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カムパネルラ [読書・SF]


カムパネルラ (創元SF文庫)

カムパネルラ (創元SF文庫)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/02/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

恥ずかしながら、私は宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」については
よい読者ではない。実家には本があったし、
読んでいる(と思う)んだけど、内容は断片的にしか憶えていない。
おそらく読んだのは小学校の頃だろうから、もう50年も前。
憶えていないのも当然か・・・

さて、題名の「カムパネルラ」は、
その「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニの、親友の名前。
題名通り、本書は「銀河鉄道の夜」をメインに据えた
長編SF(ファンタジー?)である。


舞台はパラレルワールドの日本。時代は現代。
その世界では、”メディア管理庁” なる国家機関の下で、
国民に対して徹底的な言論統制が行われている。
テーマは「思い出そう、美しい日本」、内容は極右的な体制賛美だ。

文学作品をはじめとした芸術に対しても、大衆を誘導することを目的に
国家権力にとって都合のいい ”解釈” を押しつけようとしていた。

 現代の(こちら側の)日本のカリカチュアとしての
 作品世界の設定なのだろうけど・・・
 いまの日本についての見方はいろいろあるだろうが
 山田正紀の目にはそう見えているのかも知れない。

そんな世界に生きる16歳の ”ぼく” が主人公だ。
”ぼく” の母は宮沢賢治の研究に生涯を捧げた人で
「銀河鉄道の夜」には第四次改稿版があると出張していた。

 wikiで調べてみたら、「銀河ー」は多くの改稿を経ていて
 こちら側の世界で ”決定版” とされているのは第四次改稿版。
 つまり、”ぼく” の生きている世界では「銀河ー」は
 第三次改稿版までしか存在していない、とされていたのだ。

本書の中では、第三次改稿版は
「自己犠牲の精神を高らかに謳った内容」とされていて
国家権力にとっては誠に都合がいい。
逆に言うと、それを大幅に改稿してしまった第四次改稿版は
存在自体が邪魔になる。
第四次改稿版の存在を主張し、その所在確認をしようとしている
”ぼく” の母もまた体制からは目障りだ。

かくして ”ぼく” の母はメディア管理庁に連行され、
長期拘留の中で命を落としてしまう。

とまあ長々と書いてきたが、これは本書の開始以前の状況説明だ。

物語は、”ぼく” が母の遺言に従い、花巻で散骨するために
遺骨を持って新幹線に乗るところから始まる。

ところが花巻に着いた早々、激しい雷雨に見舞われる。
そして ”ぼく” は、いつのまにか過去の世界へと
転移してしまっていたことに気づく。
日付は昭和8年9月21日、宮沢賢治の死ぬ2日前だった。

いまなら賢治の死を阻止できるかも知れない・・・
と思った ”ぼく” は賢治の家へ向かうが・・・

と書いてくると、タイムスリップによる歴史改変ものかと思わせるが
物語は全然違う方向へ進むのだ。

賢治の家で出会ったのは、死んだはずの賢治の妹・トシ、
そしてトシの娘・さそり。

 すごいネーミングだが、「銀河ー」の中のエピソードから
 採られている名前だ。

さらには、花巻の街には宮沢賢治作品の登場人物が
”現実の人間” として存在して生活している。

”ぼく” もまた、周囲から ”ジョバンニ” と呼ばれるようになり、
挙げ句の果てには ”カムパネルラ殺し” の犯人として
警察から追われる羽目に・・・

単なる過去ではなく、いわば宮沢賢治の内面世界みたいな
ファンタジー的な設定で物語は進んでいく・・・


それなりに興味をつなぐので最後まで読み終えることができたが
どうにももやもやしたものが残る。

いろいろな謎も提示されるのだけど、SFミステリというわけでもなく
宮沢賢治の内面世界に見えたものも、実は ”ぼく” の内面世界。
いわば精神世界の中なのでどんな展開も解釈も可能だ。

ラスト近く、さまざまな ”謎” の解明が語られるんだけど
いまひとつよく分からないし、納得できる部分が少ない。

ま、私のアタマがついていけなかった、ってオチなのかも知れないが。


山田正紀は20代でデビューして、
初期の長編はSF性とエンタテインメント性が
ほどよく融合していて、実に面白かったし
非SFの冒険小説も外連味たっぷりで抜群の楽しさだった。

年齢を重ねると、書くものも変わってくるのは仕方がないとは思うけど
そんな作品群を知ってる身からすると、やっぱり寂しいなあ。

あの頃と同じようなものを書けとは言わないけど
もうちょっとわかりやすい話を書いてくれると助かるなあ・・・
って思いました(笑)。

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