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夏のロケット [読書・青春小説]


夏のロケット (文春文庫)

夏のロケット (文春文庫)

  • 作者: 川端 裕人
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2002/05/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

新聞社で科学部に所属する記者・高野は、
過激派のアジトが爆発した事件を扱うことになった。

原因はミサイルの密造らしいが、現場から発見された破片から
精密な誘導装置や噴射制御の技術を持ち込んだ
高度で本格的なものだったことが判明する。

高野は高校時代、天文部のロケット班に入り
火星到達に憧れる仲間たちと共に、ロケットの打ち上げを目指していた。
しかし、打ち上げには成功しないまま卒業の時を迎え
仲間はそれぞれの進路へとバラバラになった。

斑のリーダー的存在だった北見は押しが強い体育会系。
いまは一流商社で宇宙事業部に配属されている。

仲間から「教授」と呼ばれていた日高は大学で航空宇宙工学を専攻、
大学院を終えて宇宙開発事業団の研究者となった。

手先が器用な職人肌の清水は大学で材料工学を専攻、
大学院を終えて大手特殊金属加工メーカーの研究者となった。

そして秀才だった氷川は、親の後を継いで医者になるはずが、
なんとロックミュージシャンに転身、ミリオンヒットを連発して
いまは芸能事務所の社長に収まっている。

高野は、事件について助言を請うために日高に連絡を取ろうとするが
彼は配属先の種子島宇宙基地から失踪していた。

やがて高野は、日高たち ”旧ロケット班” の仲間が密かに集まり、
衛星軌道へのロケット打ち上げを目論んでいることを知る。
うまくいけば、民間で初のロケット事業の立ち上げになる。

同僚の純子とともに、彼らの ”プロジェクト” に
協力することになった高野だが、
過激派が密造していたミサイルに使われていた技術は
日高から流出したものではないか、
との疑惑を持った警察も、彼の行方を追っていた。

”旧ロケット班” のメンバーたちは
太平洋の無人島に集まって計画を進めることになる。
氷川が資金を提供し、北見が必要物品の調達と補給を担当、
日高と清水がロケットの製作にあたる。

彼らは、警察の手が伸びる前にロケットを完成し、
打ち上げに成功することができるのか・・・時間との闘いが始まる。


サスペンス・ミステリっぽく始まるのだけど
その要素は早々と背景に退いてしまって、
高校時代の、不完全燃焼に終わった自らの夢に
再挑戦する男たちの物語へと移行する。

あのころは金も才能もなかったが、十数年の時を経て、
メンバーそれぞれが ”新たな力” を得た。
いまなら、あの頃の夢をかなえることができるのではないか?

まさに、人生の第二ラウンドへの挑戦。
登場人物はやや薹が立っているが、王道の青春小説だろう。

もちろん、たった5人で宇宙まで行こうというのだから
そう簡単にうまくいくはずもなく、試行錯誤あり仲間との衝突ありと、
このへんの ”お約束の展開” もまた王道。


打ち上げそのものは、物語のラストで決着がつくのだけど、
彼らの進む道はそこで終わらない。
メンバーそれぞれが、第三ラウンドへの挑戦を始めるところまでを描いて
本書は幕を閉じる。

ロケット1本を作り上げるためには、
長年にわたる膨大な技術の蓄積が必要になる。
そのへんのハード/ソフト面の描写がリアリティを高めている。
テクニカルな話も多いので、堅苦しく感じる人もいるかも知れないが
馴染めなかったら読み飛ばしてしまっても大丈夫。
それでも十分、爽やかな読後感が味わえると思う。

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蜜蜂と遠雷 [読書・青春小説]


蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: 文庫
蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

なんと第156回直木賞と第14回本屋大賞を
ダブル受賞するという快挙を成し遂げた超話題作。

内容的にも、現時点での恩田陸の最高傑作だと言っても
異を唱える人は少ないんじゃなかろうか。

上の星の数を見ていただければ分かると思うけど
私も本作には最高級の評価をつけた。

これから内容紹介に入るけど、もしあなたが
本作をこれから「読んでみよう」と思っているのなら、
以下の私の駄文なんか読まずに
書店に直行するかネットでポチりましょう。


3年ごとに開かれる芳ヶ江国際ピアノコンクールは、
優勝者のその後の活躍が目覚ましいことから近年評価が高まっていた。

第6回を迎えた今年も、世界中からピアニストの精鋭たちが
優勝を目指して芳ヶ江の地へ集まってきた。

物語は、その中の4人の出場者に焦点を当てて描いていく。

風間塵(かざま・じん)は16歳。フランス在住。
父が養蜂業を営んでいるため、各地を転々として暮らしてきた。
演奏歴はおろか自宅にピアノさえなく、
行く先々で見つけたピアノで練習するという生活。
しかしピアニストの巨匠、ユウジ・フォン=ホフマンに見いだされ、
彼の最後の弟子として芳ヶ江に送り出されてきた。

栄伝亜夜(えいでん・あや)は20歳の音大生。
天才少女としてわずか5歳でデビューを飾るが、
13歳の時の母の死がきっかけでピアノを弾けなくなってしまった。
しかし彼女の才能を信じる音大学長の浜崎によって芳ヶ江に送り出される。

マサル・カルロス・レヴィ・アナトールは19歳の日系三世。
誰もが認める天才で、フランスから渡米しジュリアード音楽院に在学中。
今回のコンクールの優勝候補筆頭である。
幼少時には日本に住んでおり、亜夜とは幼馴染みで
彼女との出会いが彼をピアノの世界へと導いた。
そんな二人が十数年の時を超え、芳ヶ江で再会する。

高島明石(たかしま・あかし)は28歳で、楽器店勤務のサラリーマン。
音楽大学出身で、かつては国内のコンクールで上位入賞の実績もあるが
卒業後は音楽界には進まず、現在は結婚して娘がいる。
しかしピアニストへの夢が断ちがたく、練習を続けてきた。
自らの不完全燃焼だった音楽生活にけりをつけるため、
これが最後の機会と決めて、芳ヶ江へ参加する。


もう一度書くけど、本書を読みたい人はここで止めて
書店へ直行するかネットで(以下略)


物語は、この4人を中心に世界各国でのオーディションから始まり、
芳ヶ江ピアノコンクールの開幕、第一次、第二次、第三次予選、
そして本選へと進む彼らを描く青春群像小説になっている。

いやあ、ほんとにコンクールのことだけで進行していくのだけど
それがもう面白い、というか楽しいんだなあ。
とにかく、この4人のコンテスタント(参加者)のキャラが抜群にいい。

既成の枠に収まらない大胆な演奏で、審査員の中に賛否の嵐を引き起こし
文字通りコンクールの「台風の目」となっていく風間塵。
でも本人は、弾きたいように弾いてるだけで
周囲の評価など全く気にしていない。というか、
自分が評価されているということすら気づいてないような。
ピアノを離れれば、年齢相応で好奇心旺盛な、素朴な少年だ。

「ジュリアードの王子様」と呼ばれ、高身長でイケメンなマサル。
当然ながら女性に大人気である。ピアノ以外の楽器までもこなし、
まさに「天才」の名に恥じない才能を示す。
そんな奴は得てして、高慢で嫌な奴として描かれがちなんだが
マサルは才能を鼻にかけることのない人格者で、まさに完璧超人(笑)。
しかも、幼少時の亜夜との思い出を忘れずにいて、
彼女と再会した途端に一目惚れ(惚れ直し?)てしまうという
可愛くて一途な好青年でもある。

本作の中で、いちばん ”ドラマ” を背負っているのが亜夜だろう。
13歳のときの母の死は確かにショックではあったが
亜夜は音楽そのものから遠ざかることなく生きてきた。とは言っても
再びピアニストとして脚光を浴びようなんて思いはさらさらなく、
芳ヶ江への参加も、大学入学の便宜を図ってくれた
浜崎への恩返しもあったが、亜夜本人としては
”記念受験” みたいなつもりで臨んでいた。
しかし、コンクールに参加した亜夜は変わっていく。
風間塵、そしてマサルとの出会いが彼女を変えていく。
予選のステージが進むたびに、一回りも二回りも大きな演奏家へと。
本作は群像劇なのだけど、コンクールを通じた亜夜の成長こそが
いちばんの読みどころであるのは間違いないところだろう。

劇中、彼女が演奏しながら涙を流すシーンがあるのだが
私も読んでいて活字がにじんでしまったよ。
まさかピアノの演奏を描写する文章で泣くことになるとは・・・

そして最年長の明石。
実は、私がいちばん感情移入してしまったのが彼だった。
練習時間も満足にとれず、音楽家としてもコンテスタントとしても、
あまりにもハンデがありすぎる環境にありながら、愚痴もこぼさず
家族の理解を得ながら、あきらめきれない夢に挑んでいく。
彼の妻がまたよくできた女性で、健気に支えてくれる。
もう、泣かせるじゃないか・・・

塵、マサル、亜夜の3人は序盤で仲良くなって
ほとんど行動を共にするようになるのだけど
明石だけは3人との接点がない。
でも、終盤近くに明石と亜夜が一度だけ、会話を交わすシーンがある。
ここもまた感動ポイントなんだよなあ・・・


コンクールであるから、優劣がつけられてしまうのは当たり前なのだけど
彼らには「勝ち上がろう」とか「あいつより上に行きたい」
なんて意識は全くなく、ただただ
自分の理想とする演奏を追求する姿が描かれていく。

この手の作品だと、参加者同士の妬み嫉みや足の引っ張り合いなんかが
描かれそうなものだのだけど、本作に限っては
見事なまでにそんなシーンは存在しない。
(予選で落とされた参加者が審査にクレームを入れるシーンはあるけど)

ここで描かれるのはひたすら
”演奏することの喜び” であり、”音楽への感謝” だ。
だから、読んでいてもひたすら心地よい。

そして素晴らしいと思ったのは、
コンクールの終わりが物語の終わりではなく
彼らの輝かしい未来へ向かっての始まりを予感させることだ。

優勝や上位入賞者にはもちろん、予選で落ちてしまった者でさえ、
音楽の世界にはきちんと居場所が用意されている。

読者は、満ち足りた気持ちで本を閉じることができるだろう。
こんなに心地よい読後感が味わえる作品は数少ないと思う。

メインの4人以外のサブキャラについても書きたかったんだが
もういい加減長くなったのでここでお仕舞いにしよう。


最後に余計なことを。

本作は映画化され、2019年10月4日に封切られる。
「こんな作品、映画化できるのかよ」って思ったが
映画には映画なりの切り口があるのだろう。

キャストは、栄伝亜夜に松岡茉優。
私は彼女のファンなので、単純に喜んでる(おいおい)。
高島明石には松坂桃李。これもけっこうイメージ通りかな。

ちなみに、本作を読み始めて早々に、
公式サイトで予告編を見たら、それ以降
亜夜の台詞が松岡茉優の声で、明石の台詞が松坂桃李の声で
脳内再生されるようになってしまって困った(笑)。

