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十二人の死にたい子どもたち [読書・ミステリ]

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

  • 作者: 冲方 丁
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

いま、本書を原作とした映画が公開されてるけど
それに便乗して書いたわけではない。
過去にも書いたけど、基本的に読了順に記事にしている。
読書記録を見ると、本書を読み終わったのは去年の11月29日。
しかしながら、現在でもまだ記事にしてない本が27冊も溜まってる。
(本書は28冊目だったわけだ。)
片っ端から記事に書いてるんだがなかなか減らない。
だから今日upしたのもたまたま時期が合ってしまっただけ。
とはいえ、タイミング的には良かったのかなぁ。

閑話休題。

映画『十二人の怒れる男』(1957年・アメリカ)を
観たのはいつだっただろう。
もちろんリアルタイムに映画館で観たのではない。TV放送である。
たぶん中学校時代のいつかだと思うのだが。

父親殺しの罪に問われた少年が裁判にかけられる。
証拠や証言は少年にとって圧倒的に不利なものばかり。
12人の陪審員の下す評決は全員一致で有罪かと思われたが
ただ一人、少年を無罪とする陪審員がいた。
彼の主張により、陪審員たちは証拠の再検証に入る。
そして喧々諤々の大激論を通じて、有罪を主張していた陪審員たちが
一人また一人と無罪へと転じていく・・・ってストーリー。

ほとんどが裁判所内の一室で進行する作品で、
登場人物の台詞の応酬だけで
ものすごい緊迫感を醸し出している作品だった。
今でも憶えているくらいだから、さぞ強烈な印象を残したのだろう。

実際、この作品は映画化もドラマ化も複数回されていて、
さらには舞台化もされているようなので評価は折り紙付きなのだろう。


さて、「十二人の死にたい子どもたち」である。

廃業した総合病院の地下一階、多目的ルームに
一人また一人と集まってくる子どもたち
いずれも13歳から16歳ほどの、総勢12人。

名前は到着順に
サトシ、ケンイチ、ミツエ、リョウコ、シンジロウ、メイコ、
アンリ、タカヒロ、ノブオ、セイゴ、マイ、ユキ。

彼らは自殺サイトを通じて知り合い、
ある目的を実行するためにやってきたのだ。
その目的とは安楽死。
すでに全員の遺書とサイトへのアクセスログが
クラウド上に保存されており
自殺を決行した後、世間は彼らの思いを知ることになる。

多目的ルームには彼らの数だけすでにベッドが用意され、
死ぬための方法も準備されていた。
しかしそこにはなぜか13台目のベッドがあり、
既に一人の少年の死体が横たわっていたのだ。

彼らの間には、事前に取り決めがあった。
集団自殺を決行するには、全員一致で賛成の意思表示があること。
だが、参加者の中から一人、反対の声が。

この集まりが事前に漏れていたのか?
死んでいた少年は誰か?
誰が殺したのか?
殺人なら、犯人はどこにいるのか?
この12人の中にいるのか?
このまま集団自殺を決行したら、
犯人の汚名を着せられたまま死んでゆくことになるのではないか?

当然ながら、そんなことは関係ないので即刻実行すべし、
という意見の者が大半。
しかし全員一致のルールの下、
子どもたちは死を目前にしながら、議論を始める。

その中で次第に明らかになっていくのが各自の抱える事情、
そして自殺を選んだ理由。
自分自身に原因がある場合もあるが、それ以上に
親を含めた周囲の環境に追い詰められている子どもも多い。
これは胸が痛む。
充分すぎるほど過酷な状況を抱えた者もいれば、
呆れかえってしまう理由で安易に(もちろん本人はそう思ってないが)
ここにやってきた者も。

12人のキャラの書き分けも巧み。
男女6人ずつ、思慮深い子もいれば軽薄を絵に描いたような子も。
自律している子もいれば、他人に依存して生きてきた子も。
優等生も跳ねっ返りもいて。
見事にキャラかぶり無く描き出している。

ほとんどの物語は多目的ルームという一室の中で進行する。
ここで交わされる子どもたちの丁々発止の台詞の応酬。
さらに、12人の間でも新たな ”事件” が起こり、
犯人がどこかに潜んでいることも確定する。

物語の進行にあわせて、次第に発言力を発揮し始めるのが
シンジロウとアンリ。
特にシンジロウは卓越した洞察力を示し、本書においては
探偵役に近い立ち位置を与えられて、物語を進行させていく。
そしてアンリは、シンジロウに勝るとも劣らない論客で
この二人の対決もまた読みどころ。
もちろんこの二人以外も要所要所できっちり存在感を示して
キャラの交通整理も見事だ。

文庫で470ページあまりという長丁場を、ほぼ会話劇だけで進行させて
読者を飽きさせず、サスペンスを維持しながら読ませる。
この筆力は半端ではない。
巻末の解説で、作者は構想に12年かけたと言ってるらしいが、
納得の出来だ。

本作は冒頭に挙げた『十二人の怒れる男』を
下敷きにしているのは明らかで、
ならばラストはどうなるのかはある程度見当はつくのだが、
果たしてそこまで持って行けるのか。
私の方が心配になってしまったくらいだが、杞憂だったよ。

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