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身元不明(ジェーン・ドゥ) 特殊殺人捜査官 箱崎ひかり [読書・ミステリ]


身元不明 特殊殺人対策官 箱崎ひかり (講談社文庫)

身元不明 特殊殺人対策官 箱崎ひかり (講談社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

2020年の東京オリンピックのために大規模再開発が行われた東京。
オリンピック特需もあり、首都は大きく変貌した。

その一つが東京メトロ湾岸線の開業だ。
日比谷・品川・お台場を巡り、南は羽田空港、
東は舞浜までをカバーする巨大環状線である。

その湾岸線日比谷駅構内に設けられたアクアリウム(水族館)。
その水槽の中で全裸の女の死体が発見される。
時は始発前の早朝、そしてなぜか遺体の片耳が切断されていた。

直ちに臨海署に捜査本部が設立される。
作者がもと警察官僚だっただけあって、
警察内部や捜査員たちの言動の描写は実にリアル。

しかし、ここからちょいと様子が変わってくる。

定年間近の無気力刑事・浦安も駆り出されるが、
彼がコンビを組むことになった相手はキャリア警視・箱崎ひかり。
なんとゴスロリファッションに身を包んだうら若き女性である。
浦安からすれば、ソリの合わないどころじゃない相手だが
命令には逆らえない。

しかし捜査員の努力とは裏腹に、
湾岸線各所で次々と死体が発見されていく。
しかも、すべて身元が不明で、体の一部が欠損していた・・・


死体が登場し、容疑者が登場し、捜査が進んで証拠が集まり、
そして犯人に・・・っていう形式の普通の警察小説ではない。

リアルな警察内部を描きながら、起こっている事件や
それを取り巻く状況は、限りなく虚構性が高いのだ。

まず死体の身元が不明、そして容疑者らしい容疑者も登場しない。
(まあ、死体が誰だかわからなくては容疑者の絞りようもないが)

そして、警察以外の ”謎の組織” が動いている。
例えば作中に登場する『図書館員』というグループ。
どうやら国会図書館に所属する職員らしいのだが、
その実態は警察上層部の直轄する諜報組織らしい。

これ以外にも防衛省の諜報組織もでてくるし、公安警察だっているし
いったいこの国には、こんな怪しげな奴らが
どんだけいるんだよぅ、って思う(笑)。

諜報員たちが跋扈するシーンでは、暗号めいた符帳が飛び交い
いったい何を話しているのか、何が起こっているのか、
読者は把握するのがとってもたいへん。
(いや、単に私のアタマが悪いだけなのかも知れないが・・・)

しかし箱崎警視は、そういう魑魅魍魎みたいな連中とも渡り合い、
情報を引き出していく。
こう書くと、スパイサスペンスなのか、と思われるかも知れないが
それもまた違うのだ。

死体の一部欠損、猟奇的な死体処理に加え、犯行現場が密室だったり
死体に犯人からのメッセージが残されていたりと、
このあたりには本格ミステリの要素が満載なのだ。

大都会を舞台にしたリアルな警察小説という土台の上に
古典的な本格ミステリ(サスペンスの風味付けあり)を
構築してみた、というのが本作の位置づけなのだろう。


このように、かなり特異な雰囲気を持つ作品なので
好みが分かれるかも知れない。

上記のように、読者は作者の話術に翻弄されていくままなんだけど
ヒロインの箱崎ひかりだけは、一人超然としていて揺るぎない。
もう読者は彼女の後ろ姿を追っていくしかない(笑)。
ラストでは、ちゃんと ”名探偵” 役を果たし、
”意外な犯人” を指摘してみせる、

さらに、犯人が分かった後も物語は終わらない。
まだまだ巨大な危機を抱えてサスペンスは続いていく。
ほんとにもうお腹いっぱいになる作品である。

消化できるかどうかは人それぞれだろうけど(笑)。
私には胃腸薬が必要なようですが。


あと、余計なことだけど「R.E.D.」シリーズって
この作品の(時系列的に)後の作品なのかなあ。
なんか微妙に繋がってないような気もするのだけど。

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