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灯籠 [読書・ファンタジー]


灯籠 (ハヤカワ文庫JA)

灯籠 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: うえむらちか
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/06/08
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

いちおう「ファンタジー」に分類したけど
「日常の謎系ミステリ」要素もあるし
読みようによっては「ホラー」っぽくもあるかな。
なかなか分類しにくい本です。


タイトルの “灯籠(とうろう)” とは、
お盆の時にお墓に供える飾り(盆灯籠)のこと。

表紙のイラストで女の子が手にしているものがそれで、
竹を6つに割いて色つきの和紙を貼ったものは広島県の習俗らしい。

そして、この女の子がヒロインの灯(ともり)。
幼少時に両親を交通事故で亡くしたことから
心を閉ざして孤独に育ってきた。


本書は二部構成になっている。


第一話「灯籠」は、主人公・灯の一人称で綴られていく。

8歳になった夏、盆灯籠を持って両親の墓がある山に登った灯は
その途中で、不思議な青年・正造と出会う。

彼と言葉を交わすうち、少しずつ惹かれていく灯。
その日から、二人は毎年の夏、山で逢うようになった。

正造がその場所に現れるのは、なぜか
毎年8月13日から16日までの4日間のみだった。
しかしその4日間を心の支えに、灯は孤独な日々を生きていく。

やがて灯は成長し、中学・高校へと進むが
相変わらず周囲の人に対しては心を閉ざしたままだった。
そして高校3年生の夏がやってくるが・・・


第二話「ララバイ」では、語り手が
灯の高校時代の同級生、“清水くん” へとバトンタッチされる。

高校の入学式の日に灯と知り合った清水は、以来
彼女の唯一と言ってもいい話し相手として高校生活を過ごしていく。

そして高校卒業後、東京の大学へと進み、
就職のために郷里に戻ってきた清水は
自らの生い立ちから過去を振り返り始める。

そして、いよいよ高校3年生の夏の、灯との間の出来事が
彼の視点から語られていくのだが・・・


ざっくり言ってしまうと、
孤独に生きてきた少女が、一人の青年と巡り会い、
彼のことを10年にわたり、直向きにそして一途に慕っていく話。

まあ、正造と灯の仲がどうなるのかはともかく
幸薄い灯ちゃんには、最後には幸せな日が巡ってくるといいなあ・・・
って思いながら読ませてもらった。

読んでいてまず気になるのは「正造とは何者なのか」だろう。

毎年夏、お盆の時期しか現れないなんてもう○○だろうとか
いやいや、某海外有名短編SFみたいに
○○○・○○○○○じゃないかな、とかいろいろ妄想するが
正造の正体は意外なところから判明する。

 もっとも、正体自体はあまり意外ではないが(笑)。

そして第二話に至ると、さらにいろいろなことが明らかになってくる。

高校3年生の夏の出来事に関する顛末や
清水くんの “○○○○○” にもちょっと驚かされるのだけど
何より、最後に彼の口から語られることがねえ・・・


はっきり書くと、このラストは好きではない。
この種のオチを持つ話には、時たまぶち当たるのだけど
私としてはちょっと裏切られたような気になってしまうので・・・

もちろん、叙情的でキレイな収め方だと評価する人もいるだろう。
まあ、そのへんは人それぞれだけど。

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真夜中の探偵 [読書・ミステリ]

真夜中の探偵 (講談社文庫)

真夜中の探偵 (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★
パラレルワールドの日本を舞台にした、大河ミステリ・シリーズ第2作。
第二次大戦終結直前の召和(しょうわ)20年9月、
北海道はソ連の侵攻・占領を受け、そのまま
<日ノ本(ひのもと)共和国>として独立することとなり
日本は分断国家として戦後の歴史を歩むことになる。

そして作品世界の “現在” は、平世(へいせい)21年と呼ばれる時代。
準戦時体制を続ける日本は、“北”(日ノ本共和国)への
対抗姿勢を強め、国民の “統制” に注力するようになる。

探偵という存在もまた体制への反逆分子と見做されていた。
犯罪捜査は警察(国家権力)にのみ許された行為であり
民間人による捜査(私的探偵行為)は違法となっていたのだ。

主人公は、高校2年生の少女・空閑純(そらしず・じゅん)。
秘密裏に探偵を生業としていた両親を持つが,彼女が14歳の時、
母・朱鷺子(ときこ)はある事件を調査中に消息を絶った。

前作「闇の喇叭」で純は父・誠の力を借りて
母の故郷である東北地方の奥多岐野で起こった殺人事件を解決するが
それにより誠は逮捕されてしまう。
一人取り残された純は母を探し出すことを決意、
高校を退学して大阪へ向かう・・・と、ここまでが前作。

父・誠の裁判は大阪地裁で開かれる。
そしてまた大阪には誠の弟(つまり叔父)・勇の一家が住んでいた。
しかし純は叔父からの同居の誘いを断り、
アルバイトをしながらアパートで一人暮らしを始めた。

仕事にも慣れ,隣室に住む青年・三瀬とも言葉を交わすようになってきた
そんなある日,純は父を担当している弁護士・森脇を通じて
押井照雅という男に引き合わされる。

彼こそ,困っている人の相談に乗り,そして場合によっては
純の両親へと探偵の仕事を仲介していた人物だった。

照雅は関西財界の中核を占める押井財閥の経営者一族に連なる者で
警察も彼に対して疑いは抱いているものの,
捜査までには踏み切れないできたらしい。

そして純は,彼から意外なことを告げられる。

まず,アパートの隣室に住む青年・三瀬は
反政府運動組織・分断促進連盟(分促連)の構成員だということ。

そして,純の母・朱鷺子が失踪直前に関わっていた事件についてのこと。
彼女は調査のために九州へ赴き,その後消息を絶ったという。

その一週間後,押井の自宅の車庫で謎の木箱が発見される。
全長2.5mに及ぶ巨大な棺のような箱の中には水が満たされ,
一人の男の溺死体が漂っていたのだ。
男の名は砂家兵司(すなが・つよし),6年前まで探偵だった男だ。
そして砂家が身につけていたカメラには,三瀬の姿が写っていた。

殺人事件捜査のため,父・誠を逮捕した明神警視が再び純の前に現れる。
彼女は否応なく ”水の棺” の謎に挑むことになるが・・・

ミステリとしては一話完結だけれど,
ストーリーは連続している大河小説でもあるので
その比率が難しそうな気がする。
実際,前半は純の大阪での生活や,
押井から語られる母の事件の様子に多くページが割かれ,
次巻以降のシリーズ全体に向けて,
伏線張りと人物の配置を行っているようにも感じられる。

殺人事件が起こる(死体が発見される)のも,ほぼ真ん中あたりだし。

もちろんこの作者のことだから謎解き部分もしっかり。
死体をわざわざ水を満たした木箱に入れておいた理由,その必然性も
きちんと納得のいくように説明されるのはさすが。

とは言っても,やっぱり気になるのは純の行く末。
年端もいかぬ17才の女の子が大都市で一人暮らしを始めるわけだから
あんなことやこんなことが・・・なあんて心配になってしまい,
すっかり ”父親モード” になって読んでしまうのだが
ヒロインは予想以上にしっかりした娘さんで,
もちろん年齢相応に考えの及ばないところもあるのだけど
いまのところは何とか上手く切り抜けている様子。

まあ,先のことはわからないが・・・

とにかく健気で一途で一生懸命な女の子なので,
ホント,シリーズ最終巻では幸せになってほしいものだ。


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総閲覧数130万に到達 & 熱中症になりました(おいおい) [このブログについて]


本日、このブログの総閲覧数が130万を超えました。

20180726.png
毎回書いておりますが、また書かせて頂きます。
(どれくらいいるのか分かりませんが)
ご常連の方、毎度のご訪問ありがとうございます m(_ _)m ぺこり。

そして、(もしいるなら)たまたま今日が初めてのご訪問の方へ。
1600件を超える駄文の山でございますが
よろしかったら、これからどうぞご贔屓に(笑)。


さて、今日はさほどではありませんが
昨日までは超弩級の酷暑の日々が続いていました。

全国でも熱中症で何人が搬送とか報道されてましたが
正直、自分自身と関わりがあるなんて考えてもいませんでした。

実際、「日射病」(私が子供の頃はこう呼ばれてましたよねえ)に
なったこともなかったし、
現在でも、屋外で長時間にわたって何かをすることもなかったので・・・

ところが数日前、午前中に突然の発熱、そして発汗が止まらず
立っていられなくなるほど気分が悪くなって寝込んでしまいました。

その後、水分を大量に摂ったらかなり持ち直したので
脱水症状だったんだなあ・・・と思っていたら
その翌日から体の節々が痛くなり、特に腰に激痛が・・・

結局、回復までは3日ほどかかったのですが
どうやらこれが熱中症だったようです。

思い起こせば発症する前の晩、ビールを飲んで寝たのですが
ビールは利尿作用があるので水分を失う飲み物でした。
エアコンは寝る前に消したので、朝方にはけっこう汗をかき、そして
朝食時にもあまり水分を摂らなかったのがトドメだったのでしょう。

いままでも同じような生活をしていましたが、
こんなことはありませんでした。
でも今年の異常な猛暑、そして何より
私自身が年齢を重ねたのが大きかったのでしょう。

 いつまでも若いつもりでいてはいけないのですねぇ。

快復後はまめに水分を摂るようにして、
暑い夜はエアコンを消さずに過ごしてます。

日本の夏もこれからはこういう酷暑が普通になっていくのでしょうか。

皆様も健康には充分注意していただいて、
お互い、過酷な環境を乗り越えていきましょう。

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白虹 [読書・ミステリ]


白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

白虹(はっこう) (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/07/09
  • メディア: 文庫
評価:★★★

警官だった五木健司は、ある “事件” をきっかけに職を辞し、
警備員の傍ら、夏の間だけ北アルプスの山小屋で
アルバイトとして働くという生活をしていた。

ある日、五木は登山ルートから外れて倒れていた
名頃(なごろ)という男を救助する。

小屋でのバイトが終わり、下山して東京へ帰った五木は、
意外な知らせを耳にする。

群馬県の長沢山で女性の他殺死体が発見され、
登山口近くの崖下に転落した車両から男性の遺体が発見されたという。
男は退院したばかりの名頃、そして女性は彼の恋人・奥村裕恵だった。

警察は別れ話のもつれから名頃が裕恵を殺害、
そして名頃は逃走の際に事故死したものと見ているらしい。

「俺が奴を助けたために、一人の女性が死んだ・・・」

後悔に苛まれる五木の元を訪ねてきたのは裕恵の父・裕幸。
執拗に名頃のことを聞き出そうとする裕幸に困惑する五木。
そこへかつての上司・藤野巡査部長が現れ、
父親には何も話すなと告げる。

事件に割り切れぬものを感じた五木は、
裕恵の残した手帳を手がかりに真相を探り始めるが・・・


「警視庁いきもの係」シリーズのように、
どちらかというとユーモア・ミステリがメインの作家さんだと思うが
ハードな山岳小説もかなり執筆している。

本書のその一編で、作者名を知らずに読んだら
同じ作者とは思えないだろう。

私自身は登山は全くしない人間だ。
高校の頃に1回だけ1000m級の山に登って、そこで懲りた(笑)。

だから山に登りたがる人の気持ちはサッパリ分からないんだが、
山岳小説自体は嫌いではない。

もっとも、五木の探索行自体はほとんど東京近辺で行われるので
“山” が苦手な人でも大丈夫(笑)だろうし、
登山に縁がない人でも、要所要所でいろんな知識が披露されるので
ある種の業界小説としても面白く読めるだろう。

そして本書は、過去の挫折から世間に背を向けていた男が
巻き込まれた “事件” をきっかけに、有形無形の妨害を乗り越え、
再び前を向いて歩き出すまでを描き出していて、
このあたりは典型的な冒険小説のフォーマットでもある。

そして何と言っても、本作は作者お得意の本格ミステリでもあるのだが
そのあたりは読んでのお楽しみだろう。

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桐島教授の研究報告書 テロメアと吸血鬼の謎 [読書・ミステリ]


桐島教授の研究報告書 - テロメアと吸血鬼の謎 (中公文庫)

桐島教授の研究報告書 - テロメアと吸血鬼の謎 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/03/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★

主人公・芝村拓也が小学生の頃、学校で開催された科学教室に現れたのが
テロメアの研究で日本人女性初のノーベル賞受賞者となった
生物学者・桐島統子(もとこ)だった。

傘寿(80歳)を迎えながらも、科学への情熱を説く彼女に感化された拓也は、
長じて理系へと進み、東京科学大学へ入学した。

しかし入学直後、拓也は大学の付属病院から呼び出しを受ける。
厳重に管理された無菌施設に招かれた拓也は、そこで一人の美少女と会う。
どうみても10代にしか見えない彼女こそ、桐島統子その人だった。

1年前、謎のウイルスに感染して高熱に冒された彼女は、
突如肉体が若返り始めたのだという。
そして10代後半の状態にまで戻ったところで症状は停止した。

そして、拓也がここに呼ばれた理由も明らかにされる。
入学後の健康診断で行われた血液検査で、
彼はどんなウイルスにも感染しない、
”完全免疫” を持つ特異体質だったことが判明したのだ。

彼は、桐島教授と外部とを取り持つ
“連絡係兼世話係” を仰せつかることになる。

そんな二人は、図らずも東京科学大学のキャンパス内を
“吸血鬼が跳梁跋扈する”  という噂に立ち向かうことになるが・・・


設定こそ突飛だが、それ以外はいわゆる理系ミステリとして展開する。
科学的な設定も出てくるが作中で十分説明されるので
そこで戸惑うことはないだろう。

ミステリとしてはこの作者の他の作品と同じく
手堅くまとまっている感じだが、
私としてはもうちょっと拓也と統子の絡みが見たかったかなあ。

一気に70歳も若返ってしまった女性が、現代の若者の流行をみて感じる
ジェネレーションギャップなども描かれていて、それも面白いのだけど
如何せん本書の統子さんは ”施設” の中に隔離されていて
今ひとつ自由さが足りないかな。

拓也くんと一緒に外の世界へ出て、二人でいろいろ
ドタバタでコメディなシーンを演じてくれるのを期待していたのだけど
それも今回はなし。

統子さんの “若き日の想い出” を知って
心安らかでない様子の拓也くんも描かれたりするので、
この二人の関係の変化も知りたいところ。

おそらく続編が予定されているので、そちらで・・・
ってことなのかも知れないが。

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R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 [読書・冒険/サスペンス]


R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 (新潮文庫nex)

R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 (新潮文庫nex)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/08/27
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

いちおう「サスペンス」に分類したけど、「ミステリ」でもあるし、
一種の「SF」or「ファンタジー」とも言える。
ジャンル分けにそぐわない作品ではありますね。


タイトルのR.E.D.とは、
Repression and Elimination Departmentの略。
“鎮圧&排除部門” とでも訳すのか。

舞台はパラレルワールドの近未来日本。

2020年の東京オリンピックの後、作品中では明示されないのだが
東京でなにやら “大惨事” が起こったらしく、
首都は中京地方(名古屋圏)に移転してる。
ちなみに新首都は “中京都” と呼ばれてる。

難民の大量発生、過激派の活発化等もあって急速に治安が悪化、
テロが多発する世界となっていた。

そんな中、テロ計画を事前に察知し、
未然に防ぐことを目的に設立されたのが「警察庁特殊防犯対策官室」。
総理大臣直轄の対テロ特殊部隊だ。
これが本書のタイトルでもある “R.E.D.” のことである。

指揮官は神代大作警視正。ナンバー2は箱崎ひかり警視。

そして現場の実働部隊を束ねるのは、
「戦争屋」の異名を持つ主任警部の緋縅時絵(ひおどし・ときえ)。
彼女の部下5名もそれぞれ
「武芸者」「法律家」「お医者さん」「道具係」「くの一」など、
それぞれ特殊技能を示す “二つ名” を持つ。

そして特筆すべきはこの6人がみなうら若き女性であること、
そして通常のコスチュームがセーラー服であること(!)。
つまり女子高生に擬態しているということだ。

もっとも、箱崎警視だってゴスロリファッションに身を包んでいるという、
およそ警察官と思えない外見をしているわけだが、
当然のことながら、みな超一流の腕利きばかりである。

 同じ作者の作品に
 「身元不明(ジェーン・ドゥ) 特殊殺人捜査官 箱崎ひかり」
 という作品があるのだが、同一世界の作品だとしたら、本書は
 「身元不明(ジェーン・ドゥ)」のちょっと後(1~2年後くらい?)の
 時間軸上にあるのじゃないかと思う。

冒頭の50ページほどで、彼女らは
中京都から新東京へ向かうリニア新幹線、
新大阪から中京都に向かう東海道新幹線、
そして新幹線が発着する中京駅、
この3つを襲う同時多発テロ計画阻止に挑む。

もちろんここは導入部で、彼女らの凄腕ぶり、キャラの異形ぶりを
紹介するパートでもあるので、緋縅主任警部以下5名のメンバーは
新幹線テロ計画を見事に粉砕してみせる。
このあたりのつかみはバッチリである。

そして彼女らが立ち向かう次の事件は、
副総理・鶴井と警視総監・神保による怪しい動きからはじまる。
二人を内偵していくうちに、彼女らの前に現れたのは、
5年前に突然出現し、政府のセキュリティをことごとく破壊し尽くした、
伝説的なハッカーにしてデータテロ犯〈ワスレナグサ〉だった・・・


甲殻機動隊と必殺仕事人を兼ねてるような組織を
女子高生が運営してるという、
いささかライトノベル的な設定なので
好き嫌いが分かれるかな。

設定も奇抜なら衣装も奇抜、
彼女らの性格もまた、とんでもなくエキセントリック。
このあたりが受け入れられるかどうかが、
本作を楽しめるかどうかの分かれ目だと思う。

そしてもちろん、普通の女子高生にこんなことが勤まるはずもなく、
ラストでは彼女らの正体が明かされるのだけど・・・

まあこれ自体も、特段に珍しいネタではない。
探せば似た設定の作品もありそうな気もするが
これも気にしなければどうということはない。
ちなみに私は気にしませんでした。

続編も既に刊行されていて手元にあるので、これも近々読む予定。

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謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー [読書・ミステリ]


謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)

謎の館へようこそ 白 新本格30周年記念アンソロジー (講談社タイガ)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/09/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

本書の刊行は2017年9月。
調べてみたら “新本格ブーム” を巻き起こした
綾辻行人の「十角館の殺人」の出版が1987年9月。
たしかに副題通り「新本格30周年記念」なんだね。

大学入学あたりから次第に読書の嗜好が変わって
SF・ファンタジー、そしてサスペンスばかり読むようになってた私を
再び本格ミステリの世界へ引き戻したのが「十角館の殺人」だった。

以来30年。今でも、私の読書の半分はミステリだからね。
つくづく、綾辻行人は偉大である。


「陽奇館(仮)の密室」東川篤哉
奇術界の大御所・花巻天界が殺された。
場所は山奥にあって建設途中だった「陽奇館」。
たまたまやってきた探偵・四畳半一馬(よじょうはん・かずま)と
その助手間広大(はざま・こうだい)。
4人の容疑者を前に、密室殺人の謎解きを始める四畳半探偵だが・・・
いやあこのトリックは面白い。
殺人と○○○○を同時にやってしまうという発想がスゴい。
普通のミステリでこれをやったらきっと噴飯ものなんだろうけど
作者お得意のユーモアたっぷりの世界なら「あり」かなって思わせる。

「銀とクスノキ~青髭館殺人事件~」一肇
女子高生・楠乃季(くすのき・のき)は、
同級生・七雲恋(ななくも・れん)を殺してしまう。
場所は通称 "青髭館" と呼ばれる廃屋。
大正12年に43人もの人間が忽然と消えたと伝えられる曰く付きの建物だ。
翌日、死体処理のために青髭館を訪れた楠だが、なぜか死体は消えていて、さらに罪善葦告(ざいぜん・よしつぐ)と名乗る謎の少年が現れて・・・
この作者の作品を初めて読んだ。
ミステリというよりはホラー、心理サスペンスに近いか。
まあ分類はどうでもいいんだけど、
ただこのオチは今ひとつ好きにはなれないかなあ。

「文化会館の殺人-Dのディスパリシオン」古野まほろ
井の頭文化会館で行われた東京都高校アンサンブルコンテスト。
吉祥寺南女子高校のホルン四重奏曲の冒頭、
第一奏者の御殿山絵未(ごてんやま・えみ)が
致命的なミスをしてしまう。そのショックからか
演奏終了直後に絵未は会場から失踪し、やがて
女子高の校舎から転落したと思われる絵未の死体が発見される・・・
臨床真実士・唯花さんが登場する一編。
短編だけど、恐ろしく手が込んだ文章になっていることが
ラスト1ページでわかる。いやあたいしたもの。

「噤ヶ森(つぐみがもり)のガラス屋敷」青崎有吾
噤ヶ森と呼ばれる深い樹海の奥に建てられたガラス製の館。
外壁・内装・屋根・天井・階段、そして家具までも。
宿泊用の客室の外壁以外は透明度抜群の屋敷へやってきたのは
女実業家・佐竹を中心とした5人組。
しかし到着早々、佐竹は客室で銃殺されてしまう。
現場の窓は内側から施錠され、
ドアから出入りした人物も一人もいない密室状態だった・・・
犯人がガラス屋敷を犯行現場に選んだ理由が、
ラスト1行で明かされるんだが・・・
このオチはバカミスと紙一重だよねぇ。

「煙突館の実験的殺人」周木律
”煙突館” と呼ばれる、50mもの高さの円筒空間を持つ建物の中で
目覚めた8人の男女。そこに突如響きわたる女声のアナウンス。
これは異端分子の選別を目的とした行動実験プログラムで
これから起こる "事件" の犯人を見つけださない限り、
外へは出られないという。
そしてその翌朝、メンバーのうちの一人が
煙突上部の空間に死体となってつり下げられていた。
どこにも足がかりがない場所で、50mもの高さにまで
どうやって死体を持ち上げたのか。そしてさらに殺人は続いて・・・
本書の中では一番スケールの大きなトリックかなあ。
ラストでの主人公の扱いがちょっとかわいそうだけど。

「わたしのミステリーパレス」澤村伊智
会社の同僚・匡(ただし)とデートの約束をした美紀。
しかし約束の時間に現れたのは匡ではなく、
彼の友人と称する三原という男だった。
三原によると匡は交通事故にあって入院したという・・・
そして、ウェブライターの殿田は、連載ものの取材のために
近所にある "謎の建物" へと赴く。
その洋館はいかにもつくりものっぽく、
玄関の上には「MYSTERY PALACE」と書かれてあった・・・
二つの物語が交互に描かれ、最終的に一つに結びつくんだが
「WHAT(何が起こっているのか)」そして「WHY(なぜ)」がメインの謎。
いやはや一人の人間の情念というか執念というのは凄まじい。
これも館ものミステリではあるのだろうなぁ。
終わってみれば、怪奇趣味を抜いた江戸川乱歩みたいな話、
って書いてもわからない人は多そう(笑)。

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GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ [映画]


GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)

GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)

  • 作者: 大樹 連司(ニトロプラス)
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫
前作「怪獣黙示録」と同様、
アニメーション映画『GODZILLA』シリーズの
本編に先立つ前日譚である。


1999年のカマキラス出現以来、世界各地で怪獣が猛威を振るい出す。
そして2030年のゴジラ出現。
2035年のエクシフ、2036年のビルサルドと、
故郷を失った異星人を迎え入れた人類は
彼らの科学力を以て2039年に一大反攻作戦
「オペレーション・エターナルライト」を発動するが・・・


本書では、ここから2048年のアラトラム号の地球脱出までの
10年あまりの出来事が、断片的に綴られていく。

結局は、人類はゴジラに抗すべき手段を見いだすことができず、
滅亡へと追いやられていくのだが、その物語の端々に登場するのは
懐かしき東宝特撮映画を彷彿とさせる単語、シチュエーション、
そしてガジェットたちだ。


たとえば北極の氷山を溶かして登場するゴジラ。

たとえば本書冒頭に登場する「妖星ゴラス」。
直径わずか30kmという小惑星ながら月に匹敵する質量を持ち、
しかも光速の数%という驚異的な速度で
地球へのピンポイント衝突コースを驀進している。
いったいこれがゴジラとどうつながるのかと思うが、
そこは読んでのお楽しみ。

他にも、対ゴジラ部隊「Gフォース」、
怪獣同士を戦わせる目的で投入された生体兵器「ガイガン」、
そして、それにメカゴジラの技術を組み込んだ「ガイガン改」。
(このガイガンが意外なほど哀感を誘うんだなあ)

「新世紀覇王誕生」「砕け散るまで戦え」とか
どこかで聞いたようなフレーズも出てくるし
「メーサー車」「アブソリュート・ゼロ」「スーパーX」
はては「オキシジェン・デストロイヤー」まで。

そして本書のキモは、2000発の熱核爆弾で
ヒマラヤ山脈を破壊してゴジラを生き埋めにする
「オペレーション・グレートウォール」。

メカゴジラ完成までの時間稼ぎのためだけに
大山脈を切り裂き、地球環境を激変させる。
果たして人間にそんなことが許されるのか、という葛藤も描かれる。

しかし多大な犠牲を払いながらも、
映画『GODZILLA 怪獣惑星』冒頭で描かれたように
メカゴジラは起動に失敗し、
富士を舞台にした最終決戦に人類は敗れ去ってしまう。

しかし、ラストに描かれるのは
唯一ゴジラを倒せる可能性を持つ存在・モスラの登場・・・


私はけっこう楽しんで読ませてもらった。

こんだけネタを詰め込んであるんなら
テレビシリーズかなんかにできないかなあ・・・って思ったんだが
よくよく考えてみると、
“人類が40年間負け続ける話” を毎週観ようとは思わないなあ、
って変に納得してしまった(笑)。

秋に公開される完結編では
ゴジラ・モスラ・そしてキングギドラによる
“地球最大の決戦” が描かれるのだろう。
その前振りとしては十分な出来とも思う。

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玉妖綺譚3 透樹の園 [読書・ファンタジー]


1週間ほどプチ放置してしまいましたが
仕事が立て込んでたのと、私自身が体調を崩したのが重なって
更新する余裕がありませんでした。

猛暑な日々が続きますが、皆様、無事に乗り切りましょう。


玉妖綺譚3 (透樹の園) (創元推理文庫)

玉妖綺譚3 (透樹の園) (創元推理文庫)

  • 作者: 真園 めぐみ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/21
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

宝玉に宿る精霊・玉妖と
それを巡る人間たちの抗争を描いたシリーズの第3巻にして完結編。


行方不明となっている難波俊之を探す新米驅妖師・綾音。
彼は玉妖・くろがねの竜卵石のかつての所有者であり、
くろがねを目覚めさせる方法を知る人物と思われたからだ。

その日訪れた "はざま" で綾音が見たのは、
異界妖を捕らえて "こちらの世界" へと連れ込もうとする男たちだった。

折しも帝都では "はざま" や異界妖の目撃情報が頻度を増し、
人々の不安を招こうとしていた。

20年以上前、国皇(こくおう)は有力貴族による支配を嫌い、
央都(おうと)から現在の首都である櫂都(かいと)へと遷都を断行した。
しかし、央都に残った旧勢力の中にはそれをよしとせずに
再び首都を央都に取り戻そうという一派があった。

俊之を追う綾音は、その旧勢力による陰謀にまきこまれていく・・・


完結編だけあって、
シリーズのキーパーソンである難波俊之も登場するし、
人間関係(玉妖関係?)にもそれなりに決着がつくし、
今回の主題である旧勢力の陰謀もしっかり阻止されるんだが・・・
ヒロインの綾音の活躍がいま一つな気がするんだよねえ。

もちろん、ヒロイックファンタジーではないから、
剣を手に妖怪どもをバッタバッタとなぎ倒し・・・
って話ではないのは分かるんだが。

本作のラストにおいても綾音はやっと半人前くらいか。
物語の締めは俊之がさらっていってしまうし。
彼女が独り立ちするまで、先は長そうである。

玉妖・竜卵石・"はざま"・異界妖、
そしてパラレルワールドの東京がモデルと思わせる "櫂都" 。

なんだか3巻かけて
舞台の説明と登場人物の紹介が終わっただけ、って感じもする。

でも、なかなか凝った設定が多くて、
これで完結じゃちょっともったいないかな。
特に玉妖の設定は面白いと思うし。

 ものすごいイケメン妖精(玉妖)が
 "主" には絶対的な忠実を誓ってくれる、
 なぁんて、女性には人気が出そうだし(笑)。

もっとも、今回は ”第1部” 完結で、
近い将来に ”第2部” が開幕するってことなのかも知れないが・・・

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第五章 煉獄篇」感想・・・のようなもの その8 [アニメーション]


※ネタバレ全開です! 未見の方はご注意ください。


▼第18話「ヤマト絶体絶命・悪魔の選択再び」(後編)


■ “都市帝国” 出現

まず画面に映るのは、ヤマトがガス帯内部で発見した天体。
しかし・・・カメラが引いていくと・・・なんと!
同じような天体が3つ・・・さらにその外側には・・・

あの超巨大戦艦の艦首みたいなものを天頂部分に載っけて・・・

ガス帯内に遊弋する艦隊群も無傷で・・・
(推定1000万隻?)

彗星内部にあったのは・・・巨大な建造物。
木星の大きさにも匹敵しようという蜘蛛の足のような構造体。

旧作の都市帝国とはかなり様相が異なって・・・
むしろ暗黒星団帝国のデザリアムのほうがイメージ的には近いか・・・

BGMもまた、彗星帝国が正体を現したときの・・・

そこに君臨するズォーダー大帝。「踏み潰せ!」

土星を素通りして進撃を開始する都市帝国。

 まあ、ガス惑星ではあるものの、
 あんなものが近傍を通り過ぎれば無事では済むまいなあ。


初見の時は驚くだけだったが、全体直径が木星に匹敵するならば
天頂部の “超巨大戦艦の艦首” 部分だけで地球くらいの大きさがあって
あの10個並んだヘッドライトみたいなもの(笑)だって
1個で月くらいの直径がありそうだ。

 あと、これは何回か見直した後に思ったんだが
 あの蜘蛛の足みたいな部分(惑星を抱え込んでるところ)が
 変形合体して、全体として “超巨大戦艦” になったりして・・・
 なぁんてことを考えてしまったよ。

 もしそんなことになったら、全長が木星サイズなんていう
 とんでもないシロモノになるんだが・・・

 でもまあ、こと「2202」でのガトランに関しては
 何が起こってもおかしくない感じもあるから・・・


■地球艦隊第二次攻撃

「全艦、波動砲へのエネルギー充填!」

都市帝国の両極付近には謎のフィールドが形成されつつある模様。

「波動砲、てーっ!」

しかし・・・都市帝国は無傷。謎フィールドにはじかれたのか。
波動砲は全く通用しないようで、このあたりもデザリアムと同様か。

都市帝国側も、いつまでも地球艦隊のいいようにされているわけもなく
ガス帯が復活、ついでに超重力も復活したようで
地球艦隊がどんどん吸い込まれていく・・・

「反転、全艦離脱!」

そこへ必殺の破滅ミサイルの雨あられ。
アンドロメダも被弾、波動砲口を大破、超重力に引き寄せられていく。


■アポロノーム爆沈

「エンジン、出力低下」「アポロノーム、接触!」
「なに!」

スクリーンにはアポロノームの艦長が。

「山南指令、行ってください! アポロノームはもう持ちません」
「安田艦長・・・」
「残りの出力で、アンドロメダを押し出します・・・
 山南、お前は最善を尽くした」
「安田・・・」
「幸運を祈る」

敬礼をする安田。爆沈するアポロノーム。
感動的なシーンのはずなんだが、とってつけた感は否めないなぁ。

会戦前に、1シーン、せめて1カットでもいいので
山南と安田の旧交を描くシーンがあれば
もっと盛り上がったんじゃないかと思うが、もったいない・・・
いや、これもきっと尺の問題なんでしょうが・・・

 とは言っても、安田役にささきいさおさんを投入するのであれば
 ここは多少は無理してでも、
 安田の出番を増やすべきだったのじゃないかな・・・とは思ったよ。

アンドロメダは残存艦とともに辛うじて戦場を脱出。
そしてズォーダーの哄笑が宇宙に木霊する・・・


■ヤマト

戦いの一部始終を見ていた第一艦橋クルー。

「何だよ、あれ・・・」「あれが、ガトランティスの」
「あんなのと、どうやって・・・」

しかし土方は動ぜず、トランジット波動砲に賭ける。

「人と人、宇宙の間に働く “縁” の力が
 彗星帝国を倒すとテレサは言った。
 信じよう。
 我々は “縁” あって同じフネに乗り、決戦を目前にしている。
 その “縁” を力に変えるのは、一人一人の意思のはずだ」

このときの雪の作画は結城さんですかね


■大統領の演説

土星沖会戦の敗北に動揺する一般市民を鼓舞するためか。

「我々地球人類は侵略に膝を折るつもりはない。
 3年前にも滅びの縁から這い上がってきた我々だ。」

演説をバックにヤマトが土星空域にワープアウト。

「地球人類は決して屈しない。団結して最後まで戦う」

ヤマトを見つめるズォーダー。口元には余裕の笑みが。

「自由と平和を守るために。子供たちの未来のために」

普通なら、いよいよヤマトvs都市帝国の決戦だ!ってなるはずだが・・・


■独房

「死に向かう子供を救えるのは親の愛だけ。そうでしょ・・・?
 それはかけがえのない愛。身勝手な・・・愛」

今までにも出てきた、赤ん坊を抱くサーベラーのイメージ。
透子自身も、赤子をなでるような手つきを示し・・・
彼女、というかサーベラーの “記憶” の中には
”子供を失う” ようなことがあったのだろうか?

「すべてを破壊する・・・愛」

ここでズォーダーの目のアップ。
彼自身が “すべての破壊” を目論んでるから・・・?

キーマンが透子の異常に気づく。

「おまえ! 何をした!」


■加藤

手にしたコントローラー。

「翼・・・」

真琴との日々が脳裏をよぎる

「翼が生まれて、あたし、なんでこの世に生まれてきたのか
 分かった気がする。」
「この世界は本当に辛いことばっかり」
「でも、この子は生まれてきてくれた。
 きっと、どうでもいいんだよね理由なんて」

画面はトランジット波動砲発射態勢に入るヤマト。
いつもよりも砲口部の発光が激しい。

「だって嬉しいんだもん。サブちゃんに逢ってこの子に逢えて」
「嬉しいってことに理由はいらないんだから」

涙を流す加藤。

「ごめんな、父ちゃん、地獄に行くわ」

コントローラーを操作、同時に波動砲口の光が消え・・・

「何だ?」
「機関長、推力が」

超重力に引き寄せられていくヤマト。

「波動エンジン沈黙!」
「まさか・・・反波動格子の暴走?」

「彗星帝国の重力エリアに突入します!」

太田の叫び声で第五章終了。


■身勝手な・・・愛

加藤の行動は賛否両論あるだろう。
旧作からの加藤を知る人ほど、拒否反応は強いかも知れない。

私も初見の時は「えぇー」って思ったクチだが
見返すうちにこれはこれで意味はあるのだろうとも思うようになった。

「2202」の副題は「愛の戦士たち」。

 旧作「さらば」でこの言葉がどうだったかを語り出すと
 長くなりそうなので横に置いといて(笑)

少なくとも「2202」制作陣はこの副題を
お題目やキャッチコピーに終わらせずに、
作品のメインテーマとして捉え、真っ正面に向き合ってると思う。
キャラクターたちの行動を規定するものが ”愛” だからだ。

第9話で古代に課された “悪魔の選択”。
このときの「愛」は《男女の愛》。
ヤマトという作品に於いて、これを体現するのは
古代と雪なのは論を待たないだろう。

そして、もう一つの「愛」がある。
それが今回の《親子の愛》。
制作陣は、これを体現させるものとして
加藤三郎・真琴夫婦とその子・翼を登場させた。

徹底的に愛を否定するガトランティス(ズォーダー)が、
テレサに選ばれたフネであるヤマトのクルーに対して
《男女の愛》について “悪魔の選択” を仕掛けてきたのならば、
《親子の愛》についてもまた、仕掛けてくるのは
ある意味当然のことなのかも知れない。

 そのズォーダーとサーベラーの間にも《愛》はありそうだ。
 それが《男女の愛》なのか《親子の愛》なのかは未だ不明だが。
 両方なのかも知れないし、どちらでもないのかも知れないけれど。


■正解のない問題

古代の時もそうだったが、
ガトランティスから提示された選択肢に正解は存在しない。

どちらを選んでも死者が出ることは避けられなかった古代。

加藤もまた、どちらを選んでも翼の死は免れない。
遊星爆弾症候群で死ぬか
ガトランティスによる知的生命抹殺行為で死ぬか。

だから「加藤は選ぶべきではなかった」って、
言うのは簡単だが、いざ幼子の命を前にしたとき、
そう簡単に割り切れるものなのだろうか。

愛するものの死を前にして、冷静に考えられるものなのだろうか?

大げさに言えば、これは作品を観ている人の
死生観にも繋がるもののような気もしている。


■個人的な話

ヤマトとは離れるが、ちょっと個人的な話を書く。

私の義父(かみさんの父親)は12年ほど前に亡くなった。

突然の心臓発作で倒れ、植物状態となった。
当然ながらかみさんも義姉も義母も、一日でも長い生存を願った。
いずれ死は免れないとしても、たとえ一日でも長く生き続けてほしい。
可能性は限りなくゼロに近くても、
亡くなるまでの1ヶ月半の間、みな最後まで回復を信じていた。
それは家族の自然な感情だろう。

そして、義母も6年ほど前に逝ってしまった。
突然の病に襲われ、坂道を転がるように容態が悪化して
発病からわずか三週間という急死だった。
このときも、みるみるうちにやつれていく義母を見ながらも
“命の火が消える” ということが信じられなかった。

二人とも倒れるまでは絵に描いたような健康体で、
平均寿命までまだまだ余裕のある年齢だった。
だからなおさら、
「もっと生きていてほしい、いや生きられるはずだ」
という想いが家族にはあった。


■「人の親になる」ということ

ましてや、年端もいかない子供の場合は、
親は一日でも長い生存を願うのは当然のことだろう。

今日の死を明日に延ばせる方策があれば、
たとえ一日限りの延命だって
親はためらうことなく、それに縋ってしまうのではないか。

子供の死を前にすれば理屈は吹っ飛んでしまい、感情が前面に出てくる。
「人の親になる」ということは、
そういう生き方を選ぶということでもあるのではないか。


■人の親となった加藤

加藤の行動は、煎じ詰めれば
人類の生存を危うくする選択だったのかも知れない。

初見の時は大いに驚いたし、
批判され、糾弾されてしかるべき行動なのは間違いないが
子を持つ親としては、理解できなくはない行動だとも思う。


 まあ単純に「加藤にあんなことをさせてほしくなかった」
 と思う人が多いのも分かるが、
 旧作においては航空隊のリーダーとしてしか描かれなかった加藤が
 「2199」そして「2202」では私生活まで踏み込んで描写された。
 そして第五章に至ってはストーリーの根幹に関わる存在にまで。
 ここまでの扱いは破格と言ってもいい。

 「そんな扱いはいらない。旧作のままの加藤がいい」
 って思う人もいるだろうなとは思うが、
 キャラの役回りを旧作のままに押し止めてしまうのは
 リメイクの自由度を狭めてしまうとも思う。


■たかがフィクション?

”死生観” なんて大仰な言葉を振り回してしまったが
「たかがフィクションにそこまで考える必要はなかろう?」
って意見の人もいるだろう。

だが感じ方は人それぞれ。
ましてや、モノは「ヤマト」である。

「さらば」から数えても40年。
第1作から数えれば45年になろうかという長いつき合いだ。

凡百の作品とは違う。”別格” の作品なんだ。
振り返ってみれば、”ヤマトと共に生きてきた” のだから。

旧作からのファンには私と同世代の人も多いだろうし、
大切な人との永遠の別れを経験した人も少なくなかろう。
作品を観て、自分の人生と重ねて考えてしまう人だっているだろう。

それに、これもたびたび書いてるが
100人のヤマトファンがいれば、「理想のヤマト」も100通り。
こういうヤマトがあってもいいんじゃないか?


■「2202」への “期待値”

このブログのあちこちでも書いてるが、私は「さらば」否定派だ。
だから「2202」が始まる前、40年前に感じたあの ”違和感” を
否応なく再び思い出させられるんじゃないかと、不安が満ち満ちていた。

しかし、いざ始まってみると意外なほどすんなりと観ているようだ。
それどころか第五章までの展開については概ね楽しんでいる。

 ところどころ「おいおい」って突っ込みたいところや
 「あちゃー」って思うところもなくはないが・・・。

何でだろう・・・ってちょっと考えてみたんだが、
ひょっとすると “期待値” が違うのが原因なのかも知れない。

私は「2202」に対して
 “「さらば」の再現” なんてものは全く期待していない。
ましてや「あの感動をもう一度」なんて気はさらさらない。

 だってわたしは「さらば」で全く感動できなかった人間なんだから。

ゆえに、「さらば」から逸脱する要素は大歓迎なのだろう。

人造生命ガトランティスも、250万隻の大戦艦も、
《悪魔の選択》も、そして加藤の行動までをも含めて。

あの「さらば」を吹っ飛ばすような、
凡百の予想を越えた、しかも私が納得できる結末を観たい。
ただそれだけなのだ。(←けっこうハードル高いと思うが)

 “私が” ってところが重要ね(笑)。
 他の方がどう思うかは正直言ってどうでもいいのだ(おいおい)。


とは言っても、第六章から旧作回帰が始まって
原典通りの終わり方になる可能性もなくはない。

 もしそうなった場合は、
 思いっきりこの場で扱き下ろすか、
 あるいは、今後一切ヤマト関係の記事から足を洗うか、
 どちらかだろうなあ・・・

そうならないことを願いながら11月を待ちたいと思います。


■第五章ED主題歌「ようらんか」

最後の最後に、今回のED主題歌についてちょっと書いて終わらせよう。

タイトルの「ようらんか」ってどんな意味なんだろう
・・・って思ってたら、
「愛の宣伝会議」でちょっとそれに触れていましたね。
羽原監督がED主題歌は「子守歌で」ってオーダーを出したらしい。

おお、それでやっと “揺籃歌” って漢字が頭に浮かびましたよ。
なるほど、だからBD版のEDは翼くんメインだったんですね。

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