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怪奇探偵リジー&クリスタル [読書・SF]


怪奇探偵リジー&クリスタル (角川文庫)

怪奇探偵リジー&クリスタル (角川文庫)

  • 作者: 山本 弘
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

時は第二次大戦直前の1938年。ところはアメリカ、ロサンゼルス。
金髪美女のエリザベス・コルト、愛称リジーは私立探偵を営んでいる。
助手はストレートな黒髪と瓶底眼鏡の少女・クリスタル。

タイトルに ”探偵” と入ってはいるものの、二人が遭遇する事件は
『ウルトラQ』か『怪奇大作戦』なみに奇々怪々。

そんな ”怪事件” を解決していく二人もまた
驚きの ”超常の力” の持ち主だったりするのだが
話が進むにつれ、彼女たちの出自もまた明らかになっていく。


「第一話 真っぷたつの美女 The Split-half Beauty」
コルト探偵事務所をジェーンと名乗る美女が訪れた。
交際中の芸術家の寝室で、パルプ雑誌を発見した彼女は
その内容に驚き、犯罪の専門家の意見を求めに来たのだという。
ちなみにパルプ雑誌(パルプ・マガジン)とは、20世紀前半あたりに
アメリカで刊行されてたフィクションを扱った雑誌の総称で
どぎつく下品な物語と扇情的な美女を描いた表紙絵で人気を集めていた。
黎明期のSF・ファンタジー・ホラー作品などの発表の場でもあり、
SF研究家の故・野田昌宏氏がコレクターとして有名だった。
彼はこれをテーマに、本を書いたり
雑誌に連載を持ってたこともあったような。詳しくはwikiで(笑)。
まあ、男としてはそういうものにハマるのも分かるのだが
彼女は非常に驚いてしまったわけだ。
しかしその2日後、彼女の死体が発見される。
交際中の芸術家の工房で、パルプ雑誌の表紙絵の再現のように
頭から股間までを丸鋸で真っ二つに切断された状態で・・・


「第二話 二千七百秒の牢獄 Prison Cell for 2,700 seconds」
ユニバーサル映画の創業者、カール・レムリの息子から
依頼を受けたリジーたち。
レムリの屋敷に赴いた二人は驚くべきことを聞く。
未完に終わった映画『豹人の女王』のフィルムは、
個人的に思い入れがあったレムリが所有していた。
自宅でその映画を見ていたレムリは、なぜか上映中に姿を消し、
映画の中の俳優がレムリに置き換わっていたのだ。
そして確認のためにその映画を見ていたリジーまでもが
映画の中に ”取り込まれて” しまう・・・
今回は、20世紀前半頃までのアメリカ特撮映画がテーマ。
40代以上の人なら、特殊効果の巨匠、レイ・ハリーハウゼンによる
人形を1コマずつ撮影するモデルアニメーション(ダイナメーション)の
映画を見たことがある人も多いのではないだろうか。


「第三話 ペンドラゴンの瓶 The Bottles of Pendragon」
リジーに持ち込まれた依頼は、
17世紀初めの錬金術師ペンドラゴンにまつわるもの。
彼の弟子だったアバークロンビーは師・ペンドラゴンを殺し、
錬金術師の研究成果を奪って新大陸に渡ってきたらしい。
依頼人はアバークロンビーの子孫の可能性があり、
失われた研究を復活させようとしているのかも知れない。
そんな頃、謎の肉食獣が跳梁し、人を襲い始めていた・・・


「第四話 軽はずみな旅行者 The Absent-minded Tourist」
ロサンゼルス近郊の競馬場に現れた青年・ルーク。
勝ち馬をことごとく当てたところを悪党・カジンスキーに嗅ぎつけられ
持っていたアタッシュケースを奪われてしまう。
たまたまルークに関わることになったリジーは、
彼の依頼を受けてカジンスキーを探り始めるが・・・
ルークが○○○・○○○○○なのは開始早々に見当がついてしまう。
当然ながら、彼には守らなければならない ”刻限” もあって
タイム・リミット・サスペンスでもある。
1938年当時のアメリカでのSFファンたちの活動の様子も描かれ、
後に巨匠として知られる某作家が少年として登場したりと、
オールドSFファンには楽しい一遍だろう。


「第五話 異空の凶獣 Dreadful Beast from Another Dimension」
物理学者ジェニファー・ナイトが構築した理論に基づいて建設された
”次元ポータル” は、遙か彼方の天体との距離を克服して
相互の移動を可能にした(要するに『どこでもドア』みたいなもの)。
しかし、その異世界に住む生物・ドロウルを地球上に招いてしまう。
人間を遙かに超える身体能力と高度な知能をもち、
しかも不可視の肉体をまとった凶獣ドロウルが
ロサンゼルスの街に解き放たれ、人間を襲い出す・・・。
これは『宇宙船ビーグル号の冒険』の「クァール」へのオマージュかな。


主に20世紀前半のパルプマガジン、特撮映画、怪奇ホラー映画などの
マニアックな蘊蓄が満載なんだけど、読者を選ぶ作品かなあ。
読んでいて「ああ、あれか。懐かしいなあ・・・」って思える人は
少なくとも50代以上じゃないか。
私でもついて行けない話題がけっこう多いので・・・

でも、全く予備知識のない人の感想も知りたいなあ。
どんなふうに感じるんだろう。

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