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六花の印 連城三紀彦傑作集1 [読書・ミステリ]


六花の印 (連城三紀彦傑作集1) (創元推理文庫)

六花の印 (連城三紀彦傑作集1) (創元推理文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

男女の恋愛における ”情念” を、本格ミステリに昇華させた巨匠の
短編小説傑作選、全2巻のうちの1巻め。

初期~中期の短編作品15作を収録。
これらについては、発表順に配列されているとのこと。

どの作品も、終盤に至るとそれまでの物語の様相が鮮やかに反転して
秘められていた男女の思いが露わになる。
それは思慕であったり嫉妬であったり怨恨であったりするが
それが真相と離れがたく結びついていているのが連城作品の特徴。
まさに恋愛ミステリの名手の珠玉の作品集だ。

もっとも「戻り川心中」「変調二人羽織」「宵待草夜情」などの、
あまりにも有名な作品は入ってない。
そのあたりは今でも簡単に入手できるからだろう。

題名の○印は今回初めて読んだもの、無印は既読のもの。
もし、本書収録の作品群を全く知らない状態で読んだら、
あまりの衝撃に★5つをつけてたかも知れない(ほんとだよ)。


「六花の印」
明治と現代、2つの時代でほぼ同じシチュエーションで起こる自殺事件。
雪の舞う帝都を歩みゆく提灯行列という、美しく幻想的なシーンが
トリックのための伏線へと反転する鮮やかさ、そして意外な真相。
他の短編集で既読だったんだけど、初読の時は
まさに超絶技巧を見せられた気がして、唸らされたのを憶えている。
これがデビュー3作目というのだから二度びっくり。

「菊の墓」「桔梗の宿」「桐の棺」
いずれも〈花葬〉シリーズの傑作ばかり。
「菊の墓」の、この時代でなくては成立しない大トリックに驚愕し、
「桔梗の宿」では、男を慕う娼婦の一途さに涙し、
「桐の棺」では、犯人の ”意外すぎる動機” に度肝を抜かれる。

「能師の妻」
”凄まじき女の情念” という言葉をそのまま小説にしたような作品。
鬼気迫る結末に恐怖すら覚える。

「ベイ・シティに死す」
弟分と恋人に裏切られたヤクザの復讐譚なのだが、
ラストですべてが ”反転” する語りはそのまま引き継がれている。

○「黒髪」
余命幾ばくもない妻と、京都にいる愛人との間を行き来する男。
やがて妻は死亡し、愛人は男に「今後15年間は会わない」と宣言する。
男は結局、女の手のひらの上で踊るしかない生き物なのだ。

「花虐の賦」
〈花葬〉シリーズの流れをくむ一編。
大正末期の演劇界を舞台にした、自殺事件の真相を描く。
文字通り、時を超える愛が語られる。

○「紙の鳥は青ざめて」
私立探偵・田沢軍平シリーズ(とはいっても全部で5編しかないそうだが)
の一編。軍平君が美しい人妻に振り回される話。

○「紅き唇」
新婚早々、新妻を喪った和広は、行き場のない義母・タヅ(64歳)と
同居することに。やがて和広は新しい恋人・浅子とつき合い始めるが。
恋情作品には珍しく(笑)、ほのぼのとしたラストを迎える。

○「恋文」
本作は未読だったんだが、読んでみたらストーリーは知ってた。
過去に映画化とドラマ化がそれぞれ1回ずつあるので、
そのへんで目にしたのかも知れない。
美術教師・竹原将一は、かつての恋人・江津子が不治の病に倒れて
余命幾ばくもないことを知り、妻子を捨てて江津子の元へ走る。
将一の妻・郷子は二人を捜し当てるが、やがて江津子と郷子の間に
奇妙な友情が芽生えていく・・・という話。
作者はこれで直木賞を受賞したので、一般の人にとっては
”連城三紀彦の代表作” なのだろうが・・・
うーん、私はどう読んでも将一に肩入れができません。
こいつが目の前に居たら首を絞めてしまうかも(笑)。

○「裏町」
かつて付き合っていた女・萩江が経営する店に通う ”私”。
萩江が面倒をみている娘が最近ヤクザものと付き合っているらしい。
それは16年前の ”私” と萩江の関係と同じだった・・・

○「青葉」
嫁姑の関係に悩む ”私” は、、母に相談する。
しかし、姑を亡くして10年目になる母もまた
ある決断を下そうとしていた・・・

○「敷居ぎわ」
妻を亡くし、一人娘の直子も嫁に出し、定年退職した ”私” は
悠々自適の一人暮らし。しかし直子はまめに実家に顔を出してくれる。
しかしある日、実家にやってきた直子は
一向に夫の元に帰ろうとしないが・・・

○「俺ンちの兎クン」
TV局に勤務する航二は、家庭も顧みずに働いているが
ある日、中学生の息子・優が夜遊びを繰り返していることを知る。


「紅き唇」以降の作品は、犯罪的要素がほとんどない
非ミステリ作品なのだけど、物語の根底に潜む
男女の思惑が明らかになる過程はミステリ的で、
それがラストの切れ味につながっている。

巻末にはエッセイが9編収録されている。

「ボクの探偵小説観」「〈花葬〉シリーズのこと」「幻影城へ還る」
「水の流れに」「母の背中」「芒の首」
「哀しい漫才」「黒ぶちの眼鏡」「彩色のない刺青」
エッセイ集には、作者のプライベートなことも
かなり書かれていて、興味深い。
幼少期の作者の周囲を取り巻いていた様々な大人たち。
中でも、事業に失敗して後半生を廃人のように過ごしていた父、
その父に代わり、一家を支えて働き続けた母、そして
傷痍軍人やヤクザたちに不思議と可愛がられて育った少年時代。
そんなこんなが、成人後の作家活動に実を結んだのだろうと思う。

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