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幻肢 [読書・ミステリ]


幻肢 (文春文庫)

幻肢 (文春文庫)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

wikiによると、タイトルの幻肢(げんし)とは、事故や病気が原因で
手や足を失ったり、生まれながらにして持たない患者が、
存在しない手足が依然そこに存在するかのように感じることを指す。


吉祥寺医科大学に通う学生・糸永遥(はるか)は、
自動車の運転中に交通事故に遭ってしまう。
そして、大学病院で目覚めた彼女は記憶を失っていた。

”親友”・彩(あや)の介助を受けながら受けた治療により、
断片的に記憶は戻ってきたものの
事故前後の記憶は杳として不明なままだった。

遥には雅人という恋人がいた。
彼女が事故に遭ったとき、雅人も同乗していたという。
しかし事故以降、雅人は姿を見せない。

彩に尋ねても、
「私の口からは言えない。あなたが思い出さなければいけない」
と答えるばかり。

ひょっとして、雅人は死んでしまったのではないか・・・

一人悩む遥は、やがて鬱病を発症してしまい、
治療のためにTMS(経頭蓋磁気刺激法)を受けることになる。

 このTMSという方法は実在のもので、wikiによると
 頭部に電磁石を近づけ、頭蓋骨内に磁場の変化を起こすもの。
 それによって脳内の特定部位に弱い電流を誘起させ、
 脳内のニューロンを刺激する方法らしい。

しかし遥は通常のTMSだけではなく、さらなる ”効果” を願って
医師の目を盗み、磁界で刺激させる部位を勝手に変更してしまうのだ。
(彼女自身が医大生で、それなりの知識はあるのだ)

しかしそれが原因なのか(どうかはわからないが)
その直後から、彼女の前に ”雅人の幻” が現れるようになる。

喜んだ遥は、幻の恋人・雅人と言葉を交わし、同じ時間を過ごし、
どんどんのめりこんでいくのだったが・・・


近年、島田荘司作品に多い、いわゆる ”脳科学” もの。
主役となる人物が見る、不思議な、あるいは現実離れした光景を
脳の働きと関連付けてミステリ化していくものだ。

本作でも、遥が見る幻の裏には、ある ”仕掛け” が潜んでいる。
最後には、遥の引き起こした ”事故” の全貌も含めて
すべて明らかになり、遥自身の物語上の着地点も定まるのだけど・・・

語り口もわかりすくて、かつ読みやすい文章で、とりあえず最後まで
興味を失わずに読み通せたんだけど、どうにもすっきりしないんだよねえ。
いろいろ考えたんだけど、遥を含めて登場人物たちの言動に
納得いかない部分が少なくなくて・・・

このラストに「うーん、これでいいのかなぁ?」って
疑問を感じる私がいる。


余計な話だけど、本作は映画になっている。
というか映画のために書き下ろした話らしいんだけど・・・
なんでこの話なのだろうね。
島田作品にはもっと面白い原作がたくさんあるだろうに。

映像向きの大がかりな物理トリックを使った作品も多いのにね。
まあ、マニアックすぎて一般受けしないのかも知れないが(笑)。

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