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天冥の標IV 機械じかけの子息たち [読書・SF]


天冥の標Ⅳ: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標Ⅳ: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/05/20
  • メディア: 文庫
大河SF「天冥の標」シリーズ、第4部。

第1部「メニー・メニー・シープ」では
西暦2803年に植民星で起こった内乱を綴られ、
第2部「救世群」では2015年に戻って
感染症・”冥王斑” の地球上でのパンデミックが語られた。
第3部「アウレーリア一統」は、2310年の小惑星帯を舞台に
異星人の残した謎の遺跡 ”ドロテア・ワット” を巡る争いを描く
スペース・オペラになった。

巻が進むにつれて、第1部で登場した人物や事象や組織などの設定が
だんだんと明らかになってくる、という構成で
しかも毎回、タッチを変えてくるという凝った内容。

ではこの第4部「機械仕掛けの子息たち」はどんな話なのかというと、
なんと ”官能小説”(!) なのだ


時代は第3部の直後。
”冥王斑” 保菌者たちのコロニーである「救世群」の少年キリアンが
ある理由で、「救世群」の居住する小惑星エウレカを逃げ出し、
事故に遭って救助されたところから始まる。

彼を助けたのは、ゲルトルッドとアウローラという美少女姉妹。
開巻早々、意識を取り戻したキリアンは
アウローラに誘われるままに事に及んでしまう(おいおい)。
その描写がまた濃厚(笑)で、下手なエロ小説より扇情的だ。
こういう話も上手いのは、もう感心を通り越して呆れるしかない。

アウローラが色情狂なのではなく、これが彼女たちの存在意義。
彼女たちは、《恋人たち》(ラヴァーズ)と呼ばれる
セックス専用の ”蛋白機械”(プロトボット)、
要するに人間そっくりの外見と体組織を持つロボットなのだ。

キリアンが収容されたのは《恋人たち》の拠点となっている小惑星。
《ハニカム》の別名で呼ばれるそこは、
性的遊戯に特化した構造になっていて、ゲストの性的嗜好に沿って
種々のシチュエーションでのセックスが楽しめるというスグレモノ(笑)。

例えば「女子大生と楽しみたい」なんて要望があれば
大学の講義室のセットとエキストラまで用意してしまうという徹底ぶり。
そんなスタジオや大道具まで取り揃えてお待ちしています、という場所。
もちろん女性向けに、男性の ”娼婦” ならぬ ”娼夫(?)” もいる。

おまけにここには、短期記憶をリセットする装置まであり
それを利用すれば、毎回 ”新鮮な気分” で楽しめる(笑)という
もはやこれ以上を何を望むかという充実ぶり。

というわけで、小惑星帯のセレブな方々がこぞって ”遊び” にくる。

そんな場所で暮らすことになったキリアンの目を通して
《恋人たち》の出自、歴史、そして彼らの目指す ”究極の目的” が
語られていく、というのがメインのストーリーなのだが
その都度、キリアンとアウローラのセックスシーンが挿入される。
というか、頻繁に始まる濡れ場の合間に
ストーリーが語られる、てのが本書の構成だろう。

もちろん、エロシーンを描くのだけが目的ではなく
《恋人たち》と「救世群」の関係性の変化とかも描かれるし、
メンテナンスを怠らなければ不老不死の ”蛋白機械” なので
500年後の第1部で活躍するキャラも、本巻には登場してくる。

そういう意味では、第1部へ、そして第8部以降の話につなげるためには
必要なピースの一つなのだろう。

いやあしかし、ハヤカワ文庫で
こんなにエロい話が読めるとは思いませんでした(笑)。

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