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今昔百鬼拾遺 天狗 [読書・ミステリ]


今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫)

今昔百鬼拾遺 天狗 (新潮文庫)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

百鬼夜行シリーズの最新作3作を3ヶ月連続刊行、
しかもすべて初文庫化という、なんとも景気のいいイベントの第3弾。

今回の3冊で探偵役を務めるのは中禅寺秋彦の妹にして
中堅出版社である奇譚社の記者・敦子。
その相棒は長編「絡新婦の理」の登場人物で
社長令嬢にして都内の女学園高等部1年の呉美由紀(くれ・みゆき)。


美由紀は「絡新婦-」事件で知り合った榎木津礼二郎の探偵事務所で
依頼に来た代議士令嬢・篠村美弥子と知り合う。

美弥子の友人・是枝美智栄が東京・八王子の高尾山中で消息を絶った。
登山中の目撃者は多くいたものの、下山姿を見た者はいない。

そしてその2ヶ月後、群馬県沼田の迦葉山(かしょうざん)の山中で
女性の遺体が発見された。その遺体がまとっていた衣服が
美智栄のものだったのだという。

美由紀から相談を受けた敦子は独自に情報を集めるが、
意外なことが判明する。

美智栄とほぼ時を同じくして天津敏子という女性が失踪、
やがて高尾山中で自殺死体となって発見されていたこと、
そして迦葉山の遺体は敏子の友人・葛城コウだったこと・・・


連続刊行した3作のトリをつとめるだけあって
いちばんミステリ度が高い。
人間消失の謎からはじまり、3人の女性の失踪と生死が連続して
物語が進んでいっても、事態はどんどん混迷の度を深めていく。

もちろんラストでは、敦子の推理が事件の背後にあった
古からの因習というか、旧弊な価値観に苦しめられている女性たちの
哀しみ苦しみを明らかにしていく。

前2作では美由紀と敦子の二人組が活躍したのだが
本作の前半は美由紀と美弥子のプチ冒険行が描かれる。
なにしろ冒頭は二人が高尾山中で遭難しているシーンから始まるのだ。

知らない人もいるかとも思うが高尾山は標高が600mに満たず、
wikiによると年間登山客は260万人を超えるという大人気スポット。
昭和29年当時はもうちょっと少なかったかも知れないが
それでも1日に数千人は訪れていたんじゃないかな。
こういう場所で遭難するのも珍しいだろう。

お転婆なお嬢様二人のちょっとお間抜けなエピソードなんだが
これも後々になってしっかり伏線に入ってくるなど
やはり構成の上手さはさすがだ。


百鬼夜行シリーズでは、個々の情報だけでは意味が分からず、
人知を超えた状況にも思えたりする断片を
組み合わせていくと、最後にしっかり全体が浮かび上がるという
さながらジグソーパズルみたいな流れがあるのだけど
この3冊も、短いながらもしっかりそれを受け継いでいるのはすごい。

さて、京極堂こと中禅寺秋彦が活躍する ”本伝” は
ここ何年か出てないみたいで、それも待ち遠しいんだけど
こっちのシリーズも楽しいなあ。
なんと言っても主役が若い女性なのがいい(笑)。
こっちの新刊も読ませてほしいなぁ。


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