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七人の鬼ごっこ [読書・ミステリ]

七人の鬼ごっこ (光文社文庫)

七人の鬼ごっこ (光文社文庫)

  • 作者: 三津田 信三
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/09/10
  • メディア: 文庫

評価:★★★★

自殺予防の電話相談、いわゆる「いのちの電話」で
相談ボランティアを務めている沼田八重。
土曜の深夜にかかってきた電話を受けた彼女に、
電話の向こうの男は告げる。
「月曜から毎日、昔の友人に電話をかけている。
 一日でも相手が出ないときがあったら、自殺するつもりだった」と。

月曜から金曜まで5人に電話をかけてきたが、幸い5人とも相手が出た。
しかしその時点で、皮肉にも自分には
友人と呼べる相手は5人しかいなかったことに気づき、
困った男は「いのちの電話」にかけてきたのだ。

これから神社の境内での自殺の決行を仄めかす相手に対し、
なんとか電話を引き延ばしてその場所を特定しようとする八重。

彼女は、男から引き出した情報から推測できる場所を
周囲のスタッフに伝え、明けて日曜の早朝、
連絡を受けた福祉センターの職員はその神社にたどり着く。
境内に男の姿はなかったが、近くの崖下には真新しい血痕が・・・
現場に残っていた遺留物から、男の名は多門英介と判明する。

とにかくこの導入部が見事。一気に物語に引き込まれる。

数日後、ホラーミステリ作家の速水晃一のもとを刑事が訪れる。
速水の小学校時代の友人・多門英介の身に何かが起こったという。
彼は先週、速水のところへ突然電話をかけてきていた。

単なる失踪なのか、自殺なのか、あるいは殺人なのか。
その鍵は、彼が電話をかけた友人たちの中にあるかも知れない。
速水は故郷へ戻って独自に調査を開始する。
しかし、一方で、多門が電話をかけた旧友たちが
次々に不審な死を遂げ始める・・・

調査を進めるうちに、速水の脳裏に31年前のある記憶が甦ってくる。
英介を含めて6人の仲間で鬼ごっこをしていたはずなのに、
なぜかそこには ”幻の7人目” がいたという・・・


この作者には、ミステリが主でホラーが従の作品と、
その逆のパターンの作品がある。
前者の代表的なものが刀城言耶シリーズだろう。
そして本書も同じテイストを持った作品になっている。

怪奇で不可思議な謎にも、最終的には合理的な解釈が成立することも、
終盤近くで二転三転する多重解決が繰り出されるところも同じだ。
次から次へと犯人候補が挙げられ、否定されていく。
そして最後の最後に指摘される、実に意外な真犯人。
これは正直、驚かされた。思わずページをめくり返して
該当部分を再読してしまう人も少なくないのではないか。

そして、すべての物語が終結した後に至っても、
怪奇な部分がちょっぴり残るところもまた踏襲している。


最後にどうでもいいことを。

作中の描写が正しければ、「いのちの電話」で
相談ボランティアになるのは至難の業なのだねえ。

書類選考、種々のテスト、面接。
そして合格しても今度は講義、研修、体験学習、実習etc・・・
相談員となっても、様々な研修は続く。
とにかく意欲と根気と情熱がなければできないことだ。
なんと言っても人の命を預かるのだからね。

なんとなく「年齢を重ねて人生経験を積んでいればできるんじゃないか」
なぁんて思ってしまいがちだが、そんな考えでは全く通用しないらしい。

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全員少年探偵団 [読書・ミステリ]


([ふ]7-1)全員少年探偵団 (ポプラ文庫)

([ふ]7-1)全員少年探偵団 (ポプラ文庫)

  • 作者: 藤谷 治
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2017/02/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★

江戸川乱歩描くところの、名探偵・明智小五郎と小林探偵団が
怪人二十面相と対決していくシリーズ。
これでミステリに目覚めたという人も少なからずいるだろう。
特に、私みたいに昭和30~40年代頃に少年時代を送った人は。

そのシリーズへのオマージュ満開の、新作シリーズが刊行されている。
第1弾の『みんなの少年探偵団』は、現役作家さんによる短編アンソロジーだったが、第2弾となる本書は藤谷治による堂々の長編である。

とは言っても「藤谷治」ってどんな人なのかよくわからなかったんで
wikiで引いてみた。おお、こんな人だったんだ。
でも、「作品」欄にこの本の名前がないのはなぜ?
まだ更新されてないのかな。
ちなみに初刊の単行本はもう4年くらい前に刊行されてるんだけどね。


閑話休題。

小学生の吉田元基(げんき)くんの父親は宝飾デザイナー。
しかし最近、様子がおかしい。他の仕事は断り、
何か一つのことに取り組んでいるらしい。
今もそのためにフランスへ出張中だ。

そんなとき、元基くんとお母さんの元へ一人の男が現れる。
コウモリを思わせる顔つきで灰色のマントに身を包み、
自らをカクイと名乗る。彼は芸能プロダクションを経営していると称し、
元基くん母子をタレント・オーディションの見学に誘う。

そして元基君は、フランスから帰国した父から驚くべきことを聞かされる。父はすばらしいブルー・トパーズを入手したのだが、
実はそれは ”呪いのトパーズ” と呼ばれているらしい。
その日以来、父はそのトパーズを使った首飾り作りに
憑かれたように熱中し始めたのだという。

家庭のことさえ顧みなくなりつつある父を心配した元基くんは
友人の野呂一平(ノロちゃん)に明智小五郎に相談することを進められる。
なんと、ノロちゃんは少年探偵団員だったのだ!
そして、元基くんは両親とともに
カクイが主催するオーディションを見学に行ったのだが・・・


そしてここから、呪いのトパーズを巡ってカクイvs明智小五郎の
丁々発止の頭脳戦が始まっていく。まあだいたい見当がつくと思うが
カクイの正体は、おなじみの ”あの人” です(笑)。

原典は昭和初期~中期くらいにかけて発表されてるけど、
本書の時代設定は21世紀となっている。
何しろ本文中に明言されてるし、ケータイもインターネットも出てくる。
DVDだって、犯人が悪用するツールとなって登場する。

とは言っても、作品の持つ雰囲気はいかにも昭和で雰囲気。
これは原典を彷彿とさせる語り口と、レトロな挿し絵が大きいのだろう。

本書はあくまでオマージュ作品なので、
ミステリ的にどうだとかリアリティがこうだとか言うのは
野暮というものだろう。
往年の雰囲気に浸って懐かしみながら楽しむ。
これが本書の読み方の正解じゃないかな。

ちなみに、タイトルの「全員」っていったい誰のことだよって
思ったのだけど、これは読んでいくと分かります。

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トネイロ会の非殺人事件 [読書・ミステリ]

トネイロ会の非殺人事件 (光文社文庫)

トネイロ会の非殺人事件 (光文社文庫)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★

SFとミステリの両方を書く作家さんは洋の東西を問わず存在してる。

まず思いつくのはアイザック・アシモフだろう。
メインはSFの人なんだろうけど、純粋なミステリも書くし、
SFのほうにもミステリ仕立てのものが結構ある。
『鋼鉄都市』などのロボットもの長編がそうだったし
『ファウンデーション』シリーズにもミステリ的な仕掛けがあったり。

日本だとけっこうたくさんいると思うんだけど、
私がまず思いつくのは山田正紀かなあ。
もっともこの人は冒険小説やファンタジーも書く人で
どの分野でも傑作を産んでいるというすごい作家さんだ。

閑話休題。


小川一水はSF作家が本業なのだけど、
彼が書いたミステリ作品を集めたのが本書。
本書に収められた話は、ミステリ専業の人が書くものとは
雰囲気がいささか異なるみたいだ。

「星風よ、淀みに吹け」
JSA(日本宇宙機構)が地上に建設した閉鎖環境長期滞在実験施設。
将来の月面基地建設の技術獲得のため、そして
基地滞在要員養成のための訓練施設を兼ねている。
6人の人間が参加し、8ヶ月間この施設の中に籠もって生活する
滞在実験が行われた。この6人から2人が選抜され、
月基地要員となる。この実験は選抜試験の要素も含んでいる。
そして長い訓練期間が終わろうとしたとき、メンバーの一人が死亡する。
施設の最下層で、そこに滞留した高濃度の二酸化炭素の中で
窒息死していたのだ(二酸化炭素は空気より重い)。
現場の状況から、事故ではなく殺人と思われた・・・
密閉された施設なので、犯人は残った5人の中に必ずいる。
SF的設定ながら典型的なクローズト・サークルものでもある。
終盤に明らかになるトリックは、読者の盲点を突くもの。
堂々たる本格ミステリで、複数のミステリ・アンソロジーに
収録されたのも頷ける。

「くばり神の紀」
母を亡くした石沢花螺(から)は、老人向けデイサービスセンターで
住み込みで働きながら高校へ通っている。
彼女の母は資産家・伊瀬山礼三(れいぞう)の愛人で、
花螺自身は、今まで一度も父である礼三に会ったことはなかった。
しかしその礼三が危篤状態にあると聞き、ひとめ顔を見ておこうと
彼が住む豪邸・橡(くぬぎ)屋敷を訪れる。
ところが臨終の直前に、礼三はその橡屋敷を
周囲に集まった親族を差し置いて、花螺に譲ると言い出して事切れた。
後日、花螺のもとを訪ねてきた多岐(たき)という男から、
「あれは ”くばり神” だ」と告げられる。
この地方に住む資産家に起こる特有の現象で、
心臓が停止した直後に突然喋りだし、財産を周囲にいるみんなに
配ってしまう大盤振る舞いをするのだという。
”くばり神” には、何らかのからくりがあるとみた花螺だったが・・・
ホラーっぽい発端から始まり、謎の要素はあるのだけど
手がかりから推理を積み重ねるという流れではなく着地点はSF。
”くばり神” 現象についても科学的な仮説が提示されるのだけど
どちらかというと『ウルトラQ』か『怪奇大作戦』みたいな決着。
真相はかなり不気味なのだけど、語り手の花螺ちゃんが
明るく元気なお嬢さんなのでそのあたりがうまく緩和されてる。

「トネイロ会の非殺人事件」
一代一人(いちだい・かずと)は悪人だ。
弱り、落ち込んだ人に寄り添うふりをして心の中に忍び込み、
その秘密を握るや、一転して恐喝者となる。
彼の毒牙にかかった者はおびただしい数に上る。
そんな中、被害者となった者たちのうち10人が集まって
復讐計画を立案した。すなわち一代一人の殺害である。
彼をペンションに呼び出し、10人全員で殺害することにしたのだ。
そして首尾良く彼の殺害に成功した翌朝、実は10人の中に
手を下さなかった者がいることが判明する。
裏切ったのは誰か。メンバーたちは、彼らの中に潜む
”非犯人” を探し出すべく、推理を巡らせ始める・・・
まず、どうやって10人全員が均等に殺人に加わることがきるのか。
ここは作品の根幹に関わるところなので、
ユニークで風変わりな殺害方法が示されてる。
ミステリとしては逆転の発想の ”非殺人犯” を見つける話なんだが
事態は意外な方法へ進んでいく・・・
ラストはハッピーエンドのように思わせるが、よくよく考えると
けっこうブラックで怖いエンディングだったりする。
トネイロ会の ”トネイロ” ってどんな意味があるのかと思ったが
解説にヒントがあったのでわかったよ。
分かってしまえば「なるほど」な命名でしたね。

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シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 [読書・ミステリ]

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA)

シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 高殿 円
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/12/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

ホームズ&ワトソンと言えば、古典ミステリの最高峰にして
おそらく知らない人を捜すほうが難しいほど有名なコンビだろう。
そしてパロディやパスティーシュもまた星の数ほど書かれている。
本書もそれに連なる1冊だ。

作品年代を、原典での19世紀末からおよそ130年後の現代に設定し、
さらに主要人物の性別をすべて入れ替えている。

 とは言っても、原典でのレギュラーメンバーは
 ほとんど男性だったので、本書ではそれがすべて
 女性に置き換えられているというわけだ。

2012年、ロンドンオリンピック開催中のイギリス。
アフガン紛争に従軍し、負傷して除隊となった
メアリー・ジョセフィン・ハリエット・ワトソン(愛称ジョー)
元大尉(31歳)は、帰国して再就職の道を探していた。
しかし訪れた病院で採用を断られ、その日の宿にも困った彼女は
病院のモルグ(死体安置所)へ潜り込む。
戦場暮らしを経験しただけあって、遺体の横で眠ることも平気らしい。

しかしそこには先客がいた。
ジョーを一目みるなり彼女が帰還兵であること、
病院へ採用面接にきて落ちたこと、さらに
今までの経歴や交友関係をたちどころに言い当ててみせた妙齢の美女。
(ここは原典でも有名なシーンをしっかり再現している。)
彼女こそ、シャーリー・ホームズ(27歳)その人。

なぜかモルグの中で馬術服を着ていたシャーリーだが、
実はオリンピックの馬術競技に出場することになっていて、
そのまま会場へ行ってしっかり金メダルをとってしまうのだ(おいおい)。

そんな出会いを果たした二人は、そのままシャーリーが暮らす
ベーカー街221Bで、ルームシェアをして同居することになる。

シャーリーの仕事は顧問探偵。興信所や警察が持ち込んでくる
事件の捜査と解決にあたっている。
そんなところへ、スコットランドヤードのレストレード警部が
事件を持ち込んでくる。
ロンドン市内で、ほぼ同時刻に全く同じ方法で4人の女性が殺された。
年齢も国籍も場所もバラバラでまったく共通点がない。
怪事件の捜査に乗り出したシャーリーだが・・・


現代を舞台にするだけあって、各キャラクターもそれに合わせて
アップデートされてる。

まず、語り手であるジョーはいかにも現代的なアラサー女性。
恋に仕事に思うがままに生きてきたが、最近になって
このままでは嫁(い)き遅れるんじゃないかとの焦りも出始めている(笑)。
実はアフガン時代に凄絶な経験をしたことが示唆されているのだが、
そのへんの事情は次作以降に明かされるのかも知れない。

そして「僕には心がない」と述懐するシャーリー。
原典のような変人というよりは、最新IT機器を手足のように使いこなし
感情を排して合理的な思考のもとに行動する人、というイメージ。
移動に使うベントレー・コンチネンタルだってAIによる自動運転だし。
とはいっても「私は○○だからブラジャーをつけない」までいくと
ちょいと極端だが(爆)。

シャーリーの姉・ミシェールは原典通り英国政府の高級官僚だが
中身はとんでもない○○○で(詳しくは巻末の番外編で語られる)、
スコットランドヤードのグロリア・レストレード警部はシングルマザー。
さらに、221Bの大家さんである「ミセス・ハドソン」がまた
ぶっ飛んだ設定なのだが、これは読んでのお楽しみだろう。

そして、ホームズとくればもちろんあの宿敵も欠かせない。
今回の事件の黒幕は、数学者にして天才的なプログラミングの才を持つ
ヴァージニア・モリアーティ教授。
しかも、モリアーティとシャーリーは意外な一点において
大きな関わりをもっていることが明かされる。

そしてそして、最後に2ページだけ割かれたエピローグ。
うーん、これは後を引くなあ・・・続きが読みたくなる。


「シャーリー・ホームズとディオゲネスクラブ」

巻末に収録された、文庫で40ページほどの番外編。
ボーナストラックというところか。
本編では姿を見せなかったミシェール・ホームズがジョーの前に姿を現す。これがまた、妹とは違った方向に振り切れてしまっている人で・・・


本書はミステリとしてより、強烈な個性を持ったキャラたちが織りなす
ドタバタ・アクション・ストーリーとして読むのが正解じゃないかなぁ。

現在のところ、続巻は出ていないみたいなのだが、
これはぜひ続きを読みたいなぁ。お願いしますよ。

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鍵のかかった男 [読書・ミステリ]

鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)

鍵の掛かった男 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/10/06
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビが活躍する
シリーズの長編。今回は文庫で700ページ超という堂々のボリューム。


某新人賞の授賞式パーティーに出席した有栖は、
そこでベテラン歴史小説作家・影浦浪子から呼び出される。

浪子が大阪での常宿にしている中之島の銀星ホテル。
1月13日の朝、そこで宿泊客の梨田稔(69歳)の死体が発見された。
彼は銀星ホテルのスイートルームに5年間住み続けていた。

遺体の状況から、警察は自殺と判断しているが
生前から彼と交流のあった浪子にはそれが納得できない。
彼の死の真相解明を、有栖を通じて火村に依頼したいのだという。

しかしあいにく時期は1月下旬。大学入試の真っ最中である。
火村自身も入試業務に忙殺され、とてもそんな時間はとれない。
そこで火村に代わって有栖が調査に臨むことになる。

対象は事件当日の宿泊客たち、そして
ホテルのオーナー・桂木美菜絵とその夫で支配人の鷹史(たかし)。
銀星ホテルは5階建てのこぢんまりとした作りで
二人は最上階のペントハウスに居住している。
さらにホテルで働く従業員たち。
防犯カメラの映像から、もしも殺人ならば
犯人はこの中にいると思われた。

しかしいちばんの謎は動機。そして被害者の背景だった。
ホテルのスイートに住み続け、預金が2億円あったという。
しかし常連客や従業員たちとも打ち解け、愛される存在だった。
日常生活では公園の清掃、悩みの電話相談、病院の患者のケアなど
いくつかのボランティアを掛け持ちする。
およそ他人から恨みを買うような要素は皆無。
もし殺人だとしたら、動機は彼の過去に潜んでるのかも知れない。

天涯孤独で、5年前にホテルに現れるまでの過去が
全くの空白である、まさに ”鍵のかかった男”・梨田。
有栖は火村のアドバイスを受けながら、彼の過去を探っていく・・・


本格ミステリは、発端の事件からラストの解決編までの間、
いかに読者の興味をつなぎながら読ませていくのかがキモだと思う。
トリックもロジックも大事だけれど、
実はストーリーも負けず劣らず大事なものだろう。

有栖川有栖という作家さんは、終盤のロジック展開は
いつもながら折り紙付きの見事さを示すけど、
捜査の途中を上手く読ませる名手だとも思ってきた。
本書はその ”能力” が遺憾なく発揮された作品だと思う。


ミステリ作家とはいえ探偵業ではずぶの素人である有栖が
火村の仲介で事件の捜査をした刑事と接触を始め、
さらに宿泊客・従業員たちへと聞き込みを広げていく。

最初はさっぱり進展せずに雲を掴むような状態が続くが
聞き出した事実が積み重なっていくにつれて
薄皮を一枚ずつ剥がすように、梨田という男の
意外かつ驚くべき半生が次々と明らかになっていく。
もちろんそれには、途中から参加してくる火村の存在も大きいが。

そしてそこまでで500ページ近い分量を費やすのだけど
退屈さは全くなく、読者を導いていく。

そして終盤、いよいよ火村がホテルに乗り込んでいくのだが
関係者の漏らした一言から一気に真相解明に至る流れは流石だ。

梨田の秘めた心情が明らかにされるラストでは
思わず目頭が熱くなってしまったことを書いておこう。

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福家警部補の報告 [読書・ミステリ]


福家警部補の報告 (創元推理文庫)

福家警部補の報告 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/12/11
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

地味なスーツにぱっつん前髪。小柄で童顔、メガネっ娘。
就活中の女子大生とも見まごう姿ながら、実は警視庁の凄腕刑事。
それが本書の主人公、福家(ふくいえ)警部補。

犯人の残した些細な手がかり、わずかなミスを見逃さず
それを積み重ねて着実に真相に迫っていく。
まさに「和製コロンボ」ともいうべきシリーズの3巻目。


「禁断の筋書(プロット)」
学生時代からともにプロ漫画家を目指した三浦真理子と河出みどり。
しかし夢を叶えたのはみどりだけだった。
新人賞で最優秀賞を受賞したことを皮切りに
月刊誌に連載を持ち、単行本も10巻を数えるようになった。
一方、夢破れた真理子は編集者の道に入ったが
天賦の才があったのか、その分野でめきめきと頭角を現していった。
そして、真理子がみどりの担当編集者になってから、
順調だったみどりの仕事に影が差し始める。
連載終了後の仕事がなかなか決まらないのだ。
裏で真理子が画策しているとの噂を聞いたみどりは、
巨匠・細川理恵子の漫画家生活三十周年記念パーティを終えた夜、
真理子のマンションを訪ねて彼女の真意をただそうとするが・・・
文庫で約120ページの中編。

「少女の沈黙」
組長の死を契機に解散した暴力団・栗山組。
幹部だった菅原は、ヤクザ家業から足を洗おうとする者たちの
再就職のために東奔西走する毎日。
そんな中、組長の長男・邦孝の娘・比奈が誘拐される。
犯人は邦孝の弟で組員だった次郎。彼は邦孝を脅迫して旧組員を集め、
仇敵だった飯森組を襲わせようとしていた。
堅気の仕事に就いている邦孝とその娘を救うため、
菅原は次郎が比奈とともに身を潜めているアジトへ向かうが・・・
文庫で約200ページと堂々の読みごたえ。

「女神の微笑(ほほえみ)」
都心のオフィス街に停車していたワンボックスカーが爆発、
乗っていた3人の男は即死する。
福家も加わった捜査の結果、浮上したのは後藤秀治&喜子の熟年夫婦。
そして死んだ3人組は、現場近くの銀行へ
強盗に入ろうとしていたらしいことが判明する。
さらに、過去にも同じような事件が複数起こっていたことも・・・
文庫で約100ページと本書中では最短だが
後藤夫婦との ”勝負” は今回では決着がつかず、
この2人はどこかでまた再登場しそうな気配。
ひょっとすると、”ホームズ” に対するところの
”モリアーティ教授” みたいな存在になるのかも知れない。


冒頭に書いた福家警部補のプロフィールに加えて
”サブカルおたく” という面も忘れてはいけない。
マンガ・アニメ・特撮・映画、さらに2次元/3次元を問わないので
模型やフィギュアも守備範囲という。
そのへんの蘊蓄もまた本書「禁断-」で発揮されてる。

また、メガトンコミックフェスタ(コミケがモデルと思われる)にも
出没してるらしいことが福家自身の台詞にある。
このイベントは同じ作者の『白戸修シリーズ』の中で行われているので
福家警部補のシリーズは白戸修くんの世界とも地続きらしい。

さらに、本書にはやはり同じ作者の『警視庁いきもの係シリーズ』の
レギュラーメンバー、須藤・石松の両刑事もゲスト出演しているし、
主役の薄(うすき)巡査への言及もある。

さらにさらに、現在私はその『いきもの係シリーズ』の一冊である
『ペンギンを愛した容疑者』を読んでるんだが、
その中には『問題物件シリーズ』のヒロイン・若宮恵美子も
ちょい役で出てきてるので、ひょっとするとこの作者の現代ものは
みんな同一世界の物語なのかも知れない。

ならば、いつの日か大倉作品の主役級キャラ総出演の
オールスター戦みたいな作品が読めるかも知れないね。
ちょっと期待してしまう。

書く方はたいへんだろうけど(笑)。

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アルパカ探偵、街をゆく [読書・ミステリ]


アルパカ探偵、街を行く (幻冬舎文庫)

アルパカ探偵、街を行く (幻冬舎文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2016/04/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

タイトルを観てまず思ったのは、「なぜアルパカ?」

古今東西、いろんな探偵役がいるけれど
まあ、たいていは人間だ。
青年から壮年くらいの男性が主流かと思うが女性だって少なくない。
年齢もミス・マープルみたいなご高齢から
二階堂黎人氏の「僕ちゃん探偵シリーズ」みたいな幼稚園児までいる。

動物だと赤川次郎の「三毛猫ホームズ」が有名だが、残念ながら未読。
松尾由美の「ニャン氏の事件簿」も猫の探偵だったけど
猫の言葉を人間語に ”翻訳” して語ってくれるのは
”彼” の秘書(人間)だったなあ。
宮部みゆきの「パーフェクト・ブルー」は
元警察犬マサの一人称形式だったけど、はてマサは探偵役だったかな?

閑話休題。


本書では、人語を話すアルパカが登場する。
その横には全身黒ずくめでフードを被った従者(人間)がいるのだけど、
その人が腹話術とかを使ってるのではなさそうで
ホントにアルパカ(ちなみに自分のことを「ランスロット」と名乗る)
が喋っているみたいである。


「第一話 アルパカ探偵、聖夜の幽霊を弔う」
プロ野球選手・貞光健也の娘・葵は3歳の時に母を亡くしていた。
7歳になった年のクリスマス、深夜に帰宅した父から
プレゼントのテディベアを受け取るが、
実はその4時間前、健也は交通事故で落命していた。
伯母夫婦の養女となり、高校1年生へと成長した葵は
9年前の謎の解明のために父の関係者を訪ねていくが・・・

「第二話 アルパカ探偵、奇蹟の猫を愛でる」
高校生・山瀬圭吾の飼い猫・コユキが逃げ出して行方不明に。
友人を通じてSNSで目撃情報を募ったところ、
近隣にある大病院の近くによく似た猫がいたという。
探しに行った圭吾は、首尾良くコユキを発見するが
そこに現れた少女・香西莉乃が「それは私の猫」と主張する。
どうやら、そっくりな猫が2匹いるらしい・・・

「第三話 アルパカ探偵、少年たちの絆を守る」
小学5年生・速斗(はやと)の父は5年前に事故死していた。
乗っていた釣り船が海上保安庁の巡視船と衝突したのだ。
速斗の住む街では、車のナンバープレートへの落書きが頻発していた。
夏休みが始まり、所属している「探偵クラブ」の活動として
落書き事件のことを調べ始めた速斗たちだったが
そのさなか、仲間の1人である駿(しゅん)の様子がおかしくなる・・・

「第四話 アルパカ探偵、夫婦の絆を照らし出す」
池谷静子は21歳の時、夫・昭一と結婚。
以来数十年、平穏な生活を送ってきたが昭一は2年前に他界した。
暮れの大掃除の時、孫の亜里沙がタンスの引き出しの奥底から
見つけた一枚の写真に静子は衝撃を受ける。
そこには結婚前の夫が、若く美しい女性と一緒に写っていたのだ。
これは、昭一が思いを寄せていた女性ではないのか・・・?
落ち込んだ祖母を見かねた亜里沙は、
写真の女性を突き止めようと調査を始めるが・・・
いやあ、トシをとったせいかこの話は沁みる。
最後のページで涙腺が崩壊してしまった。

「第五話 アルパカ探偵、少女の想いを読み解く」
父と妻をガンで失い、3ヶ月前には
高校生の一人娘・春香をも脳腫瘍で亡くした須崎佑志。
ある日彼は、春香が残した日記を発見する。
そこに書かれていたのは、彼氏との恋の日々。
4月20日に告白されたことから始まり、
8月31日の水族館デートまでが綴られていた。
しかし春香は相手の男性の名をすべて ”X” と記し、
本名は書かれていない。
”X” の正体を知りたい佑志は、春香の想いを辿って
日記に書かれた場所を巡り始めるが・・・
いやあこれも切ないなあ。
娘がいる人は目から汗が出るだろう。


アルパカ探偵ランスロット氏は、各短編の終盤or中盤に登場し、
真相を告げたり、真相へ至るヒントを与えたりする。
上に書いた紹介文で分かると思うが、
彼が関わる事件には共通点があって
愛していた者を喪い、悲しみに暮れる人のもとへ現れるのだ。
(第二話もラストに至って、やはり喪失感に苛まれる人が登場する)

何でそういう人の存在が分かるのかというと、
彼は「かぐわしい謎の香り」に惹かれて現れるらしい。
自分を貴族と言ってるだけあって、人間界の上流階級にも
けっこう影響力がありそうな描写も。
ランスロット氏に関する部分だけはファンタジーだね。

しかし、読み終わってもやっぱり思う。
「なぜにアルパカ?」

まあ、ウシやラクダやカバやゾウが出てきても対応に困るが(笑)。

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ヒクイドリ 警察庁図書館 [読書・ミステリ]


ヒクイドリ 警察庁図書館 (幻冬舎文庫)

ヒクイドリ 警察庁図書館 (幻冬舎文庫)

  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/10/09
  • メディア: 文庫
評価:★★

日本にはスパイ組織は存在しない。建前上は。
実際のところは知らないけど(笑)。
でも、フィクションの世界では古くから存在している。

私が若い頃に読んだ本では ”内閣調査室” なんてのがよく出てきたなあ。
実際のところ、どの程度のことやってたのかは分からないけどね。
ちなみにwikiによると、今は ”内閣情報調査室” って改名されてるみたい。

近年だと福井晴敏の ”DAIS” なんてのもあったね。
こっちは自衛隊の特殊部隊で、派手なドンパチもこなす。

閑話休題。


本書のタイトル「図書館」は、library という意味ではない。
警察庁長官直属の非公然諜報組織のことで、
”ヘカテ” という別名でも呼ばれている。

そしてややこしいことに警察庁長官直属の非公然諜報組織というのが
もう一つ出てくる。こちらは ”アサヒ” って名前がついてる。

目的も同じで(だってどっちも警察組織なんだからね)、最大の敵は
武力革命によってマルクス・レーニン主義実現を標榜する社労党。
そして社労党が警察組織内に送り込んだ潜入スパイの摘発だ。
今作での標的は、コードネーム「アプリコット」と呼ばれる大物スパイ。

ところが ”図書館” と ”アサヒ” は仲が悪い。設立の発端から異なる上に
指揮系統も全く別で、近親憎悪というか同族嫌悪というか
隙あらば相手を叩き潰そうと激しい権力抗争を繰り広げている。
前述した「アプリコット」の摘発も、
その功績によって相手組織より優位に立ち、予算も人員も獲得して
最終的に相手組織を排除してしまおうという目論見がある。

このあたりが冒頭で語られるのだが、メインのストーリーは
一見してこんな状況とは全く関係なさそうに進行する。


山蔵県警能泉(のうせん)署の管内で、連続放火事件が発生する。
燃やされたのはいずれも小さな駐在所だが、共通点は
能泉署の刑事次長・佐潟(さかた)警視が
現場に臨場できる日に起こっていること。

犯人は女性警察官の諏訪菜々子であることが早々に明かされる。
彼女は警察学校卒業後、2年足らずで刑事として抜擢されるが
そこで上司であった佐潟と不倫騒ぎを起こし、
交番勤務へと左遷されていた。

彼女が放火をするのは、臨場してくる佐潟と一目会うため。
とんだ「八百屋お七」なんだが、その菜々子に
警察学校時代の恩師・清里警部補が接近してきて、ある提案をする・・・


菜々子、佐潟、清里以外にも多くの人物が登場する。
菜々子の警察学校時代の同期で、かつては恋人でもあった黒瀬をはじめ
さまざまな階級の警官たち、知事・副知事などの政治家・官僚。

上述のように、その中には当然ながら ”図書館” のメンバー、
”アサヒ” のメンバー、そして「アプリコット」本人も含まれる。
いったい誰がどこの陣営に属しているのか、
狩る者・狩られる者の区別も判然としないまま
2つの組織間ではドロドロな権謀術数が渦を巻いてゆく。


そしてそして、さらにややこしいことに
この作品は本格ミステリでもあったりする。
つまり、”一発逆転で予想外の真相” ってものが
最後の最後に待ち構えているわけで・・・

実際、ラストの展開は十分に意表を突くもので、
人間不信になりそうなオチでした(おいおい)。


また、ミステリとしての興味以前に ”図書館” と ”アサヒ” の間の
そのあまりにも濃密な陰謀劇にいささかゲンナリしてしまう。

登場人物間の関係が ”欺し/欺されがデフォルト” というは
私にとっては読むのがかなり辛いものがありますねえ。
そして、たぶん私のアタマが悪いせいで、幾重にも張り巡らされた
”謀略の罠” に、途中でついていけなくなってしまったのでしょう。
だんだん「もうそんなのどうでもいい」って気になってしまった。

「あんたら、いつまでそんな不毛なことやってるの?」
「そのエネルギー、もうちょっと建設的に使えないの?」
「そんなことに血道を上げさせるために税金払ってんじゃないよ」

読後に私のアタマの中をよぎったのはそんな思い。
評価の星の数が少ないのもそのあたりが理由。

スパイもの、謀略ものが大好きな人には大受けするのかも知れないが。
人によってかなり好き嫌いが分かれる作品なのではないかな。

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刑事の矜持 日本推理作家協会賞受賞作家傑作短編集 [読書・ミステリ]


刑事の矜持-日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集(7) (双葉文庫)

刑事の矜持-日本推理作家協会賞受賞作家 傑作短編集(7) (双葉文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

『探偵の誇り』に続く、
日本推理作家協会賞を受賞した作家さんによる短編アンソロジー。
前回もそうだったが、発表年代がかなり古いものが集められてる。
参考までに、タイトルの前に発表年を記してみた。

2009「亡霊」大沢在昌
キャリアでありながら、現場の警官であり続ける
孤高の刑事・鮫島を主役とした『新宿鮫』シリーズの一編。
組の金に手をつけて、”消された” と思われていた
暴力団員・須藤錠治が新宿の街に現れた。
半年前に起きた宝石店強盗との関係を疑う鮫島だったが・・・
『新宿鮫』も4作めか5作めくらいまでは読んだかなあ。
大沢在昌はやっぱり私とは合わないなあとも思った。

1988「帰り道は遠かった」黒川博行
大量の血痕が残るタクシーが発見されたが、運転手の柴田の姿はない。
タクシーの後部には真新しい衝突痕があり、分析の結果
相手はSクラスのベンツと判明した。
大阪府警の刑事、黒木と亀田のコンビが真相を追う。
自分が関東生まれ関東育ちのせいか、コテコテの関西弁は苦手みたい。
TVで観てるのは大丈夫なんだが、文章で書かれると
内容が頭に入ってこなくて話に乗れない。

1993「有力者の夢」佐野洋
”白の刑事” と呼ばれる相良は、被疑者にかけられた疑いを晴らすべく、
「白」になる証拠を集めようとする風変わりな刑事。
幼児相手の痴漢行為の容疑者として小学校教師・蓬田が逮捕される。
その決め手となったのは元警察署長・菅(すが)の目撃証言だった。
彼は、市議会議員になるという夢を描いていたのだが・・・
弁護士の東谷(とうや)は、相良と相談して一計を案じる。
佐野洋も、20代の頃に長編を4冊くらい読んだかなあ・・・

1956「信号は赤だ」島田一男
白バイで巡邏中の三田巡査はスピード違反のシボレーを発見、追跡する。
しかしその途中で、運転手が射殺されたタクシーが発見される。
赤信号で止まったシボレーから、横にいたタクシーに撃ちこまれたらしい。
そしてそのタクシーの乗客となっていたのが、
三田の婚約者・佐枝子の弟、三郎だった・・・
佐枝子の職業がバス・ガールとか、戦後間もない頃の風俗が描かれてる。
ストーリー運びも犯人像も大仰な感じで、如何にも昭和な雰囲気満載。
だけど、江戸川乱歩から読書人生が始まった私には
それがとても懐かしく感じられるんだよなぁ。

1951「絆」土屋隆夫
小学校教師・千野が担任している6年生・柳河秋夫が書いた作文。
タイトルは『ぼくの父はころされた』。
彼の父・正利は1年前に青酸カリで死亡していた。
ガンがかなり進行していたこと、死んだ日が8月15日だったこと、
そして正利が元陸軍大佐だったことから自殺と思われていた。
たまたま、千野の友人で警視庁で刑事をしている朝霧が
体調を崩して彼のもとへ静養に訪れていた。
千野に協力を求められた朝霧は、真相を確かめるべく動き始める。
メインのトリックはあからさますぎて早々と犯人の見当がついてしまう。
このネタで、いまミステリを書いたら噴飯物だろうなぁ。
犯人当てではなく、犯罪の背景を描くことがメインの作品なのだろう。
復員軍人である被害者の過去が動機に繋がるなど
これも ”時代” を感じさせる作品。
中学校教師と兼業で作家活動を続けた人で、作品数はそう多くないはず。
読んだのは初期の長編3冊くらいかなぁ。

1947「霊魂の足」角田喜久雄
文庫で約90ページと、本書中で最長。
花屋『マドモアゼル』は兄・大滝隆平と妹・マユミ、母親・加代の
3人で経営している。そこへ隆平の弟・正治が
2人の仲間、服部と石川を伴って復員してきた。
しかし3人は定職に就くでもなく、なにやら企んでいる様子。
そして1週間後、『マドモアゼル』が営業しているビルの地階の
隣の区画で服部の銃殺死体が発見される。さらに殺人は続いて・・・
警視庁捜査一課長・加賀美(かがみ)が活躍する一編。
角田喜久雄も懐かしいなあ。『高木家の惨劇』を読んだのは
中3くらいの頃だったかなぁ。内容はよく理解できなかったが(笑)。
親父の蔵書の中にあったんだよねえ。
そういえば、『化人幻戯』(江戸川乱歩、これはエロかったwww)も
『悪魔の手毬歌』(横溝正史、これは怖かった)もあった。
みんな箱入りで立派な製本で、何かの全集だったのかも知れない。
親父の蔵書はほとんどが実用書ばかりで、数少ないノンフィクションは
歴史小説ばっかりだったと記憶してるんだが
実は意外とミステリ好きだったのかも。


なんと後半の3作は私の生まれる前の作品。
ミステリの歴史は長いというのを実感しますねぇ。

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屋上の名探偵 [読書・ミステリ]

 

屋上の名探屋上の名探偵 (創元推理文庫)偵 (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 哲也
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

作者は2013年の鮎川哲也賞を『名探偵の証明』で受賞した人。
本書は、受賞作で探偵役を務めた蜜柑(みかん)花子さんの
高校時代のエピソードを収めた短編集。


語り手は澄雲(すみくも)高校2年生の中葉(なかば)悠介。
極度のシスコンで、1歳上の姉・詩織里(しおり)に対して
盲目的な愛を捧げているという設定で
いささか読んでいると引いてしまうところも多々あるのだが・・・

彼の周囲で起こる事件を解決するのが
東京から来た転校生にして、名探偵と呼ばれる蜜柑花子。
昼休みにはいつも屋上で一人弁当を食べている、というのが
表題作の由来だろう。


「水着ロジック」
詩織里のスクール水着が教室から盗まれるという事件が発生する。
水着に対して犯人が、あーんなことやこーんなことを
してるんじゃないかとの妄想に駆られた悠介は
花子の助けを借りて犯人を突き止めようとするが・・・
姉のためとはいえ、情報収集のために
学校中を駆け回る悠介の行動力はたいしたもの。
その結果、容疑者は三人にまで絞られるのだが・・・

「人体バニッシュ」
野球部の顧問教師・五唐(ごとう)は、3年生の室勇希(むろ・ゆうき)が
タバコを吹かしているところを発見する。
逃げる室を追いかけた五唐だったが、
校舎の角を回ったところでその姿を見失ってしまう。
校舎の窓は内側から施錠され、その場にいた数人の男子生徒の中にも
もちろん室はいなかった・・・

「卒業間際のセンチメンタル」
木製フレームに、生徒38人分の写真を収めた
卒業制作を作り始めた詩織里たち3年E組。
しかし、保管していた技術室に何者かが侵入し
作品がズタズタに破壊されてしまう。
本書中、これがいちばん青春ミステリらしいかな。

「ダイイングみたいなメッセージのパズル」
3年生へ進級し、初めての中間試験を終えた悠介。
彼のもとへ卒業して下宿生活に入った詩織里が
3人の友人とともに訪ねてくる。
花子も加えて6人でドライブに出かけた一行は、
途中で小学校に立ち寄る。
友人の一人、山斗(やまと)の妹を迎えに行くためだ。
しかしそこで、詩織里の友人・千賀が
頭部から血を流して倒れているところを発見される。
さらに、彼女は血のついた指で文字を書き残していた・・・


猪突猛進的に走り回る悠介と対照的に
花子は引っ込み思案で、”名探偵” と呼ばれることも嫌がる。
それはどうやら転校前に何らかの理由があるようだが・・・

姉のことしか目に入らない悠介に対し、
色恋ごとには奥手な様子の花子と、こちらも対照的。

というわけで、主役二人のキャラクターも面白いけれど
学校という舞台だからこそ成立するトリックや、
高校生や大学生ならでは動機とか、
”学園ミステリ” という素材をうまく活かしてると思う。

デビュー作である『名探偵の証明』文庫化されていて
手元にあるので、そのうち読む予定。

とは言っても、山ほど積ん読が溜まってるので
いつになるのかわからないんだけど。
今年の目標はすこしでも積ん読を減らすことかなぁ。
(これ、毎年言ってるが、ほとんど減ってない・・・)

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