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シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 [読書・ミステリ]

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA)

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 高殿 円
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/12/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

ホームズ&ワトソンと言えば、古典ミステリの最高峰にして
おそらく知らない人を捜すほうが難しいほど有名なコンビだろう。
そしてパロディやパスティーシュもまた星の数ほど書かれている。
本書もそれに連なる1冊だ。

作品年代を、原典での19世紀末からおよそ130年後の現代に設定し、
さらに主要人物の性別をすべて入れ替えている。

 とは言っても、原典でのレギュラーメンバーは
 ほとんど男性だったので、本書ではそれがすべて
 女性に置き換えられているというわけだ。

2012年、ロンドンオリンピック開催中のイギリス。
アフガン紛争に従軍し、負傷して除隊となった
メアリー・ジョセフィン・ハリエット・ワトソン(愛称ジョー)
元大尉(31歳)は、帰国して再就職の道を探していた。
しかし訪れた病院で採用を断られ、その日の宿にも困った彼女は
病院のモルグ(死体安置所)へ潜り込む。
戦場暮らしを経験しただけあって、遺体の横で眠ることも平気らしい。

しかしそこには先客がいた。
ジョーを一目みるなり彼女が帰還兵であること、
病院へ採用面接にきて落ちたこと、さらに
今までの経歴や交友関係をたちどころに言い当ててみせた妙齢の美女。
(ここは原典でも有名なシーンをしっかり再現している。)
彼女こそ、シャーリー・ホームズ(27歳)その人。

なぜかモルグの中で馬術服を着ていたシャーリーだが、
実はオリンピックの馬術競技に出場することになっていて、
そのまま会場へ行ってしっかり金メダルをとってしまうのだ(おいおい)。

そんな出会いを果たした二人は、そのままシャーリーが暮らす
ベーカー街221Bで、ルームシェアをして同居することになる。

シャーリーの仕事は顧問探偵。興信所や警察が持ち込んでくる
事件の捜査と解決にあたっている。
そんなところへ、スコットランドヤードのレストレード警部が
事件を持ち込んでくる。
ロンドン市内で、ほぼ同時刻に全く同じ方法で4人の女性が殺された。
年齢も国籍も場所もバラバラでまったく共通点がない。
怪事件の捜査に乗り出したシャーリーだが・・・


現代を舞台にするだけあって、各キャラクターもそれに合わせて
アップデートされてる。

まず、語り手であるジョーはいかにも現代的なアラサー女性。
恋に仕事に思うがままに生きてきたが、最近になって
このままでは嫁(い)き遅れるんじゃないかとの焦りも出始めている(笑)。
実はアフガン時代に凄絶な経験をしたことが示唆されているのだが、
そのへんの事情は次作以降に明かされるのかも知れない。

そして「僕には心がない」と述懐するシャーリー。
原典のような変人というよりは、最新IT機器を手足のように使いこなし
感情を排して合理的な思考のもとに行動する人、というイメージ。
移動に使うベントレー・コンチネンタルだってAIによる自動運転だし。
とはいっても「私は○○だからブラジャーをつけない」までいくと
ちょいと極端だが(爆)。

シャーリーの姉・ミシェールは原典通り英国政府の高級官僚だが
中身はとんでもない○○○で(詳しくは巻末の番外編で語られる)、
スコットランドヤードのグロリア・レストレード警部はシングルマザー。
さらに、221Bの大家さんである「ミセス・ハドソン」がまた
ぶっ飛んだ設定なのだが、これは読んでのお楽しみだろう。

そして、ホームズとくればもちろんあの宿敵も欠かせない。
今回の事件の黒幕は、数学者にして天才的なプログラミングの才を持つ
ヴァージニア・モリアーティ教授。
しかも、モリアーティとシャーリーは意外な一点において
大きな関わりをもっていることが明かされる。

そしてそして、最後に2ページだけ割かれたエピローグ。
うーん、これは後を引くなあ・・・続きが読みたくなる。


「シャーリー・ホームズとディオゲネスクラブ」

巻末に収録された、文庫で40ページほどの番外編。
ボーナストラックというところか。
本編では姿を見せなかったミシェール・ホームズがジョーの前に姿を現す。これがまた、妹とは違った方向に振り切れてしまっている人で・・・


本書はミステリとしてより、強烈な個性を持ったキャラたちが織りなす
ドタバタ・アクション・ストーリーとして読むのが正解じゃないかなぁ。

現在のところ、続巻は出ていないみたいなのだが、
これはぜひ続きを読みたいなぁ。お願いしますよ。

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