SSブログ

ゼロの日に叫ぶ 戦力外捜査官 [読書・ミステリ]


ゼロの日に叫ぶ: 戦力外捜査官 (河出文庫)

ゼロの日に叫ぶ: 戦力外捜査官 (河出文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/09/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

小柄で童顔、女子高生にも間違えられそうな風貌、
しかし実はキャリア組の警察官にして
警視庁捜査一課の警部、海月千波(うみづき・ちなみ)。
彼女の相棒にしてお守り役(笑)なのが
同じく警視庁捜査一課の巡査・設楽恭介(したら・きょうすけ)。
このコンビの活躍するシリーズの第3作。

開巻早々、千波がミニバンに乗った男たちに
連れ去られる場面から始まり、今回も波乱を予感させる。
拉致自体は恭介の働きですぐに解決するのだが、このエピソードで
千波と恭介のキャラ紹介と設定説明をしてしまうあたりは巧いものだ。

都内の牛丼屋に8発の銃弾が撃ち込まれ、
2人死亡、1人重体、重軽傷3名という凶悪事件が起こる。
死んだうちの1人は暴力団とつながりのある金融業者で
ヤクザ同士の抗争が原因かと思われた。

千波と恭介は葛飾区で起こったアパート火災の捜査に当たっていた。
放火の可能性が疑われたためだが、千波の ”拉致事件” のせいで
捜査の中心からは外されていた。

いわば ”戦力外” 扱いになってしまったわけで、
毎回、2人が冒頭で起こした ”へま” で捜査から外されてしまうのが
このシリーズのお約束。
しかし、いわばフリーハンドを得た2人の捜査が、
事件の中枢へとつながる筋道を見つけていく・・・というのもお約束。

物語は銃撃事件を追う刑事のチームと
放火事件を追う千波・恭介の、2つのラインで進んでいく。

一見して関係がないような二つの事件だが
千波と恭介は両者のつながりを、
そして東京を、いや日本すべてを揺るがせる陰謀を探り当てていく。


ミステリ的な犯人当てがメインの物語ではなくて
どちらかというとサスペンスたっぷりな展開。
終盤はほとんどパニック映画のノリになる。

1970年代あたりはいわゆる「パニック映画」全盛の時代だった。
「ポセイドン・アドベンチャー」とか
「タワーリング・インフェルノ」とか、懐かしいねえ。

でも現代では大津波も超高層ビルも必要ない。
作者は、意外で身近なものから、巨大な ”恐怖” を作り出してみせる。

1人の人間の心に宿った、すべての日本人への恨みの念が
終盤では日本全国の大混乱にまで限りなく増幅していく。
このあたりの風呂敷の広げ方も見事だと思う。

そして、その混乱を鎮め、
大惨事に至る前に立ち止まらせるのもまた、人の心。

この物語の収め方には、素直に感動を覚えた。
星の数が多いのもそれが理由。

nice!(3)  コメント(3) 
共通テーマ: