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キケン [読書・青春小説]

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

某県某市、ほどほどの地方都市にある成南電気工科大学。
そこに、ある有名なサークルがある。
その名を「機械制御研究部」、略して「機研」。

完全に幽霊部員と化した3回生に代わり、
部を率いるのは2回生の部長・上野と副部長の大神。
後の世に「機研の黄金時代」と伝えられた3年間が始まる。

「第一話 部長・上野竜也という男」
 新入部員の1回生・元山と池谷は上野の自宅へ招かれるが、
 その目を見張るような豪邸ぶりに驚く。
 しかしなぜか上野は自宅へ「出入り禁止」を言い渡され、
 粗末なプレハブ小屋住まいだった。
 そこで二人は上野の驚くべき秘密を目の当たりにする。

「第二話 副部長・大神宏明の悲劇」
 お嬢様が集う白蘭女子大学の学祭に訪れた大神は
 ある出来事をきっかけに七瀬唯子と知り合う。
 大神に一目惚れした唯子は自分から告白、
 めでたく二人はつきあい始めたのだが・・・

「第三話 三倍にしろ! ー前編ー」
 学園祭で機研は毎年ラーメン屋の模擬店を出している。
 元手として30万円の軍資金をかき集めた上野は、
 部員一同を前に宣言する。
 「この30万を、学祭の5日間で3倍にする!」と。
 かくして学祭へ向けて走り出す部員たち。
 その中で元山は一人、機研に伝わる "幻の味" 再現のため、
 ラーメンスープの研究に取り組んでいた・・・

「第四話 三倍にしろ! ー後編ー」
 学祭が始まり、元山開発のスープも好評で上々の滑り出し。
 しかし要である元山が何者かに拉致されてしまう。
 同じラーメン模擬店で競合するPC研の仕業とみた上野は
 単身、元山の救出へ向かうが・・・

「第五話 勝たんまでも負けん!」
 県主催のロボット相撲大会へ出場することになった機研。
 肝が据わって冷静な池谷が操縦する機研のロボットは
 順調に勝ち上がり、ついに決勝へ。
 対戦相手は年輩のおっさん集団、『チーム・メカ次元』。
 ロボットの名はゴールドライター号。
  うーん、どこからか
  ♪と~どいているか きこえるか~ は~るかメカ次元~
  なんて歌が聞こえてくるねえ。
  もっとも、ど真ん中なのは私より少し下の世代だろうけど。
 資金力にモノを言わせた高価な部品で
 パワーに勝る敵に苦戦する機研ロボ。
 なんとか決勝ラウンド一本目をとるが、
 二本目で不覚をとって敗北、しかも右膝関節を損傷して絶体絶命。
 残る三本目に起死回生の奇策で挑む機研だが・・・

「最終話 落ち着け。俺たちは今、」
 年度が変わり、部員たちも進級した。
 新入生たちと上級生たちの機研での日々が綴られる・・・

第一話から第五話までの、最後の数ページには
卒業して10年ほど経った元山が登場し、
妻と語りあうシーンが挿入されている。
つまり本書は、"元山が妻に語った昔話" という体裁なのである。

それに対して、元山の妻の反応がいい。
ある時は驚き、ある時は呆れ、一緒に笑い、一緒に怒り、
そして一緒にしんみりとしてくれる。
いやあ、元山君はいい嫁をもらったなあ。

そして最終話の後半では、元山が妻を伴って
成南大の学祭に久し振りに顔を出しにいくことになる。
いやぁ、このラストは反則だ。こんな展開に持ってこられたら、
もう目がウルウルになってしまうじゃないか・・・


奇人変人ばかりが集まったかのような同期生たち、
酒が回ると暴れ出す上級生、厳しくも温かい教授たち、
そんな人々に囲まれて、常軌を逸したバカ騒ぎの数々を繰り広げた日々。
程度の差はあれ、そんな学生時代を過ごした人も少なくないだろう。

そんな "若さ=バカさ" へのノスタルジーとオマージュに溢れていて、
読む人みなを等しく、
あの輝かしくもバカバカしい時代へと誘ってくれるだろう。
そしてそれがまた何とも心地よい。


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