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鍵のかかった男 [読書・ミステリ]

鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)

鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビが活躍する
シリーズの長編。今回は文庫で700ページ超という堂々のボリューム。


某新人賞の授賞式パーティーに出席した有栖は、
そこでベテラン歴史小説作家・影浦浪子から呼び出される。

浪子が大阪での常宿にしている中之島の銀星ホテル。
1月13日の朝、そこで宿泊客の梨田稔(69歳)の死体が発見された。
彼は銀星ホテルのスイートルームに5年間住み続けていた。

遺体の状況から、警察は自殺と判断しているが
生前から彼と交流のあった浪子にはそれが納得できない。
彼の死の真相解明を、有栖を通じて火村に依頼したいのだという。

しかしあいにく時期は1月下旬。大学入試の真っ最中である。
火村自身も入試業務に忙殺され、とてもそんな時間はとれない。
そこで火村に代わって有栖が調査に臨むことになる。

対象は事件当日の宿泊客たち、そして
ホテルのオーナー・桂木美菜絵とその夫で支配人の鷹史(たかし)。
銀星ホテルは5階建てのこぢんまりとした作りで
二人は最上階のペントハウスに居住している。
さらにホテルで働く従業員たち。
防犯カメラの映像から、もしも殺人ならば
犯人はこの中にいると思われた。

しかしいちばんの謎は動機。そして被害者の背景だった。
ホテルのスイートに住み続け、預金が2億円あったという。
しかし常連客や従業員たちとも打ち解け、愛される存在だった。
日常生活では公園の清掃、悩みの電話相談、病院の患者のケアなど
いくつかのボランティアを掛け持ちする。
およそ他人から恨みを買うような要素は皆無。
もし殺人だとしたら、動機は彼の過去に潜んでるのかも知れない。

天涯孤独で、5年前にホテルに現れるまでの過去が
全くの空白である、まさに ”鍵のかかった男”・梨田。
有栖は火村のアドバイスを受けながら、彼の過去を探っていく・・・


本格ミステリは、発端の事件からラストの解決編までの間、
いかに読者の興味をつなぎながら読ませていくのかがキモだと思う。
トリックもロジックも大事だけれど、
実はストーリーも負けず劣らず大事なものだろう。

有栖川有栖という作家さんは、終盤のロジック展開は
いつもながら折り紙付きの見事さを示すけど、
捜査の途中を上手く読ませる名手だとも思ってきた。
本書はその ”能力” が遺憾なく発揮された作品だと思う。


ミステリ作家とはいえ探偵業ではずぶの素人である有栖が
火村の仲介で事件の捜査をした刑事と接触を始め、
さらに宿泊客・従業員たちへと聞き込みを広げていく。

最初はさっぱり進展せずに雲を掴むような状態が続くが
聞き出した事実が積み重なっていくにつれて
薄皮を一枚ずつ剥がすように、梨田という男の
意外かつ驚くべき半生が次々と明らかになっていく。
もちろんそれには、途中から参加してくる火村の存在も大きいが。

そしてそこまでで500ページ近い分量を費やすのだけど
退屈さは全くなく、読者を導いていく。

そして終盤、いよいよ火村がホテルに乗り込んでいくのだが
関係者の漏らした一言から一気に真相解明に至る流れは流石だ。

梨田の秘めた心情が明らかにされるラストでは
思わず目頭が熱くなってしまったことを書いておこう。

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