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僕は長い昼と長い夜を過ごす [読書・ミステリ]


僕は長い昼と長い夜を過ごす (ハヤカワ文庫JA)

僕は長い昼と長い夜を過ごす (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 小路 幸也
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/06/05
  • メディア: 文庫
評価:★★★

普通の人間は1日の生活リズムは24時間だ。
しかし本作の主人公・森田明二(メイジ)のリズムはなんと70時間。
50時間起きたまま過ごし、その後20時間眠り続けるという
特異体質の持ち主なのだ。

実家は札幌だが、16年前に母は失踪し、
その1年後には父親が強盗に殺されていた。
メイジは兄・真一と妹・紗季とともに、
父が経営していた<モリタ金属加工所>の職人たちに
親代わりとして見守られながら育ち、
現在、真一はそこの経理として働いている。

通常の学校生活を送るのにも難渋したメイジは、
まともなサラリーマンになるのはまず無理。
情報系の大学を卒業したのち、東京のゲーム制作会社<トラップ>の
契約社員となり、プランナーとして働いて4年目を迎えていた。

そこの社長・バンさんは、メイジの特異体質を見込んで
本業以外にアルバイトを斡旋してきた。その内容は<監視>。

浮気の尾行とか、子供の夜遊び監視とかの ”仕事” を
個人的なコネで請け負い、メイジに実行させているのだ。
なにせその気になれば、まる二日間くらい休み無しに相手を
見張り続けられるのだから、メイジにぴったりの ”仕事” ではある。

今回の<監視>対象は49歳のサラリーマン・三島。
しかし、彼の行動を確認するためにマンションへ出向いた
メイジが発見したのは、自室の入り口で倒れている三島の姿。
しかしそれだけではない。
救急隊が駆けつけたどさくさに紛れて、うっかり現場から
持ち出してしまった三島のバッグの中には、なんと2億円の現金が。

返すに返せなくなって悩むメイジの前に現れたのは
”ナタネ” と名乗る謎の男。彼はこう告げる。
「その金はすべて君のものだ。好きに使っていい」

どうやらこの2億円は、奪われても公にできない ”裏金” の類いらしい。
そして「その金を奪還しようとする連中も現れるだろう」とも。

折しも、メイジは<モリタ金属加工所>がかなりの
経営危機にあることを知る。この2億円があれば兄たちは救われる。

メイジはナタネのアドバイスに従い、
2億円を奪還に来る連中をかわしつつ、
工場の苦境を救うべく行動を開始するが、その過程で
メイジの母と父の過去にそれぞれ ”何が起こったのか” もまた、
明らかになっていく・・・


ここまで書いてきて思ったが、けっこう設定というか背景が複雑。
でも、読んでいてさほど混乱なくすんなりとアタマに入ってくるのは
語り口がかなり上手いのだろう。

この物語の一番の謎はナタネなる男の正体、というか動機。
迅速な行動、正確な情報、的確な助言、そして人脈と
あらゆるものを駆使してメイジを支えていく。

最初はどうにも胡散臭いのだが、読んでいくうちに
どうやら本気でメイジを救うべく行動しているようにも思えてくる。

もちろん彼の真意と素性は、終盤で明らかになるのだが・・・
私は某名作長編アニメ映画を思い出しましたよ。


メイジとナタネ以外のサブキャラも魅力的。
父の工場で働く気のいい職人たち、
善人を絵に描いたような兄一家と妹夫婦。
会社の同僚で頼りになる親友・安藤、
ネットで知り合った凄腕ハッカー・リローは
情報面でメイジをサポートしてくれるし
成り行きでメイジと行動を共にすることになる看護師・笈川麻衣子とは
次第に心の距離を縮めていく。

そんなふうに多くの人たちの助力を受けられるメイジは
実は作品中でいちばん誰からも愛されているキャラだともいえる。


こう書いてくると、もっと高い評価をつけてもいい気もするんだが
今ひとつ星の数が伸びなかったのは
まず第一に、ナタネが有能すぎて(笑)、
(彼の言うとおりにするのが最善手なので、仕方がないとも言えるが)
メイジ独自の判断というか行動が少ないように思えて、
今ひとつ主役としての存在感が小さく感じられること。

 まあ、いわば ”プロ” であるナタネと
 ”素人” であるメイジを比べてはいけないんだろうが・・・

あと、50時間起きていて20時間眠り続けるという主人公の特異体質は、
あまり必要性がなさそうな気がして・・・
冒頭での ”巻き込まれる経緯” の中ではうまく使われているものの
その後の展開にはあまり関わっていないような。
(正直、この設定がなくてもこの物語は成立するような気がするし)
クライマックスあたりに、この特異体質ならではの
主人公の活躍とかがあれば、また違ったのだろうとは思うのだけどね。

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