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鍵のかかった部屋 -5つの密室- [読書・ミステリ]


鍵のかかった部屋 5つの密室 (新潮文庫nex)

鍵のかかった部屋 5つの密室 (新潮文庫nex)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/08/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

ミステリの王道パターンに「密室」がある。
”内側から鍵がかかっていた” など、人の出入りができない状況下で
事件が起こる、っていうものだ。

古今東西、多くの作品が書かれたし多くのトリックも考案されてきた。
そして、たいていどの作品でも、密室に出くわした登場人物たちは
まず「糸(または紐)を使って外から施錠したのではないか?」って疑う。
もちろん、そんな陳腐なトリックは使われていない、と
最初に否定されてしまうのがお約束なのだが・・・

その「糸と鍵のトリック」を組み込む、という ”縛り” で
書かれた作品を集めたのがこのアンソロジー。

まさに「その発想はなかった」(笑)という作品集だ。


「このトリックの問題点」似鳥鶏
大学のミステリ研会長の滝は、
ミステリの新人賞への応募原稿を書き上げた。
しかしその原稿がワープロのデータ共々盗まれてしまう。
さらに現場となった滝のアパートは密室状態だった。
集まったミステリ研のメンバーたちによる推理が始まったが・・・
密室をつくり原稿を盗んだ犯人である ”俺” による倒叙形式で、
なんとかメンバーたちの推理を自分の都合のいいように
誘導しようとする過程も面白い。

「大叔母のこと」友井羊
大叔母・富士子が亡くなり、遺品の整理に訪れた美奈。
しかし大叔母の家には鍵のかかった部屋があり、
”閉ざされた扉を開けられた方には、素晴らしいものを差し上げます”
という謎の置き手紙が。
美奈は恋人の奏太とともに富士子の過去を調べ始めるが・・・
50年前からの因縁が意外な形で現在につながり、
ラストはほのぼのとハートウォーミング。

「神秘の彼女」彩瀬まる
大学の男子学生寮で暮らす玄馬隆一郎(げんま・りゅういちろう)は
”春” と名乗る女の子とSNSでメッセージ交換を始める。
しかし、ある日突然 ”春” は「ありがとうございました」という
メッセージを残して連絡を絶ってしまう。
そんなとき、学生寮の玄馬の部屋に ”黄金の盧舎那仏” が現れる(笑)。
部屋は内側から鍵がかかっていた密室だったが
玄馬は盧舎那仏の出現を見て ”春” を探し出す決心をする・・・
ミステリ的な興味もあるけれど、
大学生の男子寮内のカオスぶりの方が読んでて楽しいかな(笑)。
 ”春” ちゃんの正体もかなり意外。なかなか健気な子でしたね。

「薄着の女」芦沢央
女優の朝比奈ユリは元・愛人の高嶋大和をロケ先のホテルで殺害する。
現場に密室工作を施すが、十時(ととき)柿三郎と奥平琴子の刑事コンビが
さながら「刑事コロンボ」みたいにユリを追い詰めていく・・・
二人の刑事のキャラが立っていて、会話が楽しい。
ミステリ的にも面白いけど、
最後のページの最後の2行は反則でしょう・・・

「世界にただひとりのサンタクロース」島田荘司
京都大学で研究していた御手洗潔は、
榊楓(さかき・かえで)という受験生に出会う。
11年前、楓が8歳のクリスマスの日、
彼女の母親は自宅寝室で絞殺され、父親は電車へ飛び込み自殺を遂げた。
しかし彼女の自宅は当日密室状態にあり、
そしてなぜか、楓の部屋の前の廊下には
彼女が欲しがっていたおもちゃのプレゼントが。
その日、サンタクロースがやってきたのだと楓は信じていたのだが・・・
比較的若手の作家さんのアンソロジーなんだけど
トリにはミステリ界の重鎮というか御大の登場。
もちろん密室だけでなく、当日の夜に目撃された
異様な光景の謎も含めて、御手洗の頭脳が解決する。


ミステリなのだから、密室トリックも大事なんだけど
それに加えて物語性も豊かでないと面白い作品にはならないんだね。
本書に収録の5作はみなそれをクリアしてる佳作揃いだと思う。

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