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機龍警察 火宅 [読書・SF]


機龍警察 火宅 (ハヤカワ文庫JA)

機龍警察 火宅 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/08/07
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

大量破壊兵器が衰退し、テロが蔓延する近未来。
それに伴い発達した人型近接戦闘兵器・機甲兵装。

 機甲兵装とは、アニメ『装甲騎兵ボトムズ』におけるATみたいな、
 簡単に言えば "ロボット型一人乗り戦車" のような兵器である。

警視庁特捜部も、テロリスト対策のために最新鋭の機甲兵装「龍機兵」を
3機導入し、その搭乗要員(パイロット)として3人の傭兵と契約した。
日本国籍を持つ元傭兵の姿俊之、
アイルランド人で元テロリストのライザ、
元モスクワ警察の警官ユーリ・オズノフ。
この3人は "警部待遇" で捜査にも加わることになる。
英語名は Special Investigation Police Dragoon (「機龍警察」)。

閉鎖的・保守的な警察組織の中で、彼ら3人と「龍機兵」は "異物"。
特捜部は仲間であるはずの組織にすら拒否反応を示される。
しかしながら、機甲兵装を用いたテロ案件は次々に発生していく。

「機龍警察」は、テロリストという外敵はもちろん、
"警察組織" という内なる敵とも戦っていかなくてはならない。

本書は、そういう宿命を背負った部署の
メンバーたちにスポットを当てた短編集である。

各編のタイトルが漢字二文字に統一されているんだが
「雪娘」以外はみな仏教用語になっている。
それぞれ内容とリンクしてるんだけど、個々の意味は説明しませんので、
皆さんググるなりなんなりしてください(笑)。


「火宅(かたく)」
特捜部主任の由紀谷志郎は、膵臓がんを患って
余命幾ばくもないかつての上司・高木を訪ねる。
高木は努力型で、こつこつと地道な捜査を続ける男ではあったが
出世とは縁遠く、40歳近くまで万年巡査部長と呼ばれていた。
しかし蒲田での一家四人殺し事件で、キャリア管理官の
松尾のもとについてから彼の運命は変わる。
事件は迷宮入りに終わったものの、その後の高木は
とんとん拍子に昇進し、ついには警視にまで登り詰める。
一人暮らしの高木の家で話しているうちに、
由紀谷はあることに気づくが・・・
純粋な警察ミステリとして秀作。SF要素は全くないけど(笑)

「焼相(しょうそう)」
台湾人武器密売組織の残党二人が、機甲兵装二体を駆って逃亡の途中、
児童教育センターに逃げ込んで立てこもるという事件を引き起こす。
館内にいた小学生を含む数十人を人質に取り、
二人は逃亡のために様々な要求を始める。
対応に苦慮した上層部から特捜部に対して出動要請が下される。
人質を危険にさらさず、離れた場所にいる二機の機甲兵装を
同時に無力化するという一見して不可能な作戦に挑む龍機兵の活躍を描く。
今回スポットライトが当たるのは
龍機兵のメンテナンスを担当する技術主任・鈴石緑と
元テロリストという過去を持つ龍機兵パイロット・ライザ。
かつてテロによって家族を失った緑が
ライザに抱く葛藤も事件と並行して綴られていく。
この短編集は特捜部の人間を深堀りする作品がメインで、
龍機兵が活躍する話が少ない。本作はその貴重な一編で、
解決への突破口を開く「特殊装備」も披露される。

「輪廻(りんね)」
ウガンダの反政府組織LRAの武器調達幹部デオブが日本に入国し、
台湾の武器密売組織『流弾沙(りゅうだんしゃ)』と
接触しているのをつかんだ由紀谷たち。
さらにデオブは医療機器メーカー『本川製作所』の社員とも会っていた。
龍騎兵パイロットの一人で元傭兵の姿俊之が推測した彼の目的は、
冷酷非情かつ非人道的な、機甲兵装用のオプションに関するものだった。
未来世界でのロボットアニメなら時折目にするギミックだが
現実世界と地続きな近未来を舞台にした中で見せられると
いささかショックではある。

「済度(さいど)」
テロ組織IRFを抜け、逃亡を続けるライザは、
組織の差し向ける刺客を倒し続けながら世界各地を彷徨っていた。
南米ベネズエラに流れ着いた彼女は、
「X」なる謎の人物から連絡を受けて港町サン・リベルラへ赴くが、
そこで過激派組織FBLにかかわる騒ぎに巻き込まれる。
ライザが特捜部に加わる直前のエピソード。
『自爆条項』を読んでおくと、より一層楽しめるかな。

「雪娘(ゆきむすめ)」
墨田区の工場で、ロシア人ゴルプコフの死体が発見される。
遺体の腹部を貫いていたのは直径3cm、長さ1mに及ぶ鉄棒。
龍機兵パイロットの一人で元モスクワ警察のユーリ・オズノフは
被害者の10歳になる娘・アーニャから事情を聴くうち、
過去にモスクワで捜査に当たった事件を思い出す。
被害者は元軍人、そして9歳の孫娘と暮らしていた・・・
この世界設定ならではのミステリ。

「沙弥(しゃみ)」
九州で暮らしている高校生・由紀谷志郎は札付きの不良だった。
不倫相手に捨てられたことを苦にして母親が自殺しても
彼の素行は改まらず、悪友の福本とともに喧嘩に明け暮れていた。
その福本が亡くなったとの知らせに警察へ赴いた志郎は
彼が連続ひったくり犯の容疑者となっていたことを知る。
由紀谷が警察官を目指すきっかけとなったエピソード。
東京で警察官をしている叔父・岩井がいい味を出してる。

「勤行(ごんぎょう)」
理事官の宮近(みやちか)浩二は、特捜部の職務に忙殺されて
家に居着かず、妻には幻滅され娘には愛想を尽かされかけている。
娘のピアノ発表会を明日に控え、必ず出席すると約束をするが
特捜部に対して突然、国家公安委員長の国会答弁書作成の命令が下される。
同僚の城木理事官と共に資料調べと想定問答集の作成に取りかかる宮近。
夜を徹した作業のおかげで、予定通りなら何とか午後の発表会に
間に合うはずだったが、不測の事態が次々に襲ってきて・・・
警察官というのは現場で犯人を追いかけているだけではなくて
こんなことまでやってるんだなあ・・・と思った。
中央官庁の官僚は、国会会期中は家に帰れないくらい忙しいとか聞くが
警察幹部だって官僚なんだねえ。
発表会をすっぽかしたら、今度こそ家族に相手にされなくなってしまうと
心配になったけど、この収め方は見事。

「化生(けしょう)」
大手商社『海棠(かいどう)商事』を巡る一大疑獄事件のさなか、
重要参考人と目されていた経済産業省の官僚・平岡が自殺した。
特捜部は平岡が接触していた相手がフォン・コーポレーションの
社員・唐(タオ)であることを突き止める。同社は過去にも
多くの事件の影で暗躍してきた、“限りなく黒に近い企業” でもあった。
さらに唐は、光コンピュータ用の光半導体を開発している
如月フォトニクス研究所にも出入りしていた。
そして研究所の研究員・西村が毒殺される・・・
龍機兵の抱える ”秘密” にまつわるエピソードが語られる。
長編であるシリーズ本伝では、警察組織内部に潜む
巨大な ”敵” の存在が暗示されているが、
それとの決戦の時がそう遠くない未来になるであろうことも。

現在、本伝シリーズは第二作の『自爆条項』までしか読んでないんだが
従来の機甲兵装に対して圧倒的な性能差を誇る龍機兵を
どこの誰が開発したのかは明かされてない。
(第三作以降で明かされてるのかも知れないが)

そのあたりも含めて、早く本伝の続きが読みたいんだけど、
このシリーズは文庫化のスピードが遅いんだよねえ・・・
そんだけ売れてるってことなんでしょう。

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魔導の黎明 [読書・ファンタジー]


魔導の黎明 (創元推理文庫)

魔導の黎明 (創元推理文庫)

  • 作者: 佐藤 さくら
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/21
  • メディア: 文庫
評価:★★★

『魔導の系譜』『魔導の福音』『魔導の矜持』と続いてきた
ファンタジー・シリーズの第4巻にして完結編。

今までの3作に登場した主要キャラたちも、
場面は少ないがあちこちに登場して最終編を盛り上げる。


舞台となるのは、中世の西洋を思わせる異世界。
シリーズタイトルにある "魔導" とは、いわゆる魔法のことで
火・水・風などを操る超常の能力を指し、
その力を持つものは「魔導士」と呼ばれる。
"魔導" の力を持つかどうかは先天的に定まっており、
その力を備えたものは "普通人" の間に一定の割合で生まれてくる。

そしてこの世界には、魔導士たちにとって安住の地はない。
第1作の舞台となったラバルタでは、
魔導士は異端視され、差別と迫害を受けてきた。
第2作の舞台となったエルミーヌでも、当初はラバルタを上回る
苛烈な扱いを受けていた。
後に魔導士の保護へと方針転換したが、その理由はあくまで
来たるべき隣国との戦いの際の ”戦力” とするためだった。

そしてこの完結編に至っても、このように魔導士が差別されたり、
戦争の道具として利用される世界は未だ変わらずに続いている。


ラバルタで勃発した、魔導士迫害に端を発した反乱は
未だ収まらず、10年の時が流れていた。

クラウリー領の若き領主・アシェッドは生来、争いの嫌いな性分で
嫌々ながら反乱鎮圧の軍に加わるが
宿営地に向かう途中を襲われて負傷してしまう。
その彼の命を助けたのは魔導士の少女・イーディスだった。

一方、エルミーヌ国のイドラで
魔導士の指導に当たっていたレオンのもとへ
かつての弟弟子グレイがやってくる。
そしてその日からレオンは姿を消してしまう。

戦地から帰郷したアシェッドは首都リアンノンの大学へ入学するが、
そこで〈鉄の砦〉の魔導士ダリエシと知り合う。
そして彼から、大量の魔導士が行方不明になっていることを聞かされる。

レオンの親友であり、ラバルタの諜報組織の長だったガトーは、
今は亡き魔導士セレス・ノキアの遺品を
グレイが手に入れようとしていること知る。

グレイの属する組織〈暁の光〉の目的は、
ノキア師が研究していた禁断の術を復活させること。
それはとてつもない超常の力をもたらすものであり、
彼らはそれによって一気に世の中を変革することを狙っていた。
大量の魔導士を集めていたのもそのためだ。
そしてその中にはイーディスの姿もあった。

師であるレオンを探して、弟子であるゼクスもまたラバルタへ向かう。
そしてアシェッドもまたこの大きな ”歴史の変動” に巻き込まれていく。


ストーリー的には、その気になればまだまだ続けられそうな終わり方。
ではなぜここで ”完結” と銘打ったのかというと、
おそらくこのシリーズの目的が、
個々のキャラクターたちの行く末ではなく
この世界の変わり目、歴史の転換点を描くことにあったからだろう。

レオンやゼクスをはじめとする ”主人公たち” は、
魔導士たちが迫害される世界にドラスティックな変革をもたらそうとする
〈暁の光〉を前にしてどう決断し、どう行動するのか。
彼らの ”選択” が描かれて、この長大な物語は ”終わり” を迎える。

全4巻、文庫にして1700ページを超える大作で、
かつ作中では10年以上の時が流れるけれど
長い歴史から見ればほんのひとコマにすぎない。
でもそのひとコマを描きたかったんだろうと思う。

新人の手になるものとは思えないほどの傑作シリーズだと思うのだけど
ちょっぴり不満がないわけではない。
登場するレギュラーメンバーのほとんどが若い男女なのだけど
恋愛系の部分は意外なほど乏しいのだ。
そういう雰囲気や関係に進むカップルもいなくはないのだが
全体的にそちら系の描写は少ない。

これも、個々のキャラクターの物語に恋愛を絡めてしまうと
読者の関心がもっぱらそっちへ向かってしまい、
世界を描くというシリーズ全体の目的からすると
マイナスだと作者は判断したからなのかも知れないけれど。

「あとがき」を読むと、この4部作の直後の物語を書く可能性は
低そうだけど、数十年~数百年後の世界を描くことはありそうだ。

私としては、短編でも良いので4部作に登場したキャラたちの
”その後” が知りたいなあ。本編で描かれなかった部分を中心に。
例えば今作で言えばアシェッドとイーディスのその後とかさぁ。
そんな外伝集みたいなもの、書いてくれませんかねえ。

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「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」第六章 回生編 劇場予告版(60秒ver.)公開 [アニメーション]


ゆうべは晩ご飯を食べたら眠くなってリビングで爆睡、
日付が変わったあたりで目が覚めてPCをつけて公式サイトをのぞいたら
公開されてました劇場予告版(60秒ver.)。



例によって情報量が多くてよく分からない(笑)んだけど、
内容を書き出しながら思ったことをだらだらと書いてみよう。


・藤堂「私も、人間でありたい。
    どんな運命が待ち受けていようと、最後の1秒まで」
 意味深な台詞ですねえ。なんかよっぽど人間的でないことが
 彼女の周囲にはあるのでしょうか。
 この台詞のバックに登場するのは
 土方、山南(宇宙服姿?)、桂木透子、キーマン、そして古代。
・藤堂「銀河、最大戦速!」
 波動エンジン全開で加速する銀河。ヤマトの救出に向かうのか?
・赤い空母型アンドロメダ級。艦体についているマークはガミラス。
 その周囲にはガミラス艦、そしてさらに〈ガルント〉(複数)や
 〈ドルシーラ〉まで。となれば当然バーガーさんの登場ですねえ。
 『方舟』で負傷した目は完治したようでまずはめでたい。
 某宇宙海賊さんみたいにアイパッチになってたら
 どうしようかと思ってました(笑)。
 あとはどれくらい台詞があるかだね。
 安田艦長みたいに1シーンだけってのは残念すぎるので。
・バレル「ガミラスの誇りに賭けて、共に地球圏の防衛を。
     人類の興亡、この一戦にあり」
 日本海海戦の故事を知ってるとはさすが地球大使(笑)。
 ここでいう ”人類” とは、当然ながら地球人ガミラス人を含む、
 ガトランティスによって粛正されかけている
 ヒューマノイドたち全般を指しているんだろうと思いたい。
・謎の惑星(彗星帝国内にあったヤツのうちの1つだろう)と
 それに攻撃(たぶん)をかける謎の宇宙船(?)。
 ひょっとしてレギオネル・カノーネかな?
・艦長席の藤堂、そして山南のアップ。
・山南「本艦はこれより彗星中心核に接近し、敵重力源の破壊を試みる!」
 アンドロメダ(改修後?)を中心にした艦隊が降下してくるが
 よく見ると、周りの艦もみんなアンドロメダ級だったりする。
 そして、初見の時は気づかなかったけど、よく見ると
 アンドロメダ級の両舷にドレッドノート級が。
 これは何なんでしょうね。火力を増強するためか、
 推力を増強するためか。それともその両方か。
・土方、そして涙を流す加藤、指揮を執るバルゼー、叫ぶ山南のアップ。
・降下する艦隊、波動砲の一斉攻撃。
 標的は都市帝国のてっぺんにある超巨大戦艦の艦首もどきの部分。
 このへんは『ヤマト2』での、コスモタイガーによる
 都市帝国攻撃シーン( ”真上” と ”真下” )のオマージュだね。
 このあたりから発生した謎フィールドが
 前章での波動砲攻撃を無効化したんだよねえ・・・
 拡散しない波動砲(笑)が命中するけど、原典通りに展開するなら
 この攻撃では都市帝国にダメージは与えられないんだろうなぁ・・・
・ここで「第六章 回生編」のタイトルが。
・回転しながら攻撃しまくるアンドロメダ級。
 艦体の上下で二色に塗り分けられてるので、山南の乗艦かな。
・謎の声(子供?)「滅びの調べを奏でる者、その名はゴーレム」
 誰の台詞なのでしょうかね? 幼少期のズォーダー?
 映像もズォーダーがアップになるし。
 でもって、そもそもゴーレムって何?
・艦載砲を打ちまくるアンドロメダ級。色からしてアルデバランかな。
 よく見ると重力子スプレッドも発射待機中みたい。
 周囲はドレッドノート級。色違いなので追加増産分かな。
・大帝「滅びの方舟をコアとする彗星都市帝国こそ、
    すべての苦痛(?)を焼き払う、真実の愛な(以下聞き取れず)」
 映像は、イケメンと美女と赤児。
 若き日のズォーダー(先代)とサーベラー(オリジナル?)、
 そしてズォーダー(現)かな。
 この先代は、赤児をけっこう可愛がっていそうな雰囲気だが。
・山南のアップの次に、アンドロメダ級のブリッジにイーターが直撃。
 山南が宇宙服を着ている理由がこれかなあ。
・なぜかモノクロのズォーダー。これには何か意味がある?
 そして彗星都市帝国の全景へ。
・銀河の ”謎の砲口”(笑)のアップ。今回はだいぶ活躍しそうだが
 でもやっぱ ”銀河” の文字はないわー(まだ言ってる)。
・藤堂「コスモリバース、発動!」
 ついに発射される謎の ”コスモリバース砲”(仮称)。
 しかし、波動エネルギーのみならず
 コスモリバースシステムまで兵器化してしまったら、
 今度こそスターシャさんが地球まで攻めてきませんかね?
 そして、そもそもどこの何を ”リバース” させるんでしょうか?
・どこかの地表、たぶん彗星都市帝国内に取り込まれてる
 いくつかの惑星のうちの一つだと思うけど、そこに不時着状態のヤマト。
 補助エンジンを点火。
・土方「ヤマト、発進!」
・古代「船体起こせ!」
 なぜか古代が操舵してるようなんだが。なぜ島がいないのか?
 他のクルーと共に脱出してしまってるのか、
 それとも何かアクシデントでもあったのか?
・そして波動エンジンが点火。
 背後から迫る謎の光(コスモリバース? レギオネルカノーネ?)から
 逃れるように発進体勢に入るヤマト。
・タイトル「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 第六章 回生編」

台詞は少ないが、映像的には情報が満載。
観ているといろいろ疑問やら妄想やらが膨らんできます。
そして、全編に流れるのは新BGMみたいですね。

ここまでくると、もう何がどうなるのか皆目見当がつきません。
不安も大きくなりましたが(その最たるものは加藤の扱いですが)、
それでも期待の方がもっと大きいかな。

ぜひ、21世紀に復活したヤマトならではの
”都市帝国攻略戦” の新解釈を見せてほしいものです。

早いもので、第五章の時は「あと半年先かぁ・・・」って
思ってたのが、いつの間にかあと5週間。

11/2(金)の公開ですが、予定表を見ると
この週は仕事が立て込んでいて、2日はもちろん
3日(土)も4日(日)も休日出勤になるのはほぼ確定状態。

5日か6日あたりに代休をもらって観に行くことになるのかなあ・・・

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水戸黄門 天下の副編集長 [読書・歴史/時代小説]


水戸黄門 天下の副編集長 (徳間時代小説文庫)

水戸黄門 天下の副編集長 (徳間時代小説文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/06/08
  • メディア: 文庫
評価:★★★

『大日本史』(国史)編纂に邁進する前水戸藩主・徳川光圀(みつくに)。
日本各地の名だたる学者たちへ執筆を依頼したものの、
期限を過ぎても原稿を納めない者が続出し、編纂作業は滞るばかり。
業を煮やした光圀は、ついに自ら原稿の取り立てに臨むことを決意する。

自らは書物問屋の隠居に身をやつし、お供に連れゆくは
水戸彰考館(しょうこうかん)総裁・安積覚兵衛(あさか・かくべえ)と
国史編集顧問の佐々介三郎(さっさ・すけさぶろう)、
妖艶な美女にして実は ”甲賀のくノ一” でもある鬼編集長・お吟(ぎん)。
そして光圀一行に危機迫るとき、颯爽と現れる ”風車の男” ・・・(笑)

 ちなみに「水戸彰考館」とは、水戸藩が
 『大日本史』を編纂するために置いた部署の名である。
 そして、安積覚兵衛も佐々介三郎も実在の人物だったりする。
 二人はフィクションでの格さん助さんのモデルとされてるらしい。

御老公一行が行く先々で出会う、謎の陰謀の数々を描いた連作集が本書。

ここまで書いてきて分かると思うが、
往年の国民的TVドラマのパロディである。
もっとも、ここに登場する介(すけ)さん覚(かく)さんは
生粋の文官なので剣の腕はからっきし。
立ち回りはもっぱらお吟さんと風車の男の担当となる。
とはいっても、一話につき1回は、必ずお吟さんの入浴シーンあり(爆)。


「水戸黄門 天下の副編集長」
編纂作業の遅延に、自ら原稿回収に向かうことを決めた御老公。
最初の目的地は伊豆、下田在住の錫之原銅石(すずのはら・どうしゃく)。
しかし銅石は何者かに拉致され、行方不明となっていた。

「水戸黄門 謎の乙姫御殿」
府中宿へやってきた光圀一行。
執筆を依頼した大河原康軒(こうけん)を缶詰め状態にして
原稿を書かせようとするが、その康軒が
衆人環視の中、姿を消してしまう・・・
とは言ってもミステリではないので、真っ当な謎解きはありません(笑)。
御老公一行の行く先々で様々な妨害を行っていたのは、
真田幸村の血を引く月読(つくよみ)姫。
そして彼女に付き従う真田忍軍の精鋭 ”くノ一” 4人組だった。

「水戸黄門 艶姿女編集揃踏(あですがたおんなへんしゅうそろいぶみ)」
藤枝宿にやってきた一行が岡本無楽斎(むらくさい)のもとを尋ねたとき、
当の無楽斎は極度のスランプ状態で、原稿を全く書けない状態にあった。
介(すけ)さん覚(かく)さんは彼をスランプから脱出させるため奔走する。
そして再び現れた真田忍軍4人に対して多勢に無勢だったお吟は、
甲賀の里から援軍として2人の ”くノ一” を呼び寄せるが・・・

「水戸黄門 日本晴れ恋の旅立ち」
光圀一行が訪れた掛川宿では、二つの学派が互いにしのぎを削っていた。
一つは門田学館。先代・門田宜幽(もんた・ぎゆう)の後を継いだ
門田露水鴎(ろみおう)は英才の誉れが高い。
そして一方は伽備流史学院。院長である伽備烈堂(きゃび・れつどう)の
娘・珠里(じゅり)もまた比類無き才媛として知られていた。
ここまで書いてくるともう分かると思うが(笑)、
親同士がいがみ合う中、露水鴎と珠里は許されざる恋に落ち、
光圀一行もまたその騒ぎに巻き込まれていく、という展開。


ラストの時点では、黄門様ご一行の目的(原稿の取り立て)は
まだ完了していないみたいなので、いちおう続編も可能な終わり方。

今までのハードボイルドな作風とは打って変わって
こんなユーモアたっぷりな作品を書くとはちょっと驚き。
まあ、たまにはこんなふうなものも書いてみたくなったのかなぁ。

 田中啓文あたりが書きそうな話だよねぇ(笑)、

何にしろ、引き出しが多いというのは良いことだ。

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煙突の上にハイヒール [読書・SF]


煙突の上にハイヒール (光文社文庫)

煙突の上にハイヒール (光文社文庫)

  • 作者: 小川 一水
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/06/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

近未来のテクノロジーと人間の関わりを描く短編SFを
5編収録した作品集。


「煙突の上にハイヒール」
結婚詐欺師に引っかかって落ち込んでいたOL・織香(おりか)は
たまたま雑誌の広告で見かけた ”MeW” を衝動買いしてしまう。
MeW(Man enhancer by Wing)とは、一人乗りのヘリコプター。
背中に背負った小型モーターとプロペラを
新型バッテリーで駆動させ、30分の飛行が可能。
MeWによって空を飛ぶ楽しさに目覚め、変わっていく織香。
彼女の前に広がる新たな世界、現れる新たな友、そして新たな愛・・・
人とテクノロジーの幸福で理想的な関係を描いていて、読後感も良好。

「カムキャット・アドベンチャー」
主人公・御厨(みくりや)は大学の研究室で助手をしている。
彼の飼い猫・ゴローが最近太りだした。
誰かが隠れて餌をやっているらしい。
そこで彼は、ゴローの首輪に超軽量カメラを取り付けるが、
猫の行く先で予想外の ”隠し撮り” をしてしまう・・・
この短編、雑誌発表が2008年なので、今ならもう
これくらいの小型カメラは実現してるんじゃないかなあ。
近未来を描くSFは、いつか時代に追いつかれ、
そして追い越されてしまうという宿命を負ってるんだが
それでもなお、この作品のラストは微笑ましい。
とはいっても、御厨の行動はやはりやり過ぎでしょう。
撮られた相手が寛容だったので大事にならずに済んだけど。

「イヴのオープン・カフェ」
小雪の舞うクリスマス・イヴの夜。
ある ”事情” を抱えたOLの未知(みち)は、
カフェの屋外席に腰を下ろすが、そこには先客がいた。
それは少年型ロボット・”タスク” だった。
”彼” は、未知に自らの身の上を話し始める。
アルツハイマー病を患ったユーザー・”華(はな)さん” の
介護をしていたが、3日前に ”華さん” が亡くなったので
サービスセンターへ自力で歩いて帰る途中なのだという。
”タスク” と言葉を交わすうちに、未知もまた自らの過去を顧みる。
毎回思うことだけど、SFに登場するロボットって
なんでこんなに健気なんだろう。今回の ”タスク” も、
抱えた "事情" に悩む未知の心を少しずつ癒やしていくのだが、
ロボットなのに、いや、ロボットだからこそ
未知の心を掴んでいくことができるあたりは感動的ですらある。
ちょっとミステリっぽいところもあって、
そのへんもアシモフに寄せたのかな。
個人的には、本書の中で最高作。

「おれたちのピュグマリオン」
吉崎晃司は、一角電機工業で二足歩行ロボットの開発をしている。
あるとき、部下の倉近稔が会社に無断で
女性メイド型ロボットを試作していたことに気づく。
しかしその完成度に驚いた吉崎は、会社に正式な商品化を具申する。
やがて「芳の(よしの)」と名付けられた量産型は発表直後に完売し、
大量のバックオーダーに会社は大増産を決定する・・・
一人の男の発明によって人型ロボットが一気に普及、世界を変えていく。
ロボットはどこまで人間に近づくのか?  そして
ロボットはどこまで人間の行動を代替していくのか?
昔から描かれてきたテーマだけど、
本作もまた独自の未来像を描いてみせる。
その世界が万人に受け入れられるものかどうかはまた別問題だが。
そして、本作のラストは「えー!」っていうオチで締められる。
私自身は、こういう未来はイヤだなぁ・・・って思います。

「白鳥熱の朝に」
高い致死率を持つ新型インフルエンザ ”白鳥熱” が世界中に蔓延、
日本でも4000万人が罹患、800万人を超える死者がでた。
4年間に渡って猛威を振るった ”白鳥熱” が去った後、
残されたのは保護者を失った150万人の子供たちだった。
政府は子供のない有職成人に対して、補助金交付と引き換えに
孤児の扶養を義務づける特別措置法を可決する。
主人公の元医師・狩野習人(かりの・しゅうと)のもとにも
両親を失った少女・芳緒(よしお)がやってくる。
異性を預かることに戸惑いながらも、二人の生活は始まり、
芳緒は狩野のもとから高校へ通い始めるが、
彼女にはある ”秘密” があった・・・
死病がもたらした悲しみと苦しみによって
医師の仕事に背を向けていた習人が、芳緒との出会いをきっかけに
再び前を向いて生きていくことを決意するラストが感動的。

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カーリーⅡ 二十一発の祝砲とプリンセスの休日 [読書・その他]


カーリー <2.二十一発の祝砲とプリンセスの休日> (講談社文庫)

カーリー <2.二十一発の祝砲とプリンセスの休日> (講談社文庫)

  • 作者: 高殿 円
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/03/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

1939年。第二次世界大戦勃発の直前に
父の赴任先であるインドへ渡り、
花嫁学校であるオルガ女学院へ転入した少女・シャーロット。

前巻に引き続き、彼女が学院の内外で過ごす日々が綴られる。
心を許せる友となったミチル、ヘンリエッタ、
そしてルームメイトのカーリーと
学園での日々を過ごすシャーロットたち。

しかし開戦後間もない1940年、オルガ女学院に転入生がやってくる。
満艦飾の輿を載せた象で現れたのは
インド有数の藩王国バローダの第一王女・パドマバディ(パティ)。

オルガ女学院というのは、生徒の出身/出自によって
校内での序列が決まってしまうというトンデモナイところなので、
パティはあっという間に学院最高位に収まってしまう。

それによって今まで ”女王様” として君臨していたヴェロニカは
寄宿舎の「特別室」を追い出されてしまう。
さらにパティはルームメイトとしてカーリーを指名する。
一人になってしまったシャーロットは、よりによって
犬猿の仲であるヴェロニカと同室になることに。

学園内に大騒ぎを引き起こしたパティだが、
彼女の転入にはある目的があった・・・


前回もそうだったが、今回の物語の背景にも、
当時のインドの国情が大きく関わっている。

当時のインドではガンジーたちによる独立運動が起こっており、
それを押さえようとするイギリスがあり、
そして両者の間で既得権益を守ろうとする藩王国があるという
混沌のさなかにあった。
さらには先端を開いたナチス・ドイツと英仏の対立もまた
インドに持ち込まれ、列強諸国によるスパイが暗躍する地でもあった。

前作では、インドで消息を絶った母親の
手がかりを得ようとするシャーロットが、
スパイ同士の対立に巻き込まれていく様子が語られたが、
今回はインド有数の藩王国の王女であるパティを巡る陰謀が描かれる。

そして、シャーロットたちが学ぶオルガ女学院にも、
激化する戦争が影を落とし始める。


学園ものであり、歴史小説でもあり、
最後にはミステリっぽい謎解きも披露される。
誰が探偵役になるかはヒミツだが。

連続ものの第二巻と言うことで、現段階での評価は難しいけど
ヒロインのシャーロットをはじめとして、
関西なまりの英語(?)を駆使するミチル、
マッドサイエンティストへの道をまっしぐら(笑)のヘンリエッタ、
パティを通してシャーロットとの関係を変化させていくヴェロニカ、
そして新規加入のパティも含めて、キャラ立ちは申し分ない。

そしていよいよカーリーの抱えた ”秘密 ”が
シャーロットの知るところとなって・・・ってところで「つづく」。


次巻「Ⅲ」では、一気に時間が飛んで4年後が舞台となる。
今回のラストで主要キャラたちのほとんどがインドを離れ、
散り散りになってしまうのだが
ある ”イベント” (これがまた意表を突く設定)のために
再びインドへ集まってくる。

こちらも読了しているので近々記事に書く予定。

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サラファーンの星 四部作 [読書・ファンタジー]


星の羅針盤 (サラファーンの星1) (創元推理文庫)

星の羅針盤 (サラファーンの星1) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/09/10
  • メディア: 文庫
石と星の夜 (サラファーンの星2) (創元推理文庫)

石と星の夜 (サラファーンの星2) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/12
  • メディア: 文庫
盗賊と星の雫 (サラファーンの星3) (創元推理文庫)

盗賊と星の雫 (サラファーンの星3) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/05/31
  • メディア: 文庫
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/05/31
  • メディア: 文庫
評価:★★★

文庫本で全5冊、合計して2200ページを超える超大作ファンタジー。


その世界には、人間の住む王国が6つある(冒頭に地図がある)。
西からギルデア、ボー、イルバーン、テス、アトーリス、リーヴェイン。
そしてそれらの南には、数千年の寿命と超常の力を宿す種族・フィーンの
暮らす王国エルディラーヌがあった。
これら7つの王国は、長きにわたって平和な時を刻んできた。

しかしギルデアで皇帝ダイロスが即位すると事態は一変する。
彼は周辺諸国へ宣戦を布告、隣国ボーを併合したのちは
さらにイルバーンとテスに対して侵攻を開始したのだ。


物語は、戦火を逃れて故郷であるテスを離れ、
母の出身地であるリーヴェインに逃れてきた少女・リーヴから始まる。

リーヴの家では、父・ヒースがギルデアとの戦いに出征したため、
彼女は母・フェルーシアと兄・ウィルナーとともに
リーヴェイン王国の小さな村・フォーディルへやってくる。
そこにはフェルーシアの兄・ダンがいたからだ。

ダンは妻を早くに亡くし、後添えもまた早世したために
母の違う息子二人、ジョサとハーシュと暮らしていた。
音楽を生業とする父・ダンのもと、
ジョサもまた音楽家への道を進もうとしていた。

リーヴたちはダンの一家とともに暮らし始める。
それは戦火から遠く離れた穏やかな生活だったが、そんな中、
リーヴは村人たちが “呪われた森” と呼ぶ場所で一人の少女と出会う。

その少女の名はルシタナ。
母はエルディラーヌの王女・エレタナ、
父はアトーリスの王子・ランドリア。
フィーンと人間という許されざる恋に落ちた二人は、
それぞれの王家から逃げ出し(要するに駆け落ちして)、
リーヴェインで暮らしていたのである。
ルシタナとエレタナは普段は森で暮らし、
ランドリアは諸国を巡ってギルデアの動向を探っていた。


さて、本書にはメインとなる主人公が存在しない。
上記の人々以外にも、様々なキャラクターが登場して
世界のあちこちで戦争と関わりながら生きており、
それらを交互に描いていく群像劇となっている。

例えばアトーリスとギルデアは、国土が接してはいないが
ギルデアの脅威に対抗するために、
アトーリスはテスとイルバーンに援軍を送っているし、
〈イリュイア〉という諜報組織を抱えてギルデアとの諜報戦に備えている。
その諜報員の一人ステランは、密かにランドリアと通じており
協力してギルデアの仕掛けてくる謀略に対抗していた。

さらにエルディラーヌにはエレタナの従兄弟・ヨルセイスがいる。
彼はランドリアとエレタナのよき理解者であり、かつ武術の達人で
二人が窮地に陥ったときにはどこかともなく現れて
助太刀してくれるという、月光仮面みたいな人である。
(たとえが古いねえ。歳が分かるぜ)


タイトルの「サラファーンの星」とは、フィーンの間に伝わる
超絶的なエネルギーを秘めた宝石のこと。

フィーンたちはもともとランゲフニーという ”異世界” で暮らしていたが
「サラファーンの星」の力の暴走によって故郷は滅亡、
生き残った者たちが星の海を渡って、この世界へやってきたのだという。

その「サラファーンの星」がフィーンの元から盗み出され、
ギルデアの皇帝・ダイロスの手に渡ったのがすべての始まり。
その超常の力を手にした彼は、世界征服へと乗り出したのである。


しかしフィーンの預言者・レクストゥールは語った。

「希望を失ってはならない。いつの日か、影の力を止める者が現れる」

世界を救う ”英雄” の出現を告げるが、しかしこうも語る。

「真に問われるべきは、定められた者が誰であるかではなく、
 われわれがいかにあるかなのです」

一人の ”英雄” がすべてを解決するのではなく、そこに至るまでに
この世界にある者ひとりひとりが、いかに力を尽くすかが大事だと。


しかし人間たちの中には、いつ現れるかも分からない ”英雄” に
頼ることなく、「力には力を持って対抗する」という考えに
囚われた者もまた存在する。
対ギルデア陣営の中では最大勢力の国家であるアトーリスは、
ギルデアの圧倒的な戦力に対抗すべく、
〈氷河〉なる超兵器の開発に着手する。
試作実験では予想以上の威力を示すが、その使用によって
世界はそのバランスを崩し、異常気象が猛威を振るい始める。
〈氷河〉の使用を続ければ、ギルデアも含めて世界が滅亡するだろう。
しかしアトーリスは〈氷河〉の実戦投入を決断する。

 ここまで書いてきて分かると思うが
 〈氷河〉は核兵器のメタファーだろう。

アトーリスが〈氷河〉を実戦で使用する前に
ダイロスから「サラファーンの星」を奪還できるか、が
物語のキーポイントとなるわけだ。


なにぶん大長編であるが故に、物語は様々な顔を見せる。
”世界の運命を賭けた戦い” を舞台としているのだけど
大規模な戦闘シーンはほとんど登場せず、
多くの登場人物たちそれぞれが、
その時その場所で、戦争と向き合う姿を描いていく。

 颯爽と現れたヒーローが、敵の軍勢を打ち破り、
 悪の皇帝を倒してめでたしめでたし、って作品を期待する人には
 本書はオススメできないと書いておこう。


序盤では、平和な村で暮らすリーヴたちの、
長閑で牧歌的な生活が綴られる。
このあたりで連想するのは、往年の「世界名作劇場」だ。

そんな、「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」みたいな世界に
少しずつ戦争が影を落とし始める。
中盤に入ると、村の人々の中にも戦地に向かう者が現れる。
リーヴの兄・ウィルナーは軍に志願し、
従兄弟のジョサは、戦地を慰問する楽団に加わって最前線へ向かい、
ハーシュは通信士養成学校へ入学する。
リーヴ自身もまた、戦争に備えて看護師としての訓練を受けることに。

 「この世界の片隅で」のファンタジー版、って雰囲気もちょっとある。

そして、着々と進む〈氷河〉の研究開発を止めようと
奔走するステランとランドリア。


戦争の足音が着々と近づく中でも、若者たちは精一杯生きる。
ウィルナーは、テスで負った戦傷の治療をしてくれたルシタナと
心を通わせ、やがて二人は愛し合うようになる。
そして、ジョサとハーシュ、二人の若者から思いを寄せられるリーヴ。
しかしそんなささやかな思いも、戦争は押し流していく。


そして終盤に至ると、意外なくらいキャラクターが死んでゆく。
それはもう、あの序盤の雰囲気からは想像できないくらい理不尽な形で。
もっとも、戦争に於いて理不尽でない死など存在しないとも言えるが。

 世の中には「皆殺しの富野」とか「皆殺しの田中」とか呼ばれる
 監督や作家さんがいるが、本書の作者もそれに劣らない。
 「イ○オ○」並みとまでは言わないが、
 この手のファンタジーでは珍しいくらいお亡くなりになる。

もちろん戦争を描いている以上、人が死ぬのは当たり前で、
たとえどんなに重要なキャラであろうとも
ストーリーの展開上で必要ならば、退場させなければならないのは分かるが、
読んでいて「えー!、この人死んじゃうの?」とか
「このキャラまで殺しちゃうのぉ?」とか思いながら読むのは
トシをとったせいか精神的に辛いものがある。


手元にある読書記録を見ると、第1巻を読み始めたのは7月26日、
そして最終巻を読み終えたのは8月16日。
途中で何冊か並行して読んでたとはいえ、
約3週間で2200ページを読んだわけで、
1日平均100ページ強というペースで読んでいたことになる。
この作者は、読ませる力はあると思う。
そして、私が今まで読んだことのない、ソフト&ハードな ”芸風”(笑)の
ファンタジーの書き手であることも間違いない。

次回作がいつになるのか分からないけど、
もうしばらく追っかけてみようと思う。

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菩提樹荘の殺人 [読書・ミステリ]


菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

菩提樹荘の殺人 (文春文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/01/04
  • メディア: 文庫
評価:★★★

臨床犯罪学者・火村英生(ひむら・ひでお)と
ミステリ作家・有栖川有栖(ありすがわ・ありす)の
コンビが活躍するシリーズ。本書は4作を収録。


「アポロンのナイフ」
東京で起こった連続通り魔殺人事件。
その容疑者として指名手配されたのは17歳の男子高校生。
未成年であるがために顔も名前も伏せられていたが、
ネット上では美少年との噂が流れていて、
アポロンというあだ名までついていた。
彼は依然として逃走中であり、
大阪は有力な潜伏先のひとつと見られていた。
そんなとき、大阪で女子高生・八木紫苑(やぎ・しおん)、
そして彼女と面識のある男子高校生・座間剣介が
相次いで刺殺体で発見される。
少年犯罪では未成年の保護と知る権利のせめぎ合いが問題となるけれど
いざ自分が未成年者による犯罪の当事者になったとしたら
どうなるのだろう。そんなことを考えながら読んだ。

「雛人形を笑え」
漫才コンビ・”雛人形” の片割れ、メビナこと矢園歌穂が殺される。
死体は手足を使って奇妙なポーズをとっており、
何らかのダイイングメッセージかとも思われた。
コンビの相方、オビナこと帯名雄大(おびな・ゆうだい)は
高校時代に同級生・小坂ミノリと ”雛人形” を結成したのだが
人気が伸び悩んで小坂とのコンビを解消していた。
そして帯名は、当時 ”モーニング・シャワー” というコンビで
活動していた矢園に声をかけ、彼女もまたそれに応えて
コンビを解消、帯名と組んで新生 ”雛人形” を名乗っていた。
ダイイングメッセージというのは、たいてい
真相が分かってから解釈が確定するもので
解決へ直接つながるものではない(のがほとんど)んだけど、
今回のものについては、火村はちゃんと犯人指摘のきっかけをつかむ。
いささか偶然の産物ではあるけどね。

「探偵、青の時代」
有栖は、大学時代の知人・阿川アリサとたまたま出くわす。
思い出話の中で、アリスは学生時代の火村のエピソードを聞かされる。
大学2年生の11月、犯罪学を履修する生徒たちが
片平という学生の家に集まり、飲み会を開いた。
しかし参加者のうち、岡崎と大友は車で現地に来る途中、
ある ”問題” を起こしてしまう。
その場にいた全員が、それについて口をつぐむことを
暗黙のうちに了承したとき、最後の参加者として火村が現れた。
そしてなんと、彼はその場に着いてわずか15分ほどで
岡崎と大友が何をしでかしたのかを言い当てて去っていったのだという。
一種の倒叙ものなんだけど、文庫でわずか30ページ、
そのうち火村が登場するのはその半分にも満たないが
コロンボ張りの迫力でぐいぐいと真相に近づいてくる。
20歳の火村の切れ味鋭い推理が堪能できる。
でもそれだけだと、火村が人間的にちょっと冷たい印象に
なってしまいそうなんだが、ラストの有栖の台詞が
絶妙に雰囲気を和げる。名人芸だね。

「菩提樹荘の殺人」
大人気のアンチエイジング・カウンセラー、桜沢友一郎が殺される。
現場は《菩提樹荘》と呼ばれる彼の自宅だった。
死体は庭にある菩提樹の脇でトランクス1枚の裸で発見され、
服はその横にある池に浮かんでいたという。
友一郎の仕事関係のスタッフは、彼の姉でマネージャーの亜紗子、
そして秘書兼付き人の鬼怒川正斗(まさと)。
異性関係では、被害者はデザイナーの長束多鶴(ながつか・たづる)と
交際していたが、最近は神戸の良家のお嬢さんである
北澄萌衣(きたずみ・もえ)に乗り換えようとしていたという。
捜査が進み、犯人はこの4人の中にいると思われた。
不可解な状況から導かれる火村の推理が、一人ずつ容疑者を消去していく。
ここでの展開がとても心地よい。本格ミステリはこうでなければ。

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オチケン探偵の事件簿 [読書・ミステリ]


オチケン探偵の事件簿 (PHP文芸文庫)

オチケン探偵の事件簿 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/09/10
  • メディア: 文庫
評価:★★★

落語に興味がないのに無理矢理オチケン(落語研究会)に
入部させられてしまった学同院大学の学生・越智健一(おち・けんいち)。
彼とオチケンの部員たちが出くわす事件を描いた連作ミステリ。

レギュラーメンバーは噺家・花道家春蔵(はなみちや・はるぞう)の
一番弟子でもあるオチケン部長・岸弥一郎と、
飄々としていて正体不明な中村誠一の二人。
ちなみに越智を含めて部員はこの3人のみである。

本作はシリーズ第3弾、中編2編を収録している。

「幻の男」
学同院大学落語研究会に次ぐ歴史を持つ千条学園落語研究部。
同部は毎年夏に落語の発表会「千条寄席」を開いていた。
岸はそのイベントに呼ばれ、ゲストとして出演することになる。
もう一人のゲストは真打ち・鈴の屋池海(すずのや・いけうみ)師匠。
岸の噺の後、一人挟んでトリが池海という順番。
千条学園落語研究部は全日本学生落語選手権で三連覇中という強豪。
しかし、岸の存在が四連覇を阻むかも知れない。
何らかの陰謀の気配を感じながらも当日を迎えた岸と越智。
本番を迎え、高座に上がった岸は『不動坊』を演じ始めるが、
聞いていた越智は、本来の噺と細部が異なることに気づく。
さらに内容は逸脱していき、後半は『たらちね』へと変化してしまう。
文庫で170ページほどの中編なんだが、この岸の行動の謎は
なんと開始40ページほどで明かされてしまう。
そしてそれは、千条学園落語研究部に隠された秘密が
明かされるきっかけへとつながっていく。

