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リボルバー・リリー [読書・冒険/サスペンス]


リボルバー・リリー (講談社文庫)

リボルバー・リリー (講談社文庫)

  • 作者: 長浦 京
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/03/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

優れた冒険小説・ハードボイルド小説に与えられる大藪春彦賞。
その第19回(2016年)受賞作が本書である。


細見慎太(ほそみ・しんた)は13歳。
11歳の弟・喬太(きょうた)とともに、一家で東京に暮らしていたが
関東大震災(大正12年)を機に秩父へ移り住むことになる。

通い始めた学校では激しいいじめに遭う二人だが
移住先で出会った元・陸軍の国松と、彼の ”相棒” である狼のルパが
心のよりどころとなっていた

だがそんな日々は一変する。
兄弟の住む家を謎の集団が襲い、慎太の家族は惨殺されてしまう。

辛うじて難を逃れた慎太は、襲撃の直前に父から託された書類を胸に
国松を頼るが
追っ手はそこにも迫ってくる。

国松は慎太に1枚の写真を見せる。
「この女を頼れ。名は小曽根百合(おぞね・ゆり)」

かつて特務機関で訓練を受け、東アジアなどで
3年間に50人以上の殺害に関わった、冷酷非情にして美貌の諜報員。
人呼んで「リボルバー・リリー」、それが百合だ。
いまはスパイから足を洗い、東京で娼館を経営していた。

慎太の父は、陸軍の秘密資金の運用に携わっていた。
託された書類には、資金の在処とその引き出す方法が記されている。

熊谷に逃げ延びた慎太は百合と合流するが、
動員された陸軍部隊と、賞金に釣られたヤクザが執拗に二人を追う。

二人は追っ手との間に激しい銃撃戦を繰り返しながら
列車・トラック・舟と乗り継ぎつつ、東京を目指していく・・・


文庫で630ページを超える大部だが、展開のテンポは速く、
ダレることなくどんどんページをめくっていくことができる。

慎太のストーリーと並行して、
百合の生い立ちから、凄腕の暗殺者になるまでの成長と、
彼女がその道を外れる契機となった出来事が綴られていく。
百合が幼子を喪っていることはかなり早くから明かされているのだが
そのくだりを読むとやはり心が痛む。

一方、慎太も生母とは幼い頃に別離しており、母の記憶がない。

百合に守られながらの逃避行を続けるうちに、
慎太は彼女を守れるような存在になりたいと願うようになる。
本書は13歳の少年の成長の物語でもある。

 ここまで書いてきて
 「どこかで見たようなシチュエーションだな」と思ったんだけど、
 これは「銀河鉄道999」だね。ファンタジー要素は全くないが(笑)。
 「999」からファンタジー成分を抜いて、
 思いっきりガンアクションとサスペンスを盛り込んだら本書になる。

国家機関を相手にした戦いなので、
二人には全く勝ち目がなさそうなんだけど
中盤過ぎに、ある ”歴史上の人物” がストーリーに登場し、
二人に「終着点」を示す。東京都内の、”ある場所” だ。
百合と慎太が、無事にその「終着点」へたどり着けたら ”勝ち”。
ただし、その ”人物” は、
二人には一切の助力はしないという条件付きだが。

そして、陸軍もそれは十分承知。
かくして、終盤のクライマックスは
帝都・東京を舞台にした壮絶な銃撃戦となる。

圧倒的な物量と人員をもって迎え撃たんとする ”敵” に対し、
たった二人の戦いが始まる・・・


星の数でも分かると思うが
本書は現時点での「今年読んだ本 第1位(暫定)」である。
作者は本書がデビュー2作目なのだという。たいしたものだ。
惜しむらくは寡作なことだけど、いろいろ事情があるみたい。
自分のペースで良作を発表していってほしいなあ。


さて、どうでもいいことなんだけど、
秩父、熊谷をはじめ本書の前半は埼玉県が舞台になっている。
ちなみに作者は埼玉県生まれらしい。

しかし、関東在住でも埼玉県の地理に詳しくない人は多かろう。
まして関東以外に住んでる人には、百合と慎太が辿るルートの
位置関係はさっぱりわからないだろう。
でも、この文庫版には地図はついてないんですねぇ。
まあ、なくても物語を楽しむのには支障はないとは思うけど。

でもやっぱり、地図くらいはつけてほしいなあ・・・
埼玉県ってやっぱり迫害されてる?(笑)

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