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パンデミックを阻止せよ [読書・冒険/サスペンス]


パンデミックを阻止せよ (新潮文庫)

パンデミックを阻止せよ (新潮文庫)

  • 作者: クライブ カッスラー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/04/30
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

海洋冒険小説ダーク・ピット・シリーズのスピンオフである
「NUMAファイル・シリーズ」、その8作目。

アメリカのNUMA(国立海洋海中機関)に所属するダーク・ピットの
同僚にして、特別出動班を率いるカート・オースチンとその仲間たちが
活躍するシリーズだ。


中国の僻村で発生したのは、SARSを遙かに超える感染力と
高い死亡率を持つ新型インフルエンザだった。

中国政府はアメリカに協力を求め、極秘に建設された
海中研究所<海の墓場>で共同でワクチン開発を始める。
しかし、ワクチン製造の目処が立った頃、
海中研究所そのものが姿を消してしまう。

 この施設は海底に設置してはあるが、
 きっちり固定してあるわけではなく
 その気になれば移動させられる構造になっていたのだ。

それと前後して、ワクチン研究の中心となる
海洋微生物学者・ケイン博士も行方不明となる。

ワクチン開発に対する妨害工作を探るため、サンデッカー副大統領は
オースチンのチームに出動を要請する。

オースチンは中国人女性ウイルス学者ソン・リー博士とともに
調査を開始するが、謀略の背後には中国系グローバル企業が・・・


純然たるエンターテインメント作品で、
主人公オースチンの活躍をきっちり語りきってみせる。
その腕前はさすがにベテランと言えるのだろうけど
(毎回書いてるが)いささかマンネリ化してきてる気もする。
まぁ、払ったお金の分だけは楽しませてくれてるとは思うけど。


ダーク・ピット・シリーズの著者クライブ・カッスラーが
ポール・ケンプレコスと共作する形で書かれているシリーズだなんだが
巻末の「訳者あとがき」によると、
ケンプレコスは本作を以て本シリーズを離れたのこと。
しかしながらカッスラーは新たな共著者を得て
「NUMAファイル・シリーズ」は続行中、
既に4作が刊行されてるという(2015年3月現在)。

いやはや御年87歳(本作刊行時でも78歳!)にしてこの創作意欲。
”元気な高齢者” のコンテストがあれば上位入賞も間違い無いだろう。

内容とは全く関係ないことをちょっと書く。

最近のカッスラー作品は必ずといっていいほど
上下二分冊で刊行されてきたんだけど、本書は一冊での刊行。
(656ページあるので、二分冊にしてもおかしくない分量ではある)
これは何を意味しているか、いろいろ考えてしまう。

共著者が代わった後の本シリーズが翻訳刊行されるのかどうかは
まだ分からないけど、個人的にはもういいかな・・・って思ってる。

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カミングアウト [読書・その他]


カミングアウト (徳間文庫)

カミングアウト (徳間文庫)

  • 作者: 高殿 円
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2011/02/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

誰でも、人に言えない秘密の一つや二つはあるだろう。
(私なんかもっとありそうだがwww)
そして、長い人生の中では、それを明かすべきか明かさざるべきかと
悩む瞬間が訪れることもあるかも知れない。

本書は6つの章とエピローグからなるのだが、
5つめの章までは、登場人物それぞれが
自らの中に秘密を抱えて悶々とする様子が描かれる。


「コインロッカー・クローゼット」では
コインロッカーに複数の高校の制服を用意し、
複数の携帯を使って複数の人格になりきって
男たちの欲望を翻弄しようとする女子高生・さちみ。

「オフィス街の中心で、愛を叫ぶ」では
29歳のお局OLながら、ロリィタ服愛好者をやめられないリョウコ。
結婚を考え始めた相手に、告白すべきか、
それとも趣味を ”卒業” すべきか悩ましい日々。

「恋人と奥さんと母親の三段活用」では
一途な恋愛の末に結ばれたはずのに、子供が生まれてからは
自分を ”女” として扱ってくれない夫に失望し、
ネットで知り合った相手との浮気を考え始める主婦・史緒(しお)。

「骨が水になるとき」
46歳、結婚歴・離婚歴無し。気楽な独身貴族を続けてきたが、
最近、寂しさを感じ始めてきた臣司(しんじ)。
しかし一人の少女との出会いが彼の生活を変えていく。

「老婆は身一つで逃亡する」
時代錯誤な亭主関白ぶりの夫に愛想を尽かし、10年かけて密かに
1000万円のへそくりを貯めた主婦・初恵。
夫の定年退職の日に、”華麗なる復讐” を目論んでいるが・・・


それぞれ異なる主人公なのだが、読み進むにつれて
ある章の登場人物が他の章に登場したりと
彼らの間に意外な関係があることが分かってくる。

そして最終章の「カミングアウト」では、文字通り
それまでの章の主役キャラが次々と秘密を明かしていく。
それはもう小気味いいくらい痛快に、
相手に向かって、周囲に向かって、そして世間に向かってハッキリと。

その ”衝撃の告白” が巻き起こした騒動の顛末が
「エピローグ」で綴られるんだが、
そこはエンターテインメント作品なので、すっきり大団円となる。

 実際はこんなにキレイには収まらないだろうなー、とは思うけど。

読後感はとてもいいので、本来なら★3つ半くらいの作品なんだが
冒頭でさちみさんの陥る窮地は自業自得感が半端なく、
今ひとつ彼女に対して感情移入がしにくいんだよねえ。

 他の4人はすんなり入り込めたんだけど、そこはやっぱり
 私が、アタマの堅いオジサンだからですかねえ・・・

なので★半分、減点してしまいました。
どうもすみません、

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高原のフーダニット [読書・ミステリ]


高原のフーダニット (徳間文庫)

高原のフーダニット (徳間文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★

臨床犯罪学者・火村英生(ひむら・ひでお)と
ミステリ作家・有栖川有栖(ありすがわ・ありす)の
コンビが活躍するシリーズ。本書は3作を収録

「オノコロ島ラプソディ」
休暇で淡路島を訪れていた火村が巻き込まれたのは
廃品回収業者・蛭川の殺害事件。
しかし、容疑者たちはそれぞれアリバイを主張するのだが・・・
巻末の「あとがき」を読むと、もともと本作は
ドタバタ・ミステリにしたかったのだが
「ドタバタは難しい」と断念したとのこと。
たしかにこの作者にドタバタは似合わないかなあ。
クスッと笑えるくらいのユーモアは随所にあるんだけどね。
その名残か、本作のトリック(?)はほとんどバカミスに近い。
有栖川有栖でもこんなこと思いつくんだねぇって驚いたよ。
ちなみにタイトルの ”オノコロ島” とは、古事記・日本書紀などの
日本神話に登場する島で、イザナギノミコト・イザナミノミコトによる
国生み神話で神々がつくり出した最初の島のこと。
それを淡路島だとする説があることからタイトルに使われてるのだろう。

「ミステリ夢十夜」
”こんな夢を見た。” というフレーズから始まる、
原稿用紙12枚という超短編を10作並べたもの。
ミステリと言うよりはショート・ショート。
中身もバラエティに富んでる。
パズル、SF、コメディ、ホラー、そしてメタミステリ・・・
なかでもSFは、70年代の頃の香りがあってなんだか懐かしい。

「高原のフーダニット」
突然、火村の元へ電話をかけてきた男・大朔(おおさく)栄輔。
2年前、一卵性双生児の弟・光輔とともに殺人事件の容疑者となったが
火村によって真犯人が検挙され、冤罪を免れていた。
「光輔を殺した。明日自首する」と告げて電話は切られた。
翌日、二人の死体が発見されるがどちらも他殺だった。
火村とアリスは、現場となった風谷高原へ向かうが
そこで暮らしている人々(容疑者たち)は、みんな平穏で
およそ犯罪とは縁がなさそう。
火村が犯人指摘に至った決め手も、”高原” という舞台ならでは。
終盤、彼は犯人に対して自首を促すんだが
これが決して慈悲の心からじゃないのが、いかにも火村らしい。

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凍雨 [読書・冒険/サスペンス]


凍雨 (徳間文庫 お 41-1)

凍雨 (徳間文庫 お 41-1)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

福島県北部にそびえる単独峰、嶺雲岳(れいうんだけ)。
登山シーズンも終了した10月末、そこを訪れた一人の男。
彼の名は深江、そしてそこは6年前に親友・植村が遭難死した場所だった。

登山口から林道に入った深江は、先客がいることに気づく。
植村の妻・真弓と一人娘の佳子(よしこ)が
3人の登山ガイドとともに夫の慰霊に訪れていたのだ。
植村の死に責任を感じていた深江は、そのまま引き返してしまう。

しかし深江を乗せたタクシーは、下山している途中で
謎の男たちを載せたワンボックスカーから銃撃を受ける。
辛うじて切り抜けた深江だったが、男たちがそのまま
登山口へ向かっていくのを見て、自分もまた後を追っていく。

さらに、男たちを追う新たなグループまで出現し、
嶺雲岳を舞台に壮絶な銃撃戦が始まる。
その中に飛び込んでいく深江。
彼には真弓と佳子を守らなければならない理由があったのだ。

植村の死の原因となった過去の記憶。
そして、彼から託された言葉。
「なあ、嫁さんと子供をたのむよ」

亡き友との約束だけを胸に、たった一人の戦いが始まる・・・


いくらなんでも、単独であんな重武装の連中に
立ち向かうなんて、普通に考えたら無謀の極みなんだが、
実はこの主人公、常人離れした戦闘能力を秘めているのである。

中盤あたりでその理由というか正体が明かされるのだが
そうはいっても多勢に無勢、激闘に次ぐ激闘で
どんどん満身創痍になっていくのはお約束の展開だろう。

そして、敵方の中にも深江に匹敵する実力の持ち主がいて、
こいつが終盤にかけて最大の敵となって立ちはだかる。


亡き親友のために戦う、という理由は『ホワイトアウト』(真保裕一)、
相手を一人ずつ倒してその武器を奪っていく展開は
映画『ダイ・ハード』と、有名作品のいいとこ取りみたいだが、
深江と植村の過去の因縁も十分納得できるものだし
山岳地帯という独特の条件を活かしたアクションシーンも秀逸。
戦闘/格闘シーンも迫力十分で、山岳活劇小説の傑作だと思う。

作者は本格ミステリ(それもユーモア・ミステリ)を
ホームグラウンドにする人なんだが、本書を読むと
もう、どんなジャンルでも書けるんじゃないかって思うよ。

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恋する創薬研究室 片思い、ウイルス、ときどき密室 [読書・ミステリ]


恋する創薬研究室 片思い、ウイルス、ときどき密室 (幻冬舎文庫)

恋する創薬研究室 片思い、ウイルス、ときどき密室 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2015/05/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

ヒロイン・伊野瀬花奈は帝國薬科大学の修士2年。
新しい抗インフルエンザ薬の開発を目指して研究する毎日だが
実験中に失敗ばかり繰り返し、もちろん結果もパッとしない。
イケメン助教・北条智輝(ともき)へ片思い中だが
こちらも言い出せずに悶々とする日々。

そんなとき、大学内の<恋愛相談事務局>なるところから
花奈のもとへメールが届く。

この<恋愛相談事務局>なるもの、
内閣府の少子化対策の一環で設立された、
いわば国営の結婚相談所という作品内設定。

若い男女の交際を後押ししようという、いささかお節介な部署だが
花奈は相談員・早凪(はやなぎ)の助けを受けて
智輝との恋愛成就に向けて一念発起するのだが・・・

同じ研究室に所属する結崎は、研究成果も順調でしかも美人、
そして北条を巡る恋のライバルでもあることが判明、
さらには花奈に対して殺害を予告する脅迫状まで送られてきて
花奈の前途は多難である。

もちろん作者は現役の薬学研究者なので、恋愛要素だけでなく、
新薬開発に繋がる新化合物の合成に取り組む花奈の姿も描かれる。
しかも、今回の研究の結果如何によっては
花奈の恋の行方にも大きく関わってくるのだ。

サブキャラもなかなかユニーク。

花奈の指導教官は、智輝と同期の助教・相良(さがら)。
痩身に三白眼という近寄りがたい雰囲気を漂わせ、
彼の前では花奈はいつも戦々恐々である。

花奈の合成した化合物の活性を調べてくれるのは
博士課程3年の御堂(みどう)。
計算科学を専攻し、日がな一日、高性能コンピュータの前で
新薬開発のための計算に明け暮れている。
相良とは対照的に、だらけきったパンダのような肥満体の女性だが
親身になって花奈の研究の相談に乗ってくれる。

そして、花奈のパートと並行して
智輝の家族を巡るエピソードも綴られていくのだが
これがラストで意外な形で交錯する。

脅迫状を巡る真相はもちろん明かされるのだが
その後にもう一段、サプライズが用意されてる。

本当のところを言うと、この手のオチはあんまり好きではないんだが
読後感がよいのであまり気にならなかった。

欲を言えば、事件の数ヶ月後くらいの花奈の様子が知りたいんだけど
そのへんは読者の想像に任せるってことですかね。

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『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第六章 回生篇 特報公開 [アニメーション]


今日(11日)の朝、特報が公開されてることを
コメント欄で教えていただきました。
公式サイトを見ると、アップされたのは昨日のようですね。

毎度のことですが、見ながら考えたこと思ったことをずらずらと。

・藤堂「ここから先は通さない、ガトランティス!」
 たぶん「銀河」の艦長の藤堂さん。
 やっぱり長官の血縁なんでしょうねえ。娘か孫か、
 まさか嫁ってことはないでしょうが(笑)。
 あ、息子の嫁って線はありかも(ry
・彗星帝国のガス体の中へ落ちていくヤマト
 そして雪、島、徳川、そして古代のアップ。
・土方「全乗組員に告ぐ! 総員、退艦!」
 総員退艦命令とは尋常ではありませんが、
 全員分の救命艇とか積んでるんですかね?
 まあ、イスカンダルへの航海時よりは人員は少ないんでしょうけど。
・盾を備えたゼルグートの間から発砲するドレッドノート
 第1話から久々に再登場の「装甲突入型」。
 この盾、いくらかパワーアップしたのかな?
 前回は火炎直撃砲を2発喰らうとお釈迦になってましたけど。
 その間からドレッドノート級が波動砲を撃ってますが
 地球とガミラスの連携は大丈夫なのでしょうかね
・拡散波動砲の直撃にさらされるガトラン艦隊。
 やはり数の劣勢を補うにはこれしかないのか。
・「銀河」のアップ、波動砲口に ”銀河” の文字が
 空母型アンドロメダ級といい、この「銀河」といい、
 私にはカッコいいとは思えないんですけどね。
 残り二章の展開なり描写なりで、これらのメカが大活躍するとかして
 このデザインの必要性とか必然性が納得できればいいんですが。
 商業的にはプラモデルが売れればいいんでしょうけど
 でもやっぱり、波動砲口の ”銀河” の文字はないわー。
・藤堂「地球人類が生き残るため、ヤマトの遺伝子をこのフネに」
 この台詞が謎ですね。”ヤマトの遺伝子” とは何なのか?
・銀河から放たれる謎の光輪、そして
 周囲のドレッドノート級を包んでいく光球は波動防壁なのか。
・真田「G計画・・・」おお、よく見たら新見さんとのツーショット。
・黒アナライザー「作戦ブラックバードの実施を提案する」
 これは「銀河」に搭載された自律型サブコンピュータですかね。
 ヤマトのアナライザーと同じ姿ながら声は無感情。
・ガトラン艦隊に迫る黒いコスモゼロ群。
 これが ”ブラックバード” なんでしょう。その目的は何なのか?
 そしてその中には加藤の姿も。しかし僚機は次々に撃墜されて・・・
 うーん、負けるな加藤、死なないでくれぇ・・・
・藤堂「承認」
 銀河が放つ波動砲はヤマトのものとも拡散波動砲とも異なるみたい。
 ヤマトから移植されたコスモリバースシステムが関係しているのか、
 見る限りにおいてはなんだかすごい威力がありそう。
・そしてタイトル「第六章 回生編」
・次々と誘爆?で沈んでいくガトランティス艦隊。
・そしてラスト「世界が、変わる」のキャッチコピーが。

終わってみれば古代も島も雪も登場は一瞬のみで台詞もなし。
まあ彼らには後に続く予告編での登場に期待ですね。

いちばん出番と台詞が多いのは藤堂さん。
彼女がたぶん第六章のキーパーソンなんでしょう。

ガミラスの援軍の中にはバーガーとかメルダとか
ネレディアとかいるのですかね?
まあ、あんまり大挙して出してしまうと
例によって尺に入らなくなってしまいますが(笑)

そしてやっぱり気になるのはヤマトの運命。
「2199」の冒頭を思わせるキービジュアル、
そして雪に何が起こったのか?
加えて ”G計画” とは何か?

もう「さらば」も「ヤマト2」もすっ飛ばして
遙か彼方にぶっ飛んでる「2202」ですが
最期まで見届けたいと思っています。

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全日本探偵道コンクール セーラー服と黙示録 [読書・ミステリ]


全日本探偵道コンクール セーラー服と黙示録 (角川文庫)

全日本探偵道コンクール セーラー服と黙示録 (角川文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/11/25
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

三河湾に浮かぶ孤島に建設された聖アリスガワ女学校。
そこで学ぶ島津今日子・葉月茉莉衣・古野みづきを主役とする
シリーズの第4作めとなる。

聖アリスガワ女学校の実体は、探偵養成学校。
パラレルワールドのこの世界には『探偵士』という国家資格があり、
最高学府には「探偵学部」なんてものまで存在する。

だからタイトルにある「全日本探偵道コンクール」なるものも
毎年開催されている。その年の高校生探偵日本一を決める、
いわば「探偵の甲子園」なのだ。
ちなみに優勝チームに与えられる賞の名は「江神二郎杯」。

各高校は3人一組でチームを組んで参加する。
そして今年度の地区予選を勝ち抜き、決勝戦まで駒を進めたのは
島津たち3人の「聖アリスガワ女学校」、そして
穴井戸栄子・修野まり・峰葉実香の「愛知県立勁草館高校」だった。

つまり「天帝」シリーズとのクロスオーバーというか
”全日本プロレスvs新日本プロレス” みたいな
オールスターの団体交流戦というか。
ちょっと例が古くて分からない人もいそうだが(笑)。

決勝の舞台は人里離れた場所で行われる。
そこで起こった殺人事件を解決した方が勝ち、ということなのだが
もちろんそんな都合良く事件が起こるはずもない。
そこはあらかじめ用意された舞台、登場人物はすべて役者なのだ。

要するに決勝戦で起こる事件はすべて ”お膳立てされたもの”。
さらに、”参加選手” による ”捜査の模様” はすべて実況中継され、
東京ドームではパブリック・ビューイングまで行われる(おいおい)。

今回の ”試合会場” は四国の僻村・上原村。
村に君臨していた財閥の当主「綾小路欣蔵」が死去し、
遺言書が公開されたところから ”事件” は始まる。

欣蔵の娘の名が「斧子(おのこ)・琴子・菊子」とか
秘書の名前が「司秀子」とか、他にも「恩田リカ」とか
「ダージリンの尼」とか「等々力」警部とか、
ここには書ききれないくらい、それらしき ”もじり” が満載。
もう分かる人には分かる、角川映画的横溝正史ワールド全開なのだ。

ここまで書いてくると単なるパロディ作品かと思われるかも知れないが
本格ミステリとしてもきちんとできていることは
書いておいた方がいいだろう。

そんな舞台の中に放り込まれ、そのあまりのアナクロぶりに対して
女子高生たちがツッコミを入れていきながら物語は進行していく。

2校の対決は、それぞれ ”探偵” を一人ずつ出して推理を競う。
柔道や剣道と同じ方式なので、3本勝負となるわけだ。
そして先鋒を務めるのは葉月茉莉衣と穴井戸栄子である。


読んでみて驚いたのは、本作は文庫で350ページほどもある
立派な長編なのだが、なんと今回は ”第一試合” だけしか描いてない。

つまり残り ”2試合” は、あと2本の長編で
描かれることになるのだろう。
いやはや、作者の力の入れようには驚かされる。


巻末には「島津今日子の図書館」という120ページほどの中編を収録。
こちらは聖アリスガワ女学園の図書館で起こった殺人事件を
犯人の側から描いた倒叙もの。
島津今日子がコロンボ張りのネチっこさで犯人に迫っていく。
ついでに表題作の前日譚でもある。

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謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー [読書・ミステリ]


謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)

謎の館へようこそ 黒 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/10/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★

以前の記事に書いた
「謎の館へようこそ 白」と2ヶ月連続で刊行された
新本格30周年記念アンソロジー、第二集である。


「思い出の館のショウシツ」はやみねかおる
小学1年生の森永美月は、夏休みに不思議な体験をする。
近所にある洋館「冥宮館」の主人である
名探偵・能代省吾に招かれた美月は、
その前日の夜、屋敷内で密室殺人が起こっていたことを聞かされる。
しかし能代によって犯人が指摘されたのもつかの間、
突如「冥宮館」は火事になり、全焼してしまう・・・
このエピソードの背後にあった秘密に挑むのは、
成長して大人になった美月だが、それをも取り込んで
さらにもう一つ大きな物語が用意されている。
実際にこんなことをやってたらコスパが合わなすぎるとも思うが
そこはフィクションと割り切って楽しむべきか。
この作者のファンにとっては、
ラストにもう一つサプライズ(なのかな?)が用意されてるけど
ファンでなくても楽しむのに支障はない。

「麦の海に浮かぶ檻」恩田陸
北国の湿原(モデルは釧路湿原か)の中にある全寮制の中高一貫の学園。
男女の双子である要(かなめ)と鼎(かなえ)は、
転校生・タマラを迎え入れるが、鼎はやがてタマラを愛するようになる。
毎週行われる校長室でのお茶会に招かれるタマラだったが、
行く度に体調を悪くする彼女を見て、
毒を盛られているのではと疑い始める鼎だったが・・・
特殊な環境下での特殊な人間関係という、
私にとってはかなりハードルの高い話ですねえ。
うーん、でもこのオチはやっぱり好きになれないなあ。
同じ作者の長編「麦の海に沈む果実」と舞台を同じくするのだけど
作品間の関連については伏せておいた方がいいかな。
でもねえ、wikiで「麦の海に沈む果実」の項目を見ると
本作のネタバレが載ってるのはいかがなものか。

「QED ~ortus~ -鬼神の社-」高田崇史
藤沢鬼王(きおう)神社の巫女・春江友里(ゆり)は、
豆まきで賑わう節分の日、神社本殿で
鬼の面をつけた人物に遭遇する。
その日、友人・中島晴美とともに鬼王神社を訪れていた大学1年の
棚旗奈々(たなはた・なな)は、1年先輩の桑原崇と出くわすが・・・
時系列的にはQEDシリーズの前日譚にあたるのかな。
崇が蕩々と語り出す節分やら鬼やらにまつわる蘊蓄もなんだか懐かしい。
でもまあ、読者としてはシリーズ最終巻のあとの
後日譚が知りたいんだけど、書いてくれないのかしら・・・

「時の館のエトワール」綾崎隼
高校2年の折谷ひかりは、修学旅行で
「時の館」という名の宿に泊まることになる。
そこに泊まった1年前の先輩の中に、旅行の3ヶ月前の時点への
タイムスリップを経験した人がいるという。
そして宿泊した夜、ひかりは森下海都(かいと)という
挙動不審な少年と出会い、驚くべきことを聞かされる。
彼は実は32歳で、15年の時を遡って
17歳の海都の心の中に ”32歳の海都” が発現したのだという。
そして彼は語りだす。ひかりのこれからの未来を。
そして15年間の後、彼女は夫に殺されるのだと・・・
よくできた話だと思うが、そのぶん真相は見当がつきやすいかな。
探偵役として登場する、ひかりの同級生二人組が
なかなかユニークなので、シリーズものだったら読んでみたくなった。

「首無館の殺人」白井智之
この作者さん、「人間の顔は食べづらい」で
横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビューした人だそうな。
タイトルを見ても、独特の感覚を持ってる人だと分かるけど
本作も最初の2,3ページを読んだだけでよーく分かった。
私にはついていけないと(笑)。
私はホラーが苦手なんだけど、グロもスプラッターもダメなんですよ。
一応最後まで読めたし、ちゃんと本格ミステリにもなってるんだが、
多分この人の本は今後も読むことはないと思う。

「囚人館の惨劇」井上真偽
主人公・佐伯と高校生の妹・ちなみ。
二人の乗っていたバスが峠道で転落事故を起こしてしまう。
佐伯とちなみは、生き残った乗客たちとともに
山中にあった、空き家と思われる館に逃げ込む。
ところがそこは、廃墟マニアの間では ”ホラーな噂” で名高い
“囚人館” と呼ばれる建物であったらしい。
そして生き残った乗客が、一人また一人と殺され始める・・・
まず、佐伯と妹の間にある ”過去” が重い。
それに加えて、夜の廃墟が舞台なせいか、全体的に話が暗い。
殺人事件なのだから明るくなるはずもないのだが
この暗く重苦しい雰囲気は読んでいて辛いものがある。
さらにこのラストがまたねぇ・・・。
たまたまなのかも知れないが、最近
この手のオチに遭遇する率が高いような気がする。

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怪奇探偵リジー&クリスタル [読書・SF]


怪奇探偵リジー&クリスタル (角川文庫)

怪奇探偵リジー&クリスタル (角川文庫)

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は第二次大戦直前の1938年。ところはアメリカ、ロサンゼルス。
金髪美女のエリザベス・コルト、愛称リジーは私立探偵を営んでいる。
助手はストレートな黒髪と瓶底眼鏡の少女・クリスタル。

タイトルに ”探偵” と入ってはいるものの、二人が遭遇する事件は
『ウルトラQ』か『怪奇大作戦』なみに奇々怪々。

そんな ”怪事件” を解決していく二人もまた
驚きの ”超常の力” の持ち主だったりするのだが
話が進むにつれ、彼女たちの出自もまた明らかになっていく。


「第一話 真っぷたつの美女 The Split-half Beauty」
コルト探偵事務所をジェーンと名乗る美女が訪れた。
交際中の芸術家の寝室で、パルプ雑誌を発見した彼女は
その内容に驚き、犯罪の専門家の意見を求めに来たのだという。
ちなみにパルプ雑誌(パルプ・マガジン)とは、20世紀前半あたりに
アメリカで刊行されてたフィクションを扱った雑誌の総称で
どぎつく下品な物語と扇情的な美女を描いた表紙絵で人気を集めていた。
黎明期のSF・ファンタジー・ホラー作品などの発表の場でもあり、
SF研究家の故・野田昌宏氏がコレクターとして有名だった。
彼はこれをテーマに、本を書いたり
雑誌に連載を持ってたこともあったような。詳しくはwikiで(笑)。
まあ、男としてはそういうものにハマるのも分かるのだが
彼女は非常に驚いてしまったわけだ。
しかしその2日後、彼女の死体が発見される。
交際中の芸術家の工房で、パルプ雑誌の表紙絵の再現のように
頭から股間までを丸鋸で真っ二つに切断された状態で・・・


「第二話 二千七百秒の牢獄 Prison Cell for 2,700 seconds」
ユニバーサル映画の創業者、カール・レムリの息子から
依頼を受けたリジーたち。
レムリの屋敷に赴いた二人は驚くべきことを聞く。
未完に終わった映画『豹人の女王』のフィルムは、
個人的に思い入れがあったレムリが所有していた。
自宅でその映画を見ていたレムリは、なぜか上映中に姿を消し、
映画の中の俳優がレムリに置き換わっていたのだ。
そして確認のためにその映画を見ていたリジーまでもが
映画の中に ”取り込まれて” しまう・・・
今回は、20世紀前半頃までのアメリカ特撮映画がテーマ。
40代以上の人なら、特殊効果の巨匠、レイ・ハリーハウゼンによる
人形を1コマずつ撮影するモデルアニメーション(ダイナメーション)の
映画を見たことがある人も多いのではないだろうか。


「第三話 ペンドラゴンの瓶 The Bottles of Pendragon」
リジーに持ち込まれた依頼は、
17世紀初めの錬金術師ペンドラゴンにまつわるもの。
彼の弟子だったアバークロンビーは師・ペンドラゴンを殺し、
錬金術師の研究成果を奪って新大陸に渡ってきたらしい。
依頼人はアバークロンビーの子孫の可能性があり、
失われた研究を復活させようとしているのかも知れない。
そんな頃、謎の肉食獣が跳梁し、人を襲い始めていた・・・


「第四話 軽はずみな旅行者 The Absent-minded Tourist」
ロサンゼルス近郊の競馬場に現れた青年・ルーク。
勝ち馬をことごとく当てたところを悪党・カジンスキーに嗅ぎつけられ
持っていたアタッシュケースを奪われてしまう。
たまたまルークに関わることになったリジーは、
彼の依頼を受けてカジンスキーを探り始めるが・・・
ルークが○○○・○○○○○なのは開始早々に見当がついてしまう。
当然ながら、彼には守らなければならない ”刻限” もあって
タイム・リミット・サスペンスでもある。
1938年当時のアメリカでのSFファンたちの活動の様子も描かれ、
後に巨匠として知られる某作家が少年として登場したりと、
オールドSFファンには楽しい一遍だろう。


「第五話 異空の凶獣 Dreadful Beast from Another Dimension」
物理学者ジェニファー・ナイトが構築した理論に基づいて建設された
”次元ポータル” は、遙か彼方の天体との距離を克服して
相互の移動を可能にした(要するに『どこでもドア』みたいなもの)。
しかし、その異世界に住む生物・ドロウルを地球上に招いてしまう。
人間を遙かに超える身体能力と高度な知能をもち、
しかも不可視の肉体をまとった凶獣ドロウルが
ロサンゼルスの街に解き放たれ、人間を襲い出す・・・。
これは『宇宙船ビーグル号の冒険』の「クァール」へのオマージュかな。


主に20世紀前半のパルプマガジン、特撮映画、怪奇ホラー映画などの
マニアックな蘊蓄が満載なんだけど、読者を選ぶ作品かなあ。
読んでいて「ああ、あれか。懐かしいなあ・・・」って思える人は
少なくとも50代以上じゃないか。
私でもついて行けない話題がけっこう多いので・・・

でも、全く予備知識のない人の感想も知りたいなあ。
どんなふうに感じるんだろう。

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「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」公開40年 & 「ヤマト2202」TV放映決定 [アニメーション]


表題にも書きましたが、本日2018年8月5日は、
映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」が公開された
1978年8月5日からちょうど40年という節目の日に当たります。

saraba.jpg
いやあ40年ですか。

あの頃の私は紅顔の美少年・・・というにはちょいと
薹が立ってましたが、まだまだ元気な大学生でしたねぇ。

5日に公開されたものの、実際に観に行ったのはその一週間ぐらい後、
お盆の直前くらいでしたかねえ・・・
電車賃を奮発して東京まで行きましたねえ・・・

映画を鑑賞した時のことは別の記事に書いたのでここでは割愛。
とにかく ”あの衝撃” は、40年経った今でも忘れられませんねぇ・・・

ああ、何もかも皆懐かしい・・・

以来40年。
あのときの青少年たちにも時は流れました。
私自身も大学を卒業、就職、やがて結婚もし
いくつかの異動を経て、仕事の内容も立場も変わっていきました。
父親を ”見送り”、そして私自身にも ”退職” という言葉が
実感を伴って迫ってくるようになりました。

そして2018年。
現在、「さらば」のリメイクである「ヤマト2202」が公開中で
すでに全七章のうち第五章までが公開されているという、
40年前には想像もつかなかった事態が進行中です。

2012年に公開された「2199」に始まる、21世紀に復活したヤマトを
今までずっと追いかけてきましたが、
それもあと半年ほどで終わろうとしています。
どんな結末を見せてくれるのか、
再び語られる「彗星帝国編」に、どんな決着をつけてくれるのか。
不安を覚えつつも期待しているところです。


さて、二日前の8月3日、
「ヤマト2202」のTV公開の詳細が発表されました。

私の住む関東圏では
 「テレビ東京 毎週金曜深夜1時23分~」
とのことです。他にはテレビ大阪とテレビ愛知。
いずれも深夜の時間帯です。

全国放送ではありませんが、結果が良ければ
順次、放送局が増えていくことも期待できますし。


40年前の「ヤマト2」は、日本テレビ系で
土曜の19時からだったと記憶してます。
もちろん現在とは、テレビアニメの置かれた状況というのが
かなり異なってますから一概に比べることもできないし
深夜だから扱いが悪いとも言えないでしょう。

何より、いままで第一章から第五章まで見てきて
演出の仕方とか作品の雰囲気とか、内容も含めて
ゴールデンタイムに流す内容にふさわしいかというと
違うようにも思います。

誤解されないように書いておきますが
それは「2202」が、気楽に観られるものではなく、
かなり気合いを入れて画面に向き合う必要がある作品だと思うので
夕方や夕食の時間帯での放送にはそぐわないのではないか、
という意味です

 ニードルスレイブの殺戮描写なんて、
 そのままでは幼児には見せられないでしょうし。

そう考えると、深夜の時間帯というのは
この作品にとっては良い時間帯なのではないですかね。


TV公開によって、今までより多くの人に観てもらえるようになるのは
間違いないので、これまで以上にいろんな感想が出てくるでしょう。

もちろん賛否が渦巻くだろうというのは予想できますが
まずは観てもらうことが大事でしょう。
観てもらわないことには評価すらしてもらえませんからね。


あと心配(?)なのはTV版の主題歌ですかね。
「2199」のときはいろいろと物議を醸しましたから(笑)。

まあ、タイアップは避けられないのでしょうが
あまり作品のイメージとかけ離れたアーチストは
起用しないでほしいものですねぇ。

とりあえず10月5日(金)からの放送も楽しみに待ちたいと思います。

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