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ヒクイドリ 警察庁図書館 [読書・ミステリ]


ヒクイドリ 警察庁図書館 (幻冬舎文庫)

ヒクイドリ 警察庁図書館 (幻冬舎文庫)

  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/10/09
  • メディア: 文庫
評価:★★

日本にはスパイ組織は存在しない。建前上は。
実際のところは知らないけど(笑)。
でも、フィクションの世界では古くから存在している。

私が若い頃に読んだ本では ”内閣調査室” なんてのがよく出てきたなあ。
実際のところ、どの程度のことやってたのかは分からないけどね。
ちなみにwikiによると、今は ”内閣情報調査室” って改名されてるみたい。

近年だと福井晴敏の ”DAIS” なんてのもあったね。
こっちは自衛隊の特殊部隊で、派手なドンパチもこなす。

閑話休題。


本書のタイトル「図書館」は、library という意味ではない。
警察庁長官直属の非公然諜報組織のことで、
”ヘカテ” という別名でも呼ばれている。

そしてややこしいことに警察庁長官直属の非公然諜報組織というのが
もう一つ出てくる。こちらは ”アサヒ” って名前がついてる。

目的も同じで(だってどっちも警察組織なんだからね)、最大の敵は
武力革命によってマルクス・レーニン主義実現を標榜する社労党。
そして社労党が警察組織内に送り込んだ潜入スパイの摘発だ。
今作での標的は、コードネーム「アプリコット」と呼ばれる大物スパイ。

ところが ”図書館” と ”アサヒ” は仲が悪い。設立の発端から異なる上に
指揮系統も全く別で、近親憎悪というか同族嫌悪というか
隙あらば相手を叩き潰そうと激しい権力抗争を繰り広げている。
前述した「アプリコット」の摘発も、
その功績によって相手組織より優位に立ち、予算も人員も獲得して
最終的に相手組織を排除してしまおうという目論見がある。

このあたりが冒頭で語られるのだが、メインのストーリーは
一見してこんな状況とは全く関係なさそうに進行する。


山蔵県警能泉(のうせん)署の管内で、連続放火事件が発生する。
燃やされたのはいずれも小さな駐在所だが、共通点は
能泉署の刑事次長・佐潟(さかた)警視が
現場に臨場できる日に起こっていること。

犯人は女性警察官の諏訪菜々子であることが早々に明かされる。
彼女は警察学校卒業後、2年足らずで刑事として抜擢されるが
そこで上司であった佐潟と不倫騒ぎを起こし、
交番勤務へと左遷されていた。

彼女が放火をするのは、臨場してくる佐潟と一目会うため。
とんだ「八百屋お七」なんだが、その菜々子に
警察学校時代の恩師・清里警部補が接近してきて、ある提案をする・・・


菜々子、佐潟、清里以外にも多くの人物が登場する。
菜々子の警察学校時代の同期で、かつては恋人でもあった黒瀬をはじめ
さまざまな階級の警官たち、知事・副知事などの政治家・官僚。

上述のように、その中には当然ながら ”図書館” のメンバー、
”アサヒ” のメンバー、そして「アプリコット」本人も含まれる。
いったい誰がどこの陣営に属しているのか、
狩る者・狩られる者の区別も判然としないまま
2つの組織間ではドロドロな権謀術数が渦を巻いてゆく。


そしてそして、さらにややこしいことに
この作品は本格ミステリでもあったりする。
つまり、”一発逆転で予想外の真相” ってものが
最後の最後に待ち構えているわけで・・・

実際、ラストの展開は十分に意表を突くもので、
人間不信になりそうなオチでした(おいおい)。


また、ミステリとしての興味以前に ”図書館” と ”アサヒ” の間の
そのあまりにも濃密な陰謀劇にいささかゲンナリしてしまう。

登場人物間の関係が ”欺し/欺されがデフォルト” というは
私にとっては読むのがかなり辛いものがありますねえ。
そして、たぶん私のアタマが悪いせいで、幾重にも張り巡らされた
”謀略の罠” に、途中でついていけなくなってしまったのでしょう。
だんだん「もうそんなのどうでもいい」って気になってしまった。

「あんたら、いつまでそんな不毛なことやってるの?」
「そのエネルギー、もうちょっと建設的に使えないの?」
「そんなことに血道を上げさせるために税金払ってんじゃないよ」

読後に私のアタマの中をよぎったのはそんな思い。
評価の星の数が少ないのもそのあたりが理由。

スパイもの、謀略ものが大好きな人には大受けするのかも知れないが。
人によってかなり好き嫌いが分かれる作品なのではないかな。

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