「高田馬場」
学同院大学に1つしかないプールの使用を巡って、
水泳部と水球部の間には確執があった。
そして5日前、水泳部の部室で火災報知器が鳴った。
室内には部室等での使用が禁止されているコンロがあり、
火がつけっぱなしで上の鍋が煮立っていた。
しかしその時間には部員は誰もおらず、何者かの工作かと思われた。
水泳部部長・鴻上は落研に対して事件の調査を依頼してきた。
その翌日、大学のプールに大量の古新聞が投げ込まれていた。
水球部部長・霧ヶ峰をはじめ部員たちは水泳部の仕業だといきり立つ。
単なる二つの部活動の抗争劇かと思いきや、
ストーリーが進むにつれて、大学改革の名の下に
邪魔な団体の淘汰を狙う新学長の存在が浮かび上がってくる。
そしてラストでは、すべての騒ぎの糸を引いていた
意外な人物の存在が明かされる。

基本的には一話完結なのだけど、サザエさん時空(笑)ではないので
作品内では巻を追うごとに時間が経過しており、
どの巻から読み始めても大丈夫、とはちょっと言いにくい。

前巻から繋がっている部分(特に中村が関係するところ)もあるし、
新学長と落研の関わり(対決?)は次巻以降に持ち越されるし。
もしこれから読もうという人がいるなら、
できれば第1巻から順番に読むことをオススメする。

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創薬探偵から祝福を [読書・ミステリ]


創薬探偵から祝福を (新潮文庫nex)

創薬探偵から祝福を (新潮文庫nex)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

患者数の極めて少ない、稀な病気の治療法の開発は
製薬会社の採算が取れないためになかなか進まないようである。

本作では、作品内設定として
『URT (Ultra Rare-disease Treatment)・超希少疾患特別治療』
なるものが登場する。

日下病院の院長・日下公一郎の尽力により、
医療制度として認められた『URT』とは
世界でたった一人しかいない病気の患者でも
その治療のために薬剤を開発するというものである。

国内で唯一、URTに対応した日下病院は、公一郎亡き後も
その娘・貴美恵が後継者となって希少疾患患者を受け入れていた。

主人公・薬師寺千佳は、日下病院直轄の創薬チームで
調査担当として働いている。
相棒は遠藤宗史(そうし)。化学合成において卓越した才能を示し、
薬理試験・分析も担当している。

二人とも、製薬会社に勤務しながら半ばボランティアのような形で
日下病院の創薬チームとして活動していた。
彼らには、URTの仕事とは別にもう一つの目的があったからである。
2年前、千佳の姉であり遠藤の婚約者でもある姫子(ひめこ)が
脳炎を発症し、それ以来回復のめどが立たない昏睡状態にあった。
彼女を目覚めさせるべく治療法を模索する二人だが、
千佳の中には、遠藤に対する思慕の情が次第に育ちつつあった・・・


「第一話 見えない檻」
アフリカのS共和国から帰国した駒川悟は、
エボラ出血熱に酷似した症状を示して危篤状態に陥る。
しかし検査の結果、彼はエボラウイルスには
感染していなかったことが判明する。
駒川と面会した千佳は、彼の口から
「呪いは・・・あった」という謎の言葉を聞く。
駒川のメモによると彼は2年近くの間、原住民の村に滞在し、
そこで ”宝の山” なるものを見つけたらしい。
伝奇的な言い伝えから科学的な解釈を導き出すくだりや
病状を引き起こした犯人を突き止めるまでの二転三転する展開が面白い。

「第二話 百億分の一の運命」
プロ野球チーム・東京エレファンツに所属する選手・岩里真吾。
彼は視神経に生じた腫瘍のために視力の低下を来していた。
しかし治療にあたっては薬物療法を望んだ。現役続行にこだわるがゆえに、
メスを入れることによって視神経が傷つくことを怖れたためである。
しかし分析のために腫瘍の一部を切りとることすら拒否されたため、
千佳たちは仕方なく、腫瘍細胞の遺伝子の活性化パターンが
岩里と同じものをもつ患者を探し始めるが、
世界中のデータにあたっても、わずか数例しか見つからない。
患者(データ)探しは難航するが、やがて戸倉潤平という10歳の少年が
磐里と全く同じ腫瘍を発症していることが判明する・・・
ラストは意外な人情話になったりする。

「第三話 受け継がれるもの」
千佳たちは日下病院のオーナー・貴美恵から
「骨突起異形成症」の治療薬開発を依頼される。
それはかつて貴美恵の母・弓子が罹患した希少疾患であり、
父・日下公一郎がURT制度の創設に踏み切るきっかけともなっていた。
弓子は創薬が間に合わず、死亡してしまっていたが、
日下病院へ同じ病気を発症した患者・新塚美幸が入院したことにより、
治療薬開発への再挑戦が始まったのだ。
千佳はかつての創薬チームのメンバーと会って情報を得ようとするが
彼らは千佳の姉・姫子の治療を行ったメンバーでもあった。
美幸の治療と並行して、過去のエピソードもまた語られていく。
ラストでは意外な人間関係も明かされる。

「第四話 希望と覚悟と約束」
女子高生・藤崎乃々葉(ののは)は、腫瘍の除去手術を受けた直後、
造血機能が大幅に低下してしまう。
旧創薬チームの一人であった生物系の研究者・蓮見から
iPS細胞を用いた造血幹細胞を治療に用いたらどうかとの
提案が為されるが、過去に姫子へ行った治療について
憤りを覚えていた遠藤は、蓮見との共同作業を拒否してしまう・・・
終盤近く、乃々葉とそのボーイフレンド・耕介の会話が泣かせる。

「第五話 破壊、そして再生」
iPS細胞を用いた、姫子の脳神経細胞再生治療が始まり、
遠藤は長年の心労から解放されたせいか創薬への熱意を失ってしまう。
勤務している会社でも評価が急落、閑職へと左遷されてしまう。
そんなとき、遠藤は駅の階段から転落、頭蓋内出血に陥る。
早めの処置で命は取り留めたものの、判断力・思考力が極度に低下して
日常会話もままならない状態になっていた。
日下貴美恵は、URT制度を用いた遠藤の治療を提案する・・・


これで完結、って感じのラストを迎えるが、
姫子を含めた登場人物たちがその後どうなるかは
明確には描かれず、読者の想像に任せられる。
もっとも、どうなりそうかはなんとなく示されてるけどね・・・

でも、私としてはちょっとすっきりしなかったかなぁ。
この終わり方が万事丸く収まるのは分かるんだが。

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