。
しかし二人の機転で不審者を拘束し、事なきを得る。

そのお礼にとゾーイから夕食に招待された二人は、
そこでアダムというエキゾチックな雰囲気をたたえた若い牧師と出会う。

そして翌日、ゾーイの別荘を訪ねた二人が見たものは
巨大水槽の中を浮遊するゾーイの死体だった・・・

ビルの結婚式に招待されていた平賀とロベルトだが
一転して謎の事件の解明に取り組むことになる。


毎回、奇怪な事件・事象が起こり、それを科学的に解明していくという
21世紀版『怪奇大作戦』みたいな話なんだが
(と書いても若い人にはわからんだろうなぁ)
天変地異が頻発したりするシリーズの他の作品と比べて本書は
ちょっとグロテスクなシーンはあるものの、地味目な印象。

まあ、アダム牧師が黒幕であることはもう一目瞭然なんだけど
あんまり悪役っぽくないんだよなあ。そこが原因かな。
影が薄いというか、存在感が希薄。

今回起こる事象も、きっちり合理的に説明されていくんだけど
本書はそういう事件の解明よりも
ビルとエリザベートのラブコメぶりを楽しむのが正解かと思う。

偽装から始まった二人の仲なんだけど
いつのまにかビルは、本気で彼女に惚れてるみたいだし
エリザベートも、演技抜きで満更でもないみたいだし。

結局、事件のせいで結婚は延期になってしまうのだけど
もうしばらく二人の掛け合いが楽しめると思えば。これでいいのだろう。

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機忍兵零牙 [新装版] [読書・SF]


機忍兵零牙〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)

機忍兵零牙〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

タイトルは「きにんへい れいが」と読みます。

実は本書について2014年12月の記事で書いてる。
(このときは[新装版]ではなかったけど)

以下はその文章を一部再録・修正したもの。

*********************************

いずことも知れぬ異世界、一つの国が滅亡した。

あまたの異次元世界を制覇しようという「無限王朝」。
その尖兵たる "骸魔衆"(がいましゅう) と、
彼らの操る巨大な "機忍獣" によって。

しかし国守の二人の遺児、真名(まな)姫と若君・鷹千代は、
炎上する城を脱出、遙か北の国を目指して落ち延びる。

骸魔衆の追撃に、絶体絶命となった二人を救ったのは、
零牙と名乗る手練れの忍び。そして彼の3人の仲間たち。
彼らは、「無限王朝」と戦い続ける
伝説の忍び集団<光牙>(こうが)から遣わされた者たちであった。

亡命の旅をゆく一行の行く手に立ちはだかるは、
骸魔衆の精鋭・"骸魔六機忍" とその頭領・死皇丸(しおうまる)。
骸魔忍群vs<光牙者>、超常の殺戮力を秘めた "機忍法" が激突する・・・

ちょいと古いが、年配の方なら1967年から68年にかけて
1年間放映された特撮TVドラマ「仮面の忍者 赤影」をご存じだろう。
冒頭、骸魔衆に操られた巨大怪獣が街を破壊するシーンを読んで
真っ先に思い浮かんだのがこのイメージだった。

そして、骸魔六機忍と彼らの使う機忍法は、
山田風太郎の忍法帖シリーズだろう。

全体の雰囲気は東映特撮か・・・
映画「宇宙からのメッセージ」(これも古い)
もうちょい後なら「里見八犬伝」(これも古いなあ)、
もっと言えば "戦隊もの" の雰囲気もある。

文庫で350ページほどだが、絢爛な世界描写、奇想天外な "機忍法"、
さらに、熱く哀しい人間ドラマまでをも詰め込んだつくり。

この作品で完結はしてるんだけど、その気になれば続きが作れそう。
いつか "彼ら/彼女らのその後" が読みたいなぁ。

最後にちょっとネタバレっぽいことを書く。
戦隊ものは5人なのに、出てくる<光牙>は4人しかいないじゃないか?
大丈夫、ちゃんと "追加戦士" が登場して5人になります(笑)。
この、"5人目誕生" のエピソードがまた泣かせるんだなぁ・・・

*********************************

基本的に上記の文章に付け加えることはない。

[新装版]とあって、初刊本を加筆訂正したものって銘打ってあるんだが
どこがどう変わったのか、よく分かりません(笑)。

分量的にもほとんど変わっていないので、
エピソードの追加等はないみたい。
多分、個々のシーンの描写をブラッシュアップしたのでしょう。

5年振りの再読でしたけど、やっぱり面白いと思った。
かなり濃~い(笑)作品なので
好き嫌いは出ると思うんだけど、私は好きです。

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天冥の標IV 機械じかけの子息たち [読書・SF]