ただ予告編を見る限り、「原作にはこんなの無かったよなぁ」
って思われるシーンが散見される。

果たして映画化は吉か凶か。

映画は観に行くつもりなので、感想も後日upしようと思います。

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いとみち 三の糸 [読書・青春小説]

いとみち 三の糸 (新潮文庫)

いとみち 三の糸 (新潮文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

幼い頃から極度の泣き虫で人見知り。
そんな自分の性格を克服すべく、高校入学を機会に
青森県唯一のメイドカフェでバイトを始めた主人公・相馬いと。

やることなすこと失敗ばかりのいとを支えてくれたのは
真面目な店長・工藤、シングルマザーの先輩メイド・幸子さん、
もう一人の先輩メイドの智美さんは漫画家志望。
そして何かと目をかけてくれるオーナー。

そんな周囲の人々に鍛えられ、あるいは支えられ、
成長していくいとちゃんの姿が描かれてきたシリーズ、
その第3作にして完結編だ。

彼女の特技は、祖母に鍛えられた津軽三味線。
中学時代にはコンクールでの入賞経験もある。
しかし、ある理由で三味線からは遠ざかってしまっていた。

第1作では、メイドカフェに降りかかった閉店の危機を、
スタッフのがんばりと常連客たちの協力、そして
ふたたび三味線を手にしたいとの奮闘で乗り切るさまが描かれた。

第2作「二の糸」ではいとは高校2年生に進級、
友人たちと一緒に念願の写真同好会を立ち上げる。

親友の早苗とケンカしたり、撮影旅行でアクシデントに遭遇したり、
そしてそこから救ってくれた
後輩の1年生・石郷鯉太郎(いしごう・りたろう)くんに
不思議な胸のときめきを感じたりと
青春真っ只中のいとの様子が綴られる。

一方、メイドカフェで働く人々も
それぞれに大きな人生の転機が訪れていく。

そして本書「三の糸」では、
高校生活にメイドカフェにと、充実した "居場所" を得たいとが
故郷を離れて "旅立つ" までが描かれる。

高校3年生へと進級し、いよいよ「進路」を
決めなければならなくなったいとだが、彼女にはある目標があった。
過疎化で寂れてゆく故郷を何とかしたい。
地方都市の再生に役立つ勉強をして、いつかは青森に帰ってくること。

模試の成績に一喜一憂しながら受験勉強に励むのは、
都会も地方も同じだろう。
しかし彼女が学びたいものを与えてくれる大学は青森にはない。

夏休みには、一足先に漫画家デビューを目指して上京した
智美の助けを借りて、東京の大学のオープンキャンパスめぐり。
しかしメイド喫茶で鍛えられたとはいえ、人見知りはまだまだ抜けず、
津軽訛りの恥ずかしさもあって、どうにも都会に馴染めない。

先行きに大きな不安を感じながら東京を後にしたいとだが、
帰路の途中に立ち寄った仙台にある大学と
そこの学生たちにすっかり魅了されてしまう。
(明言されてないけど、これは明らかに東北大学だろう)

いとは決意する。「この大学さ入りて」
しかしそこはいちばんの難関。果たして合格できるのか・・・


故郷を離れる日が近づき、鯉太郎への思いを改めて自覚するいと。
その鯉太郎も、いとに励まされるように、自らの進路を決める。
メイドカフェにも後輩が入り、
工藤店長と先輩メイド・幸子は2号店を出店するべく頑張っている。

いとだけでなく、登場する人々それぞれが次のステージへと進んでいき、
受験本番を迎えたいとの奮闘ぶりがクライマックスとなる。


不器用そのものながら、一生懸命に自らの道を切り開き、
周囲の人々も、彼女のその姿から前向きに生きることを教えられる。

そして本書では自分のためだけでなく、
故郷のためにもなる道を探し始める彼女。
この本の読者で彼女を応援しない人はいないだろう。


第1作を読んだのが2014年9月なので、それから約3年。
いとの高校生活とほぼ同じ時間をかけて彼女の成長につき合ってきた。

彼女をはじめ、多くの個性的なキャラクターたちに
ここでお別れとなるのはまことに淋しい。

津軽三味線の超絶技巧を駆使するいとの祖母・ハツヱさん、
メイドカフェ経営に奮闘する工藤店長&幸子さん、
漫画家デビューを目前に正念場を迎えた智美さん、
それぞれに道へ踏み出した同級生たち、そして鯉太郎くん。

これでシリーズ完結とのこと。
よくできた作品を読んだときにしばしば思うのだが、
短編でもいいので彼ら彼女らの、"その後" の様子が知りたいなあ・・・

あ、もちろんいとちゃんの "華の女子大生" ぶりもね。
たぶん、相変わらずのドジっ子ぶりなんだろうなあ・・・

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少年少女飛行倶楽部 [読書・青春小説]

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫)

少年少女飛行倶楽部 (文春文庫)

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/10/07
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

中学校に入学した佐田海月は、
幼なじみの大森樹絵里に引きずられるように
「飛行クラブ」なるものに入部することになる。

 ちなみに「海月」は「みづき」と読む。「クラゲ」ではありません。

クラブの副部長である2年生・中村海星(野球部と兼部)に
樹絵里が憧れてしまったのがそもそもの発端。

 ちなみに「海星」は「かいせい」と読む。「ヒトデ」ではありません。

しかし二人の前に現れたのは
傲岸不遜で傍若無人な部長・斎藤神だった。

 ちなみに「神」は「じん」と読む。
 物語が進行すると彼の姉も出てくるんだが
 これもまたぶったまげるネーミングである。

しかも、規定の5人に足りないので正式な部活動とは認められず
顧問もつかず予算もないのだという。

そして肝心の活動内容は、
名前の通り最終的には「飛行すること」なのだが、
何をもって「飛行」とするのかも、
斎藤部長によるところの小難しい条件がある。

「あくまで自分自身が飛行すること」
「『落下』は飛行に非ず(だからバンジージャンプ等もダメ)」
「航空機やヘリコプターの使用も不可」
「理想は『ピーター・パン』の飛行」etc・・・

というわけで、活動以前の状態からして
既に無理難題を抱え込んでいる飛行クラブ。

新入部員となった海月は、そんな中にあって
最初のうちこそぶうぶう文句を言っているが
いつの間にかみんなの尻をたたいて
「飛行」の実現に奔走するようになる。

そんな彼女の奮闘を7つの短編で描いていく連作集。

「飛行クラブの成り立ち」
「空が飛べないとは誰にも言えない
 -もしくは飛行と落下の相違について」
「ウィ・キャント・フライ」
「働かざる者、飛ぶべからず」
「アンド・ソー・オン」
「ウィ・キャン・フライ」
「テイク・オフ」

物語が進むにつれて、仲間も増えていく。

マンションの4階から落ちて奇跡的に助かった
"リアル飛行少女" の仲居朋。

 ちなみに「朋」は「るなるな」と読む。「とも」ではありません。
 うーん、きらきらネームも極まれり、って感じですな。

高校野球ファンの両親の期待を一身に背負って生まれながら、
野球を好きになれず、異様に存在感の薄い餅田球児。

中盤あたりで、意外なところから「空を飛べる」可能性が示され、
それに向かって邁進し始める海月たち。

常に上から目線で、尊大が服を着て歩いているような
カミサマ部長もまた、少しずつ変わっていく。

そしてクライマックスでは、待望の "飛行" 当日に
海月たちはとんでもない "大冒険" に巻き込まれる。


とにかくキャラがいい。
登場する子供たちがみなよく言えばユニーク、
悪く言えば奇人変人の類だが、そんな彼らが集まって
「あーでもない」「こーでもない」ってわいわいがやがや。
その様子がとても微笑ましくて面白い。

そんな中で、かろうじて常識人なのは海星と海月くらいで、
なかでも海月ちゃんの奮闘ぶりが本書の読みどころだろう。

キャラが生き生きとしている物語を読むと思うことだが
彼らのその後が知りたい。長編が無理なら短編でもいい。
飛行クラブのその後、そして彼ら彼女らの成長した姿が見たい。

特に海月と神のその後が知りたいなあ。
いやあこのカップル、面白すぎるよ。


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キケン [読書・青春小説]

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

某県某市、ほどほどの地方都市にある成南電気工科大学。
そこに、ある有名なサークルがある。
その名を「機械制御研究部」、略して「機研」。

完全に幽霊部員と化した3回生に代わり、
部を率いるのは2回生の部長・上野と副部長の大神。
後の世に「機研の黄金時代」と伝えられた3年間が始まる。

「第一話 部長・上野竜也という男」
 新入部員の1回生・元山と池谷は上野の自宅へ招かれるが、
 その目を見張るような豪邸ぶりに驚く。
 しかしなぜか上野は自宅へ「出入り禁止」を言い渡され、
 粗末なプレハブ小屋住まいだった。
 そこで二人は上野の驚くべき秘密を目の当たりにする。

「第二話 副部長・大神宏明の悲劇」
 お嬢様が集う白蘭女子大学の学祭に訪れた大神は
 ある出来事をきっかけに七瀬唯子と知り合う。
 大神に一目惚れした唯子は自分から告白、
 めでたく二人はつきあい始めたのだが・・・

「第三話 三倍にしろ! ー前編ー」
 学園祭で機研は毎年ラーメン屋の模擬店を出している。
 元手として30万円の軍資金をかき集めた上野は、
 部員一同を前に宣言する。
 「この30万を、学祭の5日間で3倍にする!」と。
 かくして学祭へ向けて走り出す部員たち。
 その中で元山は一人、機研に伝わる "幻の味" 再現のため、
 ラーメンスープの研究に取り組んでいた・・・

「第四話 三倍にしろ! ー後編ー」
 学祭が始まり、元山開発のスープも好評で上々の滑り出し。
 しかし要である元山が何者かに拉致されてしまう。
 同じラーメン模擬店で競合するPC研の仕業とみた上野は
 単身、元山の救出へ向かうが・・・

