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マダラ 死を呼ぶ悪魔のアプリ [読書・SF]


マダラ 死を呼ぶ悪魔のアプリ (集英社文庫)

マダラ 死を呼ぶ悪魔のアプリ (集英社文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/09/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

アパートの一室で、3人の大学生の死体が発見される
現場の状況からは、3人がお互いを殺し合ったとしか思えない。

そして1ヶ月後、女子高生・本宮小春が
クラスメイトで恋人の東浜翔吾によって
衝動的に絞め殺されるという事件が起こる。

殺された小春の従兄弟で、大学院で脳科学を専攻する本宮拓真は
事件の真相を探るうち、小春と翔吾の二人が
自分たちのスマホに「マダラ」というアプリを
インストールしていたことを知る。

このアプリを起動し、表示される模様を眺めていると
人を殺す衝動に駆られるのではないか・・・という仮説を得た拓真は
音や光が人間の精神に与える影響の研究で高名な
新暁大学の滝部郁也准教授がアプリの作成者ではないかと疑うが、
拓真が彼の勤務先を訪ねると、すでに滝部は失踪していた・・・


後半では、コンピュータ・ウイルス化した「マダラ」が
世界中に蔓延していく様が描かれる。
自らを複製する際に頻繁に亜種を生成する「マダラ」に
ワクチン生成も追いつかず、スマホ・タブレット・PCなど
すべてのIT機器が「マダラ」に冒されていく・・・


いままで作者はミステリをメインに執筆してきた。
ラブコメをベースにしたタイムスリップものとか
SF要素を盛り込んだミステリも書いてきたけど、
本作はかなり雰囲気が異なる。
冒頭こそミステリっぽく始まるけど、
中盤以降の展開は、かなり本格的なSFである。

物語で扱われる時間軸はプロローグからエピローグまでで7年間。
その7年間で世界の様相は一変してしまうし、
そこに至るまで多くの流血と混乱がもたらされる。

ならばさぞかし長い作品なのだろうと思いきや、
文庫でわずか320ページほどとコンパクトに仕上がっている。
読んでみた感じでも長すぎず短すぎず、ほどよい密度だと思う。

作者の持ち味である ”ほのぼの感” も随所に出てくるのだが
それがことごとくひっくり返されていくのが、
ひときわ怖さを感じさせる。
この作者の作品を多く読んでいる人ほど、その落差に驚くだろう。

ならば絶望しか描かれないのか、というとそんなことはない。
ネタバレになるので詳しく書けないが、
エピローグで描かれる ”ほのぼの感” は本物である(笑)。


かつて「復活の日」(小松左京)という、
致死性ウイルスのパンデミックを描いた作品があったが
本書のように、ワクチンのないコンピュータ・ウイルスが蔓延したら
現代文明が根底からひっくり返ってしまうだろう。

ほのぼの系ミステリも楽しいけれど、こういう作品も書けるんだね。
これからは、SFもどんどん書いてほしいなあ。
願わくば、もうちょっと明るいタッチで(笑)。

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