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階段途中のビッグ・ノイズ [読書・青春小説]

階段途中のビッグ・ノイズ (幻冬舎文庫)

階段途中のビッグ・ノイズ (幻冬舎文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 文庫



評価:★★★

かつては華々しい活動で名をはせた、
県立大宮本田(ほんでん)高校軽音楽部。
しかし、いつの間にか部員も減り、
上級生の "ある不祥事" がさらに追い打ちをかける。

そして、たった一人残った部員、啓人(けいと)は、
2年生の春休みに、学校側より最後通告を受ける。
「半年以内に目立った成果を上げない場合は廃部とする」、と。

しかし、1年前に軽音楽部を辞めた伸太郎と
同じクラスとなったことをきっかけに、
啓人は部の立て直しに向けて走り始める。

上級生の不祥事のおかげで、学校の名誉に傷をつけた軽音楽部への、
一般生徒の視線は冷たい。しかし、啓人と伸太郎はくじけない。

まず、なり手のいない顧問に就いてもらうべく、
冴えない国語教師・加藤をかつぎ出し、
さらに新メンバーを求めて校内を奔走する。

その甲斐あって、ギターとして加わった勇作は、
テクニックこそ天才的だが口の悪さも半端なく、
伸太郎との相性は最悪でケンカが絶えない。
さらに、吹奏楽部の高圧的な顧問に反発して辞めた
ティンパ二奏者・徹がドラム担当に収まって、
だんだんバンドとして形をなしていく。

目指すは文化祭の中のイベント「田高マニア」。
ど派手で素晴らしい演奏をぶち上げて、
軽音楽部のマイナスイメージを吹き飛ばす!

しかし彼らの前途は多難である。
軽音楽部は、不祥事のおかげで練習場所さえ与えられない。
タイトルにある「階段途中」とは、
校舎の屋上階へ通じる階段の最上部のこと。
半ばガラクタ置き場と化したそこが、彼ら唯一の居場所なのだ。

しかも、そこで演奏の練習を始めると、
近くの文化部から「うるさい」と苦情が。
男どもで毛布を縫い合わせて遮音幕にしたはいいが、
その中は殺人的な猛暑。
ならば屋上の扉を開けてもらおうと、
生徒指導の鬼・森先生と押し問答したり。
その間にもメンバー間の諍いは絶えず、啓人は胃が痛い日々が続く。
しかし、同級生の亜季ちゃんを心の支えに、今日もがんばるのだ。


優しくて気配りのきく主人公、猪突猛進な親友、
毒舌を吐く天才、なごみ系の巨漢。
それぞれキャラも立っているし、会話も十分面白い。
彼らを中心に、ある意味「王道」な「部活動立て直し」物語が展開する。

生徒のキャラもよくできているんだけど、教師の方もなかなか。

生徒から見れば悪役になってしまっている森先生だが、
彼女にも彼女なりの葛藤があることが描かれているし、
昼行灯みたいな加藤先生にも意外な面が隠されている。
(ちなみにラストでの彼の役回りは何となく予想してた。)

しかし、ダントツによかったのは校長先生だね。
のほほんと校庭の隅で庭いじりしてるんだけど、
実はいちばん生徒を信頼し、彼らを守って
世間(学校の外の世界)と戦っている。
(まあ実際、こんな校長さんは少ないだろうけどね。
 往年の青春ドラマで有島一郎が演じていたような校長先生、
 て書いても、分かる人は少ないだろうなぁ。)


・・・と書いてきたように、面白いのは間違いない。
間違いないんだが、今ひとつ評価が伸びなかったのは、
まさにこの「王道」ぶりにあるかも知れない。
なんとなくラストまでの流れが予想できてしまい、
この手のドラマには必須であろう、クライマックスに至るまでの
ドキドキ・ワクワク・ハラハラ感がやや希薄なような気がしたんだ。

  巻末の解説によると、作者のデビュー2作目だとのことなので、
  手堅くまとめたのかも知れない。

  もちろん「充分にエキサイティングで最高にオモシロイ!」
  って感じる人もたくさんいると思う。
  これはあくまで私個人の感覚である。


読み終わった後、彼らが文化祭で演奏した曲を
YouTubeで検索してしまった。
私は、ロック(それも洋楽の)はほとんど聴かない、というか
聴いてこなかった人間なんだけど、それでも、
これからちょっぴり聴いてみようかな、って思った。

そう思わせるだけのパワーを持った作品なのは間違いない。


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金曜のバカ [読書・青春小説]

金曜のバカ (角川文庫)

金曜のバカ (角川文庫)

  • 作者: 越谷 オサム
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/11/22
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

5つの短編を収録した作品集。
主人公はみな、青春まっただ中の高校生。
いやあ、「青春」とは「バカ」の別名なのだということを
嫌というほど思い出させてくれる作品ばかり。

私の場合、今まで読んできた青春小説を思い返すと
そのバカさにいい加減辟易してきて、
だんだん読むのが苦痛になることが多かったんだけど
本書は全くそうならない。

なぜなら、本書に登場する彼ら/彼女らのバカさは、
実に愛おしいものばかりだから。


「金曜のバカ」
 自転車通学している女子高生の "私" が、
 下校途中で出会ったストーカーの "僕"。
 何とか撃退したものの(表紙のシーンです)、
 ここに毎週金曜日ごとの "私" と "僕" の
 謎の "逢瀬" (笑)がはじまる・・・
 (といっても全然ロマンチックなものじゃないんだが)
 いやあ、とにかく不思議な面白さに満ちた作品。
 表題作だけのことはある。

「星とミルクティー」
 妻が入院している病院へ急ぐ主人公。
 電車の窓から見上げた空に、流れ星が一つ流れ、
 8年前のことを思い出す。
 流星雨が降る夜、出会った少女のことを。
 すこし・不思議な、とてもいい話なんだけど、
 いっそのこと、きっちりSF仕立てにしてしまった方が
 すっきりしたような気もするんだが、
 そいつは野暮ってもんですかねぇ。

「この町」
 舞台は四国松山。
 地元が大嫌いな主人公は、今まさに夜行バスで
 彼女と "花の東京" へ親に内緒の旅行へ出かけんとしていた。
 しかし、旅行中のアリバイ作りをたのんだ級友たちや
 同窓会へ向かう途中の担任の先生に出会って話をしているうちに
 彼の心に変化が・・・
 私はこんなシチュエーションはついぞ経験しなかったが
 実際こんな展開になると切ないだろうなあ。
 私も今は地元を離れて、他の街で暮らしているが、
 やはり "故郷" は愛おしいと思える。
 もっとも、高校生でそう思える人間は少数派だろうなあ。

「僕の愉しみ 彼女のたしなみ」
 彼女に嫌われるのが怖くて、「実は恐竜オタク」だと
 カミングアウトできない主人公。
 それがなぜか、彼女と二人で「恐竜博」を観に行くことに。
 しかし、会場に入った彼女のそぶりが何だかおかしい・・・
 自分の趣味を受け入れてくれる相手に出会えることは
 幸福なことなんだなあ、てことを実感できる作品。
 うちのかみさんはどうだろう。
 1/3くらいは受け入れて
 2/3くらいは病気と思って諦めてるんじゃなかろうか。

「ゴンとナナ」
 3週間前に吹奏楽部を辞めた女子高生・七海。
 彼女のもとへ後輩の男子が戻るよう説得に来る。
 ところが退部の原因は、当の男子にあったりする。
 前半は七海の視点で語られ、
 後半は彼女の飼っている老犬・ゴンの視点で描かれるんだけど、
 ゴンの語る言葉がいいなあ。
 「人生」(犬生?)の先輩らしい深みがあって。
 でも犬の言葉なので七海ちゃんには届かないんだよね。
 まあ、人間の大人の言葉だって
 なかなか高校生には伝わらないんだから、しゃあないか。


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「夜のピクニック」 [読書・青春小説]

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

やっと4月分に突入した。
記録を見ると、この作品を読んだのは4月11日。
約3ヶ月前ということになる。

この作品については、もうあちこちで書評に取り上げられ、
高い評価を得ている。私も全く異存はない。
現時点では、私にとって恩田陸作品のベスト2
(1位は「六番目の小夜子」)である。

全校生徒が夜を徹して80kmを歩き抜く「歩行祭」。
3年生の甲田貴子は、高校生活最後のこのイベントに臨むにあたり、
心密かにある誓いを抱いていた・・・。

物語は、貴子をはじめ、彼女のクラスメートたちが一晩歩き通す、
それだけを描写していく。

もちろん登場人物たちの内面描写や、会話、そして回想シーンなども
織り込まれているが、あくまで中心は歩行祭である。
それだけでぐいぐいと読者を引き込み、
最後まで一生懸命読ませてしまう。

つくづく恩田陸はうまいと思う。
会話もうまいが、登場人物のキャラクターもまたいい。

貴子をはじめとする少女たち、西脇融をはじめとする少年たち。
みな、いきいきと青春していて素晴らしい。私にはちょっとまぶしいが。
(個人的には志賀くんが好きなのだけれど。
 貴子とだったら似合いのカップルになると勝手に思っている。)

ミステリでもなく、SFですらない。派手な事件も起こらないが
読み終えた時の充実感はとても大きい。

人に「これは面白いから絶対読め!」と自信を持ってオススメできる一冊だ。


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「しゃべれども しゃべれども」 [読書・青春小説]

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

  • 作者: 佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/05
  • メディア: 文庫
 
評価:★★★★
 
職場の同僚が「これ、おもしろいよ」といって貸してくれた本。
確かにおもしろかった!
 
二つ目の噺家、今昔亭三つ葉は、ひょんなことから
「話し方教室」(といっても内容は落語の練習だが)を
開く羽目になる。
 
その生徒になるのは、
従兄弟のテニススクールコーチ、綾丸良、
若い女性なのに、いつも不機嫌な十河五月、
小学校でいじめられている村林優、
プロ野球解説者の湯河原太一。
みんな人前で話すことに何事かの悩みを抱えた者たちである。
 
ストーリーは、
話し方教室が始まるきっかけ、
生徒たちそれぞれの悩みの内容、
それを解決すべく奔走する三つ葉の様子が
テンポよく描かれていく。
 
まるで落語を聞いているように、文章がすーっと入ってくる感じで
粋で洒落ててわかりやすいし読みやすい、ほんとにすばらしい文体である。
時間があったら一気読みしてしまうのは間違いない。
 
話し方教室の生徒たちは(三つ葉も含めて)みな不器用である。
器用に要領よく生きられない、そんな人たちである。
でも彼らが不器用なりに一生懸命にがんばる姿を読んでいると、
どんどん感情移入が進んでいってしまって、とても客観的に見ていられなくなる。
 
読み終えてしまうのが惜しい物語というものがある。
登場人物たちとこれでお別れかと思うと寂しくて仕方がない。
そんな作品がある。
 
これはまさしく、そんな「読み終えてしまいたくない物語」だった。
 
登場人物どれもみないいが、“おじさん”としては
やっぱり十河が気になった。
とにかく、この娘はかわいい。
仏頂面で不機嫌で三つ葉といつも衝突してばかりいるが、
その裏側に悲しみや孤独感があるのが透けて見えてて、いじらしくなる。
十河には幸せになってほしいなあ、そんなことばかり考えて読んでいた。
 
読み終えたくないと書いたが、作者にはぜひ続編
(だめなら短編でもいいからこの後日談)を期待したい。
彼らにまた会いたいなあ、と思う今日この頃である。

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