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天冥の標Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 [読書・SF]


天冥の標Ⅴ: 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標Ⅴ: 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: 文庫
大河SF「天冥の標」シリーズ、第5部。

第1部「メニー・メニー・シープ」では
西暦2803年に植民星で起こった内乱を綴られ、
第2部「救世群」では2015年に戻って
感染症・”冥王斑” の地球上でのパンデミックが語られた。
第3部「アウレーリア一統」は、2310年の小惑星帯を舞台に
異星人の残した謎の遺跡 ”ドロテア・ワット” を巡るスペース・オペラ。

そして第4部「機械仕掛けの子息たち」は官能小説(笑)と
さまざまに手法を変えてきたのだけど、
この第5部の語り口は、いわゆる正統派のSFだろう。

時代は第4部の少し後、西暦2349年。
舞台は小惑星パラスで、そこの地下で
野菜農場を営むタック・ヴァンディが主人公。

まずは彼の日常生活が淡々と描かれる。
農場維持のための機器の不具合、
星間生鮮食品チェーンの進出による零細農家の先行き不安、
それに加えて、男手一つで育ててきた一人娘のザリーカは、
思春期を迎えて父親への反抗的態度が目立ってきた(とほほ)。

 このあたりは、読んでいて身につまされるお父さんも多かろう。

そんなタックの前に一人の女性が現れる。
アニー・ロングイヤーという、地球から来た研究者だ。
彼女は研究の一環としてタックとザリーカのもとで暮らし始める。

 このアニーというのがまた、よくできた女性という、
 ある意味お約束の展開で、現代ならホームドラマになりそうなんだが
 残念ながらこれは未来のSFなので、一筋縄ではいきません。

しかし、お年頃のザリーカの不満鬱屈は増すばかり。
ついにパラスの首都ヒエロンへと逃げ出すが、
彼女を捕らえようとする謎の集団が現れる。
やがて明らかになるタックの過去、そしてザリーカの出自・・・

 このあたりは、今までのシリーズを読んでないとピンとこないかな。


そして、シリーズの折り返し点になる本書で明らかになるのが
物語全体の背景になる設定。
タックの物語と並行して、太古からの時の流れが描かれる。

6000万年前に宇宙の彼方で発生した、ある知性体の歴史が語られる。
”彼ら” はいくつかの勢力に分裂しながら、宇宙を伝播していく。

そして ”彼ら” は太陽系へたどり着く。
第2部で描かれた21世紀初頭の ”冥王斑” のパンデミックの時にも
ウイルスが地球外からやって来たことが示唆されていたが
まさに ”冥王斑” は彼らの持ち込んだものであったのだ。

そして、シリーズ全体の中で起こる人間同士の争いの根底には
この知性体同士の勢力争いがあったことも。

 まさに「おまえが黒幕か!」(笑)である。

そして物語のラストでは、双子座μ(ミュー)星方向から
太陽系へ接近してくる、新たな地球外知性体の存在が示されて終わる。

 これが次巻以降の新たな波乱要因になるのだが・・・


私は現在、次の第6部「宿怨」まで読み終わってる。
そこでは太陽系全域の人類に起こる
巨大なカタストロフが描かれていて、
物語のスケールがさらに大きくなっていく。

このシリーズ、面白く読ませてもらっているのだが
果たしてこの大風呂敷、うまく畳めるのでしょうかね?

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