天冥の標Ⅳ: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標Ⅳ: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/05/20
  • メディア: 文庫
大河SF「天冥の標」シリーズ、第4部。

第1部「メニー・メニー・シープ」では
西暦2803年に植民星で起こった内乱を綴られ、
第2部「救世群」では2015年に戻って
感染症・”冥王斑” の地球上でのパンデミックが語られた。
第3部「アウレーリア一統」は、2310年の小惑星帯を舞台に
異星人の残した謎の遺跡 ”ドロテア・ワット” を巡る争いを描く
スペース・オペラになった。

巻が進むにつれて、第1部で登場した人物や事象や組織などの設定が
だんだんと明らかになってくる、という構成で
しかも毎回、タッチを変えてくるという凝った内容。

ではこの第4部「機械仕掛けの子息たち」はどんな話なのかというと、
なんと ”官能小説”(!) なのだ


時代は第3部の直後。
”冥王斑” 保菌者たちのコロニーである「救世群」の少年キリアンが
ある理由で、「救世群」の居住する小惑星エウレカを逃げ出し、
事故に遭って救助されたところから始まる。

彼を助けたのは、ゲルトルッドとアウローラという美少女姉妹。
開巻早々、意識を取り戻したキリアンは
アウローラに誘われるままに事に及んでしまう(おいおい)。
その描写がまた濃厚(笑)で、下手なエロ小説より扇情的だ。
こういう話も上手いのは、もう感心を通り越して呆れるしかない。

アウローラが色情狂なのではなく、これが彼女たちの存在意義。
彼女たちは、《恋人たち》(ラヴァーズ)と呼ばれる
セックス専用の ”蛋白機械”(プロトボット)、
要するに人間そっくりの外見と体組織を持つロボットなのだ。

キリアンが収容されたのは《恋人たち》の拠点となっている小惑星。
《ハニカム》の別名で呼ばれるそこは、
性的遊戯に特化した構造になっていて、ゲストの性的嗜好に沿って
種々のシチュエーションでのセックスが楽しめるというスグレモノ(笑)。

例えば「女子大生と楽しみたい」なんて要望があれば
大学の講義室のセットとエキストラまで用意してしまうという徹底ぶり。
そんなスタジオや大道具まで取り揃えてお待ちしています、という場所。
もちろん女性向けに、男性の ”娼婦” ならぬ ”娼夫(?)” もいる。

おまけにここには、短期記憶をリセットする装置まであり
それを利用すれば、毎回 ”新鮮な気分” で楽しめる(笑)という
もはやこれ以上を何を望むかという充実ぶり。

というわけで、小惑星帯のセレブな方々がこぞって ”遊び” にくる。

そんな場所で暮らすことになったキリアンの目を通して
《恋人たち》の出自、歴史、そして彼らの目指す ”究極の目的” が
語られていく、というのがメインのストーリーなのだが
その都度、キリアンとアウローラのセックスシーンが挿入される。
というか、頻繁に始まる濡れ場の合間に
ストーリーが語られる、てのが本書の構成だろう。

もちろん、エロシーンを描くのだけが目的ではなく
《恋人たち》と「救世群」の関係性の変化とかも描かれるし、
メンテナンスを怠らなければ不老不死の ”蛋白機械” なので
500年後の第1部で活躍するキャラも、本巻には登場してくる。

そういう意味では、第1部へ、そして第8部以降の話につなげるためには
必要なピースの一つなのだろう。

いやあしかし、ハヤカワ文庫で
こんなにエロい話が読めるとは思いませんでした(笑)。

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六花の印 連城三紀彦傑作集1 [読書・ミステリ]


六花の印 (連城三紀彦傑作集1) (創元推理文庫)

六花の印 (連城三紀彦傑作集1) (創元推理文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

男女の恋愛における ”情念” を、本格ミステリに昇華させた巨匠の
短編小説傑作選、全2巻のうちの1巻め。

初期~中期の短編作品15作を収録。
これらについては、発表順に配列されているとのこと。

どの作品も、終盤に至るとそれまでの物語の様相が鮮やかに反転して
秘められていた男女の思いが露わになる。
それは思慕であったり嫉妬であったり怨恨であったりするが
それが真相と離れがたく結びついていているのが連城作品の特徴。
まさに恋愛ミステリの名手の珠玉の作品集だ。

もっとも「戻り川心中」「変調二人羽織」「宵待草夜情」などの、
あまりにも有名な作品は入ってない。
そのあたりは今でも簡単に入手できるからだろう。

題名の○印は今回初めて読んだもの、無印は既読のもの。
もし、本書収録の作品群を全く知らない状態で読んだら、
あまりの衝撃に★5つをつけてたかも知れない(ほんとだよ)。


「六花の印」
明治と現代、2つの時代でほぼ同じシチュエーションで起こる自殺事件。
雪の舞う帝都を歩みゆく提灯行列という、美しく幻想的なシーンが
トリックのための伏線へと反転する鮮やかさ、そして意外な真相。
他の短編集で既読だったんだけど、初読の時は
まさに超絶技巧を見せられた気がして、唸らされたのを憶えている。
これがデビュー3作目というのだから二度びっくり。

「菊の墓」「桔梗の宿」「桐の棺」
いずれも〈花葬〉シリーズの傑作ばかり。
「菊の墓」の、この時代でなくては成立しない大トリックに驚愕し、
「桔梗の宿」では、男を慕う娼婦の一途さに涙し、
「桐の棺」では、犯人の ”意外すぎる動機” に度肝を抜かれる。

「能師の妻」
”凄まじき女の情念” という言葉をそのまま小説にしたような作品。
鬼気迫る結末に恐怖すら覚える。

「ベイ・シティに死す」
弟分と恋人に裏切られたヤクザの復讐譚なのだが、
ラストですべてが ”反転” する語りはそのまま引き継がれている。

○「黒髪」
余命幾ばくもない妻と、京都にいる愛人との間を行き来する男。
やがて妻は死亡し、愛人は男に「今後15年間は会わない」と宣言する。
男は結局、女の手のひらの上で踊るしかない生き物なのだ。

「花虐の賦」
〈花葬〉シリーズの流れをくむ一編。
大正末期の演劇界を舞台にした、自殺事件の真相を描く。
文字通り、時を超える愛が語られる。

○「紙の鳥は青ざめて」
私立探偵・田沢軍平シリーズ(とはいっても全部で5編しかないそうだが)
の一編。軍平君が美しい人妻に振り回される話。

○「紅き唇」
新婚早々、新妻を喪った和広は、行き場のない義母・タヅ(64歳)と
同居することに。やがて和広は新しい恋人・浅子とつき合い始めるが。
恋情作品には珍しく(笑)、ほのぼのとしたラストを迎える。

○「恋文」
本作は未読だったんだが、読んでみたらストーリーは知ってた。
過去に映画化とドラマ化がそれぞれ1回ずつあるので、
そのへんで目にしたのかも知れない。
美術教師・竹原将一は、かつての恋人・江津子が不治の病に倒れて
余命幾ばくもないことを知り、妻子を捨てて江津子の元へ走る。
将一の妻・郷子は二人を捜し当てるが、やがて江津子と郷子の間に
奇妙な友情が芽生えていく・・・という話。
作者はこれで直木賞を受賞したので、一般の人にとっては
”連城三紀彦の代表作” なのだろうが・・・
うーん、私はどう読んでも将一に肩入れができません。
こいつが目の前に居たら首を絞めてしまうかも(笑)。

○「裏町」
かつて付き合っていた女・萩江が経営する店に通う ”私”。
萩江が面倒をみている娘が最近ヤクザものと付き合っているらしい。
それは16年前の ”私” と萩江の関係と同じだった・・・

○「青葉」
嫁姑の関係に悩む ”私” は、、母に相談する。
しかし、姑を亡くして10年目になる母もまた
ある決断を下そうとしていた・・・

○「敷居ぎわ」
妻を亡くし、一人娘の直子も嫁に出し、定年退職した ”私” は
悠々自適の一人暮らし。しかし直子はまめに実家に顔を出してくれる。
しかしある日、実家にやってきた直子は
一向に夫の元に帰ろうとしないが・・・

○「俺ンちの兎クン」
TV局に勤務する航二は、家庭も顧みずに働いているが
ある日、中学生の息子・優が夜遊びを繰り返していることを知る。


「紅き唇」以降の作品は、犯罪的要素がほとんどない
非ミステリ作品なのだけど、物語の根底に潜む
男女の思惑が明らかになる過程はミステリ的で、
それがラストの切れ味につながっている。

巻末にはエッセイが9編収録されている。

「ボクの探偵小説観」「〈花葬〉シリーズのこと」「幻影城へ還る」
「水の流れに」「母の背中」「芒の首」
「哀しい漫才」「黒ぶちの眼鏡」「彩色のない刺青」
エッセイ集には、作者のプライベートなことも
かなり書かれていて、興味深い。
幼少期の作者の周囲を取り巻いていた様々な大人たち。
中でも、事業に失敗して後半生を廃人のように過ごしていた父、
その父に代わり、一家を支えて働き続けた母、そして
傷痍軍人やヤクザたちに不思議と可愛がられて育った少年時代。
そんなこんなが、成人後の作家活動に実を結んだのだろうと思う。

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