「第五話 勝たんまでも負けん!」
 県主催のロボット相撲大会へ出場することになった機研。
 肝が据わって冷静な池谷が操縦する機研のロボットは
 順調に勝ち上がり、ついに決勝へ。
 対戦相手は年輩のおっさん集団、『チーム・メカ次元』。
 ロボットの名はゴールドライター号。
  うーん、どこからか
  ♪と~どいているか きこえるか~ は~るかメカ次元~
  なんて歌が聞こえてくるねえ。
  もっとも、ど真ん中なのは私より少し下の世代だろうけど。
 資金力にモノを言わせた高価な部品で
 パワーに勝る敵に苦戦する機研ロボ。
 なんとか決勝ラウンド一本目をとるが、
 二本目で不覚をとって敗北、しかも右膝関節を損傷して絶体絶命。
 残る三本目に起死回生の奇策で挑む機研だが・・・

「最終話 落ち着け。俺たちは今、」
 年度が変わり、部員たちも進級した。
 新入生たちと上級生たちの機研での日々が綴られる・・・

第一話から第五話までの、最後の数ページには
卒業して10年ほど経った元山が登場し、
妻と語りあうシーンが挿入されている。
つまり本書は、"元山が妻に語った昔話" という体裁なのである。

それに対して、元山の妻の反応がいい。
ある時は驚き、ある時は呆れ、一緒に笑い、一緒に怒り、
そして一緒にしんみりとしてくれる。
いやあ、元山君はいい嫁をもらったなあ。

そして最終話の後半では、元山が妻を伴って
成南大の学祭に久し振りに顔を出しにいくことになる。
いやぁ、このラストは反則だ。こんな展開に持ってこられたら、
もう目がウルウルになってしまうじゃないか・・・


奇人変人ばかりが集まったかのような同期生たち、
酒が回ると暴れ出す上級生、厳しくも温かい教授たち、
そんな人々に囲まれて、常軌を逸したバカ騒ぎの数々を繰り広げた日々。
程度の差はあれ、そんな学生時代を過ごした人も少なくないだろう。

そんな "若さ=バカさ" へのノスタルジーとオマージュに溢れていて、
読む人みなを等しく、
あの輝かしくもバカバカしい時代へと誘ってくれるだろう。
そしてそれがまた何とも心地よい。


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樹上のゆりかご [読書・青春小説]

樹上のゆりかご (角川文庫)

樹上のゆりかご (角川文庫)

  • 作者: 荻原 規子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/04/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★

「これは王国のかぎ」のヒロイン・上田ひろみ嬢、再びの登場。

異世界での大冒険から2年。
ひろみは旧制中学の伝統が色濃く残る
名門進学校・辰川高校の2年生になっていた。

5月、親友の中村夢乃に誘われて
合唱祭実行委員の手伝いをすることになったひろみ。
とは言っても、その実体は当日のパン販売の売り子だったが。

しかし当日販売されたパンの中に
カッターナイフの刃が仕込まれていたことが判明する。
学校に対して悪意を持つ者が存在するのか・・・

やがて生徒会の選挙が行われ新執行部が発足するが
ひろみも誘われて役員の一人となる。

そんな中、ひろみは
合唱祭で指揮者を務めた美少女・近衛有理と知り合い、
急速に彼女に惹かれていく。

学校は秋に行われる学校祭の準備一色に染まっていくが
生徒会執行部に脅迫状が届いたり放火騒ぎが起こったりと
何者かの悪意は確実に広がっていく・・・


一大ファンタジーだった前作とは打って変わって
今回はややサスペンス要素はあるもののほぼ日常系。

ひろみさんも、きゃあきゃあ言ってた前作からぐっと成長して
なかなかに落ち着いた17歳となっている。

とは言ってもそこはやっぱり女子高生。
学園生活を謳歌しながらも受験は常に頭の片隅にあって
彼女を含めていくつかの恋愛模様も展開するという、
いわゆる悩み多き年頃。
そんな生徒たちが集まって過ごす、
ひと夏の「学校生活」を描いた青春小説である。


舞台となる辰川高校(たぶんモデルは作者の母校の東京都立立川高校)は
かつては男子校だったこともあり、その当時の風習も残っていて、
それもまた女子生徒にはいまひとつなじめないところなのかも知れない。

 私も男子校出身なので、読んでいて共感できるというか
 一種の懐かしさを感じる部分もある。

さらに、教員をはじめとする学校の方針というか雰囲気もまた
"古き良き時代の進学校" を思わせる。

 少子化が進んだ現在は、在学中に生徒をどれだけ鍛えて、
 大学合格者数をどれだけ出すかで
 学校の評価が決まるようになってしまったから、
 辰川高校のような "放任主義" な学校は
 もう生き残れなくなってるだろうなあ・・・


今までのところ、上田ひろみを主役にした作品はこの2作のみ。

巻末に収められた、書き下ろしのおまけ短編では、
3年生になったひろみさんの受験生生活、
そして、高校で出会った先生に文才を認められ、
文学の道を志すところまでが描かれる。
このへんも、"古き良き時代の進学校" だねえ・・・


ここまで書かれたら、
大学生になったひろみさんの話を読んでみたくなるよねぇ。


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夏のくじら [読書・青春小説]

夏のくじら (文春文庫)

夏のくじら (文春文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/06/10
  • メディア: 文庫



評価:★★★★☆

私はこのブログの中で「青春小説なるものが苦手だ」って
再三書いているんだけど、今回に限ってはその言葉を返上しよう。


主人公の篤史は高知大学の1年生。
東京生まれの東京育ちながら、両親が共働きだったため、
夏休みには父親の郷里である高知に2~3週間も一人で預けられてきた。

いわば高知は第二の故郷。大学受験に際して高知大も受けたのは、
「もし引っかかったら高知に来てもいいかな」くらいの気持ちだった。
しかし幸か不幸か私大に落ちまくり、高知大学への入学とあいなった。

不本意入学の典型のような篤史だったが、実は密かな期待もあった。

4年前の夏、中学3年だった篤史は高知伝統の
"よさこい祭り" に参加した。
そのとき、一人の女性と知り合った。

当時、彼女は高校~大学くらいだったのでおそらく3~4歳年上、
手がかりは周囲から "いずみさん" と呼ばれていたことだけ。

一緒に踊りの練習に参加しているうち、篤史と彼女は
ある "約束" を交わすのだが、それを果たす機会が訪れないまま、
祭りの最終日を迎える前に彼女は姿を消してしまう。

篤史は未だ鮮明に覚えている。
姿を消す前日、練習場所の体育館の裏手で一人、
涙をこぼしていた彼女の姿を・・・


大学に入学して間もなく、同い年の従兄弟・多郎から、
地元・鯨井町のよさこいチームに誘われた篤史。

気が進まないながらも、「初恋の人との再会」という
淡い期待をもって参加を決断するが・・・

やんちゃなリーダー・月島、気配りのサブリーダー・三雲、
衣装デザインの志織、踊りに燃える綾乃。
そして女性と見まごうばかりの美形ながら、
超絶的なダンス・テクニックを誇るカジ。

肝心な "あの人" の消息はさっぱりつかめないが、
チーム・鯨井町に集う様々な人の
"よさこい祭り" にかける思いに包まれているうちに
篤史自身もまた祭りへ向けて熱い日々を送るようになっていく。


舞台は初夏から真夏で、とにかく熱い物語なのだけど
意外なほど爽やかな雰囲気でストーリーは進む。

個々のメンバーにも悩みがあったり、恋愛模様があったり、
複雑な生い立ちがあったりして、ページを追うごとに
すこしずつ各キャラクターの背景が明らかになり
それがまた感情移入を加速させる。

クライマックスの祭り本番のシーンでは、
いつのまにか私自身も、鯨井町チームと一緒に
高知の町を駆け抜けているような気持ちにさせられた。

鯨井町のチームはみごと入賞することができるのか?
"憧れの彼女" との再会は?
そして、4年前の "約束" を果たすことはできるのか・・・?

感動のラストまで、ページをめくる手が止まらない。


大崎梢の本職はミステリ作家だと思うのだけど
"あの人" の正体についても随所に伏線が仕込んである。
ただ、本書はミステリではないので、
作者自身も隠そうという意図はないようだ。
だって、とってもわかりやすいんだもの(笑)。

それでいて、篤史は全く気づかないもんだから
「なんでお前はわからないんじゃあ!」って
ヘッドロックをかましてやりたくなってしまうよ・・・・
まあそんな彼でも "可愛い" と思えてしまうんだから不思議だ(笑)。

この手の作品では「主人公は朴念仁」てのが定番なんですかねぇ・・・


とかく "青春小説" ってやつは、
モヤモヤしてたりドロドロしてたり(私の偏見です)
好きなジャンルではないのだけど、
素晴らしく心地よい読後感が味わえる本書は、
そんな偏見を吹き飛ばす快作だった。


最後に余計なことを書く。

本書を読んで、なんだか篤史のことが他人事に思えなかった。
それは、彼の幼少時の境遇が私のそれと微妙に重なるから。

私の両親も商売をしていて、特にお盆の頃は
一年で最も忙しい時期でもあった。
私たち兄妹の世話を焼くヒマすらなく、
夏休みの半分くらいは、母親の実家に預けられていたものだ。
もっとも、一人っ子の篤史と異なり私の場合は弟と妹が一緒だったが。

私にとって「夏」という言葉から連想される "原風景" は、
すぐ隣を川が流れてる農家(母の実家)の縁側に座り、
入道雲を眺めながらスイカをかじっている、というもの。
その横には2歳下の弟と3歳下の妹が座っていたはずだ。

篤史にとっての「夏」の "原風景" は何だろう。
"よさこい" の熱気か、"いずみさん" の涙か・・・


もう一つ余計なことを。

数年前、四国へ旅行に行き、高知へも立ち寄ったのだけど
残念ながら "よさこい祭り" の時期ではなかった。

本書を読んで、もう一度彼の地へ行ってみたくなった。
いつかこの目で、高知の人々がすべてを賭けるという
真夏の "祭り" を見てみたい。
そう思った。


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いとみち 二の糸 [読書・青春小説]

いとみち 二の糸 (新潮文庫)

いとみち 二の糸 (新潮文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

幼い頃から極度の泣き虫で人見知り。
そんな自分の性格を克服すべく、高校入学を機会に
青森県唯一のメイドカフェでバイトを始めた主人公・相馬いと。
彼女の特技は、祖母に鍛えられた津軽三味線。
中学時代にはコンクールでの入賞経験もある。
しかし、ある理由で三味線からは遠ざかってしまっていた。

前作では、メイドカフェに降りかかった閉店の危機を、
カフェのスタッフのがんばりと常連客たちの協力で何とか乗り切り、
いとが津軽三味線の腕前を関係者一同に披露するシーンで幕を閉じた。

本作ではいとは高校2年生に進級、友人たちと一緒に
念願の写真同好会を立ち上げる。

しかしその矢先に親友の早苗と初めてのケンカをしたり、
同好会に入部してきた1年性・石郷鯉太郎くんに
不思議な胸のときめきを感じたり。
進級してもまだまだ悩みの種は尽きない。

ちなみに、「鯉太郎」は「りたろう」と読む。
中学時代は相撲大会で優勝するなど身長180cmを超える
堂々たる体型で、150cmに満たないいととは40cm近い身長差。
「気は優しくて力持ち」を画に描いたような少年だ。

自分の理想のタイプとはおよそかけ離れているのに、
物語が進むにつれて、いとの心の中で
彼の存在がどんどん大きくなっていく。
鯉太郎のほうも、いとのことが気になるようで
見ていて面白い、いやいや微笑ましいカップルである。

バイト先のメイドカフェでは、
小学生の娘・樹里杏(じゅりあん)を育てながらメイド長を務める幸子、
プロの漫画家を目指して投稿を続ける自称 "エースメイド" の智美、
そして穏やかな人柄の店長と、前回のメンバーは健在。
しかし幸子と智美の態度が最近おかしい。
いとに対してなんとなく "よそよそしい" のだ。
これにもまた悩んでしまうヒロインなのであった。

物語は春・夏・秋・冬の4章仕立てで、
いとの高校2年生の4月から12月末までの生活が綴られる。
ミステリでもSFでもないので、
非日常的な大事件が起こるわけではないが、
クスリと笑わせ、ホロリと泣かせる、
そんな平凡な日々の中に起こる小さなエピソードを丹念に描いていく。

時間というものは着実に流れていくもので
人はいつまでも同じ場所に留まっていることはできない。
いとも、彼女の周囲の人々もまた然り。
出会いと別れ、成長と巣立ちの時が近づいてくる。

友人たちは進路希望を決め、
幸子や智美にも新たな人生の扉が開いていく。

いとにも、決断の時が迫ってきている。
高校を卒業したらどうするのか。
青森に残るのか、東京へ行くのか。
大学へ行くのか。行くのならどこの大学か。

本書中、随所でいとが三味線を弾くシーンがある。
前巻よりも回数も格段に増え、しかも観客の前で演奏することに
大きな充実感を感じるようになっていく。

卒業してそのままメイドカフェに就職してしまうとは思わないが
案外、津軽三味線を "極める" という道を選んでしまうかも。


冬の章では、春~秋までのいとの悩み深き日々を吹き飛ばすような
楽しいエピソードが語られる。
冬の青森で、こんな楽しいパーティーが開かれるなんて。
涙と笑いが満載の素晴らしいエンディングだ。


巻末にボーナストラックとして智美が主役の短編が収録されている。
内容を書くと本編のネタバレにもなるので触れないが、
智美といい幸子といい、ヒロインのいとも含めると
主要キャラの8割くらいは女性。
しかしながら、みんな見事な "キャラ立ち" ぶり。
作者は男性のはずなんだが、いやはやたいしたものだと思う。

次巻「三の糸」でこのシリーズは完結らしい。
いとちゃん以外の人々の行く末が、
本書であらかた決まってしまったので、
最終巻では、いよいよ彼女の選択が描かれるのだろう。


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いとみち [読書・青春小説]

自慢じゃないが "メイド喫茶" って入ったことがない。
(ホントに自慢にならないね。)
半世紀以上生きてるオジサンには敷居が高そうで。

実は8月のお盆の頃に秋葉原に立ち寄った。
買い物に行ったんじゃなくて、昼飯を食べるためだったんだけど。
道ばたに可愛いフリフリのユニフォーム着たお姉さんが立って
なにやら黄色い声で宣伝してるんで、
「ああ、メイド喫茶ってまだあるんだなぁ」とは思ってたが。
セーラー服のお姉さんもいたけど、
年齢的にかなり苦しそうな方もいてちょっと "痛い" ことも。
あ、入ったのはケンタッキー。チキンが食べたかったもんだから。
フィレサンドのセットを食べて帰ってきました。
なぜか店内には外国の方が多かったなあ・・・

閑話休題。


読んだのは文庫版だったんだけど、単行本の表紙も貼っておく。
文庫の表紙も味があるけど、
やっぱ単行本のイラストのほうが可愛いんだもん(爆)。


いとみち (新潮文庫)

いとみち (新潮文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/10/28
  • メディア: 文庫




いとみち

いとみち

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/08
  • メディア: 単行本



評価:★★★☆

ヒロインの相馬いとは青森県在住の16歳。
弘前市内の高校へ入学したのを機に、極端な人見知りを直そうと
思い切って<津軽メイド珈琲店>でアルバイトを始める。
ちなみにこの店は "本州最北端のメイドカフェ" らしい。

しかしいとちゃんの前途は多難だ。
背は低いし、スタイルだってお世辞にも "抜群" とは言えないし、
それに加えて、やることなすこと失敗ばかりのドジっ娘体質のようだ。
何よりも、濃厚な津軽訛りのせいでお約束のご挨拶が言えない。

「おかえりなさいませ、ご主人様」のはずが
「おがえりなさいませ、ごスずん様」になってしまうのだから・・・

真面目な店長、シングルマザーの先輩メイド・幸子さん、
もう一人の先輩・智美さんは漫画家志望。
いとちゃんに、何かと目をかけてくれるオーナー。

そんな周囲の人々に鍛えられ、あるいは支えられ、
成長していくいとちゃんの姿が描かれていく。


いとの母・沙織は11年前に他界していた。
そのため、いとちゃんは父・耕一と祖母・ハツヱに育てられた。

このハツヱさんが超濃厚な津軽訛りの持ち主で、
つまりいとちゃんの訛りはハツヱさんが原因。
(あんまり発音が独特すぎてひらがな表記が出来ない。
 じゃあどんな風に表記されているか?は読んでのお楽しみ。)
津軽三味線の名手でもあり、じょんがら節はもちろん、
ヴァン・ヘイレンまで弾きこなしてしまうという
ロックンロールなグランドマザーだったりする。
本書中、ある意味もっとも強烈なキャラだ。

いとちゃんもまた津軽三味線の技量を祖母から受け継いでいる。
中学2年のときには名の通ったコンクールで
審査員特別賞を受賞したほどの腕前だったが、ささいなことから
いとちゃんは三味線から遠ざかってしまっていた。

そして、いとちゃんが高校生活最初の夏休みを迎え、
バイトにもちょっとずつ慣れてきて、
常連のお客さんとも顔なじみになってきたある日。
お店の存亡に関わる大事件が勃発する・・・


なにより、ヒロインのいとちゃんが可愛い。これに尽きる。
何事にもひたむきで一所懸命でとことん頑張る。
背は小っちゃいけど美人、ドジっ娘だけど楽器の名手。
物語の終盤近くで智美さんが言うとおり "萌え要素満載" だ。

ラスト近くで明かされる両親の馴れそめ話も素敵だし、
<津軽メイド珈琲店>にすべての関係者が集まるクライマックスでは
いとちゃんの奮戦ぶりに、感動で目がうるうるしてしまった。
ホント最近涙もろくて困る。
でもオジサンはこういうのに弱いんだよなあ。


本書は三部作のうちの一作目だとのこと。
三作でいとちゃんの高校三年間を描くらしい。
二作目以降はまだ文庫化されていないけど、楽しみに待ちたい。


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ブラザー・サン シスター・ムーン [読書・青春小説]

ブラザー・サン シスター・ムーン (河出文庫)

ブラザー・サン シスター・ムーン (河出文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2012/05/08
  • メディア: 文庫



評価:★★☆

ミステリでもSFでもホラーでもファンタジーでもない。
3人の男女の、学生時代の出来事を点描した青春小説。

楡崎綾音(にれざき・あやね)、戸崎衛(まもる)、箱崎一(はじめ)の
"ザキザキトリオ" は、同じ高校から同じ大学へ進学する。

第一部「あいつと私」
 おりしも世間は「女子大生ブーム」だった頃。
 華やかに、そして "綺麗" になっていく女学生たちの中で、
 相変わらず垢抜けない綾音だったが、
 バイト先の飲み屋の客の何気ない一言で、
 自分の中に "ある願望" が潜んでいたことを自覚する。
 それはあとあと彼女の人生を大きく変えることになる。

第二部「青い花」
 モダンジャズのサークルに入り、練習に明け暮れる戸崎。
 同級生や先輩たちのテクニックやセンスに驚嘆するも、
 なんとか追いつくべく努力を重ねていく。
 めざすはサークルのトップに位置するレギュラー・バンド。
 綾音とは、お互いのアパートを行き来する仲なのに
 友人以上にはなぜか踏み出せず、時間だけが過ぎていく・・・

第三部「陽の当たる場所」
 大学を卒業し、金融機関に勤めながら自主映画を製作していた箱崎。
 毎年応募していた映画コンクールに入賞したことを機に、
 仕事を辞め、映画監督としての一歩を踏み出す。
 取材に来たライターの質問を受けながら、大学時代のことを回想する。
 映画サークルに所属し、部員たちの映画作りを手伝った日々。
 名画座でたくさんの映画を見たこと。
 その中の一本、「ブラザー・サン シスター・ムーン」を
 綾音・戸崎と一緒に三人で観た日のこと・・・

ボーナス短編の「糾える縄のごとく」は
 "ザキザキトリオ" が初めて顔を合わせた高校時代のエピソード。


本書は作者の自伝的作品との触れ込みなので
3人が入学した大学をはじめ、作品中の登場人物や出来事には
多かれ少なかれモデルがあるみたいだ。
てことは、作中の大学はたぶん早稲田、ということになるだろう。

大事件が起こるわけでもないし、ドラマチックな展開があるわけでもない。
学生時代のいくつかのシーンを切り取っただけなんだけど
読んでいると自分も学生時代に戻ってしまう。

そして、ちょっと(自分の心が) "痛い" って感じるところも。

私自身は、大学時代にあまりいい思い出がない。
学内の雰囲気だって、華やかな(と私には感じられる)早稲田とは違って、
田舎にあった地味~な大学だったしね。

とにかく、勉強するにしろ遊ぶにしろ、私は中途半端だった。
戸崎や箱崎みたいに、サークルに打ち込んだこともなく
綾音のように、一生を決めるような言葉に出会うこともなく。

もっと徹底的に勉強以外のことに熱中していれば、
それなりに充実した思い出が残ったろうし、
もっと徹底的に勉強していれば、たぶん修士までは進んでただろう。

どちらに転んでも、今の職業には就いていなかっただろうなぁ。

でもそうしたら、今のかみさんとも出会うことはなかっただろうし、
それどころかずっと独り身だったかも知れないなぁ・・・
まあ、手に入らなかったものを数えるのは建設的ではないし、
今の人生がことさら不幸だとか失敗だとは思っていないので
これでいいんだろうなぁ・・・

・・・なーんてことを考えてしまいました。


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