SSブログ

折れた竜骨・上下 [読書・ミステリ]

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/11
  • メディア: 文庫




折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/11
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

第64回日本推理作家協会賞受賞作。

時代は1190年。
舞台はイングランドと大陸の間、北海に浮かぶ大小二つの島。
それぞれソロン島、小ソロン島と呼ばれ、
領主ローレント・エイルウィンが治めている。
彼は "呪われたデーン人" の襲来に備え、傭兵を集め始めていた。

そんな中、領主の娘アミーナは、
放浪の騎士ファルク・フィッツジョンと
従者ニコラ・パゴの二人連れに出会う。

ちなみに、彼女は本書のヒロインであり、語り手をも務める。
16歳ながら、凛とした少女である。

ファルクはローレントに告げる。
「御身は、恐るべき魔術の使い手である
 暗殺騎士エドリックによって命を狙われている」と。

エドリック自身は姿を見せず、
彼の魔術によって<走狗>(ミニオン)と化した刺客が
既に島に入り込んでいるという。

しかし警告もむなしく、ローレントは
小ソロン島に構えた居館内で殺されてしまう。

ファルクとニコラ、そしてアミーナも加わって
<走狗>を見つけ出すべく、 "探索行" が始まる・・・


十字軍の時代に設定されてはいるが
実質的には「異世界ファンタジー」だ。

塔上の牢に幽閉された "不死のデーン人" の虜囚に象徴されるように
"魔法" の実在するファンタジー世界で繰り広げられるミステリ。

もちろん「何でもあり」ではミステリとして成立しないので
"魔法" に関しても細かく厳密に設定してある。
発動させるためにの条件、<走狗>にされた者の辿る運命など
これらも "推理" を進めるための根拠になり得るように。

SFやファンタジーを背景にミステリを構築するのは、
その世界でなければ成立しないトリックなりロジックを描くため。
本書でも、作品世界内に "魔法" を設定したのは、
それが本作品の中核に深く関わっているから。

 でもまあ、それが分かってはいても、
 読んでいて見破れるかというとまた別問題。
 そのへんは流石に米澤穂信だなあと思う。

ファルクたちによる探索行の末に展開される "謎解き" シーンでは
8人に絞られた "容疑者" から一人一人、
論理的に消去していく方法が採られる。

 このあたり、人数こそ少ないが
 エラリー・クイーンの「Zの悲劇」や「中途の家」を思い出す。

そして、さらにもう一段、ミステリとしての "仕掛け" があって
最後まで読者の予断を許さない。


読み終わってみて思ったが、本書はミステリ要素を抜きにしても
ファンタジーとして充分面白い。

荒海に囲まれた小国に迫る危機。
異界の蛮族との息詰まる攻防。
奮戦する騎士、そして傭兵たち。
そして、領主の娘として自らの運命を選択するアミーナ。

ミステリ作家として確固たる地位を築きつつある作者だけれど、
純粋なハイ・ファンタジーも読んでみたくなった。


良くできた物語を読んだ後にいつも思うことだけど、
登場人物たちのその後が知りたい。
短編でもいいから書いてくれないかなあ・・・


nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ: