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トネイロ会の非殺人事件 [読書・ミステリ]

トネイロ会の非殺人事件 (光文社文庫)

トネイロ会の非殺人事件 (光文社文庫)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★

SFとミステリの両方を書く作家さんは洋の東西を問わず存在してる。

まず思いつくのはアイザック・アシモフだろう。
メインはSFの人なんだろうけど、純粋なミステリも書くし、
SFのほうにもミステリ仕立てのものが結構ある。
『鋼鉄都市』などのロボットもの長編がそうだったし
『ファウンデーション』シリーズにもミステリ的な仕掛けがあったり。

日本だとけっこうたくさんいると思うんだけど、
私がまず思いつくのは山田正紀かなあ。
もっともこの人は冒険小説やファンタジーも書く人で
どの分野でも傑作を産んでいるというすごい作家さんだ。

閑話休題。


小川一水はSF作家が本業なのだけど、
彼が書いたミステリ作品を集めたのが本書。
本書に収められた話は、ミステリ専業の人が書くものとは
雰囲気がいささか異なるみたいだ。

「星風よ、淀みに吹け」
JSA(日本宇宙機構)が地上に建設した閉鎖環境長期滞在実験施設。
将来の月面基地建設の技術獲得のため、そして
基地滞在要員養成のための訓練施設を兼ねている。
6人の人間が参加し、8ヶ月間この施設の中に籠もって生活する
滞在実験が行われた。この6人から2人が選抜され、
月基地要員となる。この実験は選抜試験の要素も含んでいる。
そして長い訓練期間が終わろうとしたとき、メンバーの一人が死亡する。
施設の最下層で、そこに滞留した高濃度の二酸化炭素の中で
窒息死していたのだ(二酸化炭素は空気より重い)。
現場の状況から、事故ではなく殺人と思われた・・・
密閉された施設なので、犯人は残った5人の中に必ずいる。
SF的設定ながら典型的なクローズト・サークルものでもある。
終盤に明らかになるトリックは、読者の盲点を突くもの。
堂々たる本格ミステリで、複数のミステリ・アンソロジーに
収録されたのも頷ける。

「くばり神の紀」
母を亡くした石沢花螺(から)は、老人向けデイサービスセンターで
住み込みで働きながら高校へ通っている。
彼女の母は資産家・伊瀬山礼三(れいぞう)の愛人で、
花螺自身は、今まで一度も父である礼三に会ったことはなかった。
しかしその礼三が危篤状態にあると聞き、ひとめ顔を見ておこうと
彼が住む豪邸・橡(くぬぎ)屋敷を訪れる。
ところが臨終の直前に、礼三はその橡屋敷を
周囲に集まった親族を差し置いて、花螺に譲ると言い出して事切れた。
後日、花螺のもとを訪ねてきた多岐(たき)という男から、
「あれは ”くばり神” だ」と告げられる。
この地方に住む資産家に起こる特有の現象で、
心臓が停止した直後に突然喋りだし、財産を周囲にいるみんなに
配ってしまう大盤振る舞いをするのだという。
”くばり神” には、何らかのからくりがあるとみた花螺だったが・・・
ホラーっぽい発端から始まり、謎の要素はあるのだけど
手がかりから推理を積み重ねるという流れではなく着地点はSF。
”くばり神” 現象についても科学的な仮説が提示されるのだけど
どちらかというと『ウルトラQ』か『怪奇大作戦』みたいな決着。
真相はかなり不気味なのだけど、語り手の花螺ちゃんが
明るく元気なお嬢さんなのでそのあたりがうまく緩和されてる。

「トネイロ会の非殺人事件」
一代一人(いちだい・かずと)は悪人だ。
弱り、落ち込んだ人に寄り添うふりをして心の中に忍び込み、
その秘密を握るや、一転して恐喝者となる。
彼の毒牙にかかった者はおびただしい数に上る。
そんな中、被害者となった者たちのうち10人が集まって
復讐計画を立案した。すなわち一代一人の殺害である。
彼をペンションに呼び出し、10人全員で殺害することにしたのだ。
そして首尾良く彼の殺害に成功した翌朝、実は10人の中に
手を下さなかった者がいることが判明する。
裏切ったのは誰か。メンバーたちは、彼らの中に潜む
”非犯人” を探し出すべく、推理を巡らせ始める・・・
まず、どうやって10人全員が均等に殺人に加わることがきるのか。
ここは作品の根幹に関わるところなので、
ユニークで風変わりな殺害方法が示されてる。
ミステリとしては逆転の発想の ”非殺人犯” を見つける話なんだが
事態は意外な方法へ進んでいく・・・
ラストはハッピーエンドのように思わせるが、よくよく考えると
けっこうブラックで怖いエンディングだったりする。
トネイロ会の ”トネイロ” ってどんな意味があるのかと思ったが
解説にヒントがあったのでわかったよ。
分かってしまえば「なるほど」な命名でしたね